デート・・・?
日が昇り切ってボチボチ店が開き始める頃、フェタとウルダの作った朝食を平らげてから町で散策を開始した。リールと違い店の数は少なかったが、商品の質は中~上となかなか見ごたえのある店ばかりだ。そのせいか普段は食い気優先の二人も様々な趣向のデザインに触れて目移りしている。
何点か新品の服を買い、ひとしきりはしゃぐと二人は小腹が空いたらしい。こんな時こそ屋台だと思ったのだが、整然と整備されたこの城下町にはほとんどそれが無かったため喫茶で一休みすることにした。
おしゃれな店だったが、メニューにずんだ餅を見つけた俺は望郷の思いのせいか有無を言わせずにそれを頼んだ。有無を言わせずもちろん全員分。ドラ子は初めて見る料理をまじまじと観察し楽しそうに店員を捕まえレシピを教えろとせがんでいた。結局厨房まで押し込んだが企業秘密と一蹴されて席に戻ってきた。
「何とも・・・もっちゃり甘いのぅ・・・」
濃い目のほうじ茶をすすりながら微妙な顔のドラ子が少し老け込んで見える。口に合わなかったようで目がしょぼしょぼしている。それはそれで可愛いのでいいが、問題なのは俺にとっても味だった。
「違うんだ・・・ 俺の望んだのはしょっぱいずんだ餅だったんだよ!」
どっちも似たようなものだろうとドラ子の目が訴えているが決してそうではない。しょっぱいのと甘いのとそれぞれに需要があるのだ。
「お館・・じょん!おいしいですよ?」
三者三様の感想だがとりあえず吸血一族の始祖はきっと日本人、しかも東北地方の出だと思う。醤油や米、刺身の文化にずんだ餅など食文化は郷里の物が出やすい。そうだと嬉しいと思っているだけなのだが。
ちなみに岩手県の一部地域では200種類を超える餅料理があるといわれている。大根おろしを乗せて醤油で食べる餅や、ぬまえびを炒って塩と酒で味を整たものを餅に絡めて食べるもの。それに納豆餅なんかもぜひ食べさせたい。当たり前と言われればそれまでだが、残念ながら茶屋にあるはずもなく頼むことはできなかった。
あまりに熱っぽく語っていたら懐っこい店員がやってきて普段から餅を食べるわけではなく、日本でいうところのお盆に餅を食べる事を教えてくれた。この茶屋にずんだ餅が置いてあるのは純粋に店主が好きだからだそうだ。主食として食べるわけではないためそんなに多くの餅料理は無いと断言されてしまった。無念。
それでも口が餅料理をもとめてしまい、ずんだ餅から思い出した懐かしい料理を二人に説明する。知りたがりのドラ子が釣れるのは予想していたが、ずんだ餅のお代わりを食べているはずのミチもよだれが伸びている。どうにも力説しすぎて二人の食欲を刺激してしまったようだ。
「ごめんごめん、ちょっと早めに昼を食べて夕飯に備えるか。」
喫茶では二人が満足するような食事ができないため店を変える。実は服屋を回っている時にたまたま見かけた店に狙いをつけていた。洋風の街並みとは全く不釣り合いだが、看板に漢字で”丼もの井波屋”と書かれていた。漢字はこの世界で見ることは大変少ない。おそらく俺と同じように呼ばれた存在が建てた店だろう。存命かどうかは聞かねばわからないがそれも楽しみの一つでここに決めていた。
「”どんもの”とはなんじゃ?」
「おう、米と主菜が一緒になったもんだと思えばだいたいあってる。ドレスコードなんて気にせず入れる気軽な店だよ。」
「ほぅ・・外観も中々に味があるのぅ 面白い所を見つけたものじゃ」
「おや・・じょん!早く食べてみましょう!」
いなみの三文字が書かれた暖簾をくぐると中はまばらに客が入っていた。あまり流行っている店ではないらしい。しかし石造りの他の建物とは違い、木造のその店は俺にとってまさしくノスタルジックな空気を纏っていた。大昔に来た時には寄り道もせずことを進めていたからこんな店があるなど知らなかった。当時知らなかったから今の出会いに繋がったわけだ。どんなものがあるのかウキウキしながら早速席に座り、メニューを齧り付くように見る。
「お主、どうしてそんなに呆けておるのじゃ?」
不思議そうなドラ子の声は聞こえていたが反応できずにメニューを何度も確認する。
「お・・じょん?」
「無い・・・」
「は?」
「丼物がないんだよ!」
「・・・どんもの屋、なのにか?」
「どう見ても焼き魚定食とか焼肉定食とかそんなのしかない・・・裏メニューとかなのか?」
「あれだけでかい看板を掲げてか?」
「あの字は俺とドラ子には読めるだろうが他の人にはほぼ読めないだろ。だからきっと、店員さん!」
声をかけると長い髪を後ろでまとめた店員がパタパタにこにこしながらやってきた。
「ご注文お決まりですかー?」
百点満点の笑顔でテンプレ通りの接客に不安を覚えながらも注文する。
「かつ丼をくれ!」
一瞬笑顔が固まった店員だったがすぐに表情を切り替えて神妙な面持ちで口を開いた。
「・・・申し訳ありませんお客様、そのようなメニューは当店にはございません 別なご注文をお願いします」
「牛丼!」
「ございません」
「親子丼!!」
「ございません」
「中華丼!!!」
「ございません!」
「なんか、なんか丼ものはないのか・・?」
「・・お客様看板が読めるんですか?」
「読める、読めるから楽しみに来たんだ!」
店員は大変申し訳なさそうに頭を下げると説明を始めた。
「申し訳ありません、三代目が亡くなり・・・お客様のおっしゃったメニューはすでに失われてしまいました」
この店自体は初代が作ったままのものだが、当時のメニューで残っているのは定食だけらしい。三代目が厳しく四代目をしごきすぎて逃げられてしまったらしい。その時三代目がショックのあまり床に伏して跡継ぎの育成をしないまま急逝してしまいレシピが失われたそうだ。この店員のお姉さんはその三代目の二女で、旦那と一緒にこの店を切り盛りしてなんとか維持しているらしい。昔は朝も夜も関係ないほど繁盛していたが丼物が無くなって以来急激に落ち込み、今では満席になることも無くなったらしい。
「に、似せて作るればいいんじゃないか?」
「私も最初はそう考えて似たものを作ったんですが・・・常連様はすぐにいなくなり、新規のお客様も二度と来ることはありませんでした 当時から私が準備していた定食は変わらぬ味だとこれを求めて下さるお客様もいらっしゃいましたが・・・ それだけで他の店に勝てるほどこの町は甘くなくて」
寂しそうに笑う店員に大変申し訳ない気持ちになったが、そのあとはドラ子とミチが定食を完全制覇していたからお詫びにはなっただろう。二人ともあの細い体のどこに入っていくのだろうか。いずれにせよ定食は美味いし値段も安いので今後もこの店は活用しよう。
「ごちそうさん。」
「またお越しください!」
名前も聞いていないが店員の声に送り出されて再び町にでる。腹も膨れて少し眠いがせっかくのデートだ。まだまだ買い物をして二人にも楽しんでもらいたい。
しかし、店を出たぐらいから不躾な視線を感じてミチがそわそわしだした。取るに足らない相手であることは間違いなかったが、やはりこういったことに慣れていない彼女には気になったようだ。
「死にたいのか?」
ドラ子と次に入る宝飾店を探すため少し目を離した瞬間にすべての問答をすっ飛ばしてミチがケンカを売ってしまった。見つかっていないと思っていたのかその男は驚き逃げ出したが、ミチから逃げられるはずも無くあっさりと捕まった。フンスと鼻を鳴らして指示を待つミチに駆け寄る。
「ミチ、こういう奴は適当にやり過ごすのが吉だ。警ら兵に突き出しても状況を根掘り葉掘り聞かれてせっかくの時間が無駄になるんだよ。」
普段なら気にしないが、せっかくのデートにこんなことで時間をつぶしたくない。できるだけ優しい口調で教えたが、ミチがしょんぼりしてしまう。
「お、おれが帰らなきゃボスが黙っちゃいねぇ!」
男が三下感丸出しで声を上げる。こいつのボスがどんな相手でも大したことは無いだろうが、それこそ時間の無駄だ。
「はいはい、二度とそのツラ俺たちの前に出すんじゃないぞ。それじゃあミチ、リリース。」
「・・・・はい」
ミチが手を離すと男は周りに当たり散らしながら去っていった。捨て台詞は案の定、
「覚えとけよ!!」
というある意味芸術的な三下らしい去り際だった。使い魔に追わせてもいいんだがガージスはイケメン過ぎて目立ってしまい追跡にはあまり向かない。猫とか犬とかの使い魔がいれば適任だがそんな気の利いた仲間はいない。
「あとで面倒にならんかのぅ?」
「また突っかかってきたらそのグループごと壊滅させたらいいんじゃないか? あの程度のチンピラはどこの町にもいるだろ。」
「なんじゃ、気付いておらんか?」
「何がだ?」
「あの男の顔の入れ墨、死霊術師のものじゃ」
「あんな雑魚が!?」
「雑魚も雑魚じゃが動物の死体くらいは操れるじゃろうなぁ お主なら今からでも追い付くじゃろう 行ってもよいぞ?」
「今日はデートって決めてるからなぁ・・・」
「妾とミチはもう少し服を見ておる まぁ、夕食までに戻ればよいぞ」
居なくていいというのは寂しい気もするが、前の騒動に少なくとも死霊術師は関係がある。騒動から間もないのだから町にその一味がいてもおかしくない。
「わかった。ロックさんたちにも安心して住んで欲しいし・・・ちょっと締め上げてくる。」
「・・じょん、ついてく」
一歩踏み出したミチの手を握ってドラ子が引き留める。
「ミチ、服を見繕って待つのじゃ ・・・・・」
ドラ子が小声で何かをささやいたが俺には聞き取れず、聞き返すが答えてくれない。ミチには聞こえたようで頷いて表情が明るくなった。二人の秘密らしい。
「じょん、早く帰ってきてくださいね」
にっこり微笑むミチと薄ら笑いを浮かべるドラ子に手を挙げてから走り出す。
あの雑魚の魔力は小さいが、イラついたのでしっかりと覚えている。ディテクションの魔法を発動させてそれを追う。人の通りが少しあるので激突を避けるためにジャンプして屋根伝いに追うことにした。追跡されているとは考えていないようで移動速度は速くなく、路地に入り込んだが道沿いに移動しているだけで特に追跡へのトラップがあるわけでもない。典型的なただのチンピラだ。あっさりと追い付き進行方向へ飛び降りて反応をうかがう。
「・・・猫?」
男の前に飛び降りたはずが目の前にいるのは日に焼かれて皮膚がただれた猫だった。しかし感じる魔力は完全にあの男の物である。一瞬頭が追い付かなかったがこれはあれだ。
「死霊術か!!」
してやられたと一気にディテクションの範囲を広げて他の場所の魔力を探る。少し離れた場所に数か所同じ魔力がヒットした。移動速度がまちまちなのはおそらく操る動物が違うからだろう。
その中でもミチとドラ子に近いものから接近する。二人がどうなるとかは無いだろうが”念のため”だ。一番近くのは白斑の入ったカラス。他の生き物の魂なら日の光であっさりと解除される死霊術だが、今回の術者は捕まえた動物を縊り殺してそのまま術をかけたようだ。また、魂乗せと呼ばれる技を使ってリビングデッドを操っている。わざと発見されて印象を強く与え、男自身に注意を引くのが目的だったらしい。もしミチとドラ子を狙っているのなら別働隊がすでに襲撃している可能性がある。
カラスに浄化をかけた後、二人のいる通りへ自由落下する。
「お帰りなさい」
「早かったのぅ」
服が入っているだろう包みが増えているだけで特に驚いた様子もなく二人が振り向いた。
「あれ、なんもなかったか?」
「ん? あぁ、男の仲間らしい連中が来おったから、丁重におもてなししただけじゃ」
ドラ子の説明にミチがにっこりと微笑み、何があったか大体わかった。
しかし、死霊術師に狙われるようなことをした覚えはない。目立つといってもお貴族連中に顔が割れただけでそれ以外は特にない。一般の人たちにはただの旅行者くらいにしか見えていないだろう。
「しっかし・・なんだって狙われたんだ? 施設の襲撃事件では首謀者連中は蜘蛛しかいなかったし、そいつもしっかり殺しておいたんだがな。」
「ミチが銀狼族だとばれているのじゃろうなぁ」
「私?」
「どう考えてもミチが狙いじゃろう 攫って売り飛ばせば人生何回か遊んで暮らせるのじゃからな」
「銀狼族が珍しいとはいえそんなだったか? 毛皮が高値で取引されてたけどそれだけだろ?」
「ノア様も言っておったろう? ”銀狼族は数が減っている”と 500年で取り巻く環境が変わっておる テイマーと抱き合わせで取引されておるそうじゃ 嘆かわしいのぅ」
「だがさっきの死霊術師はミチに勝てる要素が一つもなかったぞ?」
「数が減っておるから彼女らの実力がわからんのじゃろぅ 東の龍の記憶では目も明かぬ子狼の時に親から盗み出されたようじゃ 連中はそれを知らずに真正面から突撃してきたって訳じゃな」
ドラ子がはかぶりを振って答えた。ちょっと目を合わせられないがミチの怒気が顔を見なくても伝わってくる。
「腹立つ話だな。しかしどうやって銀狼族だってわかったんだ?」
「それは死霊術師の目のせいじゃな 連中は魂の色がわかる 人間なら青、鳥は白、銀狼族は紫とかじゃな」
「んー・・厄介。後ろ盾がいるのかも気になるな。」
「それはほれ、本人に聞くが早いじゃろう?」
「そうだな、ちょっと探してくるから引き続き注意しながら遊んでてくれ。」
「私も手伝いに・・」
「ミチは妾とお買い物じゃ!」
「それじゃあ、行ってくる。後で買った服、着て見せてくれよ。」
二人と別れて再度あの男の魔力を探す。鳥と猫は排除してあるから相手も何かしらの対策をしていると思われる。とりあえず人手が欲しいので屋根まで飛び上がり使い魔を呼ぶ。
「ガージス。」
「なーに? ジョンちゃん」
虚空からにゅるっとイケメン?が現れた。イケメンというかもう化粧して女装しているからぱっと見ちょっとかわいい女性になっている。それに今回はなぜか見慣れない女性?も一緒の様だ。ちょっと情報が多くて頭が痛いがとりあえず知らない人の事を尋ねてみる。
「ちょっと頼み事があったんだが・・・その人は?」
「あらん? 紹介してなかったかしらぁ 私のお姉ちゃん! ちょっとタイミング悪くて一緒に来ちゃった!!」
「ガージスの姉、ナオと申します 以後お見知りおきをヴァルガス様」
深く頭を下げるイケメンの姉はクール系の美人だった。そして挨拶もさまになっているがどう見ても男装している。個人の趣味にとやかく言うのも野暮だから二人の格好についてはそっとしておくことにした。
「よろしくナオ。直ぐ送り返すからちょっと待ってくれ。」
「いいえ、ヴァルガス様 その必要はございません」
「そうよう お姉ちゃんは前からジョンちゃんの所に来たいって言っててねぇ! 私が跡を継ぐことが決まった時、殺しに来たくらいなのよぅ!」
ナオがギョシっとガージスを睨みつけると彼は目を逸らして尻すぼみに黙った。ちょっと苛烈なお姉さんのようだ。
「父の愚かな契約が残っていたせいでそちらに出向いておりました ですがついにお役目が終わりました これからは私が御身に仕えさせて頂きます」
「手が増えるのは助かるが・・・」
「我らはより強い主君に使われるのが誉でございます それは貴方様をおいて他に居りません 今回からは筆頭の私が!」
「だーれが筆頭なのよぅ! ちょっと強いからってすーぐに調子に乗るのはお姉ちゃんの悪い癖なんだから!」
「ふん、鉄竜すら狩れん貴様に何ができる 少しは腕を上げてから物を言う事だな」
中身が入れ替わったらすごく丁度いい感じの2人に頭が痛い。自己紹介も終わったことだからさっさと本題に入ろう。
「姉弟仲がいいのは分かったがそろそろ本題に入っていいか?」
「失礼致しました 何なりとお申し付けください」
「顔に入れ墨のある男が町を逃走中だ。死霊術師らしいんだが事情聴取がしたいから生かして連れてきてほしい。もっとも自身が危険な場合は躊躇わず殺せ。第一は無傷で戻ることだ、それを間違えないでほしい。」
「御意」
「任せてジョンちゃん!」
ガージスの呼び方が気に入らないのかナオは穴が開くんじゃないかってくらいに弟へ鋭い視線を飛ばしている。ガージスは目を合わせずにフリルのスカートをはためかせながら町に消えていった。男のパンチラは要らない。
「申し訳ありません 愚弟の無礼、お詫び申し上げます」
「いや、そんなに畏まらなくていい。疲れてしまうからな。まぁ、あそこまで変わるとびっくりするけど、仕事は真面目だし忘れて置いて帰っても怒らないし良い奴だ。」
「勿体ないお言葉、痛み入ります」
「だから、ナオも言葉遣いはあまり気にしなくていい。友達感覚で良いからな。」
「いいえ、私は主君の品位を貶めるような真似はできません」
とてもまじめな受け答えだ。主君と言われても領地も無く、なんというか、現在無職だ。それこそ仕えるに値する人間とは思えない。魔王の称号がついた時点で勝手にできた使い魔一族に大変申し訳ない。
「前の魔王なら立派な人物だったろうから忠義を尽くす価値はあっただろう。だが・・・俺は今特に何をするわけでもない。契約を切ってくれてもいいんだぞ?」
ナオは地面に左膝をつき、右腕を前に出すと答えた。
「決して、決してその様なことは致しません! 我が身、我が心は御身の為に!」
なぜそんなに?という言葉が頭に浮かんで消えない。別に何かを成し遂げたわけでもないし、なんなら前の契約主を葬った怨敵でもある。何が彼女の琴線に触れたか見当もつかない。
「いや、なんか期待させてたら申し訳ないが特に何かするあても無いし・・」
「いいえ、私には御身の成す大業が!確定された未来が見えます!その末席にいることが私の願いであり存在理由なのです!」
恍惚とした表情でナオは力説する。だが、結婚もしたことだし考えているのはハネムーン的に旅行してから塔に戻ることだけだ。せいぜい旅行の間に施設の襲撃犯を見つけられればグレンとカリーナに報告しようと思っている程度。とてもナオの言っているような事態にはならない。
「しかし俺はこの後新婚旅行しか頭にないからそうはならないと思うが・・」
「いいえ、その道がヴァルガス様の王道となるのでしょう!私が粉骨砕身!奥方様もあわせてお守り致します!」
恐ろしいほど話を聞いてくれないナオはキラキラした純粋な目でこちらを見ている。なんだか期待に潰されそうだ。
「それでは私は顔に入れ墨のある死霊術師を逮捕してまいります! ヴァルガス様はごゆるりとお待ちください!」
なぜだという言葉しか思いつかないがそんな俺を無視してナオは颯爽と町に消えていった。
ナオは長女だったため”これが男だったら”と気が狂う程に言われてきました。ジョンの初代使い魔であるおじいさんだけはそんなことを言わずに彼女を彼女として可愛がっていました。この時点でもある程度戦闘力があったナオでしたが、おじいさんはナオを二代目に指名しませんでした。おじいさんだけが理解者だと思っていたナオにはそれは重大な裏切りであり、心を傷つけるには十分な出来事でした。傷心のナオでしたが契約先で父が亡くなり、その後釜として召喚されてしまったことでおじいさんと話すこともできないまま死に別れてしまいました。重要人物の護衛という契約上戻ることができなかったのです。彼女は自分が男であったならきっと二代目に命じられただろうと考える事しかできず、女である自分を憎むことしかできませんでした。
ようやく契約者が寿命を迎えたことで解放されたナオはガージスと話すべく彼の部屋を訪れ、巻き込まれ召喚をかましたのでした。ちなみに彼女が筆頭と言っていますが言い過ぎではなく一族で一番の”戦闘能力と魔法力”を持っているという点では筆頭です。地位に関しては残念ながら三男のガージスが一番です。
次回! ガージスの真価(タイトル未定)
おじいさんの考えも明らかになるよー




