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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
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旅の目的

「なんだか犬みたいで可愛いな。」


「水龍を見て犬って例えるのは君だけだろうね!でも目的の物に新しい仲間!本当にありがとう!」


尻尾を振り振り救助された子供たちとボール遊びをするヴァジュムを眺めながらガスと二人でナオの淹れた紅茶をすする。親父さんの葬儀で席を外していたが、終わったとたんに帰ってきた。ゆっくりして来いと言ってあったのだが実家が嫌いらしく聞く耳を持たなかった。

ちなみにヴァジュムにはドラ美と名付けた。見た目では全く分からないが女の子らしい。恥をかく前にドラ子が教えてくれて助かった。子供が好きだったのか鼻先でボールを打ち返しながら尻尾の先であやしている。それを流木に腰掛けながらミチが感慨深げに眺めていた。


「それにしても収納魔法が使える水龍の仲間なんて世界広しと言えど僕たちだけだね!あの大きな骨をどうやって持って帰ろうかと思っていたけどヴァルガス様のおかげで一挙に解決だよ!」


あの巨大な骨は収納魔法を覚えたヴァジュムが保管している。海底まるごと持ってくるってのはドラ子なりの冗談だったそうだ。俺が本気にしたばかりに慣れない錬金術までやってくれたらしい。


「ドラ美に頼りすぎるなよ? まだまだ子供だ。」


記憶が残っているから子供と言い難い部分はあるが、まだ七歳くらいらしい。マリエルより小さな子供だ。であればああやって子供らしい遊びに興じるのもまったく当然だ。龍種と言えど子供は子供。楽しそうなものに目が無いのはほかの種族と一緒である。


「任せてよ!一人に無茶させないのが僕らのやり方だからね!」


「頼んだぞ。それと、聞きたいことがあるんだがいいか?」


「もちろんだよ!僕らの報酬は情報!なんでも聞いてよ!」


「ラスティグル・ドーツってやつ知ってるか?」


「もちろん!雷王龍だね!住処近くのラミドニア王国に攻められたらしいけど一蹴して今も健在!サキマ山脈で引きこもってるそうだよ!」


「ちょっと顔見に行かなきゃな。その前に獣王の国か?」


「楽しそうだね!」


「いや、楽しくは無いな。信じられんような話なんだが… さっき魔法で海を割ったんだ。」


「それはすごいね!」


「で、だ。それなら大陸を創り出せるんじゃないかと思ったんだよ。今ある大地が人間から分けて貰えないなら新しくつくりゃいいんじゃないかってな。」


「詳しく聞かせてくれるかい?」


「まぁ、詳しくも何もさっき”魔法ではない魔法”が使えることがわかったからな。ガス、お前言ってたろ? どっかの大陸分捕って国を興すのが早いって。どれだけの規模の島ができるかわからんからいろいろ不透明なんだが…」

「実現できれば亜人主体の国を興せるし島を作る場所を吟味して攻撃されにくい国家を造れるかもしれない だけどなんで雷王龍なんだい?」


「ん? あいつは昔、成人式だって軽いノリで国二つを滅ぼして統一国家造ったんだ。適役だろ。」

「確かにあの強力な古龍が王なら下手に手を出せないね でも出来立ての島には植物も生き物もいない 生活するにはかなりの年月が必要になる」


「だから強力な軍艦で交易できるお前たちが必要になる。人魚の終の住処ができれば護衛の必要も無いだろ? 商会としても動いているお前たちなら当面の資材の調達もできるだろ。」

「もちろん 僕らは最終的に島を買い取って防御を固めるつもりだったからそれが省けるならそれに越したことは無い でも君のメリットは? 君が王の地位就けば思うままでしょ?」


「創命の魔王への罪滅ぼしみたいなもんだ。あいつは覚悟を持って彼らの為に戦ってた。だが、俺がそれをぶち壊しちまった、だからこんなクソみたいな世の中が今も続いてる。もちろんこの方法じゃ根本の解決にはならんが、“今食べるパン”にすら困る奴は少しだけ減るだろ。」


「うん!うん!僕らも協力するよ!君の言う”魔法じゃない魔法”はわからないけど、解放された未来に向けて頑張って行こうじゃないか!」


乗り気のガスはこれまでで一番目を輝かせた。どれほどの規模の陸地ができるか想像もつかない。これで小島しか作れなかったら逃げよう。


「まぁ、うむ お主ならできんことも無いじゃろう じゃが、一朝一夕ではとても無理じゃろうな」


ちやほやされるのに飽きたのかドラ子がサンドイッチを頬張りながらやってきた。ナオは言われずとも収納魔法からカップを取り出してドラ子に差し出した。


「お、参謀。なんかいい知恵を出してくれ。」


「うむ、ありがとうナオ で、島をつくる場所のあてはある 連れて行ってサポートもしよう、あとはお主次第じゃ」


「応。あ、寒流と暖流が交わる場所だと最高だな。」


「・・・条件が多いのぅ まぁ食える魚が増えるのはうれしいか… いずれにせよお主は練習したほうがいいじゃろうなぁ また爆発なぞされても…事じゃ」


大変耳が痛い。故意ではないが超大規模ダイナマイト漁をやってしまった。用法、容量を守って正しく使わねば“大量絶滅”なんて笑えない未来もありうる。島の構造を考えることも必要だ。土魔法で固めただけの島ならあっという間に波にさらわれるだろう。場所はドラ子に任せれば水龍やら飛龍の記憶からよさそうな場所を見つけられるとして、あとは物流をどうするか、だ。ガスの商社しか貿易ができなければ値段の高騰は必至だ。もちろん受け入れる人数にもよるが生活必需品が高騰するのは避けたい。


「まぁ、そこまで考えるのは俺の役目じゃないか。よし、一先ずアルジェシュに戻って考えるか… ミシェル達も運ばなきゃならないしな」


砂浜で子供に混じって水龍と遊ぶ姿を指差す。純粋というかなんというか。()()()()()()()ばかりなら世界はまぁるく収まるというのに。


「それじゃあ僕たちはドラ美ちゃんと新しい船を完成させてくるね!作戦に必須だから急がせるよ!」


その姿を見ながらガスもニコニコしている。思うところは一緒だろう。


「よろしくな。あ、そういや魔石を換金できるか?」


唐突に思い出して聞いてみる。これからの活動にはやはり資金が必要だ。ノアさん達の食べ残しと言っては何だが、魔石は腐るほどある。塔の周りの魔物は高ランクが多く大体の相手に魔石が入っていた。彼女達にとっては全く価値の無い物だが人にとっては大切な資源だ。販路の多いガスなら有効活用できるだろう。


「もちろん!得意分野だよ!」


「よかった、馬鹿みたいにあるからこっちもよろしく頼む。」


「任せてよ!手数料は二割で良いよ!」


ニヤッと笑うガスにアリアの顔が思い出される。だが、今回は俺のわがままも多分に含まれているからすんなり受け入れられた。


「いや、半分持ってけ。その差額で俺のわがままに必要な物を準備して欲しい。」


「あはは!冗談だってば!ちゃんと持ち帰るから安心して欲しいね!」


「ん?言い方が悪かったな。魔石の売り上げは手数料以外すべて計画に使ってくれていい。食うに困ってるわけじゃないからな。」


ガスの笑顔が固まる。やはり伝わっていなかった。


「本当に君は… それでいいのかい?」

「二言は無い!我が良人を侮辱するなら灰も残さず消してくれよう!」


一瞬青筋を浮かべたナオとは違い、ニヤニヤしながらドラ子が語気を強める。これは冗談を言っている時の顔だ。多分。ドラ子が言い出したおかげかナオは静かに茶のお替りを淹れた。


「ドラ子どうした…」


「ん? ほれ、良人を安く見られたら言っておかねばのぅ 頭は悪いが決して馬鹿ではない、愚直なだけじゃとな」


「そんなつもりじゃなかったんだ!あまりに無欲で不安になっただけだよ!ドラ子様の後押しもあれば怖いものなしさ!魔石は有効に使わせて貰うよ!」


「あぁ、頼む。愚直って褒めてるか?」


「お主に限っては誉め言葉じゃのぅ 勇者の呪いを受けて亜人を殺さんのはお主くらいじゃ」


「そうなのか?」


「僕もそう思うよ!人は見返り無くポンと資金を提供なんか絶対にしない!ふつうは見返りをちらつかせて妥協案探るものさ!損得が釣り合っている間は安心できるってのがセオリーだね!」


「そんなもんか? 年のせいかな。」


「そんなものじゃ収まらないさ!人間の欲望は底知れない!年を経てより複雑な、恐ろしい欲望が沸き上がるものさ!それが人魚を殺していく!」


「永遠の命ね。」


俺は出会いが良かったから自我を保って落ち着いた。だが、欲望の為に他人を犠牲にするような奴が()()なってしまったら一体どうなるのか。果たしてそれは人と言えるのか。レヴァナントリッチなんかは破壊衝動だけで存在している全くの悪意だ。あれも不老不死を求めた人間の成れの果て。デスマスクに面影があるだけの生命の敵。俺はあれを人とは認めない。


「何を考えておるか知らんがここで魔石を広げるな」


言われて我に返ると甲板で魔石をぶちまけていた。袋にも入れていないから迷惑この上ない。


「すまん。」


「もしかして魔石はまだまだあるのかい?」


出しているのは目方で60kgほど。だが、何と言っても200年ぶんの食べ残し。まだまだたっぷりある。


「おう、これの十倍以上はある。指定の場所に出せるから教えてくれ。」


「あはは!これだけの量をポンと出すなんて本当にヴァルガス様は欲がないね!アレクセイ!ヴァルガス様を貨物室にお連れしてくれ!僕は少し事務仕事があるからよろしくね!」


心なしか顔色の悪いガスはアレクセイを呼んだ。


「わかりました ヴァルガス様、こちらへどうぞ」


「ナオ、一応周囲を見張っておいてくれ。水賊が来たら、まぁドラ子が何とかするから。」


「かしこまりました」


アレクセイに案内されて貨物室へ向かう。食堂やら船室を抜けて階段を下りてゆく。密度の高い木材が

使われているようでコツコツと足音が響く。おそらく金属に近い強度がありそうだ。


「珍しいですか?」


壁や天井の造りを見ながら歩いているとアレクセイが口を開いた。


「立派な船に乗るのは初めてだ。昔は漁船で移動してたから揺れて揺れて大変だった。」


「では歴史の英雄を乗せた初めての大型船ですね、光栄です」


「そんなもんじゃないさ。」


「いいえ、私の祖父はあなたに助けていただいたそうですよ 大変感謝していました 三槍(さんそう)カタリナという魔王四天王と戦った時に」


「もしかしてお祖父さんはマイクロトフって名前か?」


「覚えていらっしゃるのですか?」


「あぁ、味方を逃がすために殿で絶叫して相手をビビらせてたな。」


三槍カタリナは魔王四天王最弱枠だった。それでも強いことに変わりなく討伐連合軍を完膚なきまでに叩きのめして掃討戦をしていた。そこへ俺が乱入したのだ。マイクロトフは負けることが分かっていたのだろう、渓谷に敵を誘い込み崖を発破。自らの退路を断って仲間を逃がしていた。彼が派手に立ち回ってくれたおかげでいち早く接敵できた。あの時見逃してやったから三槍カタリナは今も生きているかもしれない。


「話半分に聞いていましたが、本当のことだったんですね」


「ああ、立派に戦ってたぞ。だから助かったようなもんだ。一目散に逃げてた先頭の軍団はもう一人の四天王にやられてたからな。」


国が滅び、友が力尽きて全てが無に帰したと思っていた。だが、守れたものもあったようだ。会ったのも一度きりだったが、その命がつながっているというのは嬉しいものだ。


「祖父はヴァルガス様のご存命を信じて疑いませんでした もし生きていたらさぞ喜んだ事でしょう」


ここで目的の部屋に着いた。このまま話していたらまた泣いてしまいそうで危なかった。何度でも言うが涙腺が仕事していない。たぶん今ならイワトビペンギンが崖を登っているだけで泣ける。


「よし、この部屋にぶちまければいいな!」


「よろしくお願いします 使っていない船室ですので埋めてしまっても構いません」


アレクセイのGOサインが出たのでありったけ出してやる。数えたことなど無かったが、出るわ出るわ12畳くらいの部屋がどんどん魔石で埋まっていく。計算が甘かった。自分が倒して集めた分を勘定に入れていなかった。そこまで合わせれば400年分近くある。


「ま、まだあるんですか?」


「まだあるな、あと半分くらい。」

「部屋をかえましょう!」


アレクセイの案内通路の反対側の部屋へ移動する。はす向かいの部屋でまたぶちまける。ちょっと量が多かったが何とか収まった。


「ヴァルガス様は… いえ、なんでもありません」


気にはなるが聞くのも怖いのでやめておこう。最初の部屋におまけでアリアに仕分けて貰った金属と旧モーゼス帝国からかっぱらった調度品も置いて行く。価値がわからないから売ることもできなかったが、彼らなら有効活用してくれるだろう。目を丸くしてかたまるアレクセイの背中をぽんぽんと叩いて甲板へ戻る。ガスの姿は無かったがミチがお茶をすすっていた。


「そろそろ行く?」


「おう、エリザベスさんにも今回の計画を伝えたいし一旦戻ろう。」


「妾に任せよ、さっさと竜車を出せ 井波屋の新メニューが気になるのじゃ」


「ガスに挨拶くらい…」

「それはできん!さっさとゆくぞ!」


強引なドラ子に引き摺られるようにアルジェシュに戻るのだった。


飛び立つ黒龍を見送りながら空を眺めるアレクセイに部下の一人が駆け寄る。


「アレクセイ様、マスターが…」


「・・・わかってる、わかってる…」


アレクセイは強く拳を握った。そこへ重そうな体を揺らしながらマリオも合流する。


「アレク、お前宛だ 読め」


マリオは震える手で手紙をアレクセイに渡し、甲板にどっかりと腰を下ろして葉巻に火をつけた。涙が頬を伝う。


「お前はマスターが死んでも泣かないと思っていたよ」


「ふん、煙が目に染みただけだ」


マリオは鼻をすすりながらグイと涙を手でぬぐった。そして葉巻をふかしてうつむいた。見送ることが多いエルフはこういった感情が次第に欠如していく。アレクセイは人間であるマリオをうらやましく思った。そして長く生き、見送るばかりだったオーガスタスを思う。


「・・・俺もああなれるか」


自分でもわからないうちに口を飛び出した言葉に驚く。


「なって貰わなきゃ困る 親父の意思は俺たちが引き受けよう」


「あぁ、そうだ そうだな 忙しくなる、働いてもらうぞ」


マリオは無言で拳を突き上げるのだった。





というわけでオーガスタス退場。彼はこの航海の間に良くも悪くもジョンの印象に残るにはどうしたらよいかをひたすら考えていました。出会いが最悪でも父の人魚保護宣言に立ち会ったジョンならばきっと協力してくれると考えていたのです。しかし、印象に残らなければ資金援助だけで終わってしまうと確信していた彼は無茶苦茶な登場をかましたわけです。もし怒らせてもジョンならば自分一人殺して終わるだろうと考えたのです。魔王に変わっていたため最悪船ごと無くなる部の悪い賭けでしたが、結果は彼の勝ち。協力を取り付けて旅立ちました。


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