変異体の討伐
(それにしても数が多いな・・・)
森の中で魔人の影響で変異してしまった生き物の駆除をこなしながらその多さに辟易する。本来長生きできないはずの変異体がここまで増えることは本来は無いと言っていい。大体は寝食も忘れて暴れ続け、衰弱死してしまうからだ。稀に半魔人化して周りの魔力を吸収できるようになり永らえるものもいるが、宝くじに当たるよりも少ない確率だ。次々と変異体が現れるこういった時は必ず原因が近くにある。”悪魔の芽”と呼ばれるものだ。これに接触、もしくは接触した生物を捕食すると、接触した時間や摂取した量にもよるが、生き物は自我を失い破壊衝動を満たすために存在するようになる。魔人を信仰し、全ての生き物の廃滅を教義とする危ない連中が作り出した魔人製造機の失敗作である。連中は大昔に打ち滅ぼしたはずだが、生き残りがいたようだ。
「おっと!」
そんなことを考えながら目の前の鹿を倒した瞬間、ブラックハウンドという魔獣が飛び掛かってきた。よだれを垂らしながら目がイッてしまっている。ブラックハウンドはジャイアントドッグよりも強力で頭も良く、魔人の影響を受けにくいはずの魔獣だ。だが、これも変異してしまっている。ということはやはり悪魔の芽が近くにあるらしい。
「探し物ならミチに来てもらった方がよかったな・・・」
しかし残念ながら彼女は慣れない式典でお疲れモードで連れてくるのも気が引ける。人海戦術の為に城のリザに相談してから出直すのも一つの手段だが、悪魔の芽なぞ早めに潰しておいた方が間違いない。夜明けまでまだ猶予はあるが、悪魔の芽を摘むには骨が折れそうだ。とにかくディテクションを駆使しながら数をこなしてさっさと根源を見つけなければならない。
「・・・い」
手伝ってくれる者が居れば手分けして事に当たれるのだがいかんせん部下も伝手も無い名ばかりの魔王である。これほどむなしい称号は無い。まだ勇者ならば一人旅でも一匹狼だとか言いながら誤魔化せるが、”王”なぞ民草あってのものだ、一人で国は造れない。
「おい!!」
「おうっ!?」
突然の呼びかけに振り返ってみると、そこにいたのは現在無職のカリーナ・フォールドウッドだった。ゴミでも見るような目でこちらをみている。
「貴様それでよく生き残れたな・・・」
「あ、いや、まぁ・・・その、油断してたんだよ。どうしたんだこんな夜更けに?」
ちょっとでも殺気があれば気付けたと思うが、カリーナからは微塵もそれを感じない。控えめに言って嫌われていたから何とも新鮮だ。
「その、なんだ・・・いろいろ自由になったからエリザベスの為に手伝ってやろうかと・・」
「おー、そりゃ助かる! 悪魔の芽がどっかにあるみたいなんだけど、いかんせん見当がつかなくて困ってたんだ。」
「悪魔の芽? 魔人信奉者どもの・・・あれか?」
「それそれ。さっきブラックハウンドもやられてたから間違いないはずだ。」
「連中は貴様の手で滅んだはずだろう?」
「どっかで細々とやってたんだろ。もしくは技術を復活させた馬鹿者がいるんだろうなぁ。」
「厄介だな」
「まったくだ。それにしてもよく声をかけてくれた。蛇蝎のごとく嫌われてたと思ってたんだが・・・」
「お前のことは嫌いだ だがまぁ・・馬鹿らしくなっただけだ 仕留めようと磨き上げた一撃であのザマさ 嫌にもなるだろ?」
「なんか、ほんとごめん。」
「もういい 私は結局この程度だったということさ」
「いやー、もっと強くなると思うけどな。他二人はやる気がないみたいだけど、おまえさんは確実に強くなってた。多分強敵がいないのが頭打ちの原因だろうよ。」
「・・・一族の者では力不足といいたいのか?」
「端的に言えばそうなるな。砦の兵たち、しっかりと訓練された良い兵士だ。だが、どう見積もってもお前さんの足元にも及ばない。バラムさんが率いていた頃の半分以下の戦力だ。」
「・・・」
「いくらイメージトレーニングをやっても一回の実戦には到底及ばない。カリーナ、君の実力はもうバラムさんを越えて俺の知る吸血一族の中では一番強い。だが、実戦ではおそらくバラムさんに及ばない。」
「私があの坊主に負けるとでも?」
「あぁ、九割負ける。なぜなら狡さがないから。」
「狡さ・・・だと?」
「そう、狡猾さ。すごくきれいな戦い方しかしてないんだよ。踊ってるように見えるというか・・ね?」
「ね、と言われてもな・・・ 流れの中で動くことで無理なく次の動きにつなぐのだ 隙が減るだろう?」
「うん、それもあるけどその流れを作るのがそもそもの無駄だ。相手のスキを突きたいなら砂でもひっかけてやればいいし、フェイントするのも相手の動きを誘導するためだからそもそも無駄。相手の出だしを挫いてやればその行動自体が隙になる。まぁ、俺はできないけど。」
「・・・」
「ほら、相手が得意な行動をとらせないようにすれば何回やっても負けないだろ? 戦いなんざ自分の得意を相手に押し付けるのが重要なんだよ。カリーナ、お前さんのスピードは大したもんだ。それを生かして相手に何もさせなければ完封だろう。あとは全速力で弱点を突くって戦法もいいだろうさ。」
「・・・卑怯だな」
「卑怯上等!試合ならともかく命の取り合いで卑怯ってのは弱者の言い訳だ。お前さんみたいなかわいい子に死なれたら困る。何と言われようがしっかり生き残ってくれ。」
「お前そんなことを言う奴だったか・・・?」
「体裁を気にしなくなってきたからかな? あと勇者の称号が無くなったらおしゃべりになった。」
「・・昔ほど忌避感が無いのは魔王の称号のせいか? お前が勇者だったころは一緒の空間にいるのも嫌だったからな」
「何言っても”俺反対!”ってなってたもんな。」
「今でこそ冷静に考えられるが、当時はお前の言うことすべてに反対しなければならないと確信していた この前砦でぶつかってからは気持ちが晴れたような・・・不思議な感覚だ」
「魔王補正でもあるのかもな。ノアさ・・・銀狼族の強い人も縄張りに喜んで迎え入れてくれたし。」
「あぁ・・それであの娘っ子を連れているのか」
「よさそうな相手がいたら置いて来いって言われて連れてきたんだけどなー・・・ さっき俺と結婚した。」
「は?」
「そのまんまだよ。俺もびっくりしたがな、嫁が二人できた。」
「あのドラゴンもか?」
「そう、ここまで驚いたのは初めてだな。今回の旅の目標が嫁探しだったんだけど、まさかこんなに早く達成できるとはなー」
「お前・・・力ずくではないだろうな?」
「してないわ! なんならミチには結婚しないなら殺して行けって言われて焦ったくらいだよ・・・」
「・・・夢でも見てたんじゃないか?」
「それなー・・・とりあえず明日はデートの予定だからその時わかるだろ。にしてもさっきからお前さんの方にばっかり変異体が向かってるけどなんか仕掛けがあるのか?」
「そんなものあるわけないだろう! なんでロックベアまで変異しているんだ!」
これも変異に強い魔獣の類で、背中や肘の辺りに石のように発達した皮膚があるのが特徴のツキノワグマくらいの大きさの熊だ。頭の回る賢い種類で個体によっては人間と共存していることもあるほどの温厚な奴だが、目がキマッている。大分暴れていたようで返り血で毛が固まっている。
「やっぱりカリーナ様いい匂いするから・・・もしくは無意識に魅了でもしてるんじゃないか?」
「そんなわけあるか! お前も仕事しろ!!」
「してるだろ? 石投げてるのだって趣味とかじゃないんだ。デカい蛾を撃ち落としてるんだぞ?」
「そんなものまで変異するのか!?」
「おう、こいつらの鱗粉を吸い込むと弱い連中ならそれで変異確定。森一面が汚染地域さ。」
「て、手遅れ・・か・・?」
「いや、ぜんぜん! これで変異するのは魔獣と動物の中間くらいの奴らだ。ただの虫とか動物とかは気にしなくていい、変異するための魔力がないからな。ちっちゃい子供とかがいたらまずいだろうが、こんなところにいないだろ?」
「・・・ついて来い」
「あーっと・・・」
「処置できない疾患がある患者を隔離している病院がある、そこに孤児なんかもいるんだ ・・・すぐ先だ」
「いそごう。」
木々の隙間を縫うように駆け抜けるカリーナは表情に出さないが相当焦っている。俺が焦っても仕方ないので追いかけながら闇属性を付与した小石を弾いて見える変異体を排除しながら追いかける。
「森の中の病院なんて不便なんじゃないか?」
「不便は不便だが、隔離しなきゃならない者や先天性の障害を持つ子供たちも治療している それに親から虐待を受けた子供もな 兵に警備させているから安全なはずだったんだが・・・ こんなことは想定外だ」
落ち着いた声だが魔力の流れがかなりぶれているところを見ると、かなり動揺しているようだ。昔の記憶のせいで冷たい印象が強かったが、リザの件や今回の件でそれが間違いだったことがわかる。そんなことを考えながら進むとあっという間に件の病院にたどり着いた。夜のためか明かりは点いていないが正門のあたりに人影がある。月明かりのシルエットから恐らく兵士だろう。確認しなくてもわかるが手の施しようがない。
「守衛がいるな 話を聞いてくる」
「いや、待・・」
「きゃっ!」
言い終わる前に守衛へたどり着いたカリーナが守衛に襲われ思いのほか可愛い声をあげた。カリーナは危なげなくそれを避けてこちらに戻ってきた。
「グールだ!」
「だから待てって・・言おうとはした。」
建物からは死霊術の残滓がうかがえる。病院を丸ごとやられたようだ。柵の向こう、グラウンドらしき広間にはブラックハウンドと、それに噛み殺されたであろう兵士の残骸が見える。状況から察するに蛾のせいで被害を受けたのではなく、ここを起点に被害が広まったということだろう。
「・・・そんな クソ!」
カリーナは建物に入ろうと駆け出すが、取り押さえる。
「中の確認は俺が引き受けよう。スマンが増援を手配してきてくれ。」
「しかし!」
カリーナはこちらの襟のあたりを握り、すさまじい剣幕で睨みかかってきた。
「ここに思い入れが深いようだし、その・・変異していたらやらなけりゃならない。カリーナ・・お前さんにできるのか?」
「・・・・すまない、頼んだ・・・」
カリーナは俺の言葉に反論しようと何度か口を開こうとしたが、結局諦めて消え入りそうな声でそう言うと城下町に向けて走り出した。
「本格的にドラ子あたりを連れてきたらよかったな・・・」
独り言ち、昔取った杵柄である大奇跡を発動した。そのあと飛び掛かって来たブラックハウンドを処分して建物に入る。玄関にたどり着いたところで中から小さく扉を叩く音が聞こえてきた。
「生存者か!? 今扉を開けるから少し離れていてくれ!」
大声で注意を促すが反応はかわらず、まだ扉をたたき続けている。嫌な予感しかしないが確認するには中を見るしかない。内開きの扉を無理やり外に開いて中を確認すると、カリーナを返しておいて正解だったと確信する。そこには子供の変異体がいた。2,3歳であろうその少女は産まれつきか両足が一つにくっついている、いわゆる人魚症候群。引き摺ってきた足やおなかの辺りがズタボロであった。こうなる前に怖い目にあったのだろうか頬には涙の跡がうっすらと残っている。
変異した生物は元に戻すことはできない。せめて苦しまないよう制御の完璧な闇魔法で確実に葬る。グールとなった大人たちは先程の大奇跡で浄化されて姿を消した。であるからディテクションで感知できる敵の何割かはこういった子供たちが含まれているのだろう。先に見える曲がり角からまた一人子供が顔を覗かせる。その男の子は両腕が無い。焦点の合わない目でニカっと笑うとパタパタと走り寄って来て噛みつこうとする。
「・・・仇を・・討たなきゃならんかなぁ・・」
縁もゆかりもないが、こんな光景を見せられればそう思っても当然だろう。たとえ不便でもここならもっと長く生きられた子供たちを見ながらそんな言葉がこぼれた。リールの町でも死霊術が使われて多くの人間が死んだ。それもここに残っている死霊術の残滓と似通った魔力痕がある。それを考えればリールの件とここの件に同じ人物が関わり、悪魔の芽のことからもその死霊術師が魔人信奉者と関係があることは疑いようがない。放置したならこれからもこういった被害者が出てしまう。しかし、先程できたばかりの嫁二人とイチャイチャ新婚旅行を楽しむことは同じくらい重要だ。以前他人のために血を流しながら旅をして結局裏切られたことを思い出せば仕方ない、はずだ。決めることができないまま虱潰しに進むと、ようやく地下の物置部屋でそれを発見する。ダチョウの卵ほどの大きさで心臓の様な形のそれは蜘蛛の糸のようなもので部屋の中央に固定されていた。破壊しようと周りに結界を張ろうとした瞬間背後から殺気を感じて念のために飛びのく。
「それを壊されちゃあ困るんだよ」
そう言いながら現れたのは首つり蜘蛛という名前の魔物だ。その名の通り糸で人間の首を吊るしてもがき苦しむ姿を楽しむ頭のおかしい蜘蛛だ。殺した人間の頭を自らの頭に張り付けて言葉を話すことができる。今も前足で糸を巻いて何やら細工をしながら表情のない女の顔がしゃべっている。
「あぁ、助かったよ。ちょっと事情を知りたかったんだが・・ 生きてる相手がいなくてね。」
俺の言葉を聞くと蜘蛛はげらげらと笑いながら言った。
「何を勘違」
何となく手持ち無沙汰だったため蜘蛛が言い終わる前に闇属性魔法で体を半分消し飛ばしてみた。何が起きたかわからないようで、蜘蛛はただもがいている。
「知ってることを話せ。あぁ、それとあまり暴れるな。服が汚れる。」
聞こえていると思うが蜘蛛は叫ぶばかりでうるさい。とりあえず残っている足を一本むしり取り、蜘蛛の口の方へ詰めて言い聞かせる。
「もう一度だけ言おう、知っていることを話せ。」
「お、俺は何」
できるだけ我慢して情報を聞き出そうと思ったのだが、何も知らないそうなので快楽殺人蜘蛛には早々にご退場いただく。あまり苦しまなかったのだから優しくした方だ。
とりあえず周囲を守るように結界を張り、光属性の魔法で悪魔の芽を完全に破壊する。本当はこの敷地ごと焼いた方が良い気もするが、偉い人にお伺いを立ててからの方が間違いないので一旦は放置だ。まだカリーナが戻らないので時間つぶしに建物をあらかた見回ったが、いっこうに生存者は見つからない。念のためディテクションの範囲を広げてあたりを再確認するが、建物内には特に反応が見つからなかった。だが、少し離れた森の方に三つほどの弱弱しい反応が見つかった。慌ててそちらに向かう。なんで急ぐかというと三つの反応に向けて高速で接近する別の反応が現れたからだ。目視できる距離まで近づくと、高速移動していたものの正体はテーパースネークであった。牛も丸呑みできるほど頭が大きく、不格好な蛇だ。それが女性と子供二人めがけて飛び掛かるところだった。昼行性のこの蛇が今時間活動しているということはこれも変異体ということだ。絶滅危惧種の蛇だが変異してしまっているし、人命には代えられない。蛇を一殴りして頭を潰し、魔法で残った体を消滅させる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
怯えた様子だが、こちらの問いかけに子供二人を抱えた女性が礼を言った。子供はぐったりしているが二人とも外傷はなく、気絶しているだけのようだ。念のため関係者か聞いてみる。
「施設の方ですか?」
「はい・・ 一昨日から逃げまわっていました み、みんなは・・・」
二十歳そこそこだと思われるお姉さんは一昨日から逃げ回っているらしい。これぞ普通といった見た目の女性は腰を抜かしたのかへたり込んで動けないでいる。そのお姉さんの問いかけにかぶりを振って答える。
「残念ですが・・・ 今増援が来ますのでもう少し辛抱してください。それまで何があったか教えて下さいますか?」
少し落ち着いて恐怖を思い出したのかお姉さんは小刻みに震え、時々歯を鳴らしながらぽつりぽつりと語り出した。
「その日はカリーナ様から配給とは別の食べ物が届きまして・・ お昼に施設のみんなでそれを頂いていました そうしたら外から叫び声がして・・・」
平時も魔獣やら魔物やらが来ていたが、普段なら兵士が何とかしてくれていたようだ。だが、その日は違ったらしい。悲鳴と大きな音で異常を察知した看護師長が避難を指示、スタッフ総出で避難誘導したらしい。しかし、糸で吊られて死んでゆく大人たちを見て子供たちがパニックを起こし、避難がうまくいかなかったそうだ。兵士たちは逃げずに時間を稼いでいたがあえなく戦死、死霊術でグールになってあたりの人間を襲い始めたそうだ。このお姉さんは仲の良かった子供二人を抱えて逃げ回り、拙い防御と隠蔽魔法で隠れていたということだ。
お姉さんは知らなかったが、悪魔の芽による影響を抑えるには魔法での防御が効果的だ。大人に悪魔の芽の影響が出にくいのは、体を覆うように魔力が留まるからだ。その魔力が安定しておらず、体の中心の魔力に簡単に影響がでてしまう子供が変異していないのはお姉さんのおかげだ。
「どうして町に逃げ込まなかったんですか?」
「町に行きたかったのですが・・ 周囲を囲むように魔物が陣取っていて逃げられなかったんです」
たくさんの変異体がいたのは紛れもない事実だし、お姉さんは多少魔法が使えるようだが戦闘能力は低い。逃げ回っていたことを裏付けるように三人は薄汚れて憔悴している。連中の仲間であるとは言い難い。
「とりあえず施設は制圧してありますのであちらに戻りましょう。」
俺の言葉にお姉さんは不安そうな顔を浮かべて子供たちを見た。恐らく惨状を思い出しているのだろう。
「施設にご遺体はありません。アンデッドは浄化により消滅しました。」
憔悴した彼女に変異した子供たちの最期は言わない方が賢明だろう。
「そう・・ですか・・・」
「子供たちは私が抱えていきましょう。」
「いいえ、私が・・・」
言いながら立ち上がろうとしたお姉さんだったが、膝に力が入らなかったようでがくんと前のめりになった。支えてやるとなんとか立ち上がったが、どう見ても子供二人を抱えて歩けるようには見えない。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はジョンと言います。」
「あ、助けて頂いたのに無礼を・・・私はパメラです」
ゼンマイ仕掛けのおもちゃの様にぎこちない握手を交わしたあと子供二人を小脇に抱える。
「ちょっとくるしいかもしれしれませんがここで横になっているよりはベッドに連れて行った方が良いでしょう。あとはパメラさんが背中に乗ってくれればあっという間です。乗れますか?」
パメラは冗談だと思ったのか愛想笑いを浮かべた。しかし、俺がにっこり微笑んで本気であることを伝えると、意を決したように背中にくっついた。念のためロープを取り出して括りつけてからできるだけ急加速をしないように走り出す。加減速をゆったりやってもやはり俺が走るとあっという間だった。結局パメラはギブアップをせずにその我慢強さを見せてくれた。
と思ったら既に気絶しており、ロープが無ければ落っことしてしまったであろう体勢で固まっていた。
「備えあれば憂いなしってのはよくいったものだな。」
一般人にはあまりやらないようにしようと反省しながらとりあえず二階にある子供部屋らしき場所へ連れて行き、ベッドに寝かしつけてやった。
「ふむ、あまり上手くはいかなかったな」
暗い部屋、質素なテーブルに置かれたろうそくの明かりの中でフードを目深に被った男はそう独り言ちた。テーブルには水晶の玉が置かれていたが、悪魔の芽の破壊と同時に砕け散った。
「やはり直接市街地を強襲した方が早いのでは?」
十字の剃りこみを入れた坊主の男がフードの男の言葉を引き受ける。
「それでは実験ができんだろう? 我々の同胞はあまりに少ない・・・ あの程度の魔物はいくらでも集まるが効率よく確実に人間の数を減らすには実験が欠かせん」
「あら、二人とも何してるの?」
二人の男の会話に突然露出度の高い無駄にキラキラした女が割り込んできた。少し酔っている女はワインを飲みながらテーブルに腰掛けてフードの男に声をかける。
「あぁ、あの失敗作が壊されたの あんなものいくらあっても何の足しにもならないって言ったでしょ?」
「ディアナか、あれは必要なのだ もう少し、もう少しで完成するのだが何かが足らん」
「道具になんか頼るから悪いのよ! 私のように己を鍛えなさい!」
「貴様!ヴァルキス様に無礼だぞ!!」
「よいのだガリウスよ 彼女は我が友だ」
「そういうことー」
「し、しかし!」
「私は貴方の部下じゃないし何ならヴァルキスとも主従って訳じゃないのよ?」
ディアナが苛立ちを見せるとガリウスは首を抑えてもがきだした。次第に地面から足が離れていく。
「あまりからかってやるな 彼は私に従順なだけなのだ」
「ふーん・・・ ここはヴァルキスに免じて引き下がるけど、次は無いからね?」
そう言うとディアナは手を振り、男は壁に叩きつけられた。
後枠で久しぶりの登場ディアナさん。初回登場は森にて4あたりです。忘れられし彼女は後できっと出てきます。きっと・・・!
ちなみにパメラさんが抱えてた子供二人は兄妹で、ティンとナリーです。二人とも虐待が原因で話せません。それでも気にかけていたパメラさんに懐いていて言う事は聞いてくれます。背中やお腹に傷跡ややけどの跡がありますが顔には一切ありません。そのせいで摘発まで長くかかり、子供二人は心を病んでしまいました。
(怒られるのは自分が悪い、もっと良い子になればきっと優しくしてくれる)
だいたいこんな感じで考えていましたが完全に親の八つ当たりだったのでそんなことはあり得ませんでした。ちなみに親は逮捕された後も悪態をついていましたが保釈後に周囲の目に耐えられず自殺しています。アルジェシュでは子供を保護することが法律で担保されており、それに違反した親は子と引き離されて子供をつくる権利を失います。また、養子制度もありますが面談や資産の調査、覆面での調査が徹底的に行われて合格した者しか養子を貰えません。吸血一族であろうが人間であろうがそれは変わらずに子供の権利を守ります。託児所なんかも国民であれば無料で利用でき、フード支援もあります。補助金こそありませんが、出産祝いとしてベビー用品の支給や商店の割引券が発行されます。
以上無駄な設定話でした。




