創命の魔王城
「というわけで、だ。やってきました魔王城!」
ここはリールから数千km北東の山の中。ワイバーンの営巣地として有名な山を越えなければならないためそこそこの実力がないとたどりつけない。山を越えても東西1200km、南北700kmの砂漠地帯が待ち受けている。こんな辺鄙な場所なぞくれてやればいいのに、がめつい王様は己の力を見せつけるために討伐隊として俺を召喚して送り出したのだ。迷惑この上ない。
俺が過去にここへ来た時は亀甲龍という体内に水を蓄える龍の助けを借りて渡った。全長200mの巨体で大半の時間を砂に埋もれて寝ている。雨が降ると地上へ這い出て水を溜め込む。そのため込んだ体内の貯水槽にバクテリアを飼うことで食事をまかなっている。巨体に似合わず口からはほぼ食事を取らないのだ。寿命も長いらしいからきっと今でも生きているだろう。
「なにが”というわけで”じゃ。本当にお主だけで行くのか?」
「ん? あぁ、"骨のある奴"って話だからな。そんなところに連れて行くのは嫌だ」
「ジョン、私だけ……」
「ダメ」
分かり易くミチがしょんぼりする。二人が強いってのはわかっているが、腐っても神であるアリアが"骨のある"と表現するの相手だから連れて行く気は湧かない。
「それじゃ、終わったら合図するから迎えに来てくれ」
「うむ、気を付けて行け」
「・・・早く帰ってきて」
手をあげて返事をしてからドラ子の背から飛び降りる。おおよそ高度3000mからフリーフォールで突入する。落下速度はおおよそ200km。勇者時代ならば即死だったろうが、今は自由落下で死ぬ気はしない。アリと同じ気分だ。
気になる事は一点、敵が何かしらの逃走手段をもっているかどうか。突入して逃げられてはせっかくこんなところまで来た意味がない。
「まぁ、考えても仕方ないか」
手の位置で落下地点を選ぶ。頭から突っ込むのは気が引けるから直立の状態で城に突っ込む。服はマテリアルエンチャントで対策済み。リップアラニャという蜘蛛の頑丈な糸で作られた勝負服を着て来たから問題はないと思う。が、念のためだ。到着して即全裸などという恥ずかしい事態は避けたい。
ドラ子の背から城への着弾まで一分程、集中しているせいか長く感じる。と、思ったら敵からの妨害を受けていたようだ。確かに変なものが降ってきたら止めようと頑張るだろう。着弾点に選択した玉座の間へつながる廊下の屋根に複数の人影が見える。
敵の魔法使いが頑張ったおかげでかなり減速してしまった。派手にぶつかるつもりだったが、おかげで優雅に降り立つことができた。そのかわりに無茶をした敵の一人が魔力切れでぶっ倒れたのが見える。
「歓待ご苦労、心を入れ換えて……」
言い終わる前に通路の壁を上ってきたドラゴンゾンビが爪をけしかけてきた。体躯は小柄でおそらく数十年しか生きていない子竜。死体を拾ったのか殺したのかはわからないが、気持ちの良いものではない。
「勇者の祝福ってな、"大奇跡"」
使い道の無かった技が魔王になってから活躍している。囚われた魂を生命の流れへ強制送還だ。飛び出した魂の数を見るに、お腐れ様どもを相当数保有していたようだ。労せずして一気に無力化できた。
残念なのはそれを見た雑兵どもが口々にディストルツィオーネとかヴァルキス様万歳とか騒いで突撃して来ること。
人間やドラクル、エルフに獣人。目的が破壊じゃなければ大いに応援したい多種族混成部隊。操られている感じは無いため各々が各々の思いでこの場にいるらしい。
「心を入れ替えてまっとうに働くなら生活の場を用意する! 投降しろ!」
繰り返し叫ぶが連中は聞く耳を持たない。なんなら気に障ったのか攻撃が激化していく。モンスターテイマーなどというレアスキルを持った奴もいるらしく一般人なら苦戦するようなモンスターも突っ込んでくる。
「あ、しまった。刀はラウラにあげちまったんだった」
まぁ、新しい持ち主の元で元気にやっているだろう。仕方ないので素手で首をもぎ取る。頭を破壊しておけば万一にもリビングデッドにはならない。勢いに任せてほぼすべてのモンスターを殺しつくしたところで雑兵どもが呆然と立ち尽くしているのに気付いた。これはチャンスともう一度叫ぶ。
「投降しろ! 破壊活動なんぞやめて平穏な暮らしを……」
もう少しで言い終わるんだが、それを無視してエルフの可愛らしい女の子が意を決したように突っ込んでくる。これはあれだ。
「ヴァルキス様万歳!!」
ありったけの魔力を込めての至近距離自爆。音がすごいので耳がキーンとする。爆炎で前が見えないのでディテクションで周囲を確認する。数人増えている以外は大きな動きは無い。おそらく向こうもこちらが見えずダメージ確認待ちなのだろう。
それにしてもあのエルフ、可愛かったな。魂が濁っていない所を見るとよっぽど嫌なことがあってこの組織に参加したんだろう。大奇跡で還った魂も白く綺麗な物ばかりだった。手段を間違えているだけで性根は良い奴らなのかもしれない。いや、良い奴等なら殺しなどしないか。
「ま、それはそれ、これはこれだ」
「うわああああ!!化け物!!」
煙が晴れた途端にそんな罵声を浴びせられた。
「よく言われる」
心配した勝負服も無傷だ。とにかく降伏勧告は失敗、敵は確固たる信念をもって破壊活動に勤しんでおられるので最早手加減は不要だろう。使えることを忘れていた通信魔法で一帯に最後通告を行う。
『終末思想に取り付かれた諸君、私はヴァルガス。投降するものは許そう、これより5分以内に判断して欲しい』
それにしても懐かしい場所だ。魔王との一戦、結局あいつが折れて身を引く形になったから俺がここにいる。そうでなければきっとあいつは立派な国をこさえてここで多くの幸せな民を支えていただろう。残されたのは廃城と人間至上主義の歪んだ世界。奴が生きていればこの世界を見て何と言うか。
感傷に浸りながら殺意剝き出しで突っ込んでくる奴を相手する。中々鋭い剣筋だ。真っ当に稼いでいれば良い冒険者になっただろう。
「……残念だ。プールゴーリエ」
結局投降者は一人も現れず、俺は広範囲の火魔法で廃城ごと敵を焼き尽くした。
「ヴァルキス様、いかがなさいましたか?」
側付きの男の言葉を受け、髭を蓄えた老人はゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「ガリウスよ、死だ。幾千、幾万の死を従えた者がやって来る」
「そ、それはどう……」
ガリウスが聞き返そうとした瞬間部屋のドアが乱暴に開け放たれた。
「貴様!」
「敵襲!敵襲でございます!!」
「何!」
ガリウスと息を切らせて入って来た男のやりとりを聞きながらヴァルキスはゆっくりと立ち上がり、窓から外を眺める。敵の落下を阻止せんと全力を尽くす構成員を見つめながらその到着を待った。
「我らの命運、ここで尽きるか……クク、神は余程我らを疎んでいるようだな」
独り言ちると髭を撫でる。
「ヴァルキス様、地下へご案内いたします」
「ガリウスよ、阻むものは越えて行かねばならない。越えられなければそれまでだったという事よ」
穏やかに笑うとヴァルキスは無骨な木の杖を握りしめた。




