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姫騎士と女神様

 今日の晩飯は鳥の唐揚げ定食だ。ご飯は既に炊き終わっている。汁物にインスタントの味噌汁と、彩としてむしったレタスにミニトマトを添えれば申し分ないだろう。が、今はレタスもミニトマトもない。代わりにみんな大好きマヨネーズをモリモリ盛ってやろう。

 冷凍食品の鳥の唐揚げを冷凍庫内から取り出して、平皿にゴトゴト落としていく。ラップをかけ、レンジで規定の時間温めてやる。

 その間、電気ケトルでお湯を沸かしつつ、インスタント味噌汁をお椀に入れる。程なくしてお湯が沸いたので、湯を注ぎ入れて混ぜれば完成だ。

 レンジの唐揚げも温め終わったようだ。ピーッという音を何度か発し、動きを止めた。最近のレンジはチンと言わないから、若い連中はレンチンなんて言葉を使わないのかもしれない。どうでもいいことだが、少し疑問に思った。

 皿をレンジから取り出し、マヨネーズを唐揚げの横にモリッモリ捻り出す。異世界転移物では、マヨネーズを作ってチートするくらいだからな。シルフィナもきっと好きに違いない。だからこれくらいの量があった方がいいだろう。


「シルフィナ、ちょっと運ぶの手伝ってくれ」


「わかった」


 リビングに座ってぼんやりと窓の外を眺めていたようだ。既に日は暮れかけて、空は赤く染まっている。見てて楽しいんだろうか。異世界と空の色でも違うのだろうか。


「もう料理ができたのか? さっき作り始めたばかりだったではないか」


 皿に盛られた山盛りの唐揚げと味噌汁を見て、一体どういうことなんだと言いたげだ。と言うか言外に言ってるな、これは。


「そこは、食品会社様々のお力による所だ。詳しいことは、これから知っていけばいいさ」


「……そうだな」


 まただ。また、顔に影ができた気がする。さっさと皿を持って行ってしまったから、顔はすぐに見えなくなってしまったが。俺も後を追って味噌汁のお椀を持って行くと、もう元に戻ってしまっていた。何なんだ。

 俺用に箸、シルフィナ用にフォークとスプーンを準備、茶碗にご飯を盛って、その他に飲み物とコップを用意するなど、何度かキッチンとリビングを二人で移動して、やっと準備完了だ。


「さて、じゃあ食べるか。いただきます」


 俺はパンッと手を合わせ、昼飯の時には忘れていた食前の挨拶をする。


「ほう、こちらにも食前の祈りと似た様な文化があるのだな」


「ああ、昼はし忘れたけどな。ストラシアさんとこも?」


「うむ。祈りの文句は1日に1回行えばいいので、私は決して忘れていたわけではないがな。良かったら聞いてみるか?」


「そうだな、試しに」


 昼は忘れていたんだろうな。


 シルフィナは頷いて了解の意を表すと、両の手を組み、祈りの文句を呟き始めた。


「ああ、地を作り、水を作り、全ての生を司りし我らが女神よ」


「ちょっと待て、それは長いのか?」


 急いで待ったをかける。そうだとしたら、せっかくの料理が冷めてしまう。手抜きのインスタントと冷凍食品だが。途中で止められたシルフィナは、物凄く不服そうだ。ちょっと頬を膨らませている。


「大して長くない。5分位だ」


「長い! 料理が冷めるだろ」


「恵みをもたらしてくださる女神様に感謝するのは当然のこと。5分は決して長くないだろう」


「これらの恵みをもたらしてるのは農家や畜産業の方々だ。後は食品加工会社。それに、女神様はそっちの世界の神様であって、こっちの世界の神様は別にいるはずだぞ。だとしたら、感謝するのはこっちの神様だろう」


 確か、女神様がこっちの世界にも神様がいるとか、そんな事を言っていたはず。


「う、た、確かに」


 正論を言われ、シルフィナはたじろいでいる。しかし、宗教上の理由でやらなきゃならないことを止めさせるのも、何だかなぁ。女神様自身はいい人?だし、女神様教自体に悪いイメージは全くない。正式な名前は知らんけど。


「まあ、女神様に感謝することはいいことだから、止めはしない」


「そうか! そう言ってくれると助かる」


「だから、直接、感謝をササっと述べればいい。女神様ー」


「はいはーい」


「え?」


 俺は女神様を召喚した。突如として現れた女神様に驚いたのか、シルフィナはポカーンしている。


「お忙しい所お呼びたてして申し訳ありません。何やら、彼女が日頃のお礼を是非したいとの事で」


「あら〜。そんなの気にしなくっていいのに、ありがとうございます」


 女神様はぺこりとお辞儀した。見たら、シルフィナは平伏している。時代劇で見る、ははーっていう、正しくあんな感じだな。


「せっかく来ていただいたのですが、こんな物しかなくて」


 そう言いつつ、俺は新たに皿を出して、唐揚げを幾つか女神様にお供えする。


「あら、あらあらあら。何だか悪いですねぇ。感謝もされて、食べ物までいただけちゃうなんて。それじゃあ、ごちそうになっちゃいますね」


「どうぞどうぞ」


「とりからって美味しいですよね。それじゃ、何かあったらまた呼んでください〜」


 そう言うと、女神様は唐揚げの皿ごと消えていった。今度洗って返してもらおう。

 女神様がいなくなっても、なおシルフィナは平伏していた。


「お礼言えてよかったな」


「私は言ってない!」


 シルフィナはすごい勢いで起き上がると、こちらに詰め寄ってきた。


「何故、一人間の呼び掛けに女神様が応えてくれるというのだ!」


「いや、できる限りサポートするって言ってたし」


「だとしても、気安く喚ぶのでない! ああああ……失礼なことはなかったろうか」


 ずっと平伏して、挨拶も何もしなければ、それは失礼にあたるんじゃないだろうか。


「というか、こっちの世界に来る前に、一度会ってるんだろ?」


 ドレスアーマーをサポートの範囲で魔改造してもらったって言ってたし。


「ああ、会ってる、会ったが、会ったけれども」


 何だその三段活用。


「じゃあそんなに慌てることないじゃん」


「女神様は天上世界にて、我々を見守ってくださる偉大なお方だ。お目通りが叶うとなったら、慌てるのが普通というものだ」


 深いため息を吐いて呆れられた。それにしても、すごい落ち込みっぷりだ。信仰の対象が出てくれば、こうもなるんだな。女神様には悪いけど、たまに喚んでシルフィナの反応を見るのも楽しいかもしれない。


「とりあえず、飯食おうぜ」


 シルフィナも何とか頷くと、席に着いた。一応、女神様には感謝を伝えた事になったのか、祈りの言葉はもう呟かなかった。

 唐揚げを食べた途端、美味い美味い言って食うもんだから、あまりの切り替えの早さっぷりに、今度は俺が呆れてしまうのだった。

 因みに、マヨネーズはやっぱり好評だった。

後でもう一話更新します。

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