フィズのわがまま
この地域は現在梅雨らしい。陽の出る時間が冬並みに短く、普通の植物は一時成長速度を緩める。その一方でこの時期しか見られない花や動物なんかもいる。
その中に雨に濡れると花以外が透明になる不思議な植物があるらしい。その名も”トウカヨウ”その薄黄色の花を思い人に送ると両想いに成れる言い伝えがあるそうだ。
なぜそんな話をしているかって言うと、フィズに付き合わされてその花を探している最中だからだ。この娘、存外図々しいというか人への頼み方を知っているというか食えない人物だ。いや、これが子供の力というものだろうか?
「あった?」
「いや、見たことも無い花を探すのは骨が折れるな」
ミチも採取についてきてはくれたが、サンプルが無いので匂いでたどることもできない。雨が降っていれば花だけ浮き上がって分かり易いのだが、生憎と空は曇り。今にも降り出しそうな色のままうんともすんとも言わない。
「魔法で」
「だめ!お願い、ずるしたらだめなの……」
非常に面倒くさい。魔法で雨を降らせてもずるでは無いだろうと思うがフィズはそれを良しとしない。俺だって暇ではない。いやラースが連れていく者達を説得している間は完全に暇なんだ。しかし、いつまでも森で花探しというのも趣味ではないせいで飽きる。
「ジョン、近くにいる」
念のためだろう、ミチが敵の接近を知らせてくれる。気配を隠す実力も無い連中が辺りに5人程いる。油断していてもさすがにこれだけ露骨に近寄ってくれば気付いてしまう。これなら大型動物の方がうまく隠れる。
一応ナイフを取り出してリーダーであろう男の鼻っ面に投げつける。木に突き刺さったナイフがコンと小気味いい音を鳴らし、男たちに警告を伝える。殺しても良いが好き勝手出来なくなったことを宣伝するためにあえて生かすのだ。
「バレちゃしょうがねえ」
出てきちゃった。頭が弱いらしい。
「ミチ、一応フィズを頼む」
頷くとミチがフィズを確保した。
「おいそこの奴、死にたくな」
二番目に偉そうなやつを残して氷魔法で息の根を止める。二番目ってのが重要だ。立場の低い奴では拡散力が無く、一番偉そうな奴だと恥じらって拡散しない。二番目だとだいたい大げさに拡散してくれるので広告塔にぴったりなのだ。
「ジョン、“きょういく”に良くない」
小さな胸でミチがフィズの頭を抱えた。国が滅んだ現場にいたのだから今更だと思う。しかし、氷で木に磔になった連中は確かに良ろしくない。土魔法で深く埋葬する。中途半端な深さだと腐敗臭で野生動物が掘り返してしまう。
「ご、ごめんなさい……」
ようやく解放されたフィズが頭を下げた。何に対して謝罪されたかわからず呆気にとられた。
「わがまま言ったせいで、その……」
フィズが人さらいがいた場所を指差す。
「あぁ、俺が殺したことを気にしたのか?」
無言でうなずく。
「気にするな。ああいう奴等はこれまでも随分相手にしてきたからな」
「でも! でも、“ころす”って心が痛い・・・」
彼女も小さいなりに考えているようだ。体は大きいが。
「さぁな、どこかに忘れて来たかもしれんな。それで、花はまだ探すのか?」
そう問いかけた瞬間、空がついに泣き出した。彼女の涙を押し流し、続行の決断をさせてしまった。
「探してあげよう?」
ミチに言われれば断る言葉が見つからない。結界を頭の上に展開して雨の森を散策する羽目になった。
わがまま言えるのは強い子ですね(確信)
支離滅裂に見える子供の発言も子供にとっては自身の考えに基づいた主張なので
”うるさい”
の一言でバッサリ切るのは良くないです。だんだん喋れなくなってきますよ。
わがまま放題というのもダメですがね。




