急に判明する敵
「それにしてもひどい有様だったな」
ドラ子の背の上でしみじみと思い出す。帰り際は随分と活気にあふれていたがあんな状態の町を復旧するのに一体どれだけの時間と労力が必要かは見当もつかない。
「まぁ、ちょっとした情報を手に入れることはできたから良かったではないか」
ちょっとした情報。それは城のメイドが聞いたという“Distruzione”という連中の話。妃として転がり込んだ怪しい女とガリウスという男が合言葉のように使っていたようだ。
「ドラ子は知ってるか? ディストルツィオーネ」
「まぁ少しくらいはのぅ。簡単に言うと終末思想の阿呆どもじゃ、本拠地は妾も知らん」
「アリアに聞けばわかるんだろうが……」
「知ってるよ」
「うおっ!」
お茶の時間でもないのにお茶ジャンキーが現れた。付き添いのシエラがにっこりと笑う。風が止まったのを見る限り時間が止まっている。とりあえずシエラに挨拶をしよう。
「お久しぶりです。もうちょっと自然に出てきてもらえますか?」
「おひさしぶりです。この方が楽しいとアリアさんがいうもので」
「超自然な登場! まばたきの瞬間に合わせて現れる、高等技術ってわけー!」
まばたきに合わせるとか高等技術なのは認めるがそれ以前に超監視体制。暇なのか? とにかく次はもっと分かり易く派手に出て来て欲しい。
「言ったな? 任しといてー、派手さには定評があるから!」
心を読まれている。個人情報が駄々洩れだ。面倒だから誰からの評価かは聞かないでおくとしよう。それよりも面倒くさい宗教団体の行方を聞いた方が良い。
「それで? 出て来たってことはディストルツィオーネとかいう連中の本拠地、教えてくれるのか?」
アリアはまるで女神のように微笑むと頷いた。いや、実際女神なわけだが。
「良いだろう! この慈愛の女神アリア様が協力してやろうじゃないか!」
「聞いておいてなんだが、どういう風の吹き回しだ? 手を出したら何とやらって自分で言ってたろ?」
「うむうむ、それは…… あいつらがちょっと目障りになってきただけー。前に言ったけど、ある程度暴れるのは私も容認しているわけ。でもちょっとやり過ぎなんだよねー! かといって私が手を出したらいろいろまずいから? あんたにその役目を言い渡す!」
「雑用か。まぁ、こっちも放ってはおけないような気分だから乗ってやろう。で、規模と場所は?」
「場所は中央大陸、あんたが創命の魔王"の方"を倒した場所ね。何人いたってあんたには関係ないでしょ? ヴァルキスってやつが頭だけど、少しは骨があるから油断のし過ぎは禁物ねー」
敵の総大将まで把握済み。さすがは神を自称するだけはある。
「そろそろ私も怒っていいのかな? この私を差し置いて女神を名乗ることが出来る奴がいるというのかね!」
「シエラさん」
アリアは悲しそうな顔でシエラを見た。
「シエラは置いといて、さぁ! ゆけー! 神の使いとしてちゃっちゃと奴を殺ってくるのだー!」
「慈愛の女神の名が泣くぞ?」
「愛故に!」やっぱり天秤にかけなきゃならんこともあるのさー。奴の願いは人類の滅亡!分かり易い終末論者なわけよー
「それ、やめろ!頭が痛い!」
「あー、あんたシエラにはへこへこしてるのに私には雑じゃん? ちょっとわからせてやろうかなって」
「そういうことをするから扱いが悪くなるんだろ!」
アリアのテレパシーみたいなやつは頭が痛い。というか気持ち悪い。考え事に割り込まれるようなそんな不快感だ。
「まぁいいか。それじゃ、あんたは大丈夫だろうけど二人を連れてくなら気をつけなさいよ!」
言いたい放題言うと、まばたきと同時に二人は消えた。神業なのはわかるが時間を止めてまで現れないで欲しい。ドラ子が興奮するから時間を止めたのだろうが、俺は正直頭の出来がよくないのでドラ子に聞いておいてほしかった。
「さすがにそんなことでアリア様を呼び出すなぞ失礼じゃろうが!」
「いや、本人はノリノリだったぞ? とりあえず目的地が決まった」
「どういうことじゃ?」
「時間を止めてアリアとシエラさんが来てた。本拠地を教えてくれたよ」
明らかにドラ子が肩を落とした。
「どうして会ってくださらんかったのかのぅ……」
リールの街での失態を思い出す。
「ま、背中に乗ってたんじゃ顔を見せられないからな」
頭は良いのに残念なドラ子を傷つけないように適当に誤魔化した。
無駄足では無かったような無駄足だったような。
アリア様は神出鬼没!登場パターンはいろいろある予定ですがどうするかは未定。時折現れては面倒な助言をして去っていきます。真っ当な実力者なら解決できないような事案をジョンに丸投げ。
デア・エクス・マーキナー(女神単体なので)




