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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
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リール町で6

分かり難い為、今回から昔話を削除しました。そのうち別な内容として作っていきたいと思います。

「焦げ臭いけどいい町だな。」


おそらく大通りであろう場所を歩きながら呟く。

昨夜の野盗の襲撃から数時間あまり。賊はいなくなったが略奪の痕跡が残っている。破壊された店や衛兵屯所が戦闘の激しさを物語る。さすがに大通り。破壊された店はどれも作りが良く、大型の宿泊施設には彫像が飾られ、襲撃前の活気が窺える。


「お館様がおっしゃるなら良い町なのでしょう。」


ミチが気持ちのこもらない返事を返してきた。街並みにはさして興味がないのか一歩遅れて着いてくる。言葉遣いが硬い。もっとフランクに話せないものか。彼女が産まれる前から塔にいたためしょうがないとは思うが、楽しくなさそうな美少女を連れ歩くおっさんは犯罪の臭いがする。食べ物で釣れば良いかもしれないが、町がこんな有様で店も閉まっている。そもそも先ほど宿の食事をたらふく食ったため腹は減っていないだろう。さらに言えば金が無い。宿屋の主人はツテがあるそうで旧帝国金貨を使わせてくれたが、それ以外の店では使えなかった。今後のために旧帝国金貨を換金したい。人間として生きるにはとにかく金が要る。


「お館様。場所は思い出せそうですか?」


「ん? あぁ! 今めちゃめちゃ考えていた所!!」


ミチに聞かれて我に返る。またドラゴンのことを忘れていた。過去に封印したドラゴンを解放すべく、封印場所を探して散歩がてら町を散策していたはずだったが、目的が入れ替わっていた。

大きく豊かになった町の広場は全部で5つ。先日の野盗の襲撃により広場には病院に収容しきれないけが人や遺体が集められていた。情報を得ようと思ったが、猜疑心丸出しの者達に話しかけるのは気が引ける、バタバタ走り回る看護士と思われる人を呼び止めるのも申し訳ない。かといって町から引き上げる準備をしている者達に聞いても分かるわけがないだろう。出がけには何とかなると思っていたが、存外被害が深刻で思うようにいかない。

領主からの指示系統が機能していないのだろう、身なりのいい兵士達は何もせずに狼狽えるばかりだ。昨夜は屋敷を守るために兵を密集させ身動きを封じ、自ら放火による被害を拡大した。今も指示を出さずに貴重な人員を遊ばせている。よくこんな悪手を連発出来るものだ。

一方で広場を仕切っているのは冒険者ギルドと商人ギルドの紋章を背負った人たちだ。冒険者ギルドの恐い顔のおっさんがでかい声で指示を飛ばし、商人ギルドの人たちは冒険者ギルドの人員が思うように動けるよう物資の管理や補助に当たっている。災害時のマニュアルでも有ったのだろうか手際が良い。


「それにしてもすごいな。きっと彼らも被害者だ。それでも他人のために動けるってのは並大抵のことじゃあない。」


「はい。お館様がおっしゃるなら。」


ミチはこれも興味がない様で素っ気ない返事だ。


「ミチ? その”お館様”ってのをやめないか? ほら、出掛ける前に男女二人組の方が違和感が無いって言ってたじゃんか? お館様ってのが台無しにしてると思わないか?」


呼び方以前に話し方を変えて貰わないことには駄目だろうが、急に全てを変えられる訳ではない。出来そうなことからやってもらおう。


「気がまわらず申し訳ありません。何とお呼びしたらよろしいでしょうか?」


「あぁ・・ そうだなー。ジョン・ドウってのはベタすぎたなって反省してるとこ。派手だけど派手じゃないちょっと派手な名前ってないかな? カッコいいやつ。」


「申し訳ありません。私にはそういった”せんす”がありません。」


無茶ぶりだったと反省する。この名前も思い出しただけで特に思い入れが無い。某国の名無しの権兵衛って意味だ。黙って本名を名乗りたいが先代魔王との戦いで奪われたままだ。黙っておけばいいのに最後に名乗ってしまった。そうしたら魔王が『土産に貰って行くぞ!』ってことで貰われていった。そのため凱旋の時に『勇者・・よ!!』って間が開いたくらいだ。みんな思い出せずに”・・・”がついていた。こっちも言いたいのに声が出ないって不思議な状況。それから少しの間はヴァルガスと名乗っていたが、その頃の仲間との思い出としてしまっておきたい。


「さて・・・ なんて名乗るかなー」


「お館様。お名前も重要ですがあまり待たせるのも・・・」


「はっ!」


また忘れていた。やっぱり怒られるとわかっていると後回しにしたくなる。だが、あまり後回しにして怒りを増したら元も子もない。見つけてから考えよう。とりあえず宿から最寄りのこの広場にはそれっぽいモニュメントは無い。町の東西南北にそれぞれと中央に一つあることはコルビーから聞いていた。次はどこに行こうか。


「それにしてもさっきから呼ばれている気がするんだけどなんか聞こえるか?」


「いいえ、特には。」


ミチの耳に聞こえないのであれば気のせいだろう。とりあえず真ん中が最短ということで領主の屋敷に向かう。屋敷にある噴水公園が昔からあるものらしい。そこは一般にも公開され、告白の舞台になっているらしい。今の状況なら恋人達が集まる事も無いだろうから先に行ってしまおう。


「よし! じゃあ中央広場に行こう。」


「はい、お館様。」


ミチを引き連れて次の広場に向かう。道すがら破壊された町を見てふと疑問に思う。ただの野盗がここまで破壊をするものだろうか? 確かに追っ手を削ぐためには破壊工作が有効だ。だが、あまり被害を増やすと手間はかかるし実入りが無くなる。ここに攻め込めるほどの規模ならば生かさず殺さず、町が復旧した時に再び襲った方が効率的だ。まぁ詳細を知ろうにも首謀者らしき男はボコボコにして衛兵に引き渡した。気にはなるが聞きに行って答えてくれるものでも無いだろう。ぼんやり考えながら歩いていると目的地に着いた。


「うわー・・ すごくここっぽい・・・」


木々に囲まれた広場の中央には噴水があり、天を仰ぐドラゴンの彫像が水晶の様な球を抱えていた。彫像に抱えられたそれは透明度が高く、中心には赤い光の揺らめきが見える。それを見ておぼろげだった記憶がはっきりと蘇る。


「あー・・あれだわ。完全に思い出した。村長の家宝の水晶だ。ずいぶん立派に整備されたな。」


「・・・少し悪趣味な像ですね。」


「そうだなー・・ でもあいつの趣味では無いだろうし本人には言わないでやりなよ?」


彫像のドラゴンは明らかに後付けのものだろう。本人とは全く似ていない。少なくともあいつは金色では無かった。


「さて、お楽しみの解放の時間だ。ミチは危ないかもしれないからちょっと離れててくれ。」


不思議そうな顔で離れた場所に移動するミチを確認してから解放に移る。見つかってしまえば後は朝飯前だ。水晶に手をかざし、魔力を込める。

水晶を中心にパリパリと電気が走り、空は厚く黒い雲が立ち込めていく。次第に風が強くなり草木が揺れる。風が強くなるたびに電気は規模を大きくし、バリバリと音を立てて稲妻が走り始めた。


「・・・こんなに派手だったっけ・・?」


この封印術式を作った男はすでに亡くなっており詳細を聞くことはできない。本来であれば狂化の呪いが解けたあたりに解除される筈だったのだが何かが原因で上手く行かなかった様だ。異常を察知したのか衛兵が集まってきた。数は3人だが、目撃されたのが面倒だ。よくよく考えたらこの水晶を持って別な場所で解放したら良かったのだが・・後の祭りだ。


「貴様ら!! 何をしている!!!」


案の定兵士からお怒りの声が上がる。


「排除しますか?」


「だめ! 彼らは悪く無いって!」


だが、この状況をどうするべきか検討がつかない。兵士達は武器を手にこちらを威嚇している。彼らも尋常でない様子に尻込みしているようだ。「お前行け!」とか擦り合いが聞こえる。相手が来ない今しかないと解放の術式を一気に組み上げる。当時の記憶は曖昧だったが、スキルとして覚えた物はパッと出てくる。便利なものだ。そうこうしている間に風は止み、空も厚い雲が消え、明るくなった。


「今だ! 行くぞ!!」


三人組が意を決し声をあげ走り出そうとした瞬間、水晶が割れ中から大量の黒い煙が轟音をあげて天高く吹き出した。


「退避ーーー!!」


出鼻をくじかれた三人組はそのままの勢いで屋敷の方に駆けていった。


「あ・・ やったぜミチ! 目撃者がいなくなった!」


「いえ・・ 解決したようには見えませんでしたが・・・」


ミチの言うとおりだが、こんな状況を説明したところで信じる方が少ないだろう。現行犯じゃなきゃ大丈夫。と信じたい。


「こーの・・馬鹿たれがーーー!」


言うが先か腹に衝撃が走る。黒い煙の中から全裸の女の子が飛び出して黒い雷を纏ったげんこつを繰り出してきた。頭には後ろ向きに捻れた黒い角が生え、赤い瞳が怒りに満ちていた。


「ミチ!ストップ!! 」


般若の形相で今にも飛び掛かろうとする彼女に一言かける。かなりの衝撃だったが、後ろに少し飛んで吸収したためダメージもない。魔法特化のノレッジドラゴンが人型で復活したのだ。たいした威力が出ないのも頷ける。


「んがーーー! お前はなんでそんなに硬いのじゃ!! 」


両手で頭を掻きむしり怒りを露にするドラゴンが少し不憫だ。俺が忘れていたのが原因なのだが。


「500年の恨み! 少しでも味わえ!!」


両手を空に向け、極大魔法の準備を始めたドラ子(仮称)に提案をしなければならない。


「おい爆乳! 文句言いたいのはわかったが、服を着ろ! あと場所変えないと面倒だから一旦落ち着け。」


「だぁまれぇーーー!! 貴様のせいでどれだけ無駄に・・」


「秘技!物理睡眠!!」


「へぶっ!」


単純にみぞおちに一撃食らわせて黙らせる。上手く手加減出来たことをミチにアピールし、とりあえずマントで包んで宿に連行することにした。


「お館様・・・ 絵面が完全に拐かしです・・・」


ミチの言葉に一瞬手が止まる。だが、これ以上の方法が思い付かないので仕方ない。


「ミチ・・・ 男には、やらなきゃいけない時があるんだ。」


「それは今使う言葉では無いように思います。」


その意見には全く同意だが、ここに長居することの方が良くない。林の向こうからガチャガチャと金属の擦れる音と複数の話し声が聞こえる。


「急ごう。宿屋まで駆け足!!」


「っ! はい!」

号令をかけて二人で駆け出す。大きくジャンプして建物の屋根へ移動し、人目を避けて宿へ向かう。幸い昨夜の処理で住民達は慌ただしくしていたため気付かれる事もなく宿までたどり着いた。ひとまず自室に入り状況を確認する。


「はい、先ずはひとつめー。こいつに服を着せましょう。」


ドラゴンが人型になるなんて聞いてない。まぁ狼が人型になった前例があるからたいして驚きもしなかったが。


「お館様。服がありません。」


ミチがドラ子(仮称)の乳をまさぐりながら無表情に言う。


「なんでさっきから揉んでるの・・・?」


「この駄肉があるため私の服が使えません。」


べちべちと乳を叩きながら、無表情から少し不機嫌に傾いた顔で言う。ドラ子(仮称)がうなされ始めた。


「服を用意しないとな・・・ あの・・ミチさん? 女の子みたいだからここでマントを剥かないであげて・・・」


「ここにはお館様と私しかいません。だから大丈夫です。お館様に刃向かって命があるだけで十分です。」


よく分からない理論が展開されたが、機嫌が悪いことはわかる。二人きりにするのはあれな気がするが、ロックさんに人数追加を申し出なければならない。


「ミチ。」


「はい。」


「今からロックさんの所に行ってもう一部屋借りてくる。もしこいつが目覚めても喧嘩とかしない様にね。」


「お任せください。喧嘩はしません。」


「絶対だよ? 二人が喧嘩したらこの宿が無くなっちゃうだろうから本当に頼むよ!?」


「ご安心下さい! 喧嘩は絶対に致しません!」


何だか含みのある言い方だが、お使いを頼むにはまだ心許ない。この場を任せ、ドラ子が目覚めないことを祈るしか無い。


「じゃあ行ってくる。」


「行ってらっしゃいませお館様!」


笑顔が笑っていないミチを置いて部屋をでる。さっさと追加で料金を支払い、旧帝国金貨を換金できる場所を聞いて来なければ服も買ってやれない。暇だ暇だと言いながら数百年間放置してしまった罪滅ぼし。とまでは言わないが、できることはやってやらねば申し訳ない。怒っている風で人型で現れたり、分かりやすく極大魔法のモーションを入れてきたりと被害に気を使っていた。面倒だったのでさっさと気絶してもらったが、別に放置しても迷惑にはならなかったかもしれない。いずれにせよこのまま放り出しては可哀想だ。


「こんにちはジョンさん。お出掛けですか?」


カウンターに居たのはロックではなくコルビーの兄、スキールだった。


「こんにちは。一部屋追加で貸してくれないかい? 一人増えたんだ。」


「はい! ありがとうございます!」


スキールは嬉しそうに歯を見せて人懐っこそうに笑う。そして部屋の大きさと値段を書いた羊皮紙を差し出してこちらに判断を仰いできた。


「恩人からお金を頂く訳にはいきません。」


同じランクの部屋でいいかと指差そうとしたところでカウンターの奥からロックが現れた。スカルドラゴンとの戦闘で疲れているはずなのだが、もう仕事に復帰している様だ。


「お二人がいなければ家族がこうして顔を合わせることができなかったでしょう。娘まで助けて頂いたとか・・感謝の言葉もございません。」


「娘って・・ ああ!コルビーくんの結婚許してあげたんですか?」


「はい。妻は反対していましたが・・ 二人の思いを尊重してやりたかったのです。まだまだ子供だと思っていましたが・・・ 知らないうちに育っていくものですね。」


少し寂しそうな、それでも嬉しそうな顔をしながらロックは頭を掻いた。それを見てよくわからない焦燥感に駆られる。だが、覚られないようにそれを押さえつけて帝国金貨を20枚取り出し、カウンターに置く。価値が一割と言われてしまったが、これだけあれば一晩くらい贅沢が出来るだろう。


「おめでとうございます。足りるかわかりませんが、これで皆で旨いものでも食いましょう。町がこんな状態だから何が買えるかわかりませんが・・・ 俺にもお祝いさせてください。」


ロックとスキールは顔を見合わせて一度ぽかんとした表情を見せてから面白そうに笑った。


「ジョンさん。こんなに渡されたらお店を貸し切りに出来てしまいます。こんなには受け取れません!」


どうやら生活力の無さを発揮してしまったようだ。ロックが何かを計算し金貨を6枚受け取り、残りを差し出した。


「これだけ頂ければ十分です。夜には間に合うように準備しますので任せてください。」


「ロックさん! これは宿代って訳じゃありません! コルビー君の友人としての祝い金です。まぁ剥き身で渡しておいてご祝儀ってのもあれなんですが・・・ 受け取っておいてください。」


困ったような顔のロックだったが、最後には折れて受け取った。


「あ、それと迷惑ついででもう一個お願いしても・・」


ドドン!


言いかけた瞬間に自分の部屋の方から鈍い音が聞こえてきた。心当たりしかない事に不安を覚えながら急いで部屋に戻ることにした。





やりたい事はありますが上手くまとめる事が出来ません。更新遅くて申し訳ありません。貨幣価値もふわふわ・・・

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