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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
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船での雑談

「別動隊ってのは黒龍だったんだね!」


ガスは船を運んで飛んで来たドラ子を見て手を一つ叩いた。どうにも挙動の一つ一つが芝居がかっていて胡散臭い。信じると決めたからには気にしてはいけないのだろう。


「本人はノレッジドラゴンって名乗ってたぞ?」


「それはあれだね!人間に例えると職業みたいなものだよ!私は人間ですって名乗る人はいないね!」


「まぁ、たしかにそうか。じゃ、あいつは黒龍ってことで良いのか?」


「黒龍ってのも種族では無いんだけどね!黒ってのはすごく特別なんだ!」


「そうなのか?」


「今説明したら怒るかい?」


「いや、別に怒らんさ。暇だしな。」


「それじゃ少し説明するね!大型生物に緑色が多いのは知ってるね!あれは植物と同じで日光から栄養を作って体を維持しているからなんだ!同じ時期に産まれたロックボースを遮光して育成した時の観察記録からもそれが証明されているね!でね!黒い変異種は体内で栄養を生成できないから経口摂取ですべてをまかなうんだよ!特徴としては色のほかにその異常な強さがあるね!強いから黒くなったのか黒かったから強くなければならなかったのかはわからないけどね!黒い個体は非常に希少で研究も進んでないんだ!」


ロックボースとはいわゆるサイのような大型の生き物だ。岩のような硬い外殻と鋭い目つきからは想像できないが草食で大変温厚な魔獣である。気長に付き合えば指示を理解して頼もしい相棒になる。本などの記録に残る最大個体は体高3m、全長7m程あったそうだ。通常の個体は全身薄い緑色で、長く生きる程濃い緑に変わっていく。その重さを量ることはできないが素の体重はおそらく十数トンはあるだろう。魔獣に分類されているのはその膨大な体重を支えるため常に重量軽減の魔法を発動しているからだ。彼らがそれを魔法として認識しているかは不明だが、それを生かして悪路でも軽快に走行する。昔遭遇した黒のロックボースは通常より一回り大きい個体だった。人語を解して意思疎通できたらしいが、魔王軍四天王のおかげで正気を失い討伐する羽目になった。今はキャリッジの素材として共にある。


「研究させろって話ならダメだぞ?」


たぶん言わないだろうが念のため断っておく。


「そんな命知らずなこと言わないさ!彼の不興を買ったら命がいくつあっても足りないからね!」


ガスは親指を立ててにこやかに返事をした。だが、一つ訂正しなければならないことがあった。


「あの見た目じゃわからんだろうが”彼女”だ。」


「・・・聞こえてないよね?」


ガスは青い顔をして俺とドラ子を交互に見た。まぁ聞こえていてもドラ子なら鼻で笑って終わりだろう。


「大丈夫だろ。ところで結局あいつはなんて種族なんだ?」


「僕も専門家じゃないから断定できないけどホーリードラゴンの特徴が多いね!ねじれた四本の角に大きな翼!すらりと伸びた尻尾なんかセクシーさも感じるね!」


「ホーリードラゴン? そういえば伝承があったな。」


「あれかい?世界の危機に現れて人々を救うとかいうやつ!」


「それそれ。詳しくは覚えてないけどな。」


「あれは人族の伝承だね!エルフに伝わっているのは世界の乱れを正すためにあらゆる難敵を排除するってお話なんだ!だからその標的にならないように日々を大切に生きましょうって締めくくられるんだよ!」


「・・・ずいぶんと内容が違うな。」


「たぶん距離感かな!エルフの国ラーケンにはホーリードラゴンが住んでいるんだよ!だから直接言葉を貰ったりたまに助けられたり密接なんだ!」


「意識高い系のドラゴンが近くにいると生き難そうだな。不満とかでないのか?」


「僕は長く居た事が無いからわからないね!でも自然信仰のエルフと相性いいんじゃないかな!自然災害で死んでも”運命だった”で片付ける連中だからさ!僕は好きになれないけどね!」


「あー・・・そういやそうだったな。だからドワーフと仲悪いんだっけ? あいつらは変えられるものは命を懸けて変えていくスタイルだから。」


「そう!僕は彼らの方が好きだな!生きてるって感じがするからね!でも一番は美醜のちがいかな!」


「それもあったな・・・ 本当にどうでもいい理由だ。」


「他所の国に住んでる子達はそうでもないらしいよ!英雄ヴァルガスのおかげだね!」


「なんだそりゃ? 昔無理やり手伝わせただけだぞ?」


「あの共同作業を経験した人たちは技術や文化の交流を通して仲良くなったそうだよ!今もその子孫たちは仲良くやっているんだよ!」


「そうなのか? ま、足りない部分を補い合えるのは良いことだ。なんで人間はそれができないんだろうな。」


「僕にはわからないね!なんであんなに戦争が好きなのかも理解に苦しむよ!」


無駄話をしている間にドラ子は持ってきた船をガスの船の横にゆっくりと丁寧におろした。それでもその重量のせいで波が立ち船が揺れる。それを見て興奮気味にガスが言う。


「すごい力だね!あの規模の船を抱えて空を飛ぶなんて!」


「魔法が本職らしいんだけどな。銀狼族に瞬殺されてたし。」


「・・・やっぱり黒い個体は段違いだねぇ!かぁっこいい!!」


考えるのを放棄したガスは着水した船の方を見て歓声を上げた。乗組員たちは慌ただしく受け入れの準備を進めている。小舟を渡して数人ずつ船に迎え入れる手筈のようだ。だが、人型になったドラ子が風魔法でまとめて移送を完了すると皆しばらく固まっていた。


「器用なもんだな。」


「そうだね!あんなに繊細な調整をあの人数にやっているなんて自分の目を疑うよ!うちにも風魔法の得意な子がいるんだけどあんなにうまくは扱えないね!」


この大型船に櫂はついていない、おそらく魔法で帆に風を充てて凪をしのぐのだ。帆船といえば海王丸やら日本丸のイメージが強いが、あれとは違いこの船はずんぐりとした印象を受ける。70m近い全長に装甲板と大砲を装備したこの船では速度を出すにも魔法が欠かせないだろう。


「この船はその、どうなんだ?」


聞きたいことが渋滞して言葉が浮かばず、久しぶりに会った親子みたいな質問になってしまった。


「うん!要点がわからないけど時代遅れなのは否めないね!砲も古いし船体の装甲も後付けで薄い!速度も出ないし設備も使いにくいね!今まで撃沈されなかったのが奇跡だと思えるくらいだよ!」


「改修しないのか?」


「ふふふ!よくぞ聞いてくれました!僕らの新しい船は建造中なんだ!ほぼ出来上がってるんだけど、ね!」


「なんなんだよ?」


「この強敵の多い海で船が沈まない理由を知っているかい?」


「強い海洋生物の皮とかを張り付けるんだったか?」


「そう!実はこの船にも竜骨に海竜の骨を使っているんだ!でも新しい船にはまだそれらが見つからなくて進水できないんだよ!本当それだけが足りなくてね!ね!ヴァルガス様!」


ようは取ってこいと言われているようだ。しかし水竜だの海竜だのは見つけるのに一苦労する相手だ。連中はその名の通り一日の大半を水中で餌を探している。時折海上に現れるのは呼吸ではなく日光浴だ。それも必須ではないため余程運が良くない限り出会うのは難しい。


「探して獲って来いってんなら他をあたってくれ。さっきも言ったが旅行で忙しいんだ。」


「ありがとうヴァルガス様!探さなくて良いなら問題ないね!」


言葉が通じない。


「お前よく今まで生き残ってきたな。」


「褒めても何もでないよ!それでね!ここに来たのは何年か前まで一帯を支配していた水龍の亡骸をあさるためなんだ!墓泥棒みたいだね!」


そういえば風呑龍が現れる前には水龍が守っていたとエリザベスが言っていた気がする。相当強かったらしく寿命が来るまで縄張り争いすら起こらなかったそうだ。


「みたいというか言葉通りだな。ていうか死んだ龍の場所がわかるのか?」


「大丈夫!僕の探知能力は世界一だからね!もう目星はついているからあとは水魔法の得意な誰かに引き上げて貰うだけさ!」


いわゆるサルベージ作業だ。一般的なやり方は水の魔法で己を囲って水圧から身を守りロープで降下、対象にもロープを括りつけて船の上から引き上げる。水魔法の習熟度合いで潜れる深さが大きく変動する上に途中で魔力切れを起こすと圧死する。昔の記憶のままなら潜水艦なぞ開発されていないし潜水服や耐圧ボンベなどはない。そのため水魔法で囲った範囲の酸素がなくなればそれでも死ぬ。さらに少数で潜ることが多く、海中の大型生物に丸呑みにされることもある。危険が多い潜水士になろうとする者は貴重だ。


「俺じゃなくても…」

「死してなお膨大な魔力を蓄えた数十トンはある骨を引き上げることのできる者なんてそうは見つからないね!」


「・・・俺がいなかったらどうやって引き上げるつもりだったんだ?」


「言ったでしょ?世界の長老達は気付いているって!アルジェシュから高速移動を始めた時はちょっと焦ったけど!人魚の解放はかなりの被害を考えていたから助かっちゃったよ!」


こいつ最初から確信犯だった。あのくだらない悪戯を思いついたのも場当たりではなく最初からだったということだろう。あの真面目そうなマリオが即興で一芝居うつなんて考えにくかったがこれならば納得だ。


「お前、本当に良く今まで生き残ってきたな。」


「そんなに褒めない・・顔が笑ってないよ!ね、ヴァルガス様!」


信じるんじゃなかったと今更になって思う。だが、活動自体は立派だから何とも突き放し難い。”年上を見ると甘えたくて暴走する”マリオの言葉を思い出したがどうにも飲み込めない。中性的な顔のイケメンは自分の一番可愛く見える角度を把握しているようで無駄にアピールをしている。イライラを我慢するため一仕事終えてチヤホヤされているドラ子を見た。


「黒龍のあの子はすごく可愛らしいんだね!」

「やらないぞ?」


「他意はないから安心して欲しいね!それじゃ早速引き上げの打ち合わせをしようか!」


「面倒だな。」


「そんなこと言わずにさ!ヴァルガス様の協力が無いと僕らの艦が完成しないんだよ!ね!人魚の保護にもかかわる重要な艦なんだ!」


人魚の奪還はおまけでこちらが本題だったようだ。人魚の話を先にすることで心証を良くしようとしたのだろう。しかし、そうなってくるとあの悪戯はただの悪手にしか思えない。


「おっと!考えているね!決してヴァルガス様に任せれば僕らの被害無く終わるとか打算で遅れたわけじゃないんだ!単純に船の速力が足りなくて出遅れていただけさ!」


どうにも胡散臭いが一度信じると決めたからには信じるしかない。裏切られたなら徹底的に潰せばいい。


「で、その骨はどこにあるんだ?」


「この船でも一時間ほどで到着できる場所でね!深さ800mくらいの場所だからあなた以外には不可能なのさ!だから今まで誰も墓荒らしできなかったんだ!」


「どっち方面だ?」


「あっち!」


指差された方向に探知魔法(ディテクション)を展開する。本来は生物を探すための魔法だが、対象が死んでいていても、魔力が残っていれば反応する便利なものだ。大体の死体は魂が抜けてしまえば徐々に魔力も抜け出て探知できなくなる。だが強力な魔獣や竜はその限りではない。生きていた頃の力を色濃く残し、武具として加工された後もその力を発揮する。船に取り付ければそれよりも弱いものの接近を許さず安全を保障する。もっとも同族に狙われれば縄張り争いの示威行為で撃沈される可能性があるため生半可な魔獣などでは意味がない。だからガスはこの龍種にこだわったのだろう。


「微妙に遠いな。ドラ子!ちょっとこっちゃ来い!」


「なんじゃ?」


「成り行きで墓荒らしすることにしたから少し先まで乗せてくれ。」


「水龍を引き上げるか? 悪趣味じゃのぅ」


全て言わなくても理解しているところを見ると、ある程度は予想はしていたらしい。もしくは地獄耳だ。


「安全に海を行くのに必要なんだとさ。こいつの親父にはほんの少しだけ恩もあるから手伝ってくれ。」


「むぅ・・・夫の恩は返さねばならん、あまり気が乗らんが仕方ないのぅ ほれ、抱えてやろう!」


予想外にドラ子が両手を広げて来い来いしている。


「そのまま飛べるのか?」


「さっき見ておったろう? 余裕じゃ! それにこっちの方が燃費がいいからのぅダイ…戦闘でもない限り人化は解かん!」


術を使い続ける兼ね合いで普通は逆のはずなのだがドラ子は人型の方が燃費が良いらしい。少し恥ずかしいが一人の移動ならこの方がいいのかもしれない。であれば偵察も人型で良かったのではと考えたが尋ねはしなかった。ニヤニヤしているガスの目もうざったいのでさっさと向かって事を終えることにする。


「それにしても引き上げのために船が必要じゃないかな!」


「あぁ、土魔法で海底を滑らしてくるから必要ない。」


「そんなことせんでもお主なら海を割ることくらいできるじゃろう? そのあと海底を錬金でもして根こそぎ運んで終いじゃ その時は妾も人化を解こう」


「まじか?」


「その程度の重量ならば妾の力で運んで見せよう!」


「いや、そっちは信じるけど海を割るとかさ。」


「・・・いい機会じゃ、一度試すが良い”くしゃみで国を滅ぼした”なぞ笑い話にもならん!」


ゴミでも見るような表情でドラ子が顔をしかめる。思い返せばクレインとの戦いではあの強力なヴォルティスロンヒを受けて死ななかった。それにカリーナの一撃も思いっきり食らったが”良い匂い”くらいで終わった。誰の生死もかかっていないこの場なら限界を試すには丁度いいかもしれない。さらに火属性よりも素直に扱える水ならば分かり易いというものだ。


「決まったようだね!それじゃあよろしく頼むよ!」


ドラ子とのやりとりをにやにやしながら見ていたガスがキメ顔で言う。ラーベラの件でもわかっていたが、どうにも顔を読まれやすい。自分の顔をもみながらドラ子に頷いて背中を預けた。


「ふむ、こうか?」


身長差があるためふわりと浮いたドラ子が背中にとりつく。が、どうにもおさまりが悪かったようで体勢を試行錯誤している。


「ドラ子、ドラ子!これじゃ羽交い絞めだ、ちょっと苦しい!」


「これが一番安定しておる!」


吹き出すガスを視界にとらえながら訳の分からない空中散歩を楽しむことになった。

「行きましたか」


甲板から飛び立った二人を見送りながらマリオがオーガスタスに話しかける。


「うん!ちゃんと手伝ってくれたね!」


「大丈夫なんですか?」


「問題ないよ!彼らなら確実に持ち帰ってくれる!」


「そうじゃありません 話していないでしょう?」


「別に話すことじゃないさ!僕の寿命なんて彼らは気にしない!それに君とアレクセイに全て引き継いでる!君たちが欲をかかない限り彼らが敵に回ることはないよ!」


頭を掻きながらオーガスタスは振り向いてマリオを見る。普段の彼とは違う鋭い目つきにマリオは姿勢を正した。


「僕らの理想は亜人が差別を受けずに暮らすことのできる未来だ しかし世界は今も何も変わっちゃいない 創命の魔王の出現だってこの狂った世界を変えることはできなかった …でも僕は君たちに思いを繋ぐことができた」


「マスター…」


「彼らとのつながりがどこまで続くかはわからないし、僕の思いがいつまで残るかわからない 自らできなかったことを子供たちに託すなんて虫のいい話さ でもいつかは実を結ぶ きっと君たちが成し遂げる 僕はそれを楽しみに眠りにつくだけさ!」


迫りくる最期を感じながらオーガスタスは空を見上げる。手を握りしめ顔を下げたマリオの頭を彼は撫でる。


「泣き虫は変わらないね!さ!お茶でも飲み飲み待とうじゃないか!アレクセイ、君もおいで!」




偉い三人がお茶を嗜む姿を尻目に救助者を受け入れた船内は大忙しでした。しかし普段休まずにあくせく働く三人に強く出られず他の乗員が頑張る羽目になりました。

エルフはだいたい400年程生きます。なのでオーガスタスさんは超おじいちゃん状態です。長命種はピンころりを地で行くため元気いっぱい死にます。ドワーフなんかも120歳くらいまで生きますが、一定まで年を取るとそこから見た目変わらずに元気いっぱい死にます。鍛冶仕事中にぽっくり逝くと大変危険です。竜に近い見た目のドラクルは500年ほど生き、人型に近いドラクルは200年くらい。どちらも空を飛べます。うっかりさんはお空で死んで墜落してくることもありますので上も警戒しないと巻き込み事故死も。順当に年を取ってしわくちゃになるのは獣人と人間くらい。吸血一族はある程度老けるとひび割れて死ぬか人間のようにしわくちゃになるかのどっちかです。

銀狼族も龍種も大変長生きで、殺さないと死なないと言われる程です。しかし、銀狼族は数が少なくなり見る機会もほとんどなくなっています。それで子供が高値で取引されました。龍種は元々数が少なく、繁殖可能な時期も数十年に一度しかないためレアです。それでも強力な装備を作るために襲われる悲しい種族。でも強い。

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