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姫騎士とゆうしゃ

「シルフィ、いいものがあったぞ」


 俺は自室のクローゼットに埋もれていた段ボール箱を掘り起こし、リビングの床へと置いた。

 蓋がされた段ボールを開封し、グレーのプラスチックボディの機械を取り出す。


「これは?」


 人を堕落させるクッションに寝そべりながら、金魚リヴァイアサンを眺めて暇を潰していたシルフィがこちらへやってくる。


「ゲームだ」


「ゲーム?」


「ああ、ちょっと待ってな」


 口で説明するよりも、見せた方が早いだろう。三色のコードをテレビへと突き刺し、アダプターをコンセントに突っ込む。コントローラーも取り出し、それぞれをゲーム機本体に差込めば、ほぼ準備は完了だ。


「シルフィが好きそうなのは……これだな」


 段ボール箱の中から、一つのカートリッジを拾い上げる。カートリッジには、崖の上で若い男が剣と盾を持っているシーンが描かれたシールが貼られている。

 これをゲーム機本体へとセットする。


「電源をオン、と」


 古いゲーム機とソフトだが、ちゃんと動くようだ。テレビ画面にはゲームのタイトルロゴが映し出された。主人公である勇者を操作して、魔王を退治するというストーリーのRPGだ。


「ドラ、ゴン?」


「勇者が仲間達と悪いやつを退治しに行くお話だな」


「ほう! 勧善懲悪の物語なのだな」


「そうそう。勇者を操作して、世界を旅して、敵を倒してって感じで」


「いいな! 早くやろう!」


 予想通り、勇者のキーワードはシルフィの興味をかなり惹いたらしい。コントローラーを渡し、使い方を説明する。


「こっちの十字のキーは、カーソル、画面のこれな。押した方向にこれを動かしたり、勇者を動かしたりする」


「こっちのカラフルなボタンは?」


「行動を決定したり、キャンセルしたり、だな。とりあえず押してみ」


 シルフィは言われるがままに、赤いキーを押す。すると、でろでろでろでろでろりん、という不吉な音楽とともに、データが消えてしまいましたとのメッセージが流れた。随分と前に起動したきりだったから、データが消えたようだ。シルフィはオロオロとしている。


「なんだ? データが消えたって出てきたぞ。私は何かしでかしてしまったのか?」


「心配しなくていいぞ。別に何も悪いことはしてないから。それより冒険の書、作ってみ」


「う、うむ。……名前? 名前を決めるのか」


「勇者の名前だな。思い浮かばないなら、自分の名前でもいいんだぞ」


「それはいいな。シ……ル、フ……ィ、と」


 自身が勇者になって冒険をするっていうのは、やっぱり憧れるよな。シルフィは騎士なだけあって、そういったものに憧れが強そうだからこのゲームをさせてみたが、当たりだったみたいだ。

 名前を決め、性別は女で設定すると、大きな滝を前方に臨める崖の場面へと移る。勇者の性格診断だ。

 質問に答えていくことで、ゲーム内の勇者の性格が決定される。性格によって、レベルが上がった際の能力値の上昇具合が変わってくるから、結構重要な要素である。

 シルフィは「しょうじきもの」だった。シルフィらしい性格だと思う。本人も満更ではなさそうだ。

 更に場面は遷移し、姫騎士シルフィの分身である「ゆうしゃシルフィ」の実家に。勇者が16歳の誕生日を迎えた日、旅立ちの許可をもらいに王の城に行くため、母親に起こされるシーンだ。


「おお、勇者は私と同じ16歳なんだな」


「そういやそうだな」


 同じ年齢とか、ゲームに移入するのに捗りそうだ。それはそれとして、シルフィに一つアドバイスを送る。


「部屋にタンスとかあるだろ? 調べてみるとアイテムが手に入ったりするぞ」


 とりあえず、家の中にあるタンスなどを片っ端から調べさせる。貴重なアイテムが眠っていることも多々あるからな。


「種が手に入ったぞ。これは?」


「勇者や仲間の能力を上げて強くする貴重なアイテムだ。他にも色んなアイテムが見つかるぞ。積極的に他の民家の中も漁っていけ」


「それは泥棒じゃないのか……?」


「みんな勇者のために提供してくれてるんだ。……多分な」


 しょうじきもののゆうしゃシルフィには罪悪感が半端ないかもしれないが、誰しも通る道だ。……多分な。

 家を出ると、勇者の母親に王の居る城へと連れられて行く。ここでもタンス、ツボ、タルを漁らせる。


「なあ、これは本当に犯罪にならないのか? 大丈夫なのか?」


 ものすごく心配そうにシルフィがこちらを見てくるが、本当に大丈夫なのだ。


「大丈夫だって。何で大丈夫なのかは説明できないけど……」


「すごく不安なのだが……」


「けど、俺なんかはちゃんと中身を確認しないと、なんでか落ち着かないんだよなぁ」


「その気持ちはわかる。中に何が入ってるんだろうか、と。少し気になり始めている……」


 既にシルフィは勇者の業に毒されつつあるようだ。

 城内のNPC、ゲーム内のキャラクターと話したり、ツボの中身などを粗方調べ尽くしたため、勇者を操って王様との謁見に望む。そして渡される50Gと武器防具。


「これは……多いのか?」


「怪我を治す、やくそうっていうアイテムは一つ8Gだな」


「……まあ、貴重な税金だものな。これでも充分だろう」


 シルフィさん優しい。仮にもこっちは勇者なんだからもっと大金を寄越せやとか思う人は、俺を含めて結構いると思う。

 小さい頃にプレイした時は、こんな事を考えてはいなかったはずなんだけどなぁ。


「次は酒場か」


 王様の勧めにあった酒場へと、勇者を操作して連れて行く。酒場では旅を共にする仲間が得られるのだ。

 道中、タルなどを調べるのは忘れない。やがて、町の西にある酒場に辿り着いた。

 酒場の主人に話しかけると、幾人かの仲間を紹介される。


「これが仲間の候補か」


「ああ。因みに、そいつら以外にも酒場の2階で仲間をつくれるぞ」


「仲間をつくれる?」


「ああ。仲間の名前と性別と職業、後は大まかな能力と性格が決められる」


「面白そうだな。よし、やってみよう」


 勇者を酒場の2階へ操作し、いざキャラクターメイキングだ。


「酒場の一階でも言ってるキャラクターがいるが、武器を使っての攻撃役、攻撃魔法の使い手のまほうつかい、回復魔法の使い手の僧侶ってな感じで、バランスを考えたパーティがいいぞ」


「じゃあ、その魔法を使える二つの職業の者は入れるとするか。で、名前か……良いことを思いついたぞ!」


  そう言って、シルフィはキャラクターの名前を入力していく。

 画面に映し出された名前は「マイ」。高校で出来た友達の名前だな。

 これ、結構やるやつ多かったと思う。かく言う俺も小学生の頃、友達の名前を仲間に付けてた。んで、好きな女の子の名前のキャラクターをパーティに加えてた。


「マイはまほうつかいだ。なんとなく、令嬢の様な雰囲気がある」


「令嬢? やんちゃとかじゃなくて?」


「ん? マイは確かに明るいが……。そもそも魔法は高貴な者達が扱う術だからな」


「へえ」


 異世界の実態と俺のイメージのカルチャーギャップである。なんとなく、魔法使いは賢いけれど、好奇心旺盛だからやんちゃなイメージがあった。

 その後、マイの能力値を決定することで、能力値に応じた性格が自動で決められる。

 そんなマイの性格は「おじょうさま」になった。まんまだな。

 続くのは二人目の友達の「サヤカ」だ。こっちの子はそうりょを選択した。


「サヤカは優しいからな。聖職者にうってつけだろう」


 だそうだ。因みに性格は「やさしいひと」だった。うまい具合にハマったもんだ。

 と、突然、シルフィはこちらを見てニヤリと笑った。


「ふふん。特別にレイを私のパーティに入れてやろう」


「マジか」


 女の子三人に囲まれるってハーレムやんけ。ゲーム内の話だけどな。


「特別だぞ。何か希望の職業はあるか?」


「そうだなぁ。あそびにん、がいいな」


「その職業は何ができるんだ?」


「口笛が吹ける。後は戦闘中に遊び始めるぞ」


「なんの役にも立たないではないか!」


「そんなことないんだけどなぁ」


「もう私が決めるぞ。レイはたまに意地悪だからな。とうぞくが似合っていると思う」


 シルフィが俺に持つイメージはともかくとして、なんだかんだなかなか良い構成のパーティが組めたと思われる。そんなレイの性格は「おちょうしもの」だった。

 新たにつくった仲間を加え、勇者に憧れを持っていた、ゆうしゃシルフィの旅はこれから始まるのだった。

 そんな時、メッセージアプリ「線」がピロリンとメッセージを受信した。相手は女神様だ。


『私も仲間に入れてほしいです』


 残念ながら、パーティは四人までしか組めないのです。申し訳ない。

 ……ただ、商人の枠なら空いてると思いますよ、女神様。

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