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雷神村

作者: 最後の掃除機

時間を無駄にしたい方へ

ごぼうを避雷針の代わりにしようという村長の策は、儚くも無駄に終わった。


ごぼうには目もくれず一軒のあばら家に雷が落ちた。


そう、私の家に。


音を立てて家が燃える。


他の村民は悲しんだり悔しがったりした。中には怒鳴り散らす者もいた。


そうなるのも無理はない。


この地方では滅多に大雨が降らない。その反動か雨は恵の象徴であり、嵐をつかさどるとされる風神と雷神は村をあげて強く信仰されていた。


そして古くからの言い伝えの一つに、雷が落ちた家はその後五代は繁栄が続くというものがあった。


なので数年に一度の頻度で訪れる嵐の夜には、全ての村民が家から出て、我が家に雷が落ちることを願っていた。


私はそんな言い伝えにはさほど興味はないし村人ほど信仰もしてないのだが、不思議と嵐がくるとどこかの家には必ず雷が落ちるので、身の安全のためにも家から出ざるを得なかった。


どこに雷が落ちるかは雷神が決めるという話だが、村長は「雷神様にお供えするだ」と言ってごぼうを数本紐で縛ってつなげ、屋根の上から天に向けて高く突き上げた。


これには他の村民も黙っておらず、「抜け駆けはよくねえだ」「おら達もお供えせねばならねえ」と言ってどこの家も屋根の上にかぼちゃだの里芋だのを積み上げた。


しかし村長はそんな村民達の様子を鼻で笑っていた。


村長は避雷針というもの、雷の性質というものを心得ていたからだ。


「雷神様はごぼうが好きだ」


口では雷神を信仰しているように見せているが、実は村長はそんな言い伝えはまるで信じていなかった。


ならばなぜ村長はわざわざ自分の家を危険にさらすのかというと、繁栄が五代は続くという話には続きがあるからだ。


これは自然と暮らしが豊かになるのかというとそんなことは全くなく、他の村民全員で雷神に選ばれた村民、「来人」の暮らしを支えるのだ。


まず来人の家を建て直すのは勿論のこと、前よりも大きな家を建てる。


そして村民達がそれぞれの畑で収穫した作物の2割を来人に収める。


来人はたとえ不作の年であっても一定の蓄えを得られているため、暮らしに困ることがないのだ。


だからみんな来人になりたがっており、私が選ばれたことに多くの村民が頭を抱えているのだ。


「なんでこいつの小屋に落ちるかなあ」


「メカジラフが来人に選ばれるだなんて聞いたことがねえ」


「んでも、雷神様の神託にケチをつけるわけにもいけねえしなあ」


村民達は話し合い、その結果しきたりの通り私を来人とし、次の神託のときまで村をあげて暮らしを支えることになった。


「それでいいなあ村長」


刃物研ぎのHA-MOが村長に同意を仰ぐがしかし村長の返事はなかった。


「あ!あそこにいるよー!」


子どもが叫び指差す。


村長は私の家の中にいた。村長と目が合うと、彼はニヤリと笑ってドアフィルターを閉じた。


その後フロントモニターに大きく村長の顔が映し出される。


「悪いな、メカジラフ。この家は俺のものにする。そうすれば俺が来人だ」


村長の高笑いが響き、それに負けない勢いで村民達は非難の声を浴びせた。


「ダメだ、ありゃORGシステムを起動してるな」


「外からじゃ何もできねえぞ」


最後の村民が石を投げるのをやめたとき、メカジラフハウスは大爆発を起こした。


大爆発は一度だけではなく連鎖して起こり、その度に爆発の規模は大きくなっていった。


「村長は自分の家にサクリファイスゲートを設定してたからなあ」


「メカジラフハウスにとっちゃあ部外者の村長は保護対象外だ」


村民達はそれ以上、村長がどうなったかについて語らなかった。


私と村長は同じ大学で自然力学について学んでいた。だから村長と私は自然については同等の知識があった。


だが、私は機械であり同時にキリンでもある。なので機械の知識もキリンの知識も持って生まれている。


普通の人間の村長は機械に雷が落ちるとどうなるかということまでは知り得なかったのだ。


知識を持つということは己の身を守ることにつながるのだと、そう思った。


「ヤッパリ、チシキ、ヒツヨウ」


「おっ、メカジラフが喋ったぞ」


「やっぱ国立大学の出は喋り方にも品があるなあ!」


「よーし!みんなでメカジラフを胴上げだ!」


「制御パネルには直接触れるなよ」


「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」


みんなも入ろう、国立大学。




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