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姫騎士と自動車

「それじゃ、買い物に行こうか」


 シルフィナがバウムクーヘンを食べ終え、紅茶も飲みきったところで、そう切り出した。


「買い物?何を買うのだ?」


「何って、そりゃ日用品とか。食器やら布団やら、ある程度の物はあるけど足りない物も結構あるぞ。服とか、下着とか」


 そういえば、女性用の下着とか買ったことないぞ。ブラジャーのサイズとか分からんし、俺が測ったりしたらセクハラどころの騒ぎじゃないぞ。どうすりゃいいんだ。そもそも正しい測り方なんか知らないけどな。


「服なら必要ないぞ」


「え?何で?」


「このドレスアーマーは汚れることもないし、多少の破損は自己修復機能があるからな、問題ない」


 ドヤ顔でそう仰るが、問題大アリだ。そんな格好で出歩いてるヤツの隣を俺は歩きたくない。恥ずかしいじゃないか。

 どうにかして、服を買わせなければなるまい。


「それに、私はこの世界の通貨を持っていないからな。まあ、この聖剣と私の剣の腕があれば、外の魔物を狩って簡単に稼げるだろうが」


 そう言って、腰の剣を指で叩きながら自慢気にニヤリと笑ってみせる姫騎士さん。

 残念だが、この世界には魔物はいません。


「金の心配ならいらないよ。それぐらいなら出せる位には稼ぎがあるからな」


「む、しかしだな」


「いいんだよ。それに、ちゃんと女神様から報酬ももらってるんだから」


「……そう言うことなら」


 まあ、正確には願い事を保留にしているわけで、まだもらってはいないのだが。お互いに譲り合っていては話が進まないし、方便だ。

 しかし、何を願うべきかなぁ。困った時の為に取っておこう。俺はRPGでも、貴重な回復アイテムなんかは使わずに取っておいて、結局は使わないタイプなのだが、今回ばかりは願い事をちゃんと決めようと思ってる。そのうちね。


「それに、この世界には魔物はいないぞ」


「そんな!?では、どうやって金を稼げばいい?」


「どうやってって、そりゃ、アルバイトとか、パートとか、正社員になったりだな」


「アルバイト、パート?」


「ええと、何ていうべきかなぁ。簡単な軽作業をやって報酬をもらうこと、かな」


「よく分からないが、それは私にも出来るのか?」


「そりゃもちろん、ちゃんと仕事のやり方も教えてもらえるはずだから……ってか、ストラシアさん、は何歳なんだ?」


 シルフィナは白人系の顔をしており、日本人の俺からしたら、いまいち年齢を推測しにくい。結構、若い方だとは思うんだけど。


「16だ。既に成人している。仕事をするに問題のない年齢だとは思うが」


 JKだった。またしても問題大アリですよ。大多数の同年齢は高校に通ってるっての。まだまだ子供の部類だ。


「アルバイトくらいなら出来る、のか?それは別として、やっぱりまだ働かなくていい」


「むぅ」


 不服そうだが、流石に今のままで働きに出すわけにはいかない。この世界の、日本における常識その他もろもろが明らかに欠如しているのが、これまでの会話で露呈しているから当然だ。

 アルバイトをさせるのは良い経験になるだろうし、いつかはさせるのもいいだろう。


「いずれな。それよりも買い物に行くぞ、の前に、ちょっとこっち来てくれ」


「何だ?」


 俺は、シルフィナをリビングの窓辺に呼び寄せる。3階からの景色は、程よく周りを見渡せる。

 シルフィナに窓の外を見るように促した。


「魔物、いるじゃないか」


 唇をやや尖らせながら、拗ねたように指差す先にあったのは、自動車だった。


「あれは魔物じゃない。自動車っていう乗り物だ。ガソリンっていう燃料で走る」


「馬がなくとも走るのか……」


 シルフィナは感心したように、何度も頷いている。


「見てわかると思うが、結構な速度が出るし、金属の塊みたいなものだから、当たれば痛いじゃ済まない」


「ああ、確かに馬車に轢かれるより痛そうだ」


「えっ」


 何か、まるで馬車に轢かれた事があるような口振りなんだけど。しかも痛いで済んでそうな感じなんですけど。


「……轢かれた事あるの?」


「恥ずかしながら、な」


 ちょっと照れた様に言ってるけど、おかしいよね。照れで済む問題じゃないよね!

 この娘なら車に轢かれても大丈夫そうな気がしてきた。こうなっては割を食うのは運転手だ。保険やら点数やらな。

 哀れな車を出さない為にも、シルフィナには交通ルールをキチンと覚えてもらわなくてはならない。

 窓辺に呼んだのは、実物を見てもらいながら、交通ルールを安全に学んでもらおうと思ったからなのだ。

 いきなりマンションの外に出て、日本の文明に対するシルフィナの反応を見て楽しむのも考えなくはなかったが、この世界の、日本のルールを知らずに放り出すのは危険だと思ったからこその考えだった。当初とはちょっと目的というか、安全性が人から車の方向にシフトしてしまったが仕方のない話である。

 俺は窓辺でシルフィナに交通ルールを教え込むのだった。

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