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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
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水賊の討伐

心地よい潮風のふく晴れ渡った青空の下、それに似つかわしくない辛気臭い表情を浮かべて溜め息をつく男がいた。そう、俺だ。


「どうしたの?」


自然な会話ができるようになった、と言っては語弊があるが疲れない距離感の会話ができるようになったミチが不思議そうな顔を浮かべている。


「んー・・・ 短い間だったけど別れると辛いもんだなーって。」


アルジェシュにロック一家とアビゲイルを置いて旅に出てきたのだが、何とも寂しい。もちろんミチとドラ子の二人がいるから孤独なぞ感じない。なんなら少し安心感さえ覚える。だが、自分が思いの外寂しがりだったことに気付かされた。


「もどる?」


「いや、土産話でもできたらにしよう。さ、リザのお願いを聞き届けないとな!」


エリザベスの頼みというのは水賊の討伐だ。ドラ子が風呑龍を討伐してからすぐに水賊が現れたらしい。もちろん精強な吸血一族なら難なく排除できるだろうが、発見まで時間がかかる。塵龍のクロムを偵察に出せば見つけられるだろうが彼は水と相性が悪い。水賊風情に遅れは取らないだろうが、水に落ちると弱体化してしまうから海戦は向かない。そういうわけで弱点が特に無い俺たちが旅行のついでに水賊を討伐して安全を確保することになった。なかなか手加減を知らない連中らしく商船やら客船を襲って金品や食料、果ては女子供まで奪い始めたそうだ。ため息をつきながら小石を崖下になげて暇をつぶす。ちなみになぜ水賊なのかというと、連中は川まで上って村を襲う事があるからだそうだ。


「お主は何をしておるんじゃ? まぁいい、根城があったぞ さっそく乗り込むか?」


ドラゴンに戻って偵察をしていたドラ子が発見の一報をもって帰還した。青空に溶け込まない真っ黒な見た目なものだから恐らく警戒されているだろう。


「んー、さすがにドラ子の姿を見たらどんなボンクラでもアジトに戻るだろ? 人質を取られたら面倒だから夜まで待とう。」


「ふーむ 女、子共が捕まっておったから、夜まで待てば可哀そうなことになるかもしれんがのぅ・・・」

「今行こう。ミチとドラ子は救出チームで俺がせんめ・・陽動だ!」


「乗ってゆくか?」


「いや、走ってく。その方が派手だろ?」


「派手・・というかアホというか・・・まあ良い、しっかりと目立つのじゃぞ?」


「任せとけ!」


二人と別れ崖から飛び降り海面に着水する。いわゆる右足が沈む前に左足を出せば沈まない理論だ。毎秒四回以上水面を蹴れば沈まないのだ。速度はだいたい100kmちょっとくらい、疲れない程度の速度ならこれくらいだ。敵に発見されなければ意味が無いから派手に水しぶきを巻き上げながら連中のアジトへまっしぐらに駆け抜ける。まだ帰還していない船を追いぬいて水賊が作ったにしては立派過ぎる港へ到着した。


「撃て!うてぇぇぇ!!」


たぶんそういっているであろう男たちが銃を構えて一斉に発砲を開始する。パーカッションロック式らしいライフル銃みたいなものを持った男たちはよく訓練されており、スムーズな発射を繰り返している。なんなら縦列して発砲を繰り返すあたり軍人上がりかと思う程の練度だ。普通の人間相手なら大変有効な手段だが、俺に対してはいかんせん火力不足だ。有効射程も短くモーゼス帝国製の銃より相当遅れた技術だ。技術の発展に差がありすぎるところを見ると、帝国には俺のような世界移動存在が関係しているのかもしれない。

水際で反復横跳びの要領で賊をおちょくっていると、褐色の女が守備隊の一人から銃を受け取り、こちらを狙ってきた。桟橋からここまでおよそ150mほど。健康的なお腹がまぶしい。今までの連中ならとてもあたらない距離だったがその女は性格に頭を狙ってきた。


「お見事!」


思わず感嘆したが聞こえるわけもない、それに当たってやる必要もないため顔の前で弾を握ってみせる。すると女は爆笑しながら背負っていた長い包みを開いてバカでかい銃を取り出した。レッグポーチから取り出したのは艶消しで黒く塗られたマガジン。これもでかい。さっきまでの銃と技術がかけ離れている。

マガジンの大きさから推測するに12.7x99mmはありそうだ。健康的な体つきだが、あれを抑え込むにはどうみてもパワー不足だ。だが女は立ったまま構わず撃ち込んできた。ショットガンを打つ程度の反動で抑え込んでいるのを見ると強化魔法でも使っているようだ。飛び出す薬莢を見ればそれが明らかなオーバーテクノロジーで作られていることがわかる。だが、これも食らってやる必要は無い。アッパーの要領で殴りつけるとこれも止めることができた。慌てたのは女の方で、わたわたと構え直した。あの威力を止められたら外したと考える方が自然ではある。正確無比な一撃は再び眉間をめがけて飛んできた。あのデカ物をこれだけうろちょろしている俺の頭にこの精度で撃ってくるとは素晴らしい腕である。これはぜひともエリザベスに献上したい。周りにいる連中は女の取り巻きらしいからまとめて捕縛して回収してしまおう。

おちょくるのを中断して早速接近し、拘束魔法で取り押さえる。水しぶきが上がった事しか視認できていなかったようで5人はあっさりと捕まえることができた。


「賊は縛り首だ、交渉しよう。」

「あたいの体が目当てなんだろ!?」


女が斜め上の反応を見せた。確かに健康的で魅力は感じるが結婚した後だと別に感が否めない。


「間に合ってる、伝え方が悪かったな。こちら側につけ、でなければ海獣のエサにでもなって貰おうかな。」


「お、お嬢は助けてやってくれ!借金の形に賊の傭兵をやらされてるだけなんでさ!!」


「そうかー、借金は良くないなー。」


「それだってインチキまがいの・・・」

「やめな! あれはあたいが馬鹿だっただけさ!」


いきなり始まった三文芝居にひどい眠気が襲ってくる。とりあえず陽動がぼんやりしていては職務放棄と言われかねないので港を魔法で爆破する。停泊していた数隻の船が木っ端みじんに吹き飛び、残りも着底した。呆然とする彼女らに質問をする。


「で、俺の敵か味方か・・・」

「「「味方デス!!!」」」


「よろしい!じゃあ早速だけどその対戦車ライフルはどこで手に入れたんだ?」


怒号と複数の足音が聞こえる中、聴取を開始する。


「あたいの召喚術さ、弾は暇なときにコツコツ召喚するんだよ!」


この世界は生物以外の召喚も確かに存在する。例は少ないが刀剣や矢などが有名だ。しかし、コストが合わないため結局召喚ではなく魔法での攻撃になってしまう。だが、この女のやり方ならば使いようはある。


「ライフルさんは転生者か?」


「て、いうかそのライフルってのはあたいのことかい?」


「名前を聞きそびれたからそれでいいかなって。」


銃やら弓やら持った水賊が押し寄せてきたが、背後に氷魔法を撃って退路を断つ。阿鼻叫喚の水賊を火魔法で仕留める。本来初級であるはずの魔法が巨大な氷をも焼き溶かした。ぽかんとしていたライフルさんはパクパクしたあと話し始めた。


「あ、・・・あたいはミシェル・ハーダウェイ、見てのとおり傭兵さ!」


「俺はジョンだ。早速だがお前さんたちアルジェシュで働かないか?」


「アルジェシュ?」


「あぁ、吸血一族の国だ。」

「あたいの血を・・」

「いらん。あの国では血を献上するのは名誉なことだからよそ者が血を取られることはないよ。それに必要な血も一人で一年に100ccくらい、献血みたいなもんだよ。」


「ゾンビに」

「ならん。100cc貰って一々ゾンビになってたら人間も吸血一族も絶滅だろ?」


「あー・・・」

「他の町より治安もしっかりしてるし子育て支援も充実!今なら新兵器技術開発局が発足して人材も募集中!週休二日に残業代は別途支給、昇給年二回(業績による)、賞与あり(業績による)別部署の前年実績3回!有給3ヶ月めから付与。それから・・」

「行く!!お願いします行かせてください!!」


「で、借金て誰にいくらくらいあるんだ?」


「・・ここの連中に金貨300枚くらい・・・てへっ!」


ミシェルの顔に少しイラつきながら取り巻き一号に聞く。


「・・・・・・金使いが荒いのか?」

「違うんでさ!酒を飲ませると・・」

「禁酒な?」



「・・・・・はい・・」


「とりあえず水賊全滅で借金チャラ大作戦を始めるか。」


ひっきりなしにやってくる賊を排除しながらアルジェシュへのリクルートを勝手に進める。正直ミシェルだけでもいい気はしたが、友人と別れるのはつらいと思い知ったばかりだ。できる限り連れて行ってやろう。銃の扱いに慣れた連中ならレクチャーなどに持ってこい、今まで銃が無かった吸血一族に有用だろう。


「それにしても俺はこんなに打算的だったかな・・・」


迫りくる賊を焼き払いながら考える。


「どうしたんだい?」


「いや、何でもない。とりあえずここの連中消し炭にしてくるからお前さんたちは隠れておいてくれ。ウロチョロされると邪魔だ。」


「隠れるったって・・・」


「そこに着底した船があるだろ?」

「ちょっ!沈んだらどうするんだい!」


「運がなかったってことで。」

「そりゃないじゃないか!新しい人生に夢と希望しかない連中を棺桶に・・」

「すまんすまんわかったわかった! じゃあ、水賊の装備を教えてくれ。」


「言ってみるもんだね! 装備は大したことないよ、こいつらが持ってたのと同じ銃と弓とか槍とか・・それと火薬詰めただけのグレネード!至近弾ならあ・・・あんたには関係ないかい?」


「わかった。」


土魔法で壕を建てて壁を伝って登れないようにネズミ返しをつけ、天井に入り口を作る。煙突を二本つけて自動換気をさせる。プレーリードッグの巣と同じ手法だ。戻ってきて酸欠なぞシャレにならないからだ。


「よし、中に入れてやろう。」

「だい・・じょうぶ・・・なのかい?」


「心配するな、俺の魔法を越える威力の奴がいない限りは大丈夫だ。」


不安そうなミシェル達を小脇に抱えて壕に入る。日差しが無いせいか外よりも涼しい。


「お前ら薄着だけど大丈夫か?」


「任せときな!アイテムボックスを持ってるから何とでもなるよ!!」


ミシェルは収納魔法じゃなくアイテムボックスと名付けたようだ。こいつはきっと日本人だ。


「そうか、じゃあ適当に暇つぶししておいてくれ。」

「必ず迎えに来ておくれよ!!」


光魔法で明かりをつけたミシェルは懇願するように手を振っていた。


「それにしてもとんでもないバケモンだったね・・・」


「お嬢、聞かれてたらまずいですよ!?」


「聞いてるわきゃないさね、通信魔法は仕込んでありゃしないよ」


「でも寝返って良かったんで?」


「あんた気付かなかったかい? ありゃ手を出しちゃいけない類のバケモンだ! ここの連中は持っても数分だろうさ・・」


「覇気なんかありゃしませんでしたよ?」

「だからあんたは馬鹿って言われるんだよ!あたいのライフルを素手で止めたんだよ!!?それに水面走るなんてあんたにできるかい!?」


「できやせんが・・・」


「それに魔力をあれだけ押さえ込んであの威力の魔法だよ? あいつが本気出したらこの島なんて消し飛ぶさ!」


「そんなもんですかねぇ・・・」


「それは置いといてもあの高待遇・・・こんな場所で冷や飯食ってるより絶対良いに決まってる!最初は悪魔が来たと覚悟したけどもう天使にしか見えないってもんさ!!」


「でも本当だとは限りやせんよ?フカしこいてるだけじゃありやせんか?」


「あんた自分より弱い奴騙して言う事聞かせるかい? 隷属魔法で従わせりゃいいだけさね、こっちの価値は武器の知識とライフルさ! あんたらあたいに感謝しなよ?」


「賊の傭兵やってんのは誰のおかげでしたっけね?」


「さ!飯でも食って出発に備えるよ!」


「誤魔化されませんてお嬢!」


「みみっちい奴だね!結果良けりゃ全て良しだよ!!」




というわけでアルジェシュへ技術提供者が連行されます。銃のオタクだったミシェル・ハーダウェイ(遠崎浪江)は知識はあるものの不器用で自分では作れずに召喚術で武器を手に入れました。知識があれば割と何でも呼び出せるこの世界の召喚術ですが一度に出せる銃は一丁のみと潰しがきかず、さらに出現させているだけで魔力を消費します。消耗品は呼び出しても消えないので何とかなりましたが、ロマンだけで異世界を楽しんでいました。魔獣の討伐や護衛などそつなくこなして日々を生きていましたが、ある日の酒場でやってしまいました。周りが止めるのも聞かずに賭けに手を出して大敗。銃をよこせと言われましたが、それができずに賊の傭兵になりました。彼女の愛銃はボルトアクションの対物ライフルです。もちろん設計図なんてありませんから召喚しては技術者が分解して設計図を書きます。結局彼女達は設計局ではなく新設の特殊部隊顧問として招かれます。あまりの高給に浮かれた彼女が他の種類の銃も呼び出せることを吐いたため永久就職となりました。

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