ミチとの合流
「大丈夫か?」
木の影で頭を抱えてうずくまり、カタカタと震える女性に声をかける。さっき知り合ったばかりで名前しか知らないが怯えていることは察するにあまりある状況だった。
「・・私、生きて・・ますか・・?」
綺麗な顔をひきつらせながら一点を見つめてアビゲイルは話した。なるべく優しく笑いかけて緊張をほぐすように話しかける。
「もちろんだ。まだ死なないって言ったろ?」
だが、戦闘がいつまで停止しているかわからない状況にあって安心できない。出来る限り早くこの場から離れた方がいいだろう。その前に彼女が軍に戻りたいかの確認をしなければならない。
「ところでアビゲイル・・君は軍に戻りたいか?」
こちらの言葉にまだ震えながらもアビゲイルは考えをめぐらせているようだった。少し間があったが、ゆっくり答え始めた。
「あの国に・・戻りたいとは、思わない・・です・・家族、はいないし・・・暮らしにくいから・・・」
都合の良いことに帝国へは帰りたくないようだ。魔力やられにより滑舌が悪いがなんとか聞き取れる。
「よし!じゃあこれから吸血一族の国に向かうけど、ついてくるか? 良いところらしいぞ。」
もたもたしていては進むものも進まないため多少強引だがすかさず同行の提案を入れる。アリアの話ではアーテヴァーが戦争を手引きしていた様だが、始まった戦争が簡単に終わる訳が無い。せっかく助けたのだから例え自分が振られる事になっても元気に暮らして欲しい。そのためには情勢の安定した国の方が都合がいいだろう。
「・・・はい・・」
アビゲイルはとても悲しそうな顔をしてから了承した。言質をとってしまえばこちらのものと彼女を抱えて走り出す。最初はお姫様抱っこと移動速度に驚いていた彼女だが、戦場から離れるにつれて慣れてきたようで身の上話を始めた。
「小さい頃に飢饉が起きて、女の子がよく捨てられたそうで・・私もその中の一人だったわけです 中には娼館に売られた子もいたらしいんでましな方だったんですけどね・・・」
「大変だったんだな、でもなんで軍なんかにいたんだ?」
「孤児院は火の車で勉強なんてできなかったんです 学の無い女にできる仕事なんて娼婦か兵士くらいしかなかったんです」
「使用人とかそういうのはなかったのか?」
「誰でもできる仕事なんて真っ先に無くなりますよ・・・ 私だってツテがあれば兵士よりパン屋になりたかったんです!」
確かに好き好んで命を掛ける奴なんて稀だ。
「しかも軍隊に入ったら入ったで"女は服を脱いでケツを振っていろ"なんて頭のおかしい連中ばっかり!!ようやくまともな班に入れたらこんな目に!」
いろいろと話しているうちに腹のたつことも思い出したようだ。徐々にヒートアップしはじめた。あまり熱が入って暴れては落としてしまうかもしれないので、少しなだめる。
「まぁ、そのうちにいいことがまとめて来てくれるさ。」
「そんなもん・・ですかね?」
少し不安げに上目遣いでこちらを見る。美女とこんな距離で話しをした事がないため対応に苦慮する。何とか平静を心がけて紳士的に話す。
「きっとそうさ。悪いことばかり見てると良いことがあっても見逃すぞ? 知り合いがな、毎日最低一個良かったことを見つけるって言っていた。最初何言ってんだこいつと思ってたが、美味しいものを食べたとか、星が綺麗だったとかなんでもいいんだとさ。"大きい幸せだけしか見ないと平凡な毎日で押し潰される"んだとかなんとか。」
「・・素敵な人ですね 会ってみたいです」
「すまん。もうこの世にいない。だいぶ昔の話だからなー」
アビゲイルは申し訳なさそうな表情を浮かべて黙ってしまった。平凡が最高だと言い張っていた旧友なのだが、どこぞの王子の求婚を断ったとかで無惨に死んでしまったらしい。墓参りをしようにも墓が国ごと無くなってしまったからそれもできない。
「歳をとってくれば出会いも別れもあるからそんな顔しなくて大丈夫だって!」
少し変な感じになってしまったが、話している間にだいぶ緊張がほぐれてきた様で眠そうにしている。それでもな何かを思い出しハッとした様な顔で口を開いた。
「すみません!助けてもらったのにお礼を言ってませんでした!」
「そうだっけ?まぁ、だいぶ無茶な事したから気にしなくて良いよ。」
「あれは・・その・・死ぬほど痛かったです・・・はい・・」
「本当にごめんな?あの時も言ったけどあれ以外方法を思いつかなくてね。君が決断してくれて助かったよ。服はあとで用意するからもう少し我慢できるか?」
アビゲイルは血濡れのズボンを見ながら右手で腰のあたりをさすった。愛想笑いを浮かべたと思ったらアビゲイルが急に赤面しだした。
「どうしたんだ?」
「・・・・見てないです・・よね?」
「・・何を?」
「・・・・・裸・・」
「・・・・・・・・・見ました・・」
下手に嘘をついても顔に出てしまうのでさっさと白状してしまう。というかあの状況で見るなという方が難しい。アビゲイルは怒った様な笑った様な困った様な顔をした後、顔を真っ赤にして黙ってしまった。言い訳も考えたが、今更だと男らしくないので落とさない様に注意しながら直進した。
「あ、ミチだ。」
ミチ達がキャリッジを木々に隠して警戒を続けている。だいぶ時間が経ったのだが、出発せずに待っていた様だ。こちらに気付いて手を振っている。
「お館様!お帰り···なさい··ませ? ・・・それは?」
「ただいまミチ、彼女はアビゲイル。なんか・・えーと・・・連れてきた。」
なんと説明して良いかわからず言葉を濁した。明らかに警戒する様にミチがスンスンと鼻をならす。そうしているミチの後ろからドラ子やロック一家がキャリッジから出てきた。
「おかえりなさいジョンさん!そちらの方は?」
「ただいまコルビー、彼女はアビゲイル。だいぶ疲れているだろうからちょっと休ませてあげてくれ。戦場から遠いから問題ないと思うけど、脱走兵が来たら面倒だ。とりあえず移動しよう。はい、アビゲイルご挨拶!」
「は、はい!みなさんよろしくお願いします!」
各々疑問はある様だが挨拶を交わして受け入れた。ミチだけはまだ鼻をならして不快な顔をしている。
「どうしたんだミチ?」
「精霊の匂いがします・・しかも攻撃した時の匂いです!」
「すごいな・・だいたい合ってる。けどこの娘は巻き込まれただけで関係ないからそんな顔しない。」
犬っぽい動作のミチの頭をぽんぽんとなでてキャリッジの中へ促す。ドラ子に運んでもらえば吸血一族の国へラクラク入国だ。
「そういえばレイコさんは連絡とれたのか?」
奇襲だと思われては友好な関係を作れない。前もって連絡を入れてくれる手筈だったが、そのレイコの姿が見えないのだ。
「レイコは中で不貞腐れています」
ミチが面倒臭そうにキャリッジの方へ指を向けた。
「んー、なんで?」
「報告は上手く行ったようですが、お館様を待つと言った途端あんな状態です。」
ミチと中の様子を窺うと膝を抱えてわかりやすくいじけているレイコがいた。
「早く城に戻り、任務を終えて褒められたいらしいのです。お館様のおかげで評価されるというのに・・薄情な女です。」
原因は借りた物を返していない俺にあるのだが、それはそっとしておく。とにかく連絡が通っているならここで待機している理由はない。さっさと出発しよう。
「レイコさん待たせたね。早速君の国へ行こう!」
レイコはこちらの姿を確認すると泣きながら抱きついてきた。
「待って・・待ってたんだからぁーー!どうして!?どうしてもっと早く帰って来てくれなかったんですかぁーーー!わたしは・・・わたしはぁぁー!」
まるで裏切られたあとも待ち続けた恋人のような鬼気迫る勢いの言葉にドン引きしてしまった。ミチも予想外のレイコの行動に顔をそむけた。
「あ、はい、すみませんでした。ドラ子ー、よろしく頼むよー」
こちらの胸を叩きながら泣きじゃくるいい大人から目を逸らして、キャリッジの外にいるドラ子へ声をかける。丸聞こえであったろうにドラ子は気付かないふりをして平然としていた。
「ん?ようやく妾の出番かの?任せておけ!」
ドラゴンの姿へ戻ったドラ子はチラリとレイコを見たが、虫でも見るかのように冷たい視線を浴びせたあと何事もなかったかの様にキャリッジを掴んで飛び立った。ドラゴンの飛行は魔法の力によるものがメインだが、癖なのか時折翼をバタつかせる。その度に揺れるため優雅な空の旅とはいかなかった。コルビーとウルダは覗き窓から初めての空を楽しげに眺めているが、それ以外の面々は酔ってそれどころではないらしい。キャリッジの中にいても退屈だったためドラ子と無駄話をするためにデッキに出る。
「ドラ子ーもう少しこの揺れ、なんとかならないか?」
酔っている面々のためにというのもあるが、なんとかこの景色を眺めながらお茶を楽しみたい。だが、このキャリッジはこういった使い方は想定していない。そのため揺れが大きくてテーブルを設置することもままならない。
「無茶を言うでない!これでも全力一杯気を使っているのじゃ!」
「すまんすまん! 空を楽しむためになんとかお茶が飲めないか考えているんだ。」
「・・・気球でも付ければ良かろうが・・」
「・・・・・・あるの?」
「どっかの学者が作っておったぞ? まぁ・・一回こっきりで帰ってこんかったそうじゃがな」
原理自体は難しいものでは無いはずだが、帰ってこれなくては意味がない。それに操作に気をかけながらお茶を楽しむほど器用では無いから気球はなかった事にしよう。ここは飛べるドラ子に頑張ってもらうしかない。
「でもな? ほら、えーと・・そう!ドラ子と飛ぶから楽しいってのもあるだろ!」
「嘘は考えてから話すものじゃ」
目は口程に物を言うとはこのことか。ドラ子はツンとした態度で下らないものでも見る様に冷たい視線を送ってくる。
「あくまでどれが目的に一番の近道か考えただけさ・・・ま、それはさておき今度背中に乗せて飛んでくれよ。もっとアクロバットな飛び方もできるんだろ?」
「ん、あぁ・・造作もないが・・・何が楽しいのじゃ?」
「そりゃあー、ドラ子からしたら息を吸うのとおんなじだろうけどさ・・・俺は風魔法が使えないから憧れなんだ。」
「・・・・空中の妾に喰らい付いてきたのは誰じゃったかの?」
「あれは氷を足場にジャンプしただけだって! あんなのは飛んでるなんて言わないさ。あーそうだ、例えば水竜が海を気持ち良さそうに泳いでたらうらやましく思うだろ?で、マネして海に潜っても全然自由に泳げない。あれと同じだ。無理したらできるけど楽しくない。」
「例えが下手だの・・・ 言いたいことはわかるんじゃが・・ そもそも龍族は水竜も飛龍も違いを美徳としているから美しいと思うことはあっても羨むことはないのじゃ 例外はもちろんいるがのぅ」
「そうなのか? 縄張り争いがあっても種類での争いが少ないのはそう言う理由かー」
「ただ、人間には興味が尽きん! 我らの人化の術もおそらく人の暮らしをもっと知りたいと思う連中が編み出したのであろうなぁ!」
表情は変わらないが機嫌の良さそうな声でドラ子は笑って見せた。
「ドラ子も人間が好きだもんな。封印する時にあれだけ多くの人間に見送られるドラゴンもそうそういないだろ。そういえば愛しているって叫んでた奴もいたけど恋人だったのか?」
「ふふん!恋人なぞおらんが、見目麗しく聡明な妾は毎日の様に求婚されておったよ!懐かしいのう・・」
得意げなドラ子が鼻で笑った。昔を思い出しているのか少しの間黙って空を飛んでいた。会話が止まるのを待っていたのかデッキにミチが出てきた。
「お館様、レイコが今後の流れについて説明したいと・・・」
「あぁ、ミチありがとう。ドラ子!作戦会議らしいから後をよろしくな!なんかあったらノックしてくれ。」
「任せるが良い!」
このキャリッジは会議室としても使える様に作らせたもので、扉を閉めると防音効果が高く外の音がほとんど聞こえない。そのため相当な音量でなければ中に声が届かない。壁や天井などは口径の大口径の銃でも傷が付かないほど頑強だ。外から呼ぶ時にはドアノッカーが付いているのでそれを使えば簡単に呼び出しできる。
「お恥ずかしいところをお見せしました・・」
「落ち着いたみたいで何よりだ。じゃ、早速だけど説明してもらえるかな?」
しおらしくなったレイコが頷いて咳払いをした後話し始めた。
「えー、はい 国に到着しましたら一旦私は城に戻りまして打ち合わせを行いますので皆さんとは別行動になります 予定では”死者の秘石返還式”を行なって国の重鎮達にジョンさんが敵で無いことをアピールする手筈です その後女王エルザベート様に直接お言葉を頂いてお開きです ロックさんご一家とアビゲイルさんはジョンさんのご友人として観覧席までの立ち入りが許可される予定です もちろん辞退なども今なら自由ですので相談してください 皆様には小間使いとして2名がお供しますので不明な点や気になること、なんでも相談してください」
「質問!」
「はい、ジョンさん」
「出なくていいか?」
「ダメです ジョンさんの出席は確定事項です」
「えー・・・めんどくさい!」
「ジョンさんの出席がないといろいろまずいんですって!リールで戦死した兵士もいますからお行儀良くしてくださいって!!犯人とは言いませんが大きく関わった人物を何のアクションもなく入国させてあまつさえその友人を城下に置くなんてできないでしょう!?」
「あ、はい・・」
「それとミチさんですが・・ 城下町でお留守番です」
「なっ!?お館様と・・」
「残念ながらミチさんは生き残った兵士に目撃されています 事故だったとはいえ快く思わない兵士が複数いる状況での登城は避けなければいけません 式典を恙無く終わらせることが互いにとっての最良なのです」
「・・・申し訳ありませんお館様」
「いや、俺に謝ることは無い。あの街の状況で攻撃してきた相手がいれば応戦するしかない。」
「いや、ほんとそうですよねー 相手の力量も分からずに喧嘩を売ってやられたから恨みますなんて子供か!って話ですよねー」
「レイコさんはどっちの味方何だ・・・」
「もちろんミチさんですよ? だいたい連中は上から目線でやれ女はうるさいだの慎ましさがどうだの言ってるからミチさんの力も見誤るんです!権力者にばっかり尻尾を振って本当にイケすかない!!それに・・」
「ありがとう!レイコさんが味方してくれて心強いよ!」
ちょっと脱線するとすぐにマシンガントークが始まる。ドラ子の移動力ではあっさりと目的地に付いてしまうためそうそうに口を挟んで本筋に戻してやる。
「あ、失礼しました とりあえずミチさんは自由行動です! 式の間は専属の小間使いもつけますので予算はありますが高級店のご飯とか食べてみるのも一興ですよ?」
「こうきゅう・・ごはん!?」
”高級店のご飯”というフレーズにミチの顔に嬉色が浮かぶ。すっかり人間の食べ物の虜になってしまったようだ。
「おいしいお店を知っているのでお店の手配は任せておいてくださいね! 嫌いな食べ物とかありますか?」
「ゴブリンの肉、あれは食べられない レイコ、あなたのおすすめ楽しみにしてる」
斜め上の回答にレイコは面食らっていたが、爆笑した後に親指を立てて快諾した。
「任せてください!そんな変な物絶対に出ませんから!!」
表情は変わらないが嬉しそうなミチが頷いた。大昔に冷夏で獲物となる魔物や動物が大移動して食料がなくなったことがあった。その時にゴブリンを一度だけ口にしたのだが、筋ばった硬い肉とドブをさらった時のような鼻を突く臭いでそれ以降絶対に口にしなかった。人間の嗅覚でさえそれだったのだから、銀狼族のミチにとってはとてつもない威力だっただろう。
「というか、みんなそっちの方がいいんじゃないか?式典なんか見ていたって肩が凝るだけだし、ミチとドラ子が一緒の方がトラブルが起きた時も対処しやすい。」
世間知らずのミチ一人では有事の際に手加減ができないかもしれないが、人間と長く暮らしていたドラ子ならちゃんとさじ加減がわかっているはずだ。
「わかりました そのように手配しますのでジョンさんはちゃんと出席してくださいね!」
「わかった、とりあえず礼服でも引っ張り出しておくよ。」
「えーと・・私もいいんですか?つい先ほど助けて貰っただけなんですが・・・」
アビゲイルが不安そうに聞く。それを見たレイコは手をひらひら振りながら笑って答えた。
「何いってるんですかー 一人増えたところで問題ありませんよ! 待遇はイマイチですが国賓としてお招きすることになったんですから一人二人増えても大丈夫ですよ!」
「あ、ありがとうございます! お店の食事なんて初めて食べます!!」
一同がアビゲイルをみた。孤児院出身という身の上話しを聞いていたからそこまで驚きはしなかったが、何とも可哀想な話だ。滞在期間が短かったもののリールの街では外食の値段設定が安く、大変賑わっていた。イメージとしては牛丼一杯の値段で腹一杯になるくらいだと思って欲しい。戦争に巻き込まれてほぼ楽しめなかったが、質も良かった。
「あ、あれ?私変なこと言いましたか?」
「いや、何でも無い! 軍の給料は安かったのか?」
「給料・・? 部屋と食事です!」
「・・・帝国はもう一回滅ぼそうかな・・・・」
「「え・・?」」
思ったことが口に出てしまいミチ以外の全員が声を揃えてこちらを見た。
「お任せください!私もお館様と駆けます!」
「じょ、冗談だ冗談・・ あんまりにも待遇が悪かったんでな・・・」
活躍の機会と思ったのか訂正するとミチはしょんぼりしてしまった。お貴族連中が農民を徴兵していた頃に比べれば多少は改善されているとはいえ近代武器を揃えている国のすることとは到底思えなかった。技術力と社会通念というか人権の尊重というかが噛み合っていない。時代劇に最新兵器が使われているような、とてもちぐはぐなイメージだ。アビゲイル自身はキョトンとしているためそういうものとして受け入れていたようだ。
「ちなみにレイコさんの給料はどのくらいなんだ?」
「私は50万センツです まだ下っ端なんで安い方ですね 一般兵でも20万くらいは貰っていると思いますよ」
レイコの話を聞いてもピンときていないのか、アビゲイルはまだキョトンとしている。
「帝国と通貨はおんなじなのか?」
「いえ、我が国ではセンツですが帝国はモーゼスです 貨幣価値はうちの3分の1くらいですかね」
ようやく理解できたアビゲイルは綺麗な顔を大きく歪めて口をパクパクしている。レイコと俺の顔を交互に見て何か言いたげにしているが言葉が見つからないらしい。
「えーと・・・多分アビゲイルさんは買い叩かれた感じですかねー 孤児院から人身売買なんてよく聞きますからね・・・実験体にならなかっただけマシかもしれません」
「あー・・・・・しんじてたんすわー 院長先生のこと信じてたんですわー あー もう あー」
この一瞬ですっかりヤサぐれてしまったアビゲイルがその場で皆に背を向けて膝を抱えたまま横になった。プルプルと震えながら嗚咽を漏らしている。何と声をかけていいのか分からないが、彼女の横に座り頭に手を当てて目を合わせずに話した。
「まぁ、信じられないかもしれないがここにいる連中は多分裏切らない。レイコさんは軍人だからどうか知らんけど、」
「そこは言い切って下さいよ!」
「レイコさんには立場があると思ったんだすまん・・・とにかくみんな信じて大丈夫だ。やれることなら全力で助けるから頼ってくれ。今までが散々でもこれからどうにでもなるからさ。」
「・・・はい・・」
頭を撫でていた手を掴み、すがるように頬を擦り付けて頷いた。
ハンバーグはパン・・・パンだったんだ!




