リール町にて8
「えーと・・・ 何やってんの?」
眉間を抑えて声をかける。お茶に誘われて食堂に来たのだが、先客がいた。丸テーブルに腰掛けて談笑する女性二人組。一人はコルビーと変わらないくらいの見た目、大体15〜17歳くらい。もう一人は20代くらいだ。二人には見覚えがある。今までの人生で忘れた顔は数多いるが、この二人は忘れることができない。
「よーっす! お茶するんでしょ? 来ちゃった!」
「来ちゃったじゃねぇ! こっちの事はダダ漏れか!?」
軽い挨拶に一応文句を言っておく。
「チッチッチ! 神に隠し事はできないのだよ! お茶といったら私、私といったらお茶なのよ。」
人差し指を立て左右に振りながらニヤニヤと答える。イライラが止まらない。
「意味がわからん! 急に来たら迷惑だろ!!」
少女が一つため息をつくとバカバカしいといった顔で答える。
「何を言うかと思えば・・・ 君と違ってしっかりお金も払ったよ? 現在のお金でね。スキールくんに聞いてみると良いさ!」
「あ・・・すみません・・」
宿屋の主人であるロックの厚意で旧帝国金貨を使わせて貰っている現状では、こう言われると非常に弱い。
「ジョンさんのお知り合い・・ですか?」
置いてきぼりのロックがかろうじて声を発した。彼女らのことを何と説明して良いものか。
「アリアよ。よろしく!女神をやってるわ。」
「シエラです。」
「あ、ロックフォールと申します。」
アリアはあっさり女神だと言い放った。一応名乗ったロックが困り顔でこちらを見る。補足しようにもそれ以上の説明が出来ない。とりあえず頷いておく。知らない人からみたらただの痛い少女だが、本物ってのが救えない。
「こら!また無礼なこと考えたでしょ? 」
あんたが考えてることなんてお見通し!この私の前にひれ伏しなさい!! まぁそれは冗談だけど、この読心術っての? 便利だけどあんまり使い道ないねー。やることが分かるとやっぱり面白くないわ。シエラには効かないし。
「あ・・頭に直接声が・・・! 気持ち悪い!!」
「なんかすごいでしょ? やってみたらできたんだー!」
「そんなことよりお茶にしませんか?」
シエラが急かす。自分達でお茶会をするとステータスのコメント欄に書き込んでいたくせに、たかりにくるとは何とも言えない。
「そうですね! 今淹れてきます。」
ロックが考えることを放棄したようで裏手に向かう。その後ろ姿にアリアが一声かける。
「お茶請けは任せて!」
にこやかにあいさつを返すとロックが厨房の方へ消えた。
「で?何のために来たんだ?」
アリアとシエラが不思議そうに見つめ合うと、こちらに向き直りまたキョトンと首を傾げる。
「もしかして・・本当にお茶のためだけに来たのか?」
「最初からそう言ったじゃない? もう一個あるけど・・・ それとも君に会いに来たとか言って欲しかった?」
「いや、そうじゃなくて! 隣国がキナ臭いとか言ってたからなんかやるのかと思ったんだよ!」
アリアがわざとらしく手を叩き、ハッとした顔をする。が、その後は直ぐに表情が曇る。
「ダメだった!何も思い付かない!」
「何なんだよ!」
「いやね?基本的には手出ししないからさ。そりゃあ少し位は手を出すよ? でも良くも悪くも自由だから! だってそうしないと全部私の思い通りじゃない? そうなってくると私の夢の中で十分な訳よ。だから経済も戦争も好きにやらせてるの。」
「かわいそうって言ってたじゃないか。それでも放置かよ!」
「じゃあ、あんたはあの子の面倒を一生みるの?なんであの子だけ助けるの?あの子のために隣国を滅ぼすの?」
「それは・・・」
「ね? やれることなんて限られてる。やるのは自由だけど、それを他人にまで押し付けちゃダメよ? 私はこの世界を気に入ってるし、楽しんでる。あなたも楽しみなさい。別にあんたが望むなら世界征服とかやってもいいのよ? 」
「・・・急に可愛いげが無くなったな。」
「何言ってんの!そんな都合の良い可愛さなんて願い下げよ。まぁ何事も気分次第。与えることもあれば奪うこともあるってことー。」
この女神は本当に気まぐれだけで生きている様だ。こちらの表情を読み取ったのかシエラが口を開いた。
「気を悪くしないで下さいね?アリアさんはこう見えて色々試してきたんです。えーと、何回目でしたか・・・」
「8回目!」
シエラが語り出すとアリアは相槌を打ちながらテーブルの上にスコーンやクッキーを量産し始めた。何もない空間から出てくる様はまるでマジックショーだ。
「そう、8回目。最初はか弱い少女で、私無しにはドラゴンも倒せないピヨピヨヒヨコちゃんだったのです。事あるごとに悲鳴をあげて可愛いのなんのって・・・」
「いや・・・ ひよっこの例えでドラゴンは出ないでしょうが。普通は。」
「ホントにスパルタ過ぎて死にかけたわー。特訓だって連行されたらドラゴン出てきたわけー」
「そんなことありましたか?」
シエラの言葉に苦い顔で頷くアリア。やられた人は覚えているけどやった人は覚えてない。そんなところだろうか。
「ところで8回目って何だ?」
「7回失敗したって意味だよ。今回は今までで一番長持ちしてる。」
「7回世界が滅んだってことか?」
「そう! ここまで長かったんだから!! 私だって全知全能なわけじゃないし。てゆうか適当に選ばれて押し付けられるなんてとんでもない罰ゲーム。シエラが来てなかったら発狂してたかも!」
言葉と表情からは本当なのか冗談なのか判別出来ない。こんな世間話で嘘を吐く意味など無いだろうから本当なのだろうが、何とも軽い態度だ。
「そう思われても仕方ないけど事実は事実! 人口が増え過ぎたらいきなり全滅したり、強力な魔物が生れたら全滅とかもう何が何だかわからなかったわけ!! 何回やめようと思ったか!!!」
「変な事聞いて悪かったよ! わかったから心を読むな!!」
拳を握って力説するアリア。すでに興味を失ったシエラはお茶の到着を待ちきれなかったのかもそもそとスコーンを食べ始めていた。
「お待たせしましたー!」
楽しそうにミチとドラ子を引き連れてウルダが食堂に入ってきた。こちらを見て知らぬ二人に警戒したのか一瞬硬直した。その後ろからドラ子が顔を出す。ウエストや丈を合わせたのかスッキリしたシルエットに収まっていた。アリアを確認して喜色を見せる。
「あ。・・・!!!」
「ぅぐっ!」
ドラ子が無言でアリアに飛びつくと、ギリギリと抱き締め上げ、頬ずりし始めた。避けられなかったアリアはドラ子の腰の辺りをタップして降参の意思を示すが解放されない。
「ちょっ! アリス! ギブギブ!! ぎぃぶうぅ・・」
ゴスん
シエラがドラ子の脳天にチョップをかましてアリアが解放される。
「ほほはへほらほん! はへんほひははい!!」
レーズンの入ったスコーンを咥えたまま説教をしている。相当な強さだったのか頭を抱えてドラ子が崩れ落ちた。ようやく解放されたアリアは、シエラに首根っこを掴まれて椅子に誘導された。
「あー・・・ウルダちゃんがせっかく直してくれた服を褒める前に汚すんじゃ無い。ごめんねウルダちゃん。」
「服は着て貰ってこそです! それに、とても良い気分転換になりました!」
満面の笑みとありがたい返事が返ってきた。年長者が俺を含めて残念過ぎて年端もいかないコルビーとウルダの方が立派に見える。こうなっては立つ瀬がない。
「皆様お茶の準備ができました。」
ベルガモットの華やかな香りを引き連れてロックがティーセットを運んできた。だが、アリアとドラ子を見てまた固まる。
「だ・・大丈夫でしょうか?」
「問題ありません。感動の再会が勢い余ったらしいです。」
「は・・はぁ・・」
ぐったりしていたアリアがゾンビの様に起きあがる。
「へへ・・へ・お・・おちゃ・・・お茶!!」
ロックが持ってきた茶葉に飛び付き香りを貪る。
「うっ・・・」
ミチが小さい悲鳴をあげる。完全に中毒患者のような行動にシエラ以外の者が絶句する。ドラ子は気絶している。
「お宅のお偉いさん大丈夫か? こりゃジャンキーにしか見えないぜ・・・」
「大丈夫です。すぐに直ります。」
そう言うとシエラがアリアの第2頚椎辺りを人差し指で突いた。
「あだぅあ!!」
びくりと体を震わせながらピンピンに立ち上がり硬直した。
「わ・・私は何を!?」
我に返ったのか辺りを見回しシエラの冷たい視線で何かを察したのかゆっくりと椅子に戻り行儀良く座った。一瞬恐怖に包まれた部屋の空気は最悪だが、見なかったことにしたロックがお茶を淹れ始める。
「このポットは火の魔石が使われていて少し魔力を込めれば保温や再沸騰ができる優れものなんですよ!」
当たり障りのない所から会話を再開しようと話題を提供してくれたらしい。やはり気の利く大人は違う。
「便利そうだけど高そうですね。」
とりあえず乗っかっておく。
「これは冒険者だった頃にダンジョンで手に入れたんです。それ以来愛用しています。実は蓋に水の魔石が埋め込まれていまして水汲み要らずなんですよ。」
そう言って蓋を裏返して見せてくれた。それには5㎝ほどの深い青色の宝石が取り付けられていた。水の魔石を持った魔物は複数いるが、大きめの魔石は100年以上生きたヴォジャノイという魔物から剥ぎ取る方法が一般的だ。たしか巨大な水の魔石を保有するアクアテロワールという国の廻りに生息していたはずだ。
「それいいですね! 決めた。次はアクアテロワールに行く。」
「ヴォジャノイの討伐ですか? あれは数が減りすぎて認定冒険者しか討伐できませんよ。」
先回りした答えが返ってきた。鍋の蓋に取り付けて何とも便利鍋に改造しようと思ったのだが・・・ ヴォジャノイがダメならアスピドケロンにしよう。ヴォジャノイよりもはるかに強いがこっちなら一般人には見つけられない。保護対象になるほど狩られてはいないだろう。
「それじゃあアスピドケロンで間に合わせます。あれならヴォジャノイよりも良い魔石が取れるでしょう。」
「残念ですがあれはアクアテロワールで神の使いとして信仰の対象です。それを知ってかその周辺にしか姿を現さなくなったそうです。」
「そ・・それじゃあ皆さんはどうやって水の魔石を手に入れているんですか?」
「ケルピーの魔石を大量に加工へ出すか、値段の吊り上がったヴォジャノイの魔石を買うしかありません。もっとも魔石入りのケルピーはそうそう巡り会いませんが・・・」
「お・・おぉう・・ ま、まぁ水属性の魔物ならなんとかなるでしょう! そのうち手に入れます。」
それぞれに紅茶が行き渡ると、アリア、シエラ、ウルダは談笑しながらお茶を楽しんでいる。ミチは一定のリズムでお菓子を食べ始め、リスのように頬を膨らませている。アリアは無くなっていくお菓子を補充しながらウルダの話に大袈裟に驚いたり笑ったりと忙しそうだ。ウルダの楽しそうな姿にロックが目を細める。昨日の今日であるから心配であったのだろう。こいつら全員寝てないのに元気だな。
「安心とはいかないでしょうけど、コルビー君とウルダちゃんなら何とかやっていけるでしょう。強力なお供もプレゼントしますから。」
「お供・・ですか?」
不思議そうな顔のロックに空間魔法から宝石を取り出して投げて渡す。ロックはまじまじと眺めて物を確認していたがわからなかったようだ。
「その宝石はここにつく前に倒したゴーレムのものです。術式を組み換えて二人の旅立ち前に仲間としてサポートしてくれるように調整します。町中を歩いても違和感ない姿に仕上げますよ。結婚祝いです。」
驚いたような表情を浮かべてロックがつぶやく。
「あの規模の賊を鎮圧してスカルドラゴンを素手で殴り飛ばし、ゴーレムまで作製する・・・ジョンさんは本当に何者なんですか?」
「魔王・・」
「お館様。」
何も考えずに出てきた言葉をミチに制止される。
「すみません。忘れて下さい。えー・・・」
「お館様はまだ冒険者登録もしていませんから・・・」
「む・・無職です・・・!」
ロックが噴き出すのと同時に、こっちの話を聞いていたのであろうアリアが爆笑する。
「む・・無職を笑うんじゃない! 働きたくても働けない人だっているんだぞ!? 」
「しまった。その通りだわ。でも馬鹿正直に答えなくても元勇者とか聖騎士とかあんたのスキルなら何とでもなるでしょ? お金はまぁ・・・私が延棒に戻してあげようか? そうすれば使いやすくなるしロックの負担も減るでしょ。」
「できるのか!?」
「私を誰だと思ってるの? この世界の女神様よ! 畏れ敬え! 手数料は取るけどね? 」
「そこは取るのかよ! 」
アリアがチッチッチと舌を鳴らしながら右手の人差し指を左右に振る。
「お布施って言葉知ってる? 神も暇じゃないわけー」
「いや!どう考えても暇だろ!? お茶をたかりにここまできてるんだから!」
「別にやらなくても良いのよ? 私が困ってる訳じゃないし。」
「すみませんお願いします。」
「よろしい。手数料は一割に負けといてあげる。」
「いや結構取るな!?」
「嫌なら・・」
「お願いします! 一割で大丈夫です。」
後ろでロックが笑いをこらえているが、背に腹は代えられない。ロック一家にはこれ以上負担をかけるのも申し訳ない。手数料が高いがこれで買い物ができる。コルビーとウルダにも現金の選別が送れる。あって困るものじゃない。
「ま、これで小金持ちになったんだからじっくり観光でもしたら良いじゃない。彼女に美味しいものでも食べさせてあげなさいよ。」
「まかせろ。この旅はそれが目的だからさ。でもあんまり舌が肥えたら嫁に出すときに大変だな・・・」
「え? あ・・そう・・ まぁ、頑張ってね! とりあえずもう金には戻してあるからあとは好きにしてね。延べ棒は使い難いだろうから細切れにしといたからどこでも換金できるでしょ。」
「あ、ありがとう・・・ まだ取り出してもいないのにできたのか?」
「私を誰だと・・・」
「ありがとうございます女神様!!」
「よろしい! 不純物は分けてあるからそっちも適当に換金しなさい。まぁ銅とか鉄だから大した価値もないだろうけどね・・・」
気になってその場で空間魔法を開き中を確認してみる。小分けにされた金の粒が入った黒い袋と、鉄と書かれた袋、銅と書かれた袋に分かれていた。割合としては金が半分。もう半分が鉄、銅で半々といったところだ。
「あー・・・ これじゃあ分ける手間がかかるわけだ。鉄が混ぜてあったら錆びるよなー」
「この程度の文明じゃ大変な訳よ。だから価値が低いわけー。」
変に納得してしまった。詳しくは知らないが融点の違いや触媒などで分離させるらしい。錬金術のようなスキルを持った人間もいるようだが、見つかると鉱山で飼い殺しにされるらしく親が隠してしまう。そういった理由で抽出や還元などの技術が手軽に使えないそうだ。
「どこいってもブラック企業はあるもんだな・・・」
「当たり前でしょ。経済なんて誰かが犠牲にならないと回らないんだから。」
「嗚呼、女神様! あなた様のお力で世界を平和にお導き下さいませ!!」
「方法は無きにしもって感じだけど断る!! 人間の可能性がある限りは自由主義! 可能性が無くなったら最初から始めるわ。」
とてつもなく黒い笑顔で断られた。
「えげつなー」
「だから、あんまり介入したら妄想と変わらないからー 私は彼らの物語を、生きる意思を見たいわけ。もちろんこいつクソだなーってやつもいるけど、そいつが上手いこと破滅するとスカッとするじゃんか!」
「そういう奴こそ長生きするけどな。」
「ほんとそれ!あんまり腹が立つ時は肩入れして失脚させるけどね!」
この女神本当に趣味が悪い。介入する理由が腹立つかどうかなんて曖昧な基準
「違う違う! ある程度管理しないと全滅するんだって! 大戦とか疫病で大量に死ぬとバランスが崩れるからなんだよ!」
なんだか必死に言い訳をしてくるが、仕組みを理解していないためわからない。
「だから心を読むな! 先回りして言い訳をするんじゃない!」
「だってー・・・ こんな話をできるのはシエラか君しかいないわけー・・・ なんていうか、こう・・・ ね!」
「そこで面倒くさがるんじゃない! 他にも加護を与えた者が居るって言ってたじゃないか。そいつらには話さないのか?」
「彼らはあくまでこの世界の生まれだからね。君みたいに移入した子はもう死んじゃった。アレックスに気に入られて寿命の概念から外れたのは本当に運が良かったわ!」
「誰だアレックス!」
「あぁ、君が倒した魔王の名前。君の名前を奪って君の世界に転生して品行方正、幸せに暮らしてるよ。彼女が出来たみたい。」
「うん。最後の情報要らない。最後の情報要らない!!」
「そう僻むなってー! ミチちゃんがいるじゃない!」
「ミチは娘だからなー。」
「アリスにする? 顔は可愛いし浮気しないよ? 」
「・・・。 違う! 向こうにも選ぶ権利があるだろ!?」
「あらやさしー! 拳で黙らせた男の言葉とは思えないわー!」
「緊急事態だったんだよ! 思いの外派手に出てきたもんだからー! ちゅーか、いつから見てたんだよ!」
「あんたがよもぎ茶飲みながらウキウキ気分で旅の準備してたあたりから。」
「全部かよ! プライバシーを返せ!!」
「大丈夫大丈夫! あんたの情事が始まったら見ないであげるからっ! そこはほら! ちゃんと配慮してますから!」
「そうじゃない! 四六時中見られてるとか正気の沙汰じゃないだろ!? 」
「貴方の全てが知りたいの・・・ ダメ?」
「だめ。」
「だって絶対なんかやらかすでしょ!? 見逃したくないー! 女神の寵愛を受けなさい!」
「暇潰しだろ? コルビー君の方が絶対王道だと思うぞ?」
「友達を売るのかい? なかなか薄情じゃないか! でも王道なんて何回見たか!! あんたみたいに結局残念賞の方が面白いわけよ。色物っていうかなんていうか・・ね?」
「ね?じゃねぇ! 俺が目指しているのは気ままな観光旅行だ!なんでも首を突っ込むと思うなよ!」
「いやーん! でも結局巻き込まれて最終的にどうでもいい結果になるのが見える! たまんない!!」
「落ち着け! 何を求めてんだよ! 」
「勇者様が魔王を倒してお姫様とハッピーエンドなんてもう飽きたのよ! そんなのゲームで充分よ! 私はもっと人間臭い・・結局誰が得したのか、救われたのかわからない話をあーでもないこーでもない言いながらシエラとお茶を飲むの!! それには物欲も枯れたあんたが丁度良いの!・・ね?」
「ね?じゃねぇ! 見られてるってわかりながら日常生活送れるか! 自分がやられて嫌なことは人にやっちゃだめって言われなかったか? 物欲だって枯れてねぇ!」
「まぁ、駄目って言われてもね。見えちゃうから!」
駄目だこの女神聞く耳を持たない。いくら抗議しても疲れるだけだ。
「わかってくれてありがとう! 期待してるからどんどんトラブルに巻き込まれて頂戴ね!」
「だから心を飲むな! それと、わざわざ巻き込まれるバカがいるか? あくまで観光旅行だ! アリアが満足するようなことは無いと思うぞ? 」
「よしよし!全然おっけー! 言質が取れたからそろそろ帰るわ! こう見えてほんとは忙しいのよ。無秩序な異世界召喚を未然に防ぐため日夜頑張っているわけー! あんまりやられるとまた世界が消えちゃうから。それじゃあまたね!」
さらっと気になる点を言い残しアリアが消えた。それを見てロックが目を丸くしていた。やはりただの痛い娘だと思っていたらしい。
「あら、アリアさんも落ち着かない人ですね。せっかく料金を支払ったんですからゆっくりしていけば良いのですが・・・ まぁ主人を放っておく訳にもいきません。私も戻ります。」
そう言うと、シエラはカップに残っていた紅茶を飲み干して立ち上がった。本当に嵐のような連中だ。
「ま・・またお二人に会えますか?」
ウルダは二人を気に入ったようで別れを惜しんでいる。少し不安そうな顔でお伺いをたてた。
「アリアさんならお茶でも準備して呼べばきっと文字通り飛んできますよ。」
にっこり微笑みながらシエラが答える。顔だけ見ていれば美人だが、普段は面倒臭がりのお菓子好き。女神よりも長生きらしいが見た目からは全くわからない。
「ご馳走様でした。それでは皆様ご機嫌よう。」
シエラは手をひらひらさせながら霞のように消えていった。ウルダはまた会えるとの言葉を聞いて嬉しそうに手を振り見送った。ミチは残ったお菓子をひたすら食べ続けている。あの細身のどこに消えていくというのだろうか。
「本当に女神様だったんですね・・・」
ロックが驚きを隠せない表情でつぶやく。
「信じられないでしょう? 俺が召喚された時にも同じ思いでした。」
「召・・喚・・・?」
「あの女神が隠す気なかったんで言っちゃいますが、俺は召喚勇者だったんです。創命の魔王を倒すために呼ばれたんですが・・・ 倒した後に呪い?を受けまして寿命が無くなったみたいなんです。それから500年うろうろしてました。」
ロックが何とも言えない表情を浮かべて、何かを言いかけるが言葉にならずを繰り返しぱくぱくしている。
「まぁ胡散臭いとは思いますがさっきの女神と同じで証明するのは難しいです。どう捉えて貰っても構いません。」
「え・・炎帝ヴァルガス!!?」
「ちょっ!! やめて! なんでそんな名前知ってるの!?」
「おとぎ話の英雄ですよ!! 毒龍の瘴気を炎で焼き尽くし国を救い、炎王と呼ばれたヴォルケーノドラゴンを屈服させて世界を救った伝説中の伝説! スカルドラゴンを殴り飛ばし回復魔法を使いこなすなんて信じない訳にはいきませんよ!」
渋めのナイスミドルが子供のようにはしゃぎ、声を荒げる。
「や・・やめてー・・・そんな目で見ないでー・・・」
「すみません! でも冒険者を目指したものなら誰もが知っている話です! 伝説が目の前に居ると思ったら・・・! やはり伝承は正しかった!!」
「伝承? なんて伝わってたんですか?」
「はい! "魔王を倒した勇者は暗君コズルイデス三世にその力を恐れられ、追っ手を差し向けられます。それはかつて共に戦った仲間。勇者は彼らに自らの聖剣を託し再び世界が闇に包まれる時、それを払うために帰ってくると伝えて姿を消した。"と言われています!」
絵本を見た子供のような顔で説明してくれた。大人がこんなに純粋な顔ができるのかというほどのキラキラした目に申し訳なさすら覚える。相当脚色されて原型がない。
「炎帝が復活したと言うことは何かが起こると言うことですか!?」
「違います! ただの旅行です! 200年くらい引きこもってたので世情に疎くて。ところで銀狼族って知ってますか?」
ロックはこちらの返答に少しがっかりしたような顔をした。だが、詮索されるのはあまり好きではないため話題を逸らすために銀狼族について聞いてみる。
「あ、えぇ、銀狼族なら10年位前に来ましたよ。時折やって来てはしばらく滞在して帰っていきます。恐ろしい程の美人で話題になりました。言われなければ人との見分けがつきませんが、強さの次元が違うことだけはわかります。それからは来ていませんから、訪れる街を変えたのかもしれませんね。」
ノアも街に来る時は人化の術を使っていたようだ。わざわざ名乗っていたのは不思議ではあるのだが。
「ミチ、何でノアさんがわざわざ種族を名乗ったかわかるか?」
ミチの方に向き直り声をかけたが、話を振られるとは思ってもいなかったようでもごもごしている。何もそんなに詰め込まなくてもと言うほどお菓子が詰め込まれた頰はパンパンだ。慌ててお茶で流し込み、ようやく喋り出した。
「・・・すみません! 聞いたことがありません。ただ、母様には騙す様なことをするな、とよく教えられました。きっとそういうことではないかと・・・」
「あー、まぁノアさんらしいな。」
「もしかしてそのノアさんは左目の下に泣き黒子がありませんか?」
ロックが興味ありげに聞いてくる。しかし、泣き黒子があるかどうかは全くわからない。銀狼族が人化できると知ったのも塔を出る直前だ。そもそもミチとドラ子以外の人化を見たことがない。
「友人なんだけど・・・ ミチー、ノアさんは黒子あるのか?」
「あります。左目の下に。おそらく母様のことで間違いないかと。」
「それはちょうど良かった! 街に来られる時は当宿を使って頂きましたが、以前いらっしゃった時に忘れ物をなさいまして。連絡手段がないためずっとお預かりしていました。取ってきますので待っていて下さい。」
そういうと急ぎ足でロックがフロントの方へ消えていった。ミチはまた残されたお菓子を食べ始め、ウルダはそれを眺めながらお茶のおかわりを淹れたりミチの落としたお菓子の掃除をしている。これではどちらが年上かわかったものではない。
「ミチー、後でいいから人間のマナーも覚えような?」
ミチに目配せして世話をしてもらっていることを示唆する。不思議そうにキョロキョロしたあと理解したのか肩をすぼめて詫びを入れた。
「・・・すみません・・」
「私が勝手にやっているんです! 謝らないで下さい!」
ウルダは優しく微笑みながら作業を続けている。今度はどこから出したのかブラシを取り出してミチの長い髪をとかし始めた。ミチの髪は綺麗なのだがブラッシングなどしていなかったためボサボサだ。時折何かをつけながら櫛を通すと艶が出てまるで輝いているようだった。
「ウルダちゃんそれは何をつけてるの?」
「流行りのトリートメントです! 黒スライムが原料らしいですが使うと髪が潤って綺麗になります。透明なので髪色も選びませんし、油よりも使いやすくて人気なんです!」
ミチは気持ちがいいのか食べる手を止めてうっとりした顔で固まっている。その姿に母と妹を思い出して目頭が熱くなった。母の日に妹がお手伝い券を作って渡した時、母は髪をとかして欲しいと言った。3歳だった妹が得意げに髪をとかしていたのが浮かぶ。普段思い出さなかった昔を懐かしみ背もたれに寄りかかる。するとウルダが手を止めてこちらに歩み寄り頭を抱いた。予想外の行動に全く反応できずに避けられなかった。
「な 何してんの!?」
かろうじて出た言葉がこれだった。
「すごく悲しそうな色でした。お手伝い出来る事は私もコルビーもやります。だから相談して下さい!」
そういえばウルダは人の色がわかると言っていた。妖精なんかは喜怒哀楽も色で感じるそうだがどうやらウルダも見ることが出来るらしい。失った過去を思い出して感情が揺らいだのを感じ取って気をまわしてくれた様だ。
「き、気持ちは嬉しいけど相手を選んでくれ! 言葉だけで十分ありがたいから!! 」
すばやくウルダを引き剥がして感謝を伝える。まだ心配そうにこちらをみているが、こんなところをコルビーには見せるわけにはいかない。
「やっと解放されましたよ・・・ ウルダ、俺にもお茶くれない?」
絶妙なタイミングでコルビーが入ってきた。もう少し早く来ていたらと思うと肝が冷える。自分だけ取り乱している状況に納得がいかないが事無きを得たので良しとする。話題を変えるためにコルビーに話をふる。
「コルビー君は何してたんだ? 」
「父さんを呼びに言ったら母さんも一緒にいまして・・・ 相談もなしに冒険者になることを決めたり結婚を決めたり勝手過ぎると怒られました。いつも真面目に聞いてくれないのにこんな時ばかり母親ぶって!」
落ち着いた雰囲気の少年だと思っていたのだが年相応の顔もできるようだ。面白くなさそうにお菓子をつまもうとする。が、ミチがそっとその手を妨害する。気に入ったお菓子だったのかと思ったがその隣のお菓子も無言で防衛している。
「ミーチ。一人占めしない! 皆で食べる!」
ミチは名残惜しそうにコルビーにお菓子を差し出した。塔から出た事が無かったため人の食べ物を口にした事があまりない。俺が趣味で作った干し肉のスープやよもぎ茶くらいだったから美味しい物を独占したかったのだろう。悲しげな顔にコルビーが遠慮してしまった。
「コルビー君、気にしないで食べて。ミチ、それはアリアが持って来た物だし、お菓子だけで腹一杯にしたらお昼とか夕飯とか食べられ無くなるだろ?」
そう言い聞かせると暗かった表情が一転、キラキラと輝き出しウルダのカップにお茶のおかわりを淹れ出した。茶葉の量や温度なんかも気にせず入れるものだから大分渋い物になっているだろう。ミチが取ったダージリンは緑茶と大体似たような温度が目安だ。蒸らし時間が足りないためおそらく渋みが多く、香りの低い紅茶の出来上がりだ。それでもウルダは嬉しそうに口に運んでいる。初めてのお手伝いを微笑ましく眺める母親の様だ。コルビーもお菓子に手を伸ばしてながら二人の様子を見ている。
「お待たせしました。これが忘れ物です。」
のんびりした時間の中でロックが30センチ位の布袋を持って戻って来た。あまり質の良い布ではないが何が入っているかは外観からでは確認出来なかった。
「何が入ってるんですか?」
当然の疑問を投げかける。しかし、ロックは首を振り答えた。
「お客様の荷物を勝手に開けてはならないと思い開けていません。住んでいる場所の手がかりがあれば開けたかもしれませんが・・・ 何れにせよ娘様にお返しします。」
ロックが袋をミチに差し出した。受け取ったミチはそのままの勢いでこちらへ振り返り袋を渡して来た。持った感触と溢れる魔力から魔石だとすぐにわかった。ミチの関心が無かったのはこれが理由だろう。彼女らには魔石は身近すぎて興味がわかないのだ。ノアが街に滞在するための資金源として持って来たのだろう。獲物を狩ると取れる訳だから腐る程ある。持ち帰る必要が無い訳だ。別なものが混じっていてはまずいと念のため開けてみるが、やはり魔石しか入っていない。
「ロックさん・・・ これは差し上げます。彼女らには不要なものです。」
キョトンとしたロックが袋を受け取り中身を確認する。驚いた様でこちらを二度見して首を横に振りながら袋を返して来た。
「う・・受け取れません! これだけ透明度の高い魔石なんてどれだけの価値があるか! 十分過ぎるほどお代も頂いていますからこれ以上は・・・」
「いえ、受け取ってください。これならいざという時にも持ち運びしやすいですし、どこに行っても換金できる。」
「どこに行っても、とは・・・どういうことですか?」
「あっ! すみません説明して無かったですね。あの女神が二ヶ月以内くらいで戦争が起きると予言しました。詳しくは教えてくれませんでしたが賊の襲撃もその影響の様です。なるべく早くこの街を離れた方が良さそうです。」
ロックの顔色が悪くなり少し落ち着きが無くなる。しかし、すぐに冷静さを取り戻して考え込む。予想外にこの突拍子も無い話を信じてくれた様だ。ちょっと不安になるくらい人が良い。
「ここの防衛能力は魅力的です。橋頭堡として手に入れれば有利にことが運ぶ・・・ 事を構えるなら先に手に入れておきたいところです。盗賊騒ぎを死霊術で煽った者もいます。遅かれ早かれこの街は変わるでしょう。良くなるか悪くなるかはわかりませんがね。」
住んでいる人の方が詳しいだろうが一応自分の見解を述べてみる。前線になればまともな生活は送れない。中心街から離れてはいるが大きな建物はいかようにも使い道がある。接収されても代わりの家が準備されるわけでは無い。それに冒険者の経験があるロックはもちろん、スキールも徴兵されてしまう可能性がある。おそらくここの領主が隣国から良い条件を引き出そうと交渉し失敗、痺れを切らしたどちらかが動いたのだろう。
「・・・少し・・家族と相談して来ます・・コルビー、ウルダもいいかな? 」
深刻な顔のロックを見て談笑していた二人の表情も曇る。家族会議に参加するのも気か引けるためミチを連れて出掛けよう。
「ミチ、少し出てこよう。」
「はい、お館様。」
「ロックさん、俺達は出掛けてきます。明日の夕方には帰るのでコルビー君とウルダちゃんの結婚・成人パーティーは明日にしましょう。今日はゆっくり休んで下さい。」
「お客様を閉め出す訳には・・・」
「領主が行政を機能させれば、焼き出された人達の受け入れ要請があるかもしれません。少しでも休んで下さい。」
ロックがこめかみを押さえる。いくら能力の無い領主でも領民をないがしろには出来ない。さすがに何かしらの手配はするだろう。夜が明けて活動していたのがギルド連中しかいなかったがこれ以上後手に回れば民衆の反乱もありえる。
「・・・ありがとうございます。今日は休ませて頂きます・・」
その言葉を受けてドラ子を小脇に抱え、とびきりの笑顔で返す。とりあえず暇潰しに街の周囲を偵察し、今日の夕飯でも探してこよう。その前に調味料位は仕入れておかないとミチが可哀想だ。そう考えながら宿を出た。
進まない話、そしてまた野宿。食材は買えませんでしたが調味料は大量に大漁でした。食材買い占めだめ絶対!
震災の時本当に大変だったんですよ?




