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魔王さまは涙もろい  作者: 南部
23/67

アスペリアでの戦い3

「さって、着いたはいいけど・・・ うぉ! と、飛んでる!!」


中央に到達したジョンは目立たないように畦道の脇にしゃがみ込み戦場を観察していた。ゴーレム四体と魔導部隊、その先におそらく八天王と思われる男が二人、飛び交う銃弾の中で帝国兵を抑えている。一人は土の魔法で土塁を作って帝国の進行を防ぎ、もう一人は土塁の死角から飛び立ち空を舞い、風の魔法で矢を放ち装甲の薄い手や足を狙い帝国兵を無力化していく。帝国兵も必死に応戦しているが水平発射とは違い、飛び回る相手にうまく対処ができていない。三式弾のような対空砲があれば別だが、現在の装備では対処が難しい。


「あぁ・・・ 良いな。 空飛びたいなー・・・」


ほぼ全ての属性魔法が使えるジョンだが、唯一風魔法の適性が無い。ジョンの力を持ってすれば地を蹴り飛び上がることができるが、あくまで跳躍であるため自由にとはいかない。氷魔法を足場にした強引な空中戦を行うこともあるが、出した氷を粉砕し損ねると周囲に被害が出る。やはり風魔法での飛行にはロマンがある。投擲に関しても投げた後に軌道修正が可能な風魔法は大変便利な属性だ。単発での火力は他の属性に及ばないが、彼らは引く手数多である。


「にしても・・・ 戦局が一転したな。帝国が絶対有利と思っていたけどこれならアスペリアが勝ちそうだな。」


連合国兵士の装備が旧式なのは、魔法を主力に据え人材の確保や訓練に軍事費を注ぎ込むためだったようだ。だがこのまま連合が帝国兵を蹂躙すると先ほど見た美女がどうにかなってしまう。やはりマラークの手法を真似して”強力魔法で両軍撤退大作戦”を決行するしかない。そう決意したところで帝国陣地方面から少し大きめの魔力反応が急速に接近してきた。そちらへ目を向けると小太りのおっさんが腹の肉を波立たせながら戦闘が続く最前線へ飛んできた。


「愚か者どもめぇぇえーい!!! 連合程度に何をやっとるかーーーーー!!!!!」


鬼の形相で飛んでくるおっさんはとんでもない声量で兵士を一喝した。どうも階級が高いようで服にジャラジャラと勲章をつけている。小太りのおっさんは右手に持った巨大な多砲身の銃を取り出し発砲する。撃ち出した弾は着弾と同時に炸裂し土塁を破壊してゆく。おおよそだが榴弾を秒間一発の速度で連射している。空中からばら撒かれる榴弾の雨は驚異的な威力で土塁を隠れていた兵士ごと破壊してゆく。まるで爆撃機のようだ。


「貴様らの後ろには帝国民がいるのだ!引くことは許されん!! 帝国の名の下にいざ進め!!」


最前線での上官の活躍に奮起したのか、帝国兵たちは次々に声を上げて突撃する。人数が揃い連射の効く武器を使う帝国兵に対して、連合国兵は練度が低く連射の効かない魔導部隊しかいないため手数が足りない。八天王が善戦していたが、空飛ぶ小太り男のおかげで射線を遮っていた土塁が破壊されて狙いうちされている。ゴーレムを盾に魔法で応戦しているがそのゴーレムも榴弾により撃破されて行く。


「いかん!のんきに観戦してる場合じゃない!」


ジョンが作戦を決行しようと立ち上がる。しかし連合陣地から雷と風の魔法発動を感知してそちらへ目をやると、風と雷の混合魔法が放たれた。空飛ぶ小太りのおっさんは防御魔法で威力を削ぎ、大事には至らなかったようだが風に負けたようで悪態を吐きながら遠くに落ちていった。


「我ら四神将が来たからにはもう大丈夫だ! 第一兵士諸君は下がって城壁を守ってくれ!」


風と雷使いであろう男が兵士に向かって声をかける。第一兵士が何かはわからなかったが一部の兵士は城壁の方へ下がって行く。戦場に残ったのは四神将と名乗った3人の男と、獣人やエルフ、ドワーフの混成部隊だった。


「亜人共!戦果のあったものは開放奴隷として自由を与えよう!さぁ、突撃せよ!」


その言葉を聞いて残った兵士たちがどよめく。まだ止まない雨の中残された兵士たちは撃てない銃を手に突撃を命じられたのだ。引っ込んだ連中は白、黒、黄はあるが人族だった。残ったのはいわゆる亜人だけ。そういう意味で優先順位が一番の第一兵士だったわけだ。本人達に確認しないことには真実がわからないが、ジョンは苛立ちを感じていた。


「集落間の対立はあったが人種差別なんて昔はなかったな。なかったのにな・・・」


この地域では密林、草原、湿地、乾燥地帯などの様々な環境が多種多様にわたる生態系を作り出し、それを目当てに集まった人間以外の多様な種族が共存していたと言い伝えられている。しかし、彼らが作った生活圏を目当てに人間が移入し始めると状況が変わる。集落を作り、その集落同士が争いを始め他種族を巻き込み始めたそうだ。それがエスカレートし今度は獣人の奴隷化とは恐れ入る。大昔から種族問わずに奴隷はいた。今更こんな感情が沸き上がるとは自分でも不思議だ。


(それはあんたが勇者の呪いから解放されたからよ!)


雨が空中に留まり、聞き覚えのある声が頭の中に響く。またかと肩を落としてその声に質問で返す。


「なんで“勇者の呪い”が関係するんだ? あと女神様は暇なのか?」


(暇だったらそっちに行ってるわー ちょーっと手が離せないからこんな感じ! で、あんたは人より魔獣とか亜人に親近感持ってるはずよー だから彼らが可哀想なことになってると感情が揺らぐわけよー)


「なんで魔獣と亜人なんだ?」


(それはあんたが”魔王”だから。まぁ、創命の魔王のおかげで色々混じってるけど、強く出ているのは魔獣の王 だから魔獣はもちろん魔獣と人を祖先にもつ獣人もなんとなく守ってあげたいって感じるはずよー 要は人以外が好きになりやすいって感じー)


コルビーが魔王がたくさんいると言っていたことを思い出してなんとなく納得した。しかし奴隷ならば以前も見ているし、一度買ったことがある。まぁその人物を奴隷商から解放するためではあったがそこまで不思議に思わなかった。


(それはあんたが勇者の呪いを受けていたからねー 前も言った通り、人間以外どうでも良いって基準とさらに悪人は人権無しって基準があったから! 要は民衆の”こうであれ”って願いが具現化した存在だったから民衆に容認されていることには違和感を感じにくい状況だったっわけー)


「あー・・・そうなのか? というか心を読むな・・」


(そこは諦めてくれなー で、今は勇者時代みたいになんとかしようと思わないでしょ?それはあんたが”魔王の加護”に変わったから それはあくまで自由意志だからー ”魔王の呪い”だったらその場にいる人間を皆殺しにしてでも解放していたでしょうね 獣王ライネルみたいに)


「獣王ライネルは知らんが随分と物騒だな。それもお前が作ったシステムなのか?」


(いんにゃー 私はこのシステムの中でなるべく文明が長く続くように四苦八苦してるだけー シエラなら知ってるかも知らんけど話したがらないし正直どうでも良い! 私はあくまで私が私であるように世界を回してるだけー)


「わからんがわかった。しかし近くにいなくてもちょっかい出せるとか・・お前さんはなんでもありだな。」


(女神だからねー そういえば・・一応教えとくけど四神将ってのがいるでしょ? ナーニャがいるから顔出してあげなー)


「生きてるのか!? 懐かしいな・・・」


昔馴染みの名前が出てきたが、彼は確か人間だと名乗っていた。どんなに長生きしても、とうの昔に死んでいるはずだ。女神が本人だと言っているのだから本人なのだろうが・・・ アリアに聞くより本人に確認したほうが良いだろう。


(かなり疲れてるみたいだから・・・ まぁ奢ってやって)


「じゃ、ひとまず”強力魔法で両軍撤退大作戦”でも始めるかな。」


(あ、もう一個 あんたのお目当ての娘、ゴーレムの下敷きになってるから早く助けてやりなさいね)

「な、なんだって!?」


(大丈夫!今は時間止めてるからあんたなら間に合うでしょ 便利な便利な通信魔法も授けてあげるから名乗りでもあげたら良いんでない?)


確かに先ほどから雨粒が宙に浮いたまま止まっている。この女神、本当になんでもありだと思った瞬間に全身が痙攣する。


「あが・・が・・」


麻酔をせずに歯の神経を治療された時のような電気的な激痛が走り勝手に声が出てしまった。痛みはすぐに治ったが二日酔いを酷くしたような不快感が取れない。


「つぎ あったら おぼえとけ」


(やーん! ジョンったらこーわーいー! でも便利だからちゃんと使いこなしなさいよー? ”強力魔法で両軍成敗大作戦”だっけ? 我が名はドルネレス!この地の支配者なりーって自己紹介でもしてやりなさいよー!)


「両軍撤退だ、本気で痛いな・・気持ち悪いし・・・」


(もー 今度なでなでしてあげるから機嫌なおしなー?)


「子供かっ! 」


(そろそろこっちがきつくなってきたからまた今度ねー)


話すだけ話すとアリアの気配がなくなり、再びシトシトと雨が地面に落ち始めた。アリアからもたらされた美女が下敷きとの情報が時間の無さを突き付ける。


「しまったな・・・ 場所を聞いておくべきだった。」


いくら自分の足が速くても戦場を探し回っている間に事切れていたなんて笑い話にもならない。ゴーレムという目印があるから何とかなるかと思いながら“女神さまから授かった”通信魔法の動作をチェックをする。魔力の量を調整することでかなりの範囲まで伝播することができ、術式を加えることで暗号化が可能。要検証だが、相手の術式を解析できれば通信を流しっぱなしにすることで妨害もできそうだ。さらに妨害している相手よりも強い魔力で使えば回避もできそうである。


「よし! 女神案採用!」


戦場であることを踏まえて通信妨害が入っている前提で強めに魔力を込め、暗号化をかけずに広範囲通信を行う。


『テステス! あー・・戦士諸君! 私の名前はドルネレス。この地での戦争を快く思わないものだ。三分後にちょっとしたデモンストレーションを行うから・・・ 死ぬ気で逃げてくれ。場所は中央戦線。逃げなかった者は死ぬことを覚悟するように、以上。』


聞く者はいないだろうが横槍を入れるのだから警告することが大事だ。目当ての人物が死にかけていることを想定すると、あまり時間をかけられないため三分間しか時間をやれなかったのはご愛敬ってところだ。


『~~~~~~~~~~~!!』


暗号化された通信が飛び交っているが、解き方がわからないため素直に聞き流す。少しでも緊張感を持ってもらうために押さえ込んでいた魔力を徐々に開放して威圧もしてみる。うまくいった様でさらに通信が活発に行われ、高い音を聞き続けたように頭がキンキンしてきた。一分半ほどたったところで魔法の下準備を開始する。今回使う魔法は“プールゴーリエ”超広範囲の火属性魔法だ。本来は一帯を焼き尽くす破壊魔法だが、今回は上空へ展開し、さらに結界魔法とあわせることで威嚇に使う。結界なしで行えば中央全てを焼き殺してしまう危険な魔法だが属性軽減魔法と結界の重複で安全に“見せる”ことができるだろう。戦闘が止まる確率は低いだろうが、無視できない敵がいることを知らしめるには良い手だと考えた。


「お、連合が引いたな。ドルネレスって名前に反応したのかな? 帝国も移動が止まってるから今がチャンス! “プールゴーリエ!!”」


防御魔法と結界の上を滑るように青白い炎が広がり戦場の空を覆う。土塁の上を覆いつくしたタイミングで轟音とともに爆発を起こした。魔法は想定を上回る威力で結界を破壊して土塁のあった場所をえぐり、空堀を作り上げた。


「お、おおぅ・・・・ こ、これだから火属性魔法って嫌い!」


だれが聞いているわけでもないのだが、魔法のせいにすることで言い訳をする。先程まで飛び交っていた暗号化された通信魔法が止まり、降っていた雨も雲ごと蒸発して青空をのぞかせる。まるで時が止まったかのような静寂に包まれ、戦闘が止まった。想定外だったが、これはチャンスと再び通信魔法を入れて両軍をけん制する。


『ご理解頂けたかな? まだこの茶番を続けるなら私が全力をもってお相手しよう!』


風で流れてきた雨雲が再び雨を降らせ、地面に到達し始めると我に返った兵士たちが叫びながら撤退していく。我先に逃げる兵たちは転んだ者を踏みつけてもお構いなしでかけていく。隊長格であろう兵士が収拾をつけようと四苦八苦しているが、崩壊した士気と混乱がそれを許さなかった。


「そ、そうていない・・想定内!」


自分に言い聞かせて魔力を抑え込み、ゴーレムの転がっている辺りへ駆け寄り下敷きになっている兵士を探す。近寄ってみると、爆風で崩れた土人形が転がっていた。おそらく連合は土塊で兵士人形を作り帝国に撤退を悟らせないようにしていたのだろう、うまい土魔法の使い方だ。そう感心しながら三体目のゴーレムにたどり着くと、ようやく生きている人間がいた。


「し、しにたくない!死にたくない!!殺さないで!殺さないでぇ!!いや!こないでぇぇぇ!!」


左手と腰から下をゴーレム手に押し潰された美女が悲痛な声を上げている。恐怖に引きつり涙を流して腰と一緒に押しつぶされた銃を引き抜こうともがいている。


「まずは自己紹介しよう。俺はジョンだ、安心してくれていい。君に危害を加えるつもりはない。」


極力紳士的に声をかけたが、“化け物を見る目”を向けられて、ほぼ考えなしに突入したことを後悔するくらいには胸が痛む。


「あー、あんまり動かない方が良い。知らないとは思うがクラッシュシンドロームってのがあってな? 潰されてた部分が解放されると死ぬことがあるんだ。」


恐怖を感じながらも言っていることは理解してくれたようで、美女はもがくのをやめた。今度は捨てられた子猫の様な哀れな顔で呟いた。


「私 死ぬの? 死にたくない・・」


「いや、まだ死なんさ。とりあえず名前を教えてくれるかな?」


「アビゲイル・・・」


「じゃあ、アビゲイル。一個きいていいか?」


質問をする間にアビゲイルに麻痺の魔法をかけて痛みを誤魔化した後、回復魔法の準備をする。


「単刀直入に言うと今から君の腰から下を切り落とす。で、回復魔法で失った足を復元するって作戦だ。麻痺させてるから多少は軽減されるけど・・・とにかく痛いと思う。正直この方法以外助かる道が無いと思うんだが・・・やってみる気あるか?」


アビゲイルの顔が絶望に沈む。知らない怪しい仮面の男からこんなことを言われたら誰だってこうなるとは思う。だが、本当にこれ以上思いつかない。いつから下敷きになっていたか不明であり、どの程度ダメージを受けているか判断がつかない。毒解除の魔法はあるが、クラッシュシンドロームは毒ではなく、ミオグロビンや乳酸、カリウムなど生命活動で生まれる物質が原因であるため解除できない。回復魔法は欠損まで修復できるが、これも毒やら老廃物やらを薄めることができる訳ではない。恐怖と不安が易々と感じ取れる顔のアビゲイルには実際に見てもらうのが一番だと考えて提案をする。


「じゃあ、デモンストレーションでもするか?」


収納魔法から愛刀を取り出して鞘から抜く。アビゲイルの顔が再び恐怖に染まる。身動きが取れない状況で知らない奴が凶器を取り出せば誰だってこうなるだろう。しかし、それを無視して自分の左手を切り落とす。


「ぁぁぁあああ!!」


アビゲイルが盛大に悲鳴を上げるが無視して回復魔法を使い、腕を治してみせた。割と痛いが効果はあったようでハトが豆鉄砲をくらったような顔でアビゲイルが固まっている。


「わかってくれたか? そこそこ時間が無いから決断は早めにしてくれ。やるか、やらないかだ。」


もしかすると兵器開発が進んでいる帝国なら治療法を発見している可能性もあるが、当時のままの位置に国があるなら彼らが帰投するまでに彼女は死ぬだろう。担いで行ってもいいのだが症状を悪化させる自信がある。最短で解決できるのはやはり“切って治そう作戦”だ。決断をしようとアビゲイルが呼吸を荒げているのが見えるが、ここは本人が決めるまで待つべきだろう。


「お願いしまあああああぁぁぁぁああ!!」


食い気味に腰を切り落として回復魔法をかけ、下半身全裸の美女の出来上がりだ。嫌われる可能性はあったがこの場に接近してきている反応が3つあり、邪魔されたくなかったからやむを得ない。号泣するアビゲイルに外套を被せてゴーレムの手を蹴り上げる。彼女の服を回収するためにバキバキになっている旧アビゲイル下半身を発掘した。


「すまん。なんかお客さんが来ているから早くズボンをはいてくれ。」

「ひどいぃぃ 痛かったしぃぃ 自分の足から服を剥ぐとか意味わかんないしぃぃー・・・」

「あ、すまんがしばらくそこから動かないでくれ。ちょっと戦闘になりそうだから。」

「えぇぇぇ・・・もう帰らせてくださいぃぃー・・・」


色々文句が漏れているが元気なことは素晴らしいことだ。アビゲイルは涙目で青い顔をしながら服をはぎとっている。ミチとドラ子の服のストックならあるが、背格好が違い過ぎて使えない。こんなに恵まれた体型の美女が戦場に立っていることが不思議でしょうがない。もぞもぞと服を着る姿を見ながらアビゲイルに防御魔法を重ね掛けする。


「貴様が魔王を名乗る不届き者か!四神将ヴォーギンが成敗してやる!」


いち早くたどり着いたのは雷を纏って空を飛ぶ筋骨隆々の男だった。先程四神将と名乗り、第一兵士を撤退させていた男だ。思い出してイライラするのはアリアが言っていた魔獣第一主義のためだろうか。


「いや、嘘じゃないしな。ところでお前さんらは奴隷制度を導入したのか?」

「ふん!敵に答える馬鹿は我が軍にはいない!」


素直に答える訳はないだろうとは思っていたが、相手がこいつだからかイライラがつのる。遅れて二人の男が到着して三人になった。アリアが四神将にナーニャがいると言っていたが見当たらない。


「おぉ!リオット!ソンポン!この不届き者を成敗しようではないか!!」


身動きを止めようとしたのかリオットは土魔法を発動させてこちらの足元を土塊で固めた。素直に受けるのも馬鹿くさいので右足を蹴り上げてその土塊をソンポンの方へ飛ばし、牽制する。しかし、届く前にソンポンは爆発魔法を発動させて土塊を粉砕しこちらに死角をつくった。そこにヴォーギンが雷魔法で目眩しを行った。派手な魔法は一瞬視界を奪い、気付いた時には氷の塊が腹に命中していた。


「ひっ!!」


小さくアビゲイルが悲鳴を上げたが左手を上げて無事を伝える。その隙に今度は氷と腹の間に爆発魔法が発動して更なる衝撃が走った。


「止めだ!グラーツドンナー!!」


ヴォーギンがおそらく彼の最大威力であろう魔法を発動し、辺りが光に包まれ立木が側撃雷で発火した。


「んー・・・30点!」


雷の光で目を焼かれたアビゲイルに回復魔法をかけながら三人の連携の評価を伝える。終わったような顔をしていた三人は振り向き、ジョンとアビゲイルが生きていることに驚いた。


「ば、馬鹿な!我らの連撃を受けきった・・だと!?」


リオットが呆然とした顔で呟く。自信があっただろうヴォーギンは絶句している。ソンポンだけが次の一手を考えているようで複数の爆発系魔法が感知できる。


「あぁ、よく言われるよ。馬鹿なーとか化け物だーとか。で、満足したか? 今は美女を助けて気分が良いから見逃してやろう。男に絡まれてもおもしろくないからなー」


そう言って帰ろうとした瞬間、足元の水溜りが光った。またリオットの魔法かと思ったのだが、目の前に出てきたのは人影でだった。その人影は出てくるなり3人の男達を叱り付けた。


「この方は本物の魔王ドルネレス様だ!なんで待てなかった!」


呆然としていた二人とまだまだやる気だった一人は出てきた人物を見て慌てふためいた後、子供のように縮こまってしまった。当時から変わらない懐かしい姿に少し目頭が熱くなった。


「ナーニャ! 久しぶりだな!」


「ヴァルガス様!弟子共がご迷惑を・・・!申し訳ございません!!」


「いや、俺は大丈夫だしこの娘はそっちからしたら敵兵だからしょうがないだろ。それよりもお前の話し方よ! 知らん仲じゃないんだし昔通り話してくれよ。」


ナーニャが弟子の方を見て合図を送ると、3人はケンカに負けたオスネコの様に身を低くしてソロソロと帰って行った。彼は3人の背中を見送りながら肩を落としてため息をつくと向き直り、話し始めた。


「僕も立場ってものができてね・・・昔のように気を許して話すこともなくなったんだよ。久しぶりだねヴァルガス。元気にしてたかい?」


「あぁ、暇を持て余して観光旅行だ。そっちはどうだ?」


「んー・・・ まぁ元気ではあるんだけどね。いつまでたっても死ねなくて困ってるよ。」


「・・・・なんで?」


「話せば長いんだけどね、男として死んだら女として生き返ったんだ。」


「うん・・うん? ちょっと言ってることがわからんし、長くもないな。」


「言ってる僕もわからないんだけど・・僕に懐いてくれてた精霊の子がいたのをおぼえているかい?あの子が僕の死を受け入れられなくて、僕と融合して引き止めてしまったみたいなんだ。だから彼女の魔力が尽きるまで僕は死ねないみたいなんだ。」


ナーニャは手弄りしながら悲しそうに微笑んだ。昔から女性的な見た目だったが確かに胸やら体のシルエットが丸みを帯びてさらに磨きがかかっている。いずれにせよ俺からするとまだまだ若いが、アリアが言っていた”疲れている”とはこういう意味だったようだ。


「そんなに悲しそうな顔をするなよ。たまには人里離れた場所でゆっくりしたらきっと良い気分転換になる。旅にでも出れば良いじゃないか。」


「君はそうだったね・・何だか懐かしいよ。でもね、僕はこの国に深く関わってしまった。今更見捨てることなんてできない。帝国がまた侵略してきているし、エルフとドワーフも敵対している。国民を守らなければならないんだ。」


ナーニャは決意に満ちた表情を浮かべる。しかし、どうもふに落ちないことがある。


「うん。まぁ気持ちが固まっているなら良いんだが・・・ どこまでが本心だ? 精霊の魔力なんて余程の無茶をしないと尽きることはないだろ? それに戦争奴隷にエルフやドワーフも使っていた。火に油を注ぐような真似をしているのはなぜだ?」


ナーニャは質問に答えず、能面のように張り付いた笑顔を浮かべてこちらを見た。



皆様今年も一年お疲れ様でした。

拙い文章にお付き合い頂きまして誠に有難うございます。

来る年も健やかを願いましてご挨拶といたします。

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