人造人間は人の夢を見るか?
A氏は昨年、事故で愛しの妻を失った。
止まる事のない悲しみから逃れたいあまり、彼は法律で固く禁止されている人造人間を製造してしまっていた。A氏にとっては法律を破るというリスクよりも、再び妻と共に過ごしたいという思いが強かったのだ。
ロボットに記憶を吹き込む形で製造される人造人間は、ロボット自身が機械であることを気づくことができない。そのためA氏の国では人造人間を作る事は道徳の関係上重い罪に問われる事になっていて、発見次第すぐに処分されてしまう。もちろんこの妻の形をした人造人間もその例外ではなかった。
この妻は自分が実はロボットだとは気づいていないし、他ならないA氏もそのことを忘れかけていた。
「あなた。今日もお勤めご苦労さま」
「あぁ。お前もいつも家を守ってくれてありがとう」
そして今日も愛しの妻の為に必至で働いてきたA氏は、こっそりと買ってきた高級なネックレスをポケットに忍ばせながら、夕食の席についた。
「あらあなた。どうしたの? 今日はなんだか嬉しそうじゃない」
「ははは。君だって今日が何の日かわかっているくせに」
「あら。なんのことかしら」
「とぼけないでくれよ。今日は僕たちの結婚記念日じゃないか」
A氏がポケットに忍ばせているネックレスは大枚を叩いてカードで買った一品だ。彼は何より愛しの妻に愛しているという気持ちを伝えたかったのだ。
そんな彼を見て、妻は心の底から嬉しそうに微笑んだ。その笑みは彼の心を底から癒し、さらに妻が人造人間であるということを彼の記憶の奥底に封じ込めた。
「いつもありがとう。愛してるよ」
「あなた……。私もよ。ありがとう」
A氏は買ってきたネックレスを妻の首にかけてやった。嬉しそうな妻の顔を見ているだけで、彼は鼓動が高鳴るのを感じた。
しかしその時、無粋にも二人の愛を引き裂くかのようにA氏の家のインターホンが鳴った。A氏はこんな時間に何事かと憤りながら、席を立った。
しかし、A氏が立ち上がったその瞬間ドアが蹴破られ、重々しい武装に身を包んだ警察官達が彼の家になだれ込んできた。
「な、なんだなんだ。一体なんのようだ」
驚きといら立ちを隠せないA氏に向かって、突入してきた警察官は即座に持っていた銃を構え、発砲した。A氏はそのまま銃弾を受けて倒れ込み、妻に支えられながら後ろに倒れ込んだ。
A氏は心の中で妻に謝った。すまない。隠し通せなかったからこんなことになってしまった。と。
そして薄れゆく意識の中、警察官は妻に向かって口を開いた。
「あなたを人造人間製造の罪で逮捕します」