移住の打診
「ジョン、これも食べられる」
山菜を採集しながらミチと二人で森を歩く。目指すは海岸にある獣人たちを置いてきた船。新天地での足しにしようと食える魔物やら植物を手当たり次第に凍らせて収納魔法に放り込んでいる。新しい島はアリアのおかげで植生豊かで食える動物もたくさんいた。しかし、獲物がいても拠点を作るまでは食料確保がネックになる。こうして備えておけば多少有利に事が運べる。Fire Water Shelter Food 備えることが出来るものは用意しておくに限る。
「それにしても良く覚えたな」
驚いたのは植物に興味の無かったミチが食べられる物を見つけてくれたことだ。中には俺の知らない物まで含まれていた。
「ナターシャに……教わったの」
少し恥ずかしそうだが勉強することは大事なことだ。ナターシャここでも大活躍。掃除洗濯料理に食材知識、さらにはツボ押しとか散髪もしてくれるスペシャリストだ。どうにも頼ってしまう。
「お礼してやりたいが何を喜ぶかわからんなー」
「頼ると喜ぶわ」
結局頼りっぱなし。それはお返しとは言えない。とはいっても食事も小食で好き嫌いも無し。さらには魔石があれば食事すら必要無し。服も布があれば自分で縫って店の物よりも出来が良い。ミチが着ている服もナターシャが作ったものだ。
「ま、追々聞いていくしかないか」
贈り物は気持ちが大事ってよく聞くのだから今度何か作ってみるのも一興かもしれない。森の恵みを乱獲するのに夢中になっていたら目的地に着いてしまった。気が重い。とりあえずで以前も話したリクとバルを捕まえて茶の席を作って話を切り出す。気の強そうな若い獣人もついてきてしまったがどうせすぐに広まる話、問題ない。
「半…数、ですか・・・」
バルは絶望に近い表情を浮かべる。
「選別は任せる。年齢は関係ないが、新しい生活に耐えられる者達でなければならない」
もちろん俺が一方的に選んでも良かったのだが、それでは新天地での生活に支障が出てしまうだろう。残酷な選択だがここからは彼らに覚悟をして貰う必要がある。
「お、お前!お前!!何様のつもりだ!」
若い獣人が声を荒らげる。もっともな反応だが俺にとってはすこぶるどうでもいい。
「それは関係ない。俺はお前たちに打診しているだけだ。別に来なくても俺は困らない」
若い獣人の怒りのこもった言葉のおかげですこぶる落ち着いた。彼には感謝しなければならない。それにしても昔に比べて随分と冷たい判断が出来るようになった。そういえばリールの街の賊退治も息をするように殺すことが出来た。これも魔王の称号が影響しているのだろうか?
「申し訳ありませんジョン様、直ぐに判断できることではありません。お時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、数日中に判断してくれれば問題ない」
「あの、国に残った人たちはどうなるんですか?」
フィズと呼ばれていた少女が口を開いた。思うところがあるのだろう、不安そうな表情がそれを物語っていた。
「300名ほど連れていく予定だ。知り合いでもいるのか?」
「…その、ええと…」
そう言うとフィズはうつむいた。これはきっと男だ。そうに違いない。
「フィズ、といったか? お前ならラースの眼鏡にも適うだろう。気になる人物がいるなら国に戻ってみるのも手だぞ?」
パッと表情が明るくなる。だが、すぐにうつむいた。
「ジョン、この子は連れて行かないと死ぬ」
確かにこの子じゃ森を越えられそうにない。精霊が見えて気に入られていても使うための技術が無ければ意味がない。それにもし森を越えられたとしても見目良く若い彼女はカモだ。奴隷商じゃなくても手を出すかもしれない。
「俺は拠点に戻る。ついて来」
「はい!」
食い気味。余程気になる相手がいるのだろうか? それにしてもバルが何も言ってこないのが不思議でしょうがない。良く知りもしない相手が少女を連れて行こうとしているのに、だ。このフィズって子供の立ち位置がわからない。
「まあいいか。では今回の件、しっかり検討しておいてくれ」
苦悶の表情を浮かべるバルと苦虫を嚙み潰したような顔の若い獣人を一瞥してフィズを抱えて走り出した。無理に分断せず船を与えて他の地へ逃れるのを手伝った方が良いのかもしれない。いずれにせよ彼らの主張がどうなるかはフタを開けてみなければわからない。
「ま、何とかなるか」
抱えた少女が存外楽しそうにしているのが印象深かった。
切り捨て命令。
企業も同じですよねー。
辛いときは一緒に頑張りましょう!
ほとぼりが冷めたら会社方針が変わったのでさようなら。
非正規は変えの利く歯車なのでしょうがないと思いますが捨てられる方の身にもなってよーってことですね。
はぁ。




