1日目〜冬が本当の四季の始まりなんだっていうこと、知っていましたか?
吉岡冬見は雷の音を聞いた。
「ねえ、今の、雷だよね」
「え? なにが」
彼女の友達の、本田響功はそう答えた。どうやら聞いていなかったようだ。
「いや、何でもないわ」
今、彼女達吹奏楽部は私服で、学校の昇降口前のロータリーに集合している。これから長野県の菅平に五日間の予定で合宿に行く。
☆☆高校吹奏楽部は、吹奏楽コンクールの県大会でここ五年間連続で金賞を受賞している有力校だ。先生がいいのか、生徒がいいのか。まあ、どっちもどっちと言うところだろうか。
「はーい、みんな、出発するわよー」
部長の長内加奈が大きな声を出して、停まっている二台のバスに乗り込んでいく。
生徒が四十二人。そのうち男子が一人。
冬見は二号車に入った。遅めに乗ったので、前の方の席になってしまう。
その隣には、田奈浜弥羅和が座っていた。
「おはよう、弥羅和ちゃん」
「おはようございます。晴れて良かったですね」
弥羅和は、あの有名な□□□株式会社の創設者の孫であり、現社長田奈浜吾朗の長女である。
彼女は、見た目と名前だけでよくお嬢様タイプと思われがちなのだが、実際は人の事をいつも気にする優しい女の子だ。現在一年生でフルートを吹いている。
「うん、そうだね。去年はずっと雨だったんだよ」
冬見は二年生。一年生や三年生とも仲が良く、次期部長だ。担当楽器はホルンで、今度のコンクールではセカンドを吹く予定だ。ちなみに唯一の男子部員、苑崎夏見が彼女と通路を挟んで反対側の席に座っている。彼は冬見と同じで二年生でホルンを吹いていて、今度のコンクールではサードを吹くことになっている。
「もう大変だったよ〜。ところでさ、弥羅和ちゃんの別荘がこれから行く△△荘の近くにあるんだって?」
「はい。私の父上の別荘の内の一つです」
「へ〜。お金持ちはやっぱり違うね〜」
バスが動き出し、副部長兼金管セクションリーダーの三年生、日暮兎斗がこれからの事をざっと説明した。一号車では、副部長兼木管セクションリーダーの三年生、森鈴音が同じような説明をしている。
「大体の事は読んできていると思いますが、補足などもありますので聞いてください。これから長野県の菅平にある△△荘に、4泊5日の予定で宿泊します。初日の今日は、途中サービスエリアで休憩を取った後、目的地には二時ごろの到着予定となっています。到着したら、部屋にはすぐに行かないで、音楽ホールのほうに荷物を置いて、トラックから楽器を運び入れてください。その後で各自部屋に荷物を置いたら、その後はパート練をして下さい。夕食は六時からです。今日はフルートとダブルリードが夕食担当ですので、それに該当する人は三十分ほど早く食堂に集まってください。夕食の後、お風呂を済ませて、八時から音楽ホールでコンクール合奏をします。これには遅れないで下さい。お風呂についてなのですが、五時から入る事ができます。夕食前に入っても構いませんよ。それと、九時まで男風呂は女風呂となっていますので、夏見君は九時以降に入るようにしてくださいね。それから・・・」
後書き。
・・・まあ、ヨーロッパの方だと、四季の始まりは冬からなんだそうな。
以上




