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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
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世間話

「お疲れさん。何か気になることでもあったのか?」


「・・・」


屋根の上で直立のまま警戒をするゴーレムに話しかける。しかし、こちらを向いて会釈をしたものの特に言葉は無い。簡単な会話をできるように調整したはずだったのだが、どうにも予想外だ。精霊王のおかげで見た目が完全に人間なため設定を開くのも心苦しい。だが暴走なんぞしたものでは相当な死傷者がでてしまうほどの力を持ったゴーレムだ。どうしようか迷っていると口をパクパクさせて何か話そうとしている。


「どうした、声が出ないか?」


「お・・」

「お?」


「お父様・・・」


「ちげぇ! いや、違わないか? あーっと・・どうしたんだ?」


想定外の言葉に取り乱したが真面目な顔のゴーレムを茶化す気にもなれず流すことにした。無表情なはずのゴーレムは戸惑っているように言葉を選んで話し始めた。


「精霊王様が私を作り変えました お父様の望んだ機能以上の事ができることに戸惑っています」


「それは俺もびっくりしたが・・・ まぁ、できることが多いのは素晴らしいことだ。というか思った以上に自然に会話出来て良かったじゃないか。」


「はい、お話ができるのは助かりました 道具の場所を聞くのも手間取らず速やかに作業ができました」


「良い事じゃないか。なんでそんなに不安そうなんだ?」


「不安・・というのは理解できませんが・・・コルビー様を見ると・・なんと表現していいか・・この辺りに理解できない反応が・・・」


そう言うとゴーレムは胸の辺りをさすった。


「ウルダちゃんを見るとどうなんだ?」


「守らねばならないと理解しました」


「コルビーは?」


「守らなければと・・同時に・・この辺りが締め付けられるような・・・」


またゴーレムは胸の辺りをさする。何というか血なんか流れていないはずなのに顔が紅潮して見えるような気もする。精霊王は厄介な機能を付けたものだ。


「うん、コルビーはお前さんになんて名前を付けたんだ?」


「ラウラです」


「よし、ラウラ。君が感じている・・・それが母性だ。」


「母性・・・?」


「あぁ、そうだ。母性っていうのはな、子を守ろうとする母の愛ってやつだ。きっとコルビーを守るのに最適だと精霊王が植え付けたんだろう。母の愛は海より深いってどっかの誰かが言ってた気がする。」


「・・・母性!」


我ながら苦しいような気もするがうまく刷り込みができたようだ。感情を持ったゴーレムなど聞いた事が無い。どういうつもりだったか精霊王に聞いてみたいが奴さんはコルビーに憑りついてお休み中だ。話そうとしたら必ずコルビーも一緒に居ることになる。それは気まずい。


「まぁ、コルビーのお母さんは健在だからあんまりアピールしたらフェタさんに失礼だからな? 陰で支える賢母を目指してくれ。くれぐれも二人を頼むぞ。」


「わかりましたお父様」


「ラウラ、まだ嫁もいないからお父様ってのをやめてくれないか?」


「なんと呼んだら・・・」


「ヴァルガスでもジョンでも呼びやすい方でよんでくれ。様はつけるなよ?」


「ジョン ヴァルガス ヴァルガス!」


「それでいい。あ、そうだ唐揚げうまかったよ、料理もできるんだな。」


「それも精霊王様の与えてくれた知識です 森をさまよっていた頃には想定できない結果です」


「・・・そのころの記憶があるのか?」


「二千年ほどあの場所を守っていました ヴァルガスに撃破されていなければまだあの場所で彷徨っていたでしょう 存在する意味を与えてくれて感謝します」


「ごめん。」


「いいえ、こうして排除する以外で他者と関われるのはあなたのおかげです」


「そう言って貰えると助かるよ。とにかく調整は必要ないみたいだな。優先は設定どおりコルビー一家の命が第一、第二はお前さんとその他大勢って順位で頼むぞ。自己犠牲は最終手段。お前さんが死んだらコルビーも死ぬと思っておけ。」


「承知しました ヴァルガスとミチ様は?」


「ラウラに守られるほどやわじゃないさ。俺のことはサポート対象から外してくれ。あと、ミチにも様は不要だ。」


「では、優先を最低にしておきます」


「そういや武器は買ってもらったか?」


ラウラは外套をめくり装備を見せる。小太刀が三本づつ皮の鞘で両方の腰へ装備されていた。あれならば不意に外れることも少なく強く引くことでさっと取り出しが可能だ。多対一での戦闘を考慮した結果だろう。一般的な武器ではいくら魔力付与で刃を守っても完全にダメージを抑えることはできずに刃こぼれしてしまうからだ。さらに脇のあたりに棒手裏剣が見え隠れしている。これも皮の帯に固定されており両の肩からぶら下げられていた。黒い服も相まって暗殺者のような見た目に仕上がっている。


「並みの相手なら困りません」


「みたいだな。良く似合ってる。コルビーには少し余分に金を渡すから武器の調達に使ってくれ。」


「承知しました ・・・一緒に行ってはくれないのですか?」


「ん? あぁ、精霊王とお前さんがいれば問題ないだろ? 俺はミチとドラ子で旅行に行く。家から出たのもそれが目的だったしな。」


「そう・・ですか」


「割とすぐに会うと思うぞ? きっとコルビーは有名になるから、近くにいればわかるだろうからな。」


なんとなく悲しそうだったため頭をワシワシと撫でてやると無表情だがラウラはうなずいた。


「そうだラウラ、こいつをやろう。」


収納魔法からアリアが鍛えた神器と伝えられる愛刀を取り出す。以前クレインから返してもらったのだが、めっきり出番が無くなっていた。必要ないといえばウソになるが、ただ殴った方が強くなってしまった。手元で腐らせておくよりは使いこなすことができるだろうラウラに持ってもらった方がこいつにも良い。


「これは・・・?」


「お祝い! 独り立ちする子には親がなにかしら贈るだろ? まぁ育てたこともないし精霊王の方が影響大きい気がするけどな。それでも父親顔するために贈り物だけするわ。アリアが鍛えたらしい由緒正しい刀だ。」


「大切にします これに恥じない働きをしましょう!」


「よろしく頼む。そうだ、この国にいる間は夜の見張りは必要ない。吸血一族は夜目が利くし練度も高い。お前さんの実力なら連中が騒ぎだしてから対処しても間に合うだろ。」


「しかし・・私は寝る必要がありません」


「じつは俺もだ。魔王になってから寝なくても食べなくてもいい体になった。でもな、食事や睡眠をとることで何となく人間でいられる気がするんだ。だからお前もやってみるといい。食事はできないかもしれないけど寝ることはできるだろ?」


「・・・承知・・しました」


ラウラは戸惑っているようだが頷いた。戸惑うということは感情があるということだろう。起動までの一瞬でこれだけ複雑な情報を書き込んだ精霊王には参ってしまう。コツコツと改造していた自分がなんだか哀れになってきた。


「それじゃ早速ベッドに行ってみよう! 二階の角部屋が空いていたはずだからそこを使うと良い。」


「承知しました、それではおやすみなさい」


ラウラの背を見送り、せっかくだからと城下町の夜景を見る。しかし、お行儀が良いのか明かりのついている店など特に無く寂しいものだった。宿も無いような所に歓楽街がある方がおかしいといえばそれまでだ。飲食店もあまり深い時間まで営業していないせいで城の一部が暗闇に浮かび上がる程度だ。


「寝るか。」


そう思って部屋へ戻ろうとした瞬間、遠くの空がまばゆく光った。町全体が昼間のように明るく染まり異常事態を知らせる。


「ヴァルガス!一体何が!?」


部屋に向かったはずのラウラが血相を変えて戻ってきた。見える範囲の家々も明かりが灯り、状況を確認するため家人が次々と外へ出てくる。雷の極大魔法が使われたと説明しようと口を開いた瞬間、今度はそれよりも強い魔力反応が辺りを包む。かなり遅れて爆音と小さな地震が家を揺らす。


「こりゃー・・・ ドラ子だなー。」


「ドラ子様が・・・?」


「あいつにも様は必要ない。そもそも本名はアリスだしな。雷魔法を撃った奴がいたけどそれをドラ子が始末したみたいだな。方角から見てたぶん風呑龍でも襲ったんじゃないか? 夕飯の時に居なかったから小腹でも空いてやったんだろ。」


「・・・小腹が空いた程度で風呑龍を?」


「ああ見えて強いんだよあいつ、そこらの奴じゃ小指で殺されるレベル。ま、ほぼ怒らないから気にしなくても良いさ。」


体力が万全なら欠損も自動的に回復できる一般人にとっては厄介な奴だ。ミチに二発で瀕死にされていたが本来ならば国を治めてもいいくらいの実力の持ち主だ。龍が収める国家というのは前例もある。ラスティグル・ドーツという古龍は二つの国を滅ぼして統一国家を作り出し、周囲の国から天災と呼ばれて恐れられていた。本人は”成人の儀式みたいなものだ”と笑って話していたが、はた迷惑なことだ。俺が塔に引きこもる前に会った際には山奥に隠居して料理にいそしんでいた愉快な奴だ。


「もう大丈夫だろ! ビックリしたろうけど休んで大丈夫だ。」


「・・・本当に」

「大丈夫だって! あれ以降魔法の発動は無いみたいだし50km先くらいになんか抱えたドラ子が来てるし・・・あ、みんな起きちゃったみたいだな。」


庭にコルビー一家と、近くに下宿しているはずのアビゲイルまでそろっていた。何かあったら頼れと伝えていたから異常を感じて駆け込んできたのだろう。


「ラウラ、みんなにもう大丈夫だと伝えてきてくれ。お茶でもふるまうといい。」


「ヴァルガスは?」


「あのまま持ってこられても困るから撃ち落としてくる。」


「承知しました」


ラウラに説明を任せ、屋根の上を飛び越えてドラ子めがけて突撃する。探知魔法がある程度の動向を教えてくれるためそれにめがけて進むだけだ。10Kmくらいまで接近するとドラ子も気付いたようで減速し始めた。とりあえずみんなの睡眠を妨害したバツとして拳骨を食らわせよう。宙に魔法で氷の塊を作り、踏み砕くことで空へ駆ける。しっかり砕くことで周囲への被害を抑えることがコツだ。これを始めるとドラ子が何かを察したようで風呑龍を落として身を翻す。慌てたのか巨体であることを忘れて急旋回し、バランスを崩して手足をばたばたさせている。それを追い抜いて頭へ回り込み、拳を握る。


「な、な、な、なっ!!!??」

「ダメでしょ!!」


涙目のドラ子がかわいそうになったためあまり痛くないように手加減をしっかり行い一番固い角と角の間へ拳骨を食らわせる。割と痛かったのかドラ子は体をぴんぴんに伸ばして墜落していった。


「あ、すまん・・・ ちょっと強かったか?」


呼びかけに答えることができないままドラ子が墜落していく。どんな仕組み化わからないが低燃費モードの人型になってしまった。さすがのドラ子も人型でこの高さから落ちれば怪我をしてしまうかもしれないため追いかけて回収する。抱えたところで意識が戻り、一瞬パニックになり無理やり抱っこした猫のように暴れた。が、締め上げるとぐったりと落ち着きを取り戻した。


「うぅ・・・妾になんの恨みが・・・」


「ごめん、ちょっと強くたたきすぎた。お前の戦闘の余波で城の人たちみんな起きちゃってさ! あんまり遅い時間に大立ち回りしないように指導の意味を込めて・・・な?」

「な? じゃないわこの馬鹿たれ!!あんな勢いで殴られたら死ぬところじゃぞ!?」


「悪かったって! もうしないし、明日はゆっくり寝てていいから機嫌直せって。」


「・・・うまいスイーツが食いたいのぅ」


「わかったわかった。渡してある金は好きに使っていいから。」


強くたたきすぎたわびにドラ子の要求を素直に認める。しかし、ドラ子はぶすくれた表情を浮かべてじっとりとした目でこちらを見た。


「・・本当にあれだの、誠意ってものが感じられん ここは一緒に見繕って機嫌をとるものじゃろ?」


ドラ子があきれたように肩を落とす。確かにやりすぎたのは否めないし、小遣いをやるから行ってこいというのも不躾な話だ。


「わかった、すぐは無理だが今度店に行ってみよう。それと、そろそろ地面だから口閉じてないと舌噛むぞ。」

「nぐっっ!」


注意が遅かったようで口から血を流し抗議の目を向けてくる。目を逸らし、回復魔法で治療しながら言葉を選んでいるとドラ子が恨みがましく口を開いた。


「・・・新しい服」

「買います、買わせてください。」


言い訳を必死に考えたがどう頑張っても自分が悪く、これに関しては弁明の余地がないため食い気味に了承した。リディアの解放と返還式典が終われば喫緊の用事も特にない。ミチも連れてぼんやりと町を散策するのもいいだろう。


「あぁ、風呑龍を忘れてくれるなよ?」


思い出したようにドラ子が重ねた。うまくも無いだろうにどうして持って帰るか訳がわからず理由を聞く。


「持って帰ってどうるすんだ? うまいもんでもないだろ?」

 

「うむ、彼奴の血は万病に効く霊薬の素になるのじゃ 吸血一族にくれてやればきっと礼の一つも寄越すじゃろ?」


「ほんとなのか?」


「流行り病から持病までどんとござれ! あら不思議の万能薬じゃ」


「じゃあリザ・・エリザベスの老化にも効くのか?」


「吸血一族のババアか? あんなものお主が血でも飲ませてやれば一発じゃ だがのぅ、本人に気力がなけりゃ話にならん! 見たところ疲れ切っておるようじゃから今のままではだめじゃろうなぁ」


「へー・・・ 物知りだな。最初からドラ子に聞いておけばよかったよ。」


「この識龍を馬鹿にしておらんか?」


「・・いや、頼りにしてるよ? 専門分野が違うかと思っただけだって。」


「ふん、それならいいが・・・」


正直ポンコツな面しか見ていないため少し馬鹿にしていた。今後はとりあえず彼女に聞いてから他を当たることにしよう。余計な怒りを買う前に風呑龍を収納魔法に押し込んでさっさと帰る。自分で飛ぶ気が無いのかドラ子は人型のまま抱っこをせがんできた。でかいまま城に入ると余計なトラブルをおこしそうなので抱え上げて走り出す。


「そういやぁ、ラウラがコルビーに恋しちゃってるっぽいけどなんか知ってるか?」


「・・恋?」


「さっきまで話してたんだけどコルビーを見ると胸のあたりが苦しいって言っててさ。コルビーはもう結婚してるし、ラウラがいくらかわいいといってもゴーレムだから二人目とかにも難しいだろ?」


真っ黒だった空は少し色を得て、星が姿を隠し始めた。その中をぴょんぴょん飛び跳ねながらドラ子へ尋ねると、彼女は一つため息をついてから答えた。


「あれは恋などでは無い、憎悪じゃ なんでまた恋だと思ったのじゃ?」


予想外の答えに言葉を失う。あんなにしんみりとした顔で頬を赤らめていたからてっきりそうだと考えていた。答えに詰まっているとドラ子が続けた。


「胸が苦しいと女子(おなご)が言うもんじゃから勝手に恋だと考えたのかの? ところがどっこい主人を勇者に殺され永年縛られ続けた哀れなゴーレムよ あの精霊王が感情なぞ埋め込みよったから記憶と感情がごちゃ混ぜになって理解を越えただけじゃ そのうちお主の”守れ”という命令と創造主を殺された”記憶”によって良からぬことが起きるかもしれんなぁ・・・」


「・・コルビーはまだ勇者じゃない! それにラウラと知り合って間もないだろ? だったら」

「魂についてはお主も詳しいと思ったが・・・ 説明が必要か?」


この世界の魂は廻っている。破壊されない限りは記憶を失い、また新しい命としてこの世に産まれる。壊された魂も魔力に戻って命に取り込まれ、新しい輪廻を送る。


「コルビーがその勇者の転生体だってことか?」


「ご明察、お主も感じておるじゃろぅ? コルビーがいつか大成するとな それは勇者としての経験と魔王の称号の二つが見せる未来じゃ 寝首を掻かれんように気を付けねばのぅ!」


「コルビーがそんな卑怯なことするわけないだろ・・・」


「お主にも経験があるじゃろう? 人間以外に対する抑えようのない怒りや憎しみ・・・ もし彼に”勇者の呪い”が発動しようものなら抑えられんじゃろうな」


「・・・ドラ子にその話したっけ?」


「忘れたか? 妾は”神に連なりし者” 識龍は先祖代々管理者アリアの元で記憶を重ねてゆくのじゃ 識龍の知識は・・・いわゆるデータベースでの、お主の魔法にも影響しておる ”アナライズ”なんかは特に関係深いのぅ」


「不具合が起きて使わないでほしいって言われたあれか? 昔はよく世話になったもんだ。」


「うむ、龍種の記憶は一部つながっておるのは以前も話したな あれで知識を共有することで代々の識龍は知識を教育以外でも伝達し、アリア様の手伝いをしておるのじゃ」


得意げなドラ子は鼻をならした。


「お前が知りたがりなのもアリアが原因か?」


「それもあるが、誤解はせんで欲しいのぅ アリア様は自由主義じゃから押さえつけたりなどせぬ 興が乗ればとことん調べるが、そこまでがっつかないのもひとえにそれのおかげじゃ」


「滅ぼさなければ世界征服も問題ないとか言ってたな、やる気はないけど。」


「もしやるなら妾も頼ってよいからの 知恵ある魔物、魔獣にとってはこの世は過ごしにくい 獣人なんかも人の部類でこそあれ奴隷として扱われておる・・・」


「たまに真面目になるんだな。食っちゃ寝してるだけだと思っいだいっ!」


ドラ子が顎に頭突きをかましてきた。茶化してしまったがこの慣習は大昔から変わっていない。体の頑丈な獣人族は迫害されている。奴隷や実験などに使われる酷い境遇の種族だ。他にも魔獣や魔物も言葉を理解し思考する高度な連中もいる。種族分けを間違えたまま押し通してきた歪さと、人族至上主義が今の世界を形作っているのだ。


「お主も考えたことがあるじゃろう、娼館に並ぶ獣人族の娘とそこらを歩く町娘の何が違う? 戦奴として命を散らした者たちと、それを肴に酒を飲みながら様子を見るような連中の命の重さを!」


普段の抜けた態度からかけ離れた真面目な顔でドラ子が顔を寄せる。


「真面目な顔もできることはわかったけど内容が重い! 俺一人になんとかできる内容じゃないし、俺はもうああいうことには手を出さないの! 命を懸けた戦いの後に待ってたのは裏切りと逃亡の日々。虐殺をやめさせるために殺し続けて結局得たのは無慈悲の二つ名。その国ももう滅びかけてる!」


殺しに慣れすぎて少年兵部隊を皆殺しにした時、感情が爆発して気が付くとあの塔にたどり着いていた。何日も風呂にも入らず彷徨っていた俺をノアがすんなり、というか盛大に受け入れてくれた理由は聞いていないからわからない。だが、あの瞬間俺が救われたのは間違いない。


「すまん!悪気はなかったのじゃ!! 泣くほど取り乱すとは思わなんだ・・・」


「あ?泣いてねーし!ちょっと目から汗が出ただけだし!この話は終わり!!」


無茶苦茶なことを言っている自覚はあるがどうにもこの手の話は嫌いになった。奇跡の偶然が重なってやっとのことで創命の魔王を倒せた時、最後に名前を奪われたのは話に聞き入っていたからではない。動けなかった自分を隠すため話に乗るしかなかったのだ。あの魔王が本当にやろうとしていたことは世界征服などではない。人類からの独立、全ての虐げられた種族を巻き込んで土地を奪い、その者達の国を造ろうとしていたのだ。本人と対峙して命を懸けて戦うことでそれが本心と確信した。だが、それを引き継ぐなど自分では到底できないし、やるべきではないとも思っている。


「機嫌を直せ あまりめそめそするでない!」


「だから泣いてねぇし!!投げるぞ!?」


「投げられたらたまらんからのぅ、少し黙るか じゃがの、頼れというのは本心じゃ お主の事を思っておるのはミチだけじゃないからの?」


「お、おう ・・・ありがとうな。」


トラウマを思い出す原因となった張本人が良い感じにまとめに入った。今更掘り返して追及する気も無いが少し腑に落ちない。そう思っているとドラ子が肩に腕を回して密着してきた。思いのほか色っぽく普段とは違う顔にドギマギした。『顔は可愛いでしょ?』というアリアの言葉が思い出された。


ちょっとホラーな風呑龍の亡骸は城の中庭に置かれました。発見した警備兵が絶叫したのはまた別のお話。

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