1日目〜たとえ季節が変わっても、その変化にはすぐには気がつかないで・・・。
フルートとダブルリードパートの八人は食事をテーブルに並べている。
四十二人の部員と、二人の顧問の先生。それに加えて講師として来ている、クラリネットとトランペットとパーカスの三人の先生の、合計四十七人分が次々と並べられていく。
「ねえ弥羅和、別荘が近くにあるんだって?」
弥羅和と同じフルート一年の室井智恵子が、食器を運びながら聞く。
「はい。私の妹の別荘です」
「えー! 妹さんだけの別荘なの!」
「そうですよ」
「確か、妹さんの名前って田奈浜赤沙ちゃん、だよね」
「はい」
「でさ、今は夏休みだから、その別荘に来ているのかな?」
「多分、そうでしょう」
「会えるかな〜」
「無理だと思いますよ。別荘までは車で十分ほどですから、時間がありませんよ」
残念がりながらも、何とか会う事はできないかと考える智恵子である。
それもそのはず、田奈浜赤沙は現在大人気の役者である。
三年前にテレビドラマに脇役ながらも出演し、そして今では主役を務めるほどにまで成長している。
いつの間にか料理はテーブルに綺麗に並び、八人は奥の席にまとまって腰掛けて会話を楽しんでいた。
ぽつぽつと他の人も集まってきて、六時五分前には先生達以外はほとんど揃っていた。
「あ、すみませんが、お手洗いに」
そう言って田奈浜が席を立って、六時丁度に戻ってきた。
その時の石田秋見から見た彼女は、緊張しているようだったそうだ。
全員が揃った所で部長が前に出る。
「それでは、これから五日間お世話になる宿の方々に挨拶をしましょう。よろしくお願いします」
その声に続けて、部員一同が復唱した。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
弥羅和は緊張の為か、まず手元にある水を飲んだ。
が、顔を僅かに傾けた。
「あれ、これ味が変ですね」
「そう?」
そう言って智恵子が自分の分の水を飲んだが、ただの水である。
「普通の水だけど」
「そうですか」
弥羅和は、その水を再び飲んだ。




