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姫騎士とランチ

 ちょっとした問題が発生したものの、事なきを得たので引き続きショッピングを行う。

 次はあれだな。下着だ。

 流石に、今ドレスアーマーの下に着用している物だけでは心許ない、と言うか衛生的に考えてよろしくないので、今回は買って行くべきだろう。

 イヨンモール内に、女性用下着の専門店があることは知っていた。前を通るたびに、目のやり場に非常に困っていたからな。今回はここに来た。

 シルフィナも、店頭に飾られているマネキンが着ている物を見て、ここがどんな店か想像がついたのだろう。心なしか顔が赤い。俺の方がこの場に居辛いんだぞちくしょうめ。


「すみませーん」


 嫌なことはさっさと済ませるに限る。店の前から店員に声を掛け、来てもらう。店には出来るだけ入りたくない。


「どうされました?」


「こいつの下着を買いたいんですが、サイズとかわからなくて。計ってもらうことってできます?」


「ええ、できますよ」


 よっしゃ! 流石に専門店だ、助かった。これで殆ど丸投げできる。


「じゃあお願いします。シルフィナ、計り終わって上下5つずつ選んだら呼んでくれ。あそこに座ってるから」


「う、うむ」


 店の近くにあるベンチを指差すも、シルフィナは俯いてるため、ちゃんと分かったのか不明だ。まあ、男に自分の下着を買ってもらうなんて、年頃の女の子からしたら、恥ずかしい事なんだろうから仕方ないか。

 シルフィナを見送る事なく、俺はベンチへと向かう。少し店の前に居ただけだっていうのに、精神的疲労感が半端ない。この際だから、少し休憩させてもらおう。

 しかし、俺とシルフィナはどんな関係に見られているんだか。下着を買ってやる関係なんて、よっぽど親密・・じゃないと成り立たないだろうしな。

 こっちは黄色人種であっちは白人系だ。血縁者にはまず間違っても見られまい。家族だから買ってやったという線はないだろう。

 ……深く考えたら怖くなってきた。俺は考えるのをやめた。




 ベンチに座って、ぼんやり休憩することしばし。不意に肩を叩かれた。


「お、終わったぞ」


「ん? おう、お疲れさん」


 座ったまま振り返ると、まだ若干顔が赤いシルフィナがそこにいた。突っ込むのはやめておこう。


「買うやつは選んだか?」


「ああ、店の者に預けてある」


 俺も覚悟を決めねばなるまい。下着を買う為には、店の中に入らなければならないのだから。

 店に踏み入りレジへと向かうと、先ほどの店員が対応してくれた。既に見えないようにラッピングまでしている。正直ありがたい。気まずいにも程があるからな。

 またもクレジットカードで済まし、品物はシルフィナに受け取らせると、俺はさっさと店を出た。店の名前は最後まで確認しなかった。





「昼飯にしよう」


 下着の専門店を脱し、腕時計を見ると、針は昼食に程よい時間を指し示していた。


「うむ、ちょうどお腹も空いてきた」


「食べられない物とかあるか?」


「……オークが苦手だ」


 宗教上で食べられない物とか聞いたつもりだったんだが。安心しろ、日本にオークはいない。そんでもって、肉が苦手なんじゃなくて「くっ殺せ」的なシチュエーションが遺伝子レベルで刷り込まれトラウマになって苦手とかそういうのだろ。

 オークは日本、というかこの世界にはいない事を伝えると、心底ホッとしていた。どんだけ苦手なんだか。

 少し考えて、俺はファミレスに行くことにした。和食とか中華も考えたが、シルフィナは箸、使えないだろうしな。

 洋食も出す店を考えたら、ファミレスが思い浮かんだのだ。

 ファミレスに足を向け、到着すると店員の案内をうけ、2人掛け席へと通される。テーブルの上にはメニューが置いてあった。

 メニューを開くと、シルフィナはまたも目を丸くしていた。今日だけで結構な回数驚いてるなと、俺はつい苦笑した。


「すごい……これほど精巧な絵が掛けるとは。高名な画家にでも描かせたのだろうか」


「これは絵じゃないよ。写真を印刷したものだ」


「しゃしん?」


「ああ」


 話に聞くより、実際に見た方が早いだろう。という事で、俺はスマートフォンをポケットから取り出し、カメラのアプリを起動する。


「動くなよー」


 そう言いながら、スマートフォンのカメラをシルフィナへと向ける。何をやってるのかわからないんだろう、頭に疑問符が飛び交ってるのが想像出来るくらいに、不思議そうな顔をしている。

 カシャリという音がした後、画像管理アプリを立ち上げると、スマートフォンの画面にはシルフィナの不思議そうな顔が映し出されていた。

 その画面をシルフィナに見せてやると、さっきメニューを見た時以上に驚いていた。


「い、板の中に私がいるぞ!?」


「これが写真だ。風景とか人物をこうやって画像として残せるんだ。それを紙に落とし込むと、このメニューみたいになる」


「この世界の文明は、私がいた所よりも遥かに進んでいるのだな」


「感心してる所悪いけど、早いところメニュー見て注文するぞ」


「そうだな」


 メニューに目を通し、大して時間を掛けずにオムライスに決定した。

 何の気なしにシルフィナに目をやると、ふんふんと頷きながらメニューを見ている。今思ったが、シルフィナは文字を読めるんだろうか。俺とは普通に日本語を話しているが、女神様が与えた言語チートのお陰だろうか。


「文字、読めるのか?」


「ああ、女神様の御力のお蔭だろうな。ただ、食べ物の名前の意味するところとか、値段の価値はわからないが。食べ物のしゃしんの近くにある文字が、その料理を表してるのは、何となく分かるぞ」


 確かに、ギンギー料理を知らない人に、ギンギー料理の名前を見せてもさっぱり想像がつかないだろう。それと一緒で、値段の百という数値が示す価値も、常識というか、知識が足りないからわからないんだな。百円と百ドルじゃ、全然違うもんな。

 文字も書けるか気になったが、それは後でもいいだろう。

 始めのページを見終わったのだろう、次のページへと捲ったところでシルフィナが動きを止めた。何か、目がめっちゃキラキラしてる気がする。一体何を見つけたんだ。


「決めたぞ! 私はこれにする!」


 メニューをテーブルに広げ、シルフィナが指差したのは、新幹線を模した大き目のワンプレートだった。みんな大好き海老フライとハンバーグにポテト、ケチャップライスには爪楊枝と紙でできた国旗が突き刺さっており、仕切りを隔てたプリンの上には生クリームとサクランボがちょこんと鎮座ましましており、これらが1つのプレートに乗っかっている。見紛うことなき、


「お子様ランチ……」


だった。おまけにオモチャが付くらしいが、シルフィナは年齢だけで言えばJKだぞ。もらえるのか?そもそも、JKがお子様ランチを頼んで、果たして作ってもらえるんだろうか。とりあえず頼んでみよう。最悪、外国人が憧れのお子様ランチを食べてみたいと言っていると言えば、俺の恥は多少軽減される。

 呼び出しスイッチを押して店員を呼び注文をしたが、普通に受け入れられた。聞いたら、特別な取り計らいでオモチャもくれるらしい。

 お子様ランチが届いたら、シルフィナの頬は緩みまくりだった。

 折角だから、写真を撮ってやった。ちょうど、ケチャップライスをスプーンで口にぱくりとやった所だった。


「あ! な、なに私が食べてるところをわざわざしゃしんにしてるんだ! すぐに消すのだ!」


 写真を撮った事に気が付いたシルフィナは猛抗議してきたが、


「あー、すまん。写真って消せないんだよね」


「んな!?」


 俺はさらっと嘘を吐いてかわすと、オムライスを食べ始めた。うん、なかなか美味い。


「私だけ恥ずかしいしゃしんになって、不公平だ! フジクラもしゃしんになれ!」


 自分の写真を自分のスマートフォンに保存しておく趣味はないなぁ。


「記念撮影だよ」


「え?」


「異世界初ランチ記念。記念に撮っておきたかったんだ。悪かった。」


「記念、か。記念なら仕方ない。うん」


 真摯に謝ってみせると、シルフィナの気勢も削がれたようで、無理矢理ながらも納得してくれた。こっちの世界でも、あっちの世界でも、女性は記念に弱いのかもしれない。

 それに、記念というのも半分は本気だ。半分は。


「何か、悪い顔をしている気がするが」


「気のせいだ」


 気のせいだ。

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