森にて4の不足分・・・
ディアナを見送り、再び木々をすり抜け大樹を目指す。来たばかりの道を戻りながらミチ達に一言かけてから来るべきだったとまた少し後悔する。気遣いの出来る大人の男を目指していたのだが、まったく成長できていない事を再確認してうなだれる。
「いかんいかん! へこむ事ばっかりでネガティブになってたな・・・ 気持ちを入れ替えよう!」
顔をパチンと叩いて気持ちをリセットする。生贄として封じられてきた精霊が正気を失っているかも知れない。これほど巨大な結界を維持するだけの力を持った精霊が暴走したならば被害は甚大だ。開放するまではクレインとの約束だが、そのあとの対応はこちらで考えなければならない。たとえクレインの願いと違う形となってもしようがない。
二度目ともなると到着も早い。というよりも自分の体の動かし方を思い出して来たという方が正しいかも知れない。なんなくクレインを見送った大樹へとたどり着いた。
「ここで浄化魔法を使えば良いって事だよな・・?」
手を空に向けて魔力を込めて集中する。使い所がないと思っていた技がこの短期間で役に立つとは思わなかった。森一杯に広がるように範囲を調整して大奇跡を放つ。
すると、森を覆っていた結界がシャボン玉が弾けるようにパチンとはじけた。
「これで良い・・のか?」
いかんせん何が封じられていたかも開放された時に何かサインがあるのかもわからない。術が完成した段階で逃げていたのかも知れない。何れにせよディアナの言う通り結界は無くなったのだからクレインとの約束は完了だ。
もう 良いのか?
振り返り帰ろうとしていた時に頭に声が響いた。しっとりとした穏やかな声に振り向くと、大樹の前に白と淡い水色の着物を着た女性が見える。青白い顔が生ある者ではない事をうかがわせる。
もう 良いのか?
こちらを無表情に眺めながら再度繰り返す。突然のことでほうけてしまったが、慌てて答えを絞り出す。
「縫い止めてしまって申し訳ない。おかげで友の願いを叶えることができた。本当にありがとう。」
哀れな子も世に還った 私も還ろう 還れぬ子よ またどこかで 健やかにあれ
そう言い残すと彼女は返答を待たずに形を失くし、水のように大地に染み込んで消えて行った。本来は人間の頼みなど聞いてはくれない精霊だが、なんの気紛れか長くここを守っていてくれたようだ。見た限りでは純粋な水の精霊だと思われる。もともと精霊の時間感覚は人間のそれと大きく異なるが、中でも水の精霊はおおらかと言うか時間に興味が無い。そのため契約者がいなくなっても留まり続けてくれたようだ。暴走の危険など微塵も感じさせない穏やかな去り際だった。
「どこであんな大物引っ掛けたんだ? ま、無事に終わって何よりかな・・・」
昔の思い出が悲しいものになっただけで、残ったのは素性のわからない首飾りだけだった。詰めを失敗るとここまで悪くことが進むものかと徒労感が襲ってくる。過ぎた事を掘り返しても謝るべき相手は既にいない。
自分はいつも読みが甘く、手痛いしっぺ返しを受けたり今回のように後から後悔するような出来事を起こすことがあった。さすがに今回のことは骨身にしみた。今後はせめて自分の納得出来る程度に手を出してからいなくなるようにしようと心に決めて大樹を後にした。
前回のお話の最後の部分をつけ忘れて投稿したため今更アップ。本筋とは関係ない所に注力してしまいこんなことに・・・




