森にて5
「お館様!」
「ごめんミチ時間かかった。」
ニコニコ顔のミチが出迎えてくれたが他の面々が見えない。どうしたか心配しているとロックがフラフラとキャリッジから降りてきた。
「す、すみません・・・みんなで出迎えるつもりが”やられて”しまって・・・」
「やられ・・? あっ!」
戦闘中には魔力やられとか吸魔の事を考えていたはずだったが、忘れていた。魔人との戦いは大きな魔力のぶつかり合いだ。実力の無い者が巻き込まれれば何かしらの影響が出る。キャリッジの中に居れば気にすることも無かっただろうが、外で観戦していたなら話は別だ。
「すみません! 完全に油断していました! アリアとシエラは何してたんですか?」
責任転嫁をしようと二人を探すが見当たらない。
「お二人なら中で手当てをして下さっています。障壁を張り忘れたと慌てていました。」
ロックが言い終わるか否かのタイミングでアリアがキャリッジから顔を出して手招きする。顔に緊張感は見られないためおそらく問題なかったのだろう。だが、真面目な顔のアリアはなんとも不気味で近寄り難い。
「あんたもう忘れたの? 考え筒抜けなわけー!早くきなさい!!」
軽く手をあげて返事をし、中へと入る。スキールとフェタは壁に寄りかかり休んでいた。ウルダは問題なかったようでソファに横たわるコルビーを甲斐甲斐しく世話している。まさかコルビーが一番症状が重いとは思わなかった。
「クレインが死んで自由になった精霊がこの子を気に入っちゃったみたい。いやー、ちょうどあんたが魔人と戦い始めてぇ・・そっちに熱中してたらね・・もう・・・こうさ!」
開き直って身振り手振りでちょっと大袈裟に伝えるアリアはとても滑稽に見えた。大樹にいたのは水の精霊だったはずだが、確かにコルビーからは強い風の力を感じる。風の精霊はおそらくコルビーの意識に入り込み、交渉をしているところだろう。コルビーの苦しそうな顔を見ておろおろと周りを飛び回る火の精霊が気の毒だ。
「まぁ、それなら問題無いじゃないか。魔力が馴染むまではちょっと怠いかも知れないがすぐに治まるだろ?」
俺の言葉にアリアは馬鹿を見る目でこちらを見た。
「あんたと同じに考えるんじゃ無いの! コルビー君は初めて精霊と契約してるわけでしょー!?」
自身が初めて精霊と契約した時、水の精霊だったのだが顔にタオルを被せて水を浴びせられた様な息苦しさと焦燥感で支配された。それを思い出してコルビーの現状と重ねて一気に焦りが湧いてきた。
「いやもー、おっさんがワタワタするんじゃないのー!あんたの指輪!アレをコルビー君にあげなさい!!」
アリアの一喝で我に返り慌てて収納魔法から指輪を取り出しアリアに渡そうとしたが、頭にチョップをくらって妨害される。
「私がつけるとなんか変な感じでしょ!ウルダちゃんに渡すなり自分でつけてあげるなりしなさいよ!」
よく分からない理論だったが、ひとまずコルビーの世話を焼くウルダを捕まえて手渡した。しかし、彼女はこちらの話を聞いていなかったようで困り顔でアリアと俺を交互に見た。
「ちゃんと説明しなさいよ!」
アリアに脇腹を小突かれて説明責任を負わされる。
「ご、ごめんウルダちゃん、これは魔力を散らしてくれる指輪だ。コルビー君は精霊に気に入られて魔力をコントロールできていない状態なんだ。だからこれをつけてあげれば大分楽になると思う。」
できるだけわかりやすく伝えようと意識しながら説明したのだが肝心のウルダはキョトンとしている。重ねて説明をしようともっと噛み砕いた表現を探しているとウルダの表情が変わり元気よく返事が返ってきた。
「ありがとうございます!」
不安そうだったウルダはこちらの説明を聞くとコルビーの左手の薬指に指輪をはめた。ぼんやりと指輪が光ると、大きかった指輪はピッタリと指に収まった。すると激しかった呼吸は徐々に穏やかになり真っ赤だった顔色も大分良くなってきた。
「私がつけてあげると色々まずいからさー。あんたも覚えてない? 昔頼んだことあったけどー」
「あー、なんか覚えがあるな。称号が勝手に”使徒”になったとかなんとか・・・」
「それそれー 行き倒れに水を恵んでやっただけなのに勝手に使徒になっててさー しかもそいつが調子こいて新興宗教立ち上げて民衆を食い物にしてるとかなー あんたに頼んで潰してもらったじゃん?実はすごい焦ったわけー」
「・・・なんで女神が管理できてないんだよ。」
「ほんそれなー 確かに今一番偉いのは私なんだけどさ? この世界の仕組みを作ったやつの趣味だったとしか言いようがないわけー ・・・すごいぶっちゃけてるけど良いのこれ?」
そう言うとアリアは振り返りシエラを見た。なんの事だかさっぱりだがシエラが腕で大きなバッテンを作っているのを見ると大分込み入った話のようだ。
「つまりはアリアでも”手出しできないことがある”ってわかってれば良いな。別に世界の謎を解き明かせ!とか思ってる訳じゃなし、答えられなきゃ良いさ。」
「答えられない訳ではないのですが、必要の無いことなので。日々を送るのがつまらなくなっても申し訳ありませんから。」
この件はシエラの方が詳しいようだ。優しく微笑むシエラの表情からは何かを伺い知ることはできないが、この二人が言いたがらないならば無理に聞く必要はないことなのだろう。
「・・すみま・・せん・・ 」
「コルビー!」
目を覚ましたコルビーが呟くとウルダが抱きついて少し痛そうなほど顔を擦り付けている。大分顔色がまともになったがまだまだ本調子ではなさそうだ。
「すまないコルビー君、アリアが・・」
言いかけたところで左脇腹に衝撃が走る。先制でアリアに罪をなすろうとしたのだが物理攻撃で阻止された。
「目が覚めて良かった! ところで風の精霊はなんて言ってたの? 契約できたんでしょ?」
俺へのボディブローから間髪入れないアリアの質問にコルビーは一度目を閉じて考え込む。確かに気になることだが、さっきまで寝込んでいた少年に無遠慮なことだ。
「多分・・契約できたと思います。 手を貸すから一緒にいてくれって・・言ってました。」
コルビーは真剣な眼差しで、一つ一つ思い出すように答えた。風の精霊は気ままな気質のものが多く、一つ所に留まることはほとんどない。人と契約する事もあるが、別な目的のために仕方なくといったことが多い。”一緒にいてくれ”が契約の条件など聞いたことがない。
「ふーん・・・ ずいぶん素直になったみたいねー。アロス達と仲良さそうにしてたけど・・・っま! 割と強い精霊と契約できて良かったじゃない! しっかりコキ使ってあげなさい!!」
コルビーは俺でもわかる愛想笑いを浮かべて頷いた。契約自体が済んでしまえば魔力のオーバーフローも治ってくる。彼自身にキャパシティが足りなくてもそこを精霊が補ってくれるのだ。そうはいってもすぐに効果が出る訳ではない。しばらく指輪はしておいた方がいい。精霊が体に馴染み、自由に行動できるようになったら問題ないだろう。最初から一緒にいる火の精霊はまだ契約をするほど力がないようで、ウルダに締め上げられているコルビーを少し寂しそうに眺めていた。
「そういえば・・ 水をあげただけで使徒になったんだよな? この間アホほどお菓子食わせてたけどそれはいいのか?」
「お茶会にお菓子はつきものでしょ? 多分ねー、そーゆーことなんだー。」
「いや、全くわからん!もう少し噛み砕いて説明してくれ。」
「普段やらないことをすると判定が付くんだと思う。だからたまたまそいつを助けたのがダメだった見たい。」
そう言われれば納得できそうなそうでも無いようないまいちな説明だ。深く考えても答えがないのだからしょうがない訳なのだが。
「で、なんで助けたんだ? 普段は助けないんだろ?」
なんとなく気になり聞いてみると思いの外深刻な顔で顎に手を当てて目を逸らしながらぽつりと呟く。
「・・・顔がね・・良かったの・・・」
「は?」
一応聞き間違いの可能性も考えて聞き直そうとしたのだが、あまりにくだらない理由でついぶっきらぼうな対応になってしまった。さすがのアリアもぞんざいな話し方が気に障ったのか開き直って話し始めた。
「だーからー 顔が良かったの!! どストライクだったわけー! しょうがないじゃない!私だってこー、ムラムラするときがあるんだってのー!」
「そ、そうか・・・ なんか、あー・・変なこと聞いてすまん。」
完全にそっちの方が原因じゃないかと思ったが、あまりこの話を詮索するのもヤボだ。今の話が本当なら別に原因を探らなくてもこちらに迷惑はかからないだろう。オーバーに話すアリアを放って置いてコルビーに目をやるともうソファから立ちあがっていた。
「だ、大丈夫?」
起き上がったコルビーにウルダが心配そうに声をかけている。先ほどまで寝込んでいたとは思えないほどしっかりと立ち、両手の感覚を確かめる様に握ったり伸ばしたりしている。
「大丈夫。マルスがサポートしてくれてるから。」
心配するウルダを眺めながらコルビーは右足の親指一本で体重を支えながらバランスを取っている。おそらくマルスというのが風の精霊の事なのだろうが説明が無いためわからない。キョトンと見つめるウルダにコルビーが補足の説明を入れた。
「あ、ごめん! 今契約した風の精霊がマルスっていうんだ。クレインって友達が死んじゃって寂しくてなって飛び回っていたら俺を見つけたんだって。」
「へー、マルスさんっていうのね。ちょっと落ち着いた色になったのは仲良くなれたからなのね?さっきまで沢山の色がぐちゃぐちゃですごく怖かったの・・・」
ウルダが答える。そういえば彼女は相手の感情が色で見えるといっていた。最初からコルビーを看病していたのは色で他者が干渉している事を感じていたからという訳だ。それにしてもこのマルスという精霊はクレインの死で悲しみ、人と一緒に居たいと願うまるで人間のような感情の持ち主だ。人間と精霊がの生きる時間は大きく異なる。仲良くなれば否が応でも別れの時が来るというのにこの精霊は悲しみを感じているようだから関係を割り切れているとは到底思えない。
「心配かけてごめん。すごく良い人っぽいからもう大丈夫!」
コルビーはウルダを安心させようとしたのか十代とは思えないほど鍛えられた腕で力こぶを作り、ニカっと笑って見せた。先ほどまで時化た海のようだった魔力は安定し、渡した指輪が不要だったと思う程の回復ぶりだ。旦那が元気を取り戻して安心したのかウルダはコルビーの頬にキスをするとフェタとスキールの看病へと移行した。二人ともだいぶ調子が戻ったようでウルダの助けを借りて立ち上がり椅子に腰掛けるた。少し落ち着いた二人に収納魔法から水を差し出すとフェタは申し訳なさそうこちらを見ると頭を下げた。
「心配しないで下さい、すぐによくなりますよ。今日はここに泊まるので皆さんゆっくり休んでください。」
いたずらに先を急いで彼らが調子を崩しては申し訳ない。万一を考えてここを本日のキャンプ地とすることにした。ミチは狼に戻ればどこでも寝られるためロック一家にキャリッジを使って貰えばテントの準備も必要ない。
「ごめんなさいねぇ・・・ 冒険者の戦いってヤツを始めて見たもんでさぁ。刺激が強かったみたいなのよ・・・」
「気にしないで下さい。こんなのはそうそうありませんから。」
このような事はまずないだろうから説明は省いてしまうが、問題無いだろう。もし今後説明が必要になった時にはロックがいるのだから任せれば良い。それにしても彼らが体調を崩しているのは理解できるのだが、一番華奢なウルダがこんなに元気なのは予想外だった。コルビーよりは魔力が高いがロックよりも低い。体の線も細く、鍛えている様には見えない。それなのに誰よりも元気に動き回っている。
「前に少し話たでしょ? 彼女色々混じってるのよ、人はもちろん魔族とエルフもねー 」
また人の頭の中を覗いたのかアリアが小声で説明してくれた。何か話し難いことでもあるのか俺の腕を引き、キャリッジから外に連れ出された。混血はそこまで珍しいことではない。別に人族至上主義者でもその場にいない限りは隠す人のほうが少ない。ちなみに魔族とエルフは魔法が得意な種族だ。魔族は攻撃系の、エルフは回復系の魔法が得意だ。エルフの方は魔法耐性が人型種族中トップクラス。素性は知らないが彼女は魔法戦にアドバンテージがあるようだ。
「ドラクルも混じってるから戦い方によっちゃあ、相当すごいわよ? この子の先祖が思い描いた理想の血統
になってるもの。見た目も実力も兼ね備えたスーパーキッズねー ロクでもない奴に見つかったら大変よ?」
アリアがニンマリと笑って付け足す。ドラクルは人と竜の子と伝えられている種族で、肉体的なアドバンテージがある。実は誰よりも素質のある反則級の血統の持ち主のようだ。確かにそんな有望株を見かけたら欲が出てくる奴もいるだろう。いつまでも一緒にいる訳ではないのだから自由に生きるには本人か旦那に頑張って貰わなければいけない。
「コルビーに頑張って貰わないとな。もちろん本人の実力も大事だが・・・ 悪意のある人間には感情が見えるぶん敏感みたいだけど、無意識の悪には弱そうだ。」
「そうねー どうせ暇でしょ? 安心できるまでついて行ったら良いじゃない?」
ニヤニヤしながらアリアが肘で突いてくる。リアクションがいちいち近所のおばさんのようでイライラする。こちらの考えが筒抜けってところも非常にうざったい。
「暇は暇だけど新婚カップルに付いて回るようなメンタルはないな。それに強い精霊が憑いたなら俺が教えられる事なんて多く・・・いや、教えられること無いな。」
年数を経て強力な精霊は巧みに言葉を使いこなして意思疎通を図る。そういった精霊は人と関わる事も多く知識や技術、経験などを溜め込み賢者と呼ばれることがある。かつて精霊王と呼ばれたものも政治の助言をしたり勇者を育てたりと様々な立場の人間と関わっていたそうだ。今はその名前だけが子供の寝物語に登場する程度だ。今回の精霊もアリアがそこそこ強いと認定するくらいの精霊であれば相応の強さ、知識を身に付けた者なのだろう。
「いや、そこまで思い出してるなら気づきなさいよ。マルスは精霊王の名前でしょ?風の精霊でマルスなんて一体しかいないわ。マルスの姉は水の精霊でロビン。あんたが森で会ったでしょ?森の結界はロビンの力をマルスが制御することで維持してたわけー アロス達って実はすごく頑張ってあれを縫い止めてたのよー」
「あー、あ?」
しつこく頭を覗くアリアに生返事をしようとしたが聞き返してしまった。初めて会った時、コルビーには精霊王の加護がついていたはずだ。
「あー、コルビーの加護でしょ? マルス本人の意志とは関係なくついてるわけー この場合は彼が気に入りそうな人間に付いてるってとこでしょうけど。」
「会った事もないのに・・か?」
「ま、細かい事は気にすんなって! 別に精霊の加護なんてデメリットないし!」
「そう・・だな。ま、それは良しとして、精霊王をそこそこ強いって評価はおかしくないか?」
「んー、強さだけならもっと強いのがゴロゴロいるわけー。ロビンちゃんもその一人だし。マルスは力よりもその知識と経験、魔力制御の精度と応用力が評価されて先代に認められたから・・・戦力としてはそんな強くないのよ。強さだけならヒュドルって炎の精霊が最強!」
何かしらのデータを呼び出しているのかチラチラと虚空へ視線を逸らしながらアリアが話す。神を名乗るだけあって色々できるようだ。精霊王が代替わりするのも初めて知ったが最強の精霊が炎の精霊である事も初めて知った。確か熱の上限は計算上無いとか何とか言われていたはずだからそういった事だろうか?いずれにせよヒュドルという精霊には注意しよう。
「あ、心配しなくても星の核にいるから会わないわよ? 大昔に失恋して引き篭ってるから。」
「そ・・そうか・・・ 精霊にも失恋って概念があったんだな・・」
「人と関わり過ぎるとやっぱりねー。コルビー君についてる火の精霊みたいな生まれたての子は好き、嫌いの感情しか無いけど育つにつれてどんどん賢くなるから。そうするといわゆる”空気を読む”って事もできる様になってさらに人に近づく。いやいやに見えて実は嬉しかったり怒ってる様に見えて悲しんでたり・・風の精霊なんか良い例ね。素直じゃ無いから最初のうちは無理難題を押し付けて遠ざけるけど、それを越えるとどんどんデレデレになってくるのー」
「そう、なのか?」
「もちろんそういう奴が多いってだけで、一握りだけど本当に人間を嫌ってるのもいるから注意が必要だけどね。」
自分がいかに周りに気を付けずに生きていたかわかった気がした。勇者時代に散々世話になった精霊達の名前すらほぼ覚えていない上に、顔もおぼろげだ。
「ま、しょうがないわー だってあんたは勇者の加護ってよりも呪いだったから。呪いが強かった頃に知り合った魔物や精霊、亜人なんかは覚えてないけど人間は多少覚えてるでしょ? あんたの呪いは人間優先の精神支配で行動を縛ってたわけー あんた自身が強くなって精神支配が弱くなったから後半は自由に考えて行動していただろうけど、その前は人間以外を助けるなんて気持ちにならなかったでしょ?」
息をする様に頭の中を覗いてくるアリアに怒る気力も失せたが、彼女の言葉の中に勇者の呪いという物騒な単語が混じっている。どうもそれのせいで思考が制限されて勇者らしい行動を取っていたようだ。
「呪いが強かった頃ってのが分からんが・・・ あぁ、そういえばご近所トラブルにさえ口出しした事があるな。それに記憶が曖昧な頃も少なからずある。」
「そう、それなー 勇者って思い込みで創られたもんなのよ。だから”こうでなければならない!こうあって欲しい!”って都合のいい妄想みたいなものが混じってるわけー。だから害の無い魔物でも殺意もりもりで殺しにかかってたでしょ?それに、人間以外の記憶が曖昧なところはそれが原因。」
「・・・つまりは人間にしか興味のない救世主ってことか?」
「そのとーり!! だから人間以外の情報はいらない物として抹消されちゃう。あんたは特異だから完全に忘れないで済んでるけどねー 人間以外にも勇者の呪いがかかっている奴がいるけど、そいつもその種族しか救わないから結局それ以外の種族からは魔王って呼ばれる事が多いのー 最近だと獣王とか呼ばれてるライオンちゃんとかねー」
「はぁー・・・ なんか怖いなこの世界。じゃあ今も魔王の呪いって奴がかかってるのか?」
「んにゃ。今回は魔王の加護だねー あんたの場合は自由意思の魔獣の王。銀狼族やら何やらが力を貸してくれるでしょ?ミチちゃんとかノアちゃんとか。引きこもってばかりだから実感ないだろうけど。」
アリアの言葉に初めて塔に辿り着いた時のことを思い出した。あの時、見ず知らずの俺を尻尾をブンブン回転させながら歓迎してくれたのだ。よく覚えていないが何か嫌な事があって放浪していた俺はそのなんとも可愛らしい仕草にやられて塔に住み着いたのだ。
「だから塔に初めて行った時歓迎してくれたのか・・・」
「いや、覚えてないだけでノアちゃんはあんたが昔助けてるから。今ほど強くなかった頃に相性の悪い魔人に殺されかけてて、あんたがそれを助けてーって感じ。」
「そう・・かー 全然覚えてないけど、情けは人のためならずってのは本当だな。・・・てかいつから見てたんだ?」
「・・・最初から・・」
「・・・ま、今更か。ついでに勇者の加護ってのはどんなもんか教えてくれよ。」
「勇者の加護はこの世界の全ての生き物が同じ夢を願った時に産まれてくる超生物についてる。あらゆる理不尽を吹き飛ばして生まれも種族も思想も宗教も及ばないデタラメな奴。それこそ私の範疇外!前の神さまはそいつに殺されちゃったらしいわ。その辺はシエラが詳しいけど教えてくれないから私もわかんない。もし敵対したらシエラが本気出すって言ってたから問題ないだろうけどねー」
「あー、彼女すごそうだもんな。大昔にマールって国を消し飛ばしたのシエラさんだろ?何があったか知らないけど自分が死にかけた時より怖かったんだ。」
「あったわー・・そんなことあったわー なんかなー、すごく美味しいお菓子を作る娘が居たらしいんだけどなー、王子の求愛を断ったとかで犯された後に火あぶりだったんだって。その娘のお菓子がすごく気に入ってたらしくて助けられなかった奴らも同罪ってことで消し飛ばしたんだってー 食い物の恨みったら恐ろしーわー」
「・・・・こわっ!」
「あんたも気を付けなさいよ? セクハラしてもだいたい怒らないけど、これと決めた物が食べられないと本気で怒るから。」
「お、おぅ・・・ すまんが気配り出来ないからヤバそうな時はちゃんと教えてくれよ?」
「ま、安心しなよ。あんたみたいなおもち・・ 友達をみすみす逃さ・・ 見捨てないから!」
「いや、隠せてないだろ。」
「さって! コルビー君も落ち着いたし帰るわ! シエラーーー!帰るよーーー!」
「ちゃんと訂正してから帰れよ!」
「呼びましたか?」
「帰るよ!」
「わかりました。ジョンさん、また美味しいお茶をお願いします。」
シエラはニッコリと微笑んだ。見た目だけは個人的に満点なのだが、アリアに先ほど脅されているため複雑だ。だが、美人とのお茶を嫌がる男は居ないだろう。今回はバタバタしてしまったため会話もほぼ出来なかったが、次回はゆっくりと話でもしよう。
「できるだけ準備しとくよ。」
返事を聞いてシエラとアリアは満足そうに帰っていった。
まだ森にいます。早く街に送ってやらなければとは思っているんですが・・・思ってはいるんです。