21.終わりの日
クロック・ロックの喪のような時期も明け、何事もなかったかのようにラジオもテレビ出演も再開された。クロックが通常営業に戻るのを待っていたかのように、ある日の夜遅く、マスコミ各社に一通のFAXが届いた。
翌朝のスポーツ新聞の一面には、一斉に「灯也」の文字が大きく踊った。
「広瀬灯也【クロック・ロックボーカル】訴えられる」
「クロック・ロック灯也、妊娠訴訟」
「前代未聞 妊娠訴える 広瀬灯也衝撃」
各紙、蓮井まどかのFAXを全文掲載して報道した。
『前略 このたび、私、蓮井まどかは、クロック・ロックボーカルの広瀬灯也さんを損害賠償請求という形で裁判に訴えることにいたしましたのでご報告させていただきます。
内容は、私の妊娠による、仕事に与えた損害に対する責任の共有です。
妊娠は恋愛関係の結果であり、双方の責任にて処理されるべきことと思います。
しかし現実は、仕事を失ったり、産むにしても中絶するにしても肉体的負担を強いられたり、イメージダウンを余儀なくされたりと、女の側だけが不利を背負うことになります。この現状を解決すべく、また同様の損害をこうむる女性がこれ以上出ることのないよう、私は敢えて裁判という手段をとることにしました。
状況については逐一報告いたしますので、過剰な報道等は控えていただきたいと思います。お腹の子どもに危害の及ぶようなことのないよう、マスコミ各社の温かいご配慮をお願いいたします。 草々 蓮井まどか』
灯也の自宅、クロック・ロックの所属事務所前にはマスコミの人だかりができた。しかし、すでに灯也は自宅にいなかった。事務所は「訴状を見ていないので…」を繰り返すのみで何もコメントできずにいた。葬儀の後に落ち着きを取り戻したばかりの周の実家、里留や孝司のマンション、その他あらゆるところにマスコミが押し寄せた。
事務所も、メンバーも、とにかく灯也に事情を聞こうと必死になった。しかし、灯也に連絡はつかなかった。
ワイドショーは灯也の家の前からも遠慮なく中継を送った。番地がわからないような配慮はされていたが、明美は学校に行く支度をしながら朝のニュース番組でその映像を見て、それが自分の知っている「灯也のマンション」ではないことを不思議に思った。
明美はしばらくぼんやり眺めていた。一体、何のニュースだろう。なぜ、灯也がこんなに騒がれているのだろう。明美は朝の支度をしながらテレビを流し見していたので、ニュースの冒頭部分を聞いていなかった。
『それでは一度、スタジオにお返しします』
リポーターの興奮した声が響き、一気に冷静なスタジオに画面が切り替わった。
『それにしても、今回の、こういったことは、前代未聞ではないでしょうか?』
『そうですね、そもそも、事務所がこんなことをやらせるはずがないでしょうしねえ。蓮井まどかの側の事務所のコメントは、どうなっているんでしょうか?』
『えー、それは、このあと9時から記者会見が開かれる予定になっています』
明美はTVの前から動けなかった。蓮井まどか…よく覚えていないが、割と綺麗な女優さんだったと思う。広瀬灯也の自宅前からの中継の後、蓮井まどかの事務所の記者会見…。
最初に出てきたのは、結婚という言葉だった。だが、普通の結婚発表であればこんなにあわただしい芸能報道にはならないはずだ。それなら、出来ちゃった結婚だろうか…。
(…私のキスは?)
明美はいつまでも居間に立っていた。母親が気付いて、頓狂な声をあげた。
「明美ちゃん! 何やってるの、学校に遅れるでしょ! ニュースは、ママ、見といてあげるから。どうしても見たかったら、ビデオとっとくから」
ビデオじゃダメだ。どうしても、どうしても見なければならない…。
明美は駅までの道の途中に電気屋さんがあることを思い出した。学校の帰りにはいつも、そこに並んだテレビの画面を横目で見ながら歩く。そこで見るしかない。
単なる熱狂的ファンなら母親を押しのけてもTVにかじりついたところだが、明美には母親に悟られてはいけないことがありすぎた。明美は急いで家を出て、そしてその瞬間に気がついた。まだ朝の8時…電気屋は閉まっている。ニュースが見られない…。
練馬駅改札の手前の売店で、明美はすべてを知った。
『妊娠訴訟』
そんな記事の踊るスポーツ新聞を買う勇気はなかった。でも、見出しだけで十分だった。
朝10時、すべての店舗がシャッターを開ける頃、明美は池袋の家電量販店にあるTVコーナーに立っていた。
ワイドショーは、まず前夜にいきなり蓮井まどかからFAXが流れてきたこと、そしてその内容を報道した。それから、9時に行われたという蓮井まどかの事務所の会見をダイジェストして放送した。
『蓮井まどかに関しては、丁度移籍の話が進んでいた矢先でしたが、今度のことで完全に白紙となり、当事務所としても大変遺憾に感じております。移籍をふまえ、蓮井君には契約更新をしない旨をお伝えしておりました。とはいえ、現在はまだ当事務所に籍を置いていることは間違いなく、このような事態となったことには大変責任を感じております』
完全に棒読みの、他人事にすぎない会見だった。もうすぐ契約が切れて無関係になれるから、時間さえ稼げばいい…そんな印象だった。
ワイドショーはわかりやすいフリップを作り、経緯を簡単に解説してくれた。
『FAXにあるとおりとすれば、広瀬灯也さんと蓮井まどかさんは恋愛関係にあり、その結果として蓮井さんが妊娠したということですね。蓮井さんはこの妊娠により、事務所の移籍が白紙になってしまい、事務所の会見では、現在撮影中だった写真集も、お腹が目立ってくる時期の撮影はできないということで、発行が宙に浮いてしまった。蓮井さんにしてみれば、写真集は出せない、移籍はできない、今の事務所との契約は終了と…最悪の事態を迎えてしまった。それで、損害賠償請求に踏み切った…と、いうことになります』
蓮井まどかはFAXを流したあと、所在不明になっていた。広瀬灯也も、マスコミがFAXの第一報を受け取った時点ですでに所在不明になっていた。あとは、クロック・ロックの事務所の広報が「訴状を見ていないので…」と繰り返しながら車に乗り込んでいく映像が繰り返されていた。
明美は針でそこに刺し止められてしまったように、じっと動かずワイドショーを見つめていた。
(蓮井まどかと恋愛関係にあり、その結果の妊娠)
『それにしても、事前に事務所を通して話し合いとか…いや、交際中なわけですから、本人同士で話し合いをするとか、そういうことができなかったんでしょうかね?』
『広瀬灯也と蓮井まどかは交際していないという話もあります。妊娠はもう4か月に入っているという情報がありますので、今日、この瞬間に恋愛関係である必要はないわけですし、そもそも、実際に妊娠に恋愛が伴うかどうかは別ですしね』
明美は「妊娠何か月」の計算の仕方を知らず、単純に4か月前にまどかが妊娠したのだと思った。今は2月…1月、12月、11月…。
(妊娠したのは、11月…。初めて、灯也くんが家に招待してくれたのは10月だ…。体育の日なのに雨だったからよく覚えてる。そして、連絡が途絶えて…。連絡が途絶えたのが、丁度11月だ…)
明美の中で、勝手にパズルが組み上がっていく。
(11月、パソコンが壊れてたとか言って連絡が来なかった…)
次に灯也に会ったのは12月、つまり、11月がまるまる空いている。
(蓮井まどかと恋愛してたから…私のことなんか、相手にしなかったんだ…。でも、12月にまた会ってくれたのは、蓮井まどかとのこと、終わってからってことじゃないのかな…。それは、うまく考えすぎかもしれないけど…)
ワイドショーも言っていた。この状況でも、今日、この瞬間に恋愛関係である必要はないと。
『妊娠に恋愛が伴うかどうかは別』――それはいいことではないけれど、大人の男の人には、そういうこともあるのかもしれない。明美は自分に言い聞かせた。
まずは帰ろう。メールを見よう。明美は家電量販店を出た。
(ホントは恋じゃなくても、そんなの元々、可能性なかったんだし…。でも、もし。もしも恋だったら、失っちゃいけない…)
帰ると、家の中は誰もいなかった。明美は居間のTVをつけたが、そのまま自分の部屋に行ってパソコンを立ち上げ、メールをチェックした。灯也からのメールはなかった。そして、カバンから携帯電話を出し、握りしめて居間に戻った。昼の番組はまだニュースをやっていた。だが、しばらくしたらまた芸能ニュースがはじまった。
レポーターが見知らぬマンションの前で叫ぶ。
『以上、広瀬灯也さんの自宅マンション前からお伝えしました』
(灯也くんち、ここじゃないよ…)
明美は思った。場所が特定できないように配慮はしているが、マンションの感じはわかる。「灯也の自宅」と報じられたマンションは広すぎるエントランスをもつ贅沢なつくりで、明美が知っている路地裏のマンションとは違っていた。
(…行ってみようか…。灯也くんのところへ…)
もしかしたら、マンションを2つ持っているのかもしれない。例えば、自宅を知られないために、表向きの自宅を用意してあって…。自分が知っているのは、「本当の自宅」…。
(でも、こんな時に行くのって、無神経かな…。嫌われるかもしれない…)
携帯電話を握りしめる。灯也からの着信はない。時々立って、メールチェックをしに行く。メールも来ない。明美は、ワイドショーが終わるまで家の中をウロウロしながら、灯也からの連絡を待ち続けた。
それから3日が経ち、事態は悪くなっていった。灯也の元恋人の女優がもう一人、「だったら、自分も損害をこうむった」と発言し、別の元恋人のモデルが「自分はお金は請求しない、他の女性たちは卑怯だ」とコメントした。どちらも、スキャンダルでもいいからニュースがほしいクラスの芸能人だった。さらにその騒動を見かねた蓮井まどかがマスコミの前に姿を現した。
「便乗して売名行為を始める人が現れるなんて思ってもみませんでした。本当は事前に広瀬さんと二人で相談したかったんですが、本人には連絡がつかないし、事務所を通しても、クロック・ロックのメンバーを通しても話をさせてもらえませんでした。ちゃんと話をさせてもらうために、訴訟という形でお話をするしかないと思っただけです。今も、広瀬さんからは連絡がありません。結論を出すなら時間がないので、連絡を待っています」
灯也は姿を現さず、連絡もつかないままで、所属事務所は頭を抱えていた。里留、周、孝司は都内のホテルに缶詰にされ、仕方なく里留の部屋に集まっていた。
「いつかは来る…ような気はしてたけどね。…いざとなると、なんとも言えないね」
孝司があきらめた軽い口調で言った。里留が周に向かって謝った。
「ゴメンな、おまえはまだ、こんなことに振り回されてる場合じゃないのにな」
周は眼鏡をあげるそぶりをして、眼鏡をかけていなかったことに気付いた。
「いや、…意外と、人生ってこんなもんかな…って思ってる」
「…灯也も、連絡してこないと、泥沼になるだけなのにな…」
全員が片手に携帯電話を握りしめ、灯也からの連絡をずっと待っていた。
灯也が責任を取って結婚しても、示談して堕胎させても、どっちにしてもマイナスに違いない。里留は、まどかが必死に灯也と連絡を取りたいと言ったときに無視したことを後悔した。一瞬「孕ませたのか?」という不安はよぎったが、「まさか」と一蹴してしまった。
ノックがあり、里留がドアを開けると、織部が立っていた。
「…ああ、織部さん」
里留の声に、周と孝司が顔を上げた。
「新しい内示があったよ」
織部は厳かに言った。
「クロック・ロックのプロデューサー…4月からも、俺がやるよ。今、…換えるわけにいかないだろ」
織部が部屋に入り、里留はドアを閉めた。四人は重い空気の中で灯也を待っていた。
明美は、灯也の発表があった日だけ学校をサボったが、ちゃんと翌日からは学校へ行った。学校中の女の子たちが灯也の話をしていた。明美はやっぱりその群れには一切加わらず、自分の席でじっとしていた。
(灯也くん、芸能界から消えちゃうんじゃないのかな…。こんなにいろいろ言われて…それに、…嫌でも結婚するしかないんじゃないのかな…。灯也くん、結婚したいのかな…。…ううん、絶対、結婚したいって感じじゃない…)
胸が痛い。灯也には責任がある、それはわかる…でも。
(灯也くんが、結婚しちゃう…。もう会えなくなる…)
胸が痛い。どうしようもなく痛む。恋が終わってしまう。雪崩れるように灯也の思い出がこぼれる。スーツに眼鏡…白いシャツ…笑顔…いたずらな視線…。そして、髪に触れられたこと。抱きしめられたこと。そして…キス…。
帰宅して、タイマーをセットしておいたワイドショーの録画を見た。新しいニュースはなく、灯也はまだ姿を現していないらしかった。
もしかしたら、もう会えないかもしれない。結婚してしまうかもしれない。ならば今、訊きたいことがある。そして、一言、自分の気持ちを伝えたい…。
(…行ってみよう。灯也くんの家に)
明美は決意した。
灯也はウィークリーマンションで腐りきっていた。せっかくいいところまでいった明美との関係を進めたくて、周の田舎から帰ってすぐ、一気に10日分、この部屋を予約しておいた。仕事が多少空きそうな日を見計らって、いつでも明美を呼べるように。
たまたま夜に食器などを運んできて、ついでにウィークリーマンションのほうに泊まった日に蓮井まどかからのFAXがマスコミを震撼させた。灯也は朝、TVをつけて状況を知った。すでに大量の着信を示していた携帯電話の電源を慌てて切って、誰からも居場所を突き止められないようにした。食料は、幸い、長居するつもりだったので多めに買ってきていた。メンバーや事務所に連絡をしなければいけないことはわかっていたが、声だけ聞かせて済む問題ではない。自分がどうすべきか、まずは、決めなければならなかった。
まどかは示談のようなことを言っている。二人の子供なのだから、生じる損害を平等にシェアすべきだという。だが、わかりました、お金は払います、あとは堕ろしてください、で済むはずがない。倫理的にそんな理屈が通らないことは百も承知だったが、灯也はやはり、どうしても「子持ち」になることを自分自身で認められなかった。
まどかは芸能界で生きていくため、「危ない日」は必ず拒んでいた。それは交際中の約束でもあった。そういう暗黙の了解で努力していた結果、失敗したとして…それは、「男の責任」なんだろうか? 世間的にどうであったとしても、元恋人同士の「つきあっていた頃のルール」はたがえていない。
けれど、そんな風にまどかを責めても、世間が許してくれるわけじゃない。でも、どうしても覚悟ができない。結論が出せない。灯也はぼんやりと自分のニュースをTVで見ながら、ぐるぐる回るだけの悩みの渦を泳いでいた。
その時、鳴るはずのないチャイムが鳴った。灯也ははじめ、あまりに大きな空耳かと思った。ぼうっとしていると、もう一度鳴った。まさか、マスコミがかぎつけたのか…と焦ってインターホンの所に行くと、モニターに明美が映っていた。
灯也は慌ててインターホンを操作して入口を開けた。ここに広瀬灯也がいるなんて誰にも知られてはいけない。駅の向こう側の「本当の自宅」には、大挙してマスコミが来ている。明美をここで外に放り出しておくのは賢明ではない。
明美は静かにマンションに入った。そしてエレベーターで階を上っていった。
(やっぱり、灯也くんはこっちが家なんだ。私にはちゃんと教えてくれたんだ)
明るく考えてみるものの、灯也の部屋が近づくにつれて明美の気持ちは重くなった。
(これが、最後になるかもしれないんだ…。あの人と結婚しちゃうかもしれないんだ…)
所詮自分はファンなんだ…と思い、明美は久しぶりに淋しさを味わった。そう、元々、手の届かない人だったはずだ…。
ドア横のチャイムを鳴らすと、目を伏せた灯也が出てきて、そそくさと奥に消えた。明美は急いで入って、ドアの鍵を全部閉めた。ダブルロックに、チェーンまで、全部。
明美が部屋に入ると、灯也がテーブルに肘をついたままTVを見ていた。明美はしばらく何も言えず、ただ立っていた。
「…で?」
突然灯也がぶっきらぼうに言ったので、明美は驚いた。
「…キスまでしといて、他に女がいたのか、って? そーゆーことかな?」
そこにいたのは、明美が見たことのない無愛想な男性だった。テーブルの上の灰皿に、長いまま消されたタバコが何本も載っている。寝巻のような格好で、姿勢を崩して、乱暴なしゃべり方をしている。
「灯也くん…」
「文句言いに来たのか、せせら笑いに来たのか、ハッキリしてよ」
明美は静かに灯也と直角の位置をとってテーブルについた。灯也はふてくされたように目を伏せて頬杖をついたまま、とっくに消えているタバコをグリグリと灰皿に押しつけた。
「…会いに来たの…」
「なんで。これだけいろいろ報道されてて、なーんにも知りません…ってことはないよね。女が孕んだってことは、どーいうことか、学校で習ったよね、優等生」
「灯也くん…そんな言い方、やだ…。私、文句言いに来たんじゃないよ…。ただ…会わなきゃって、そう思っただけ…」
灯也の胸の内が「わかる」なんて、そんな傲慢なことを考えてはいけないと明美は思った。だけど、灯也の気持ちがやるせない怒りやどうしようもない迷いに満ちていることはひしひしと伝わってきた。
「会ったって、しょーがねえだろー。結婚しないわけにいかないんじゃない? ねえ優等生、責任取らなきゃ、俺は破滅だと思わない?」
「灯也くん…優等生、って言うのやめて…。…すごくバカにされてるみたいな気がする…。…ううん、でも…多分、…バカにしてるんだよね。13歳で、子どものクセにって…」
「キミは13歳なんだから、俺より子どもで、無知で、単純でも、別にいいでしょー。バカなのは俺、…ほーんとバカだ、あいつがイイよって言うときはオッケーと思ってたから思いっきり中出ししちゃったよ」
明美は灯也の言葉の中に性的な表現があるらしいことは認識した。忌み嫌い、怖いと思っていた性的な表現にも不快感は全くなかった。そっと灯也の顔を盗み見た。酔っているのかと思ったが、お酒は飲んでいないようだった。
結婚するしかない…確かに、社会通念上、そうするしかないのだろう。自分の入る余地はもうないのだと、明美は理解した。
「…灯也くん、今まで楽しかった…。ありがとう」
明美は灯也に対して、清算の言葉を口にした。灯也の胸の中に苦しいような切なさがこみ上げる。それは明美に対するものではなく、自分の、終わっていこうとする若くて楽しい時代への憧憬だった。満たされない重い時間の中で、静かに明美の言葉が舞った。
「もう、…結婚しちゃうんだね…。こんな風に、会えなくなるんだね…。あのね、もう、こんな、タメ口きいちゃいけないのかなとか、いろいろ考えたんだけど…最後だから、今日まで、こういうしゃべり方、許してね」
不思議と、緊張も、ドキドキもなかった。ただ、本気だと思われないかもしれない…それだけは思った。明美は告白した。
「灯也くん、私…ちゃんと、今日で忘れるけど…、あのね、…好きでした。ファンとか、そういうのじゃなく、自分自身…一人の女性として…。灯也くんは、ガキだと、思ってると思うけど。愛してました」
灯也は黙ってじっとしたまま、その言葉を聞いた。胸の中には怒りが込み上げてきた。