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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
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人魚発見

「意外と多いなー」


怒号とも悲鳴ともとれる叫びを聞きながら島を蹂躙する。皆殺しにする気は無いが反抗されれば仕方ない程度にしか考えていない。教育の進んだ法治国家なら殺人犯にも人権が認められるが、ここはそうじゃない。昔はもっと社会通念てものを考えていたが、その考え方が義務教育と法が育てたものだと理解してから破綻は直ぐだった。罪を理解させるにも更生させるにも学が無いとだめなのだ。義務教育なんてこの生活水準の世界ではまだまだ普及しない。法は金持ちのためのいびつなものだし、自警団は金に弱い。警察に該当する組織が資金不足であえいでいればこうなることも予想の範囲内。大規模な賊は牢につないでおけずに即釈放、賄賂を要求して見過ごされる。だから地域を監視する組織が脆弱な地域は民が泣いているのだ。

おおよそ一分半で島の半分を更地にして先に進む。村程の規模のアジトを発見して抵抗にあったが、大した使い手はおらず捕縛3人、排除は数えるのも面倒なほど。結局どれがボスだったかもわからず敵がいなくなってしまった。


「二人は首尾よくいったかな? 合図なんかも決めないで始めたから合流しようにもできないな。」


焼け残った建物を家宅捜索して時間を潰す。出てくるのは乱暴の果てに命を落としたであろう女たちの亡骸、拷問されたまま拘置されたであろう男の亡骸。死体しか残っていない。ディテクションを使って辺りを確認しようやく倉庫に一つ反応があることに気付いた。鍵のかかった扉をぶち壊して入ると、雑然と積まれたがらくたや武器、食料品が見えた。それらを無視して進むと、奥に鍵のついた檻が置かれ、その中に布をかぶった女がうずくまっていた。おびえた様子で布の隙間からこちらを窺っている。本人は隠しているつもりだろうが鰭の先がちらりと見える。


「珍しいな、お前さん人魚か?」


「ち、違う!こっちに来るな!!」


女は必死に鰭を隠して小さな体をさらに縮こめる。人魚は保護が訴えられたため好事家に高値で取引されている。大昔から不老不死の妙薬になるとか子を産ませれば一族が金に困らないとか根も葉もない伝承で悲惨な目にあってきた種族だ。中にははく製にされてその死すら穢される者もいる。そんな状況で人間を怖がるなと言う方がおかしいだろう。


「大丈夫だ、聞き耳立ててるやつはいない。」


「ほん・・とうか?」


「あぁ、ちょっとあってな。ついでだから倉庫を物色してたらお前さんを見つけたってわけさ。とりあえず檻から出してやる。俺は・・ジョセフソンだ!お前さんは?」


「・・・チェルシャだ だがここに鍵はないぞ? 髭の坊主頭が持ってるはずだ」


「必要ない。」


檻の扉をもぎ取ってみせるとチェルシャがその鋭い目を丸くする。人魚族の女性は魔法が得意だが腕力は人間とたいして変わらない。昔の記憶のままならば、人魚族の男性が匿って他の種族と関りを断つように生きていたはずだ。


「さ、肩を貸そうか? 海まで運べば後は何とかなるだろ?」


「す、すまない、助かるよ」


肩を貸すといったがチェルシャはシングルテールマーメイドで足が無いものだから歩けない。とりあえずお姫様抱っこで実入りの少ない小屋をでる。抱き上げて気付いたが随分長い事監禁されていたようであばら骨がういて魚部分も随分としぼんでいる。鱗が剥がれ落ちて痛々しい限りだ。水浴びもさせてもらえなかったのか鰭なんかはひしゃげて固まっている。


「それにしてもなんだって人間に捕まったんだ? お前さんたちはたしかロサンク王国の無人島を貰って閉鎖的に暮らしてなかったか?」

「いつの話を? ロサンクはとっくに滅亡して金に目がくらんだやつらがわたし達を攫いに来る!」


チェルシャは顔を歪めて恨みのこもった声をあげるが、ドスの利いた声を出したせいでせき込んでしまった。


「なにか食べられそうか?」


「・・・水をくれないか?」


「あ、気付かなくてごめんな一旦おろすぞ。」


布にくるんだまま近く小屋の横に置いてあった丸太に座らせて魔法で巨大な水球を作ってやると、チェルシャはたまらずそれに飛び込んだ。彼女の血がにじんだ水を新しい水球を作って押し出し、何回か交換してきれいにする。嬉しそうに泳ぐ人魚は太陽の光を浴びてキラキラと美しい。それを横目に見ながらティーセットを準備する。ちなみにお茶はアルジェシュで買ったほうじ茶だ。準備が終わるとチェルシャは珍しそうに水球から顔を出した。


「茶を淹れたが・・・ 飲めるか?」


「ありがたい、が冷たい物なんかは無いか?」


ペタペタと這うように椅子にたどり着くとチェルシャはおしぼりで手を拭く。


「そうだな、ブドウジュースなら飲めるか?」


お茶以外は酒か水、ブドウジュースしかない。人魚も子育て期間は陸に上がるものだから大丈夫だと高を括っていたが違うようだ。チェルシャはぐいぐいとブドウジュースを飲み干すと口を開いた。


「ありがとう、落ち着いたよ ついでと言っては何だが・・・この首輪を外すことはできるか?」


二杯目のジュースをすすりながらチェルシャが首をさする。宝石があしらわれているためアクセサリーだと思っていたが、どうにも違うらしい。触って調べてみると、どうやらこれで魔法を阻害されていたらしい。魔法が得意な人魚があの程度の賊に捕まっていたのはこれが原因だろう。おそらく魔力切れになるまで人海戦術を仕掛けた後にこいつをはめて無力化したのだ。


「わかった。特に面倒な仕掛けも無い様だから問題ない。」


呪いがかかっている訳では無いからそのまま両手で引きちぎる。苦労したのは破片がチェルシャの方へ飛ばないようにすることだけだった。外せば装着者が死ぬなんていわくつきの物もあるが、賊が手に入れられるのはこの程度が限界だったのだろう。


「さっきもそうだがすごいな、助かった!」


「袖振り合うも多生の縁ってね。」


「ありがとう」


「気にすんな。そういえばなんで長い事ここに閉じ込められてたんだ?」


「あ、あぁ それは私が呼巫女(よびこ)だからだろう」


「なんだそりゃ?」


「人魚族に産まれる海に愛されし者だ 魚を呼び、海に関する厄災を遠ざける」


「なんだってまた人間に見つかったんだ?」


「この黒髪が目立つから、だろうな 人間の間には黒髪の人魚の心臓を食べると不老不死になるという伝承もあるらしい」


「よく食われなかったな。」


「競売にかけていたらしいが金払いの件でもめたらしい そのおかげであなたに助けられたがな」


「じゃあさっさと海に出ないとな。そろそろ行くか。」


ティーセットを片付けて再びチェルシャを抱き上げる。


「ジョセフソン、あなたは何者だ? 人間は人魚を見たら捕まえて金に換えようとするものばかりだった あなたからはそれらを感じない」


「俺が人間かどうかは微妙だが、そんな連中ばかりじゃないってことさ。俺の友人もきっとお前さんのお眼鏡に適うだろうよ。」


「連中は恐ろしい… だが、あなたの言葉は、・・・なぜだろう信じてもいい気がする」


「あんまりすぐに信じると痛い目にあうぞ? 童話じゃ人魚姫は泡になったとかそんなエンディングだったからな。」


「人魚は泡になどならないぞ?」


「まぁなんかの例え話だろ、俺も詳しくは知らないしな。大事なことは自分で判断しろってことだろうさ。」


「そう、だな ところであなたに助けてもらったが、私には何もない どうお礼していいかわからないんだ」


「そうだなー、とりあえず元気になったら飯でも奢ってくれ。魚獲るのが上手いんだろ? うまい魚介が食いたいな。」


「そんなことで良いのか?」


「じゃあもう一個だけ、もう捕まるなよ?」


「はぁ、もう子供作ろう?」


「な・・なん!?」


「は!?すまない!違うんだ!人魚の女が惚れやすいとかじゃないんだ!」


「惚れやすいんだな?」


「・・・・・少し、少しな!二本足がキュンキュンするとかじゃないからな!」


「するのか?」


「・・・・・少し、少しな!」


「ところで鱗と鰭の色がやたら赤くなったのは何なんだ?」


「・・・・・こ、婚姻色とかじゃないぞ!」


「俺は結婚してるんだ。」


「・・・・・結婚?・・・あぁ!そういった文化は聞いたことがある!で、問題が?」

「大ありだ! 浮気良くない、絶対!」


「・・・・・浮気?・・・あぁ!そういった文化も聞いたことがある!」

「あれは文化じゃない!」


「いいことではないか?種を残そうとする本能!遠慮していたら死に絶える、オスもメスもことをなさねばな!」

「よし、放流!!」

「ちょっ、ああぁぁぁぁ・・・」


チェルシャを水魔法に詰めてできる限り遠くへ投げて着水と同時に魔法を解除し放流する。念のため投げた方向の浜に氷で馬防柵を作って置く。人魚を取り巻く状況から先入観で”捕まった”と勝手に思っていたが、チェルシャは自分で捕まりに来たんではないだろうか。で、捕まった先が悪かった。本来人魚は群れで生活していれば人間に後れを取ることはない。そもそもシャチくらいのスピードで泳げる人魚である。この世界は帆船しかないのだから何重もの罠で計画的に挑まなければ捕まえることなどできない。


「あいつそこそこ強そうだったから大丈夫だろ。よし、帰ろう! 間違った、二人と合流しないと。」


とりあえず縛り上げた水賊を回収してミシェル達の元へ戻ることにした。


隠蔽魔法で船を一隻丸ごと隠して捕まった人間の保護を進める二人は思いのほか時間が無いことに焦りを感じていた。ジョンが陽動の癖にさっさと賊を制圧してアジトまで踏み込んでしまい、建物内の生存確認ができていなかったのだ。

「どうじゃミチ、匂いを追えるか?」

「無理、臭い煙で鼻が利かない」

硝煙の臭いで人間の匂いを辿れずこれ以上の捜索は難しいうえに敵の数もこうなっては把握できない。ミチは踵を返すとドラ子に指差した。

「船を沖に、私が人間を探す 見つけ次第雷で合図を出すから迎えに来て」

ドラ子は胸に手を当てて返す。

「うむ、任せよ! じゃが、アホ程高威力の魔法を連発しておるあのアホに気を付けるのじゃぞ?」

何やら思慮深げに考えるミチがドラ子に聞く。

「当たって目の前に倒れこむのは・・・あり?」

「NO! みっともなくウジウジしだすじゃろうからな」

「自然に触れ合う・・・難しいわね」

何か深刻なことでも考えていたのかと身構えたドラ子だったが、ふたを開ければ見当違いなことを考えていた。

「キメ顔でいうことじゃないのぅ、あまり表情が変わらんからだいたいキメ顔か・・・」

「キメ顔?」

「いや、そこは気にせんでいい さ、始めねばな!」

「行ってくる」



というわけで人魚を発見、放流しました。この世界の人魚はツインテールとシングルテールの二種類がいます。繁殖期は無く、気分が盛り上がると婚姻色に変わります。惚れやすく、ちょっと言い寄られただけで本気になったりします。そのせいで簡単に拉致されてしまうため数が減っています。女性だけでなく男性も惚れやすいため潮流の速い島を与えて保護が行われました。しかし、保護をしていた国が侵攻により滅亡して活動が終わりを迎えると漁解禁とばかりに人さらいが現れました。平和ボケしていた人魚は散り散りに逃げましたが三分の一が捕まりました。捕まったものたちは好事家の食卓に並んだり、はく製になったりと無残な最期を迎えました。しかし、その中のほんのひとつまみの人魚はギリギリで助け出されて穏やかに暮らす者もいました。どこぞの王子様と結ばれて添い遂げる者もいたとかいなかったとか。基本は結婚とかの概念がありません。体温は人間に近く35.0℃台。体の周りの水を魔法で動かないように固定することで体温を保ち、肺呼吸のため数時間に一度呼吸のため海面に姿を現します。子育て時期は母乳を与えるため陸に上がり、定期的に水に戻ります。海水だけではなく淡水にも出現することがあり、その歌声に誘われて瀕死の冒険者が水に落ちて死ぬことがある。肉は海獣に近いのでステーキがおすすめ。生食は自己責任で。


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