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姫騎士と願書

「なあ、レイ」


「なんだー?」


「ここの生年月日は何て書けばいい?」


「何って、自分の誕生日を書けばいいだろ、ってあーそうか」


 シルフィは一枚の紙と向き合っている。何を記入しているかというと、公立高校の入学願書だ。ついにシルフィも高等学校に転編入するのである。

 それでまあ入学願書に生年月日を記入する欄があるのだが、よくよく考えてみたら、この世界でのシルフィの誕生日がわからない。


「因みに、異世界でのシルフィの誕生日は何日前だった?」


 異世界での一年間が、地球での一年間と同じ時間かと言ったら違うだろうけど、一応聞いてみる。


「そんなに細かく覚えてないぞ」


「だよなぁ」


 腕を組んで思案に暮れていると、ポケットに突っ込んであったスマートフォンがピロリン、と音を発した。メッセージアプリ『線』で、誰かのメッセージを受信したらしい。


「誰だ?」


 スマートフォンを取り出しアプリを起動すると、新着メッセージが一件入っていた。確認の為にタップしたら、送り主の名前は女神様だった。女神様もスマートフォン持ってんすか。ていうか、正式名は女神様なんだろうか。


『シルフィナちゃんの誕生日は、諸々の条件で地球時間で再計算しますと、平成〇〇年十一月八日になりますよ。公的機関の書類も、その様に記載されているはずです』


 どうやら、シルフィの生年月日を知らせる為に連絡をくれたらしい。このタイミングでの連絡、女神様ご本人に間違いないだろう。相変わらず仕事ができる女神様である。ありがたい。


「シルフィの誕生日がわかったぞ。平成〇〇年十一月八日らしい」


「本当か?」


「ああ。だって、女神様がそう言ってるし」


「へ?」


 シルフィの呆けた返事をスルーすると、ピロリン、と再度着信した。勝手に画面がスクロールし、次のメッセージが表示される。


『よかったら、お友達登録してくださいね。三人だけでグループも作っちゃいましょう』


 異世界の女神様とお友達登録をするのは、俺が世界で初めてではなかろうか。光栄なことなので、速攻で登録した。


『早速登録しました。よろしくお願いします』


 三人でメッセージのやり取りができるグループも、早速作るとしよう。グループ名は……どうすかっな。仮で付けておけばいいか。『女神様教(仮)』とでもしておこう。自分のネーミングセンスの無さが恥ずかしいが、シルフィに名付けさせるのもちょっとなぁ。厨二心溢れるグループ名になりかねない。


「もしかしなくても、女神様と『線』で話してるのか?」


「おう。シルフィも今グループに誘ったから」


「え? あ、ああ」


 ピロリンと、テーブルに置いてあったシルフィのスマートフォンが着信音を鳴らした。それを取り上げると、スマートフォンにもすっかり慣れた様で、慣れた手つきで画面を操作して、グループ『女神様教(仮)』に参加してきた。


「本当に女神様なのか?」


「多分。だって、いきなり生年月日教えてくれたし」


 そんな会話をしていたら、俺とシルフィのスマートフォンに着信があった。証拠とばかりに女神様の自撮り画像が送られてきていた。女神様の生写真である。永久保存しよう。

 半信半疑だったシルフィもすっかり信じ、絵を送る『判子』機能で、仮面バイカーBUSHIDOのジャンピング土下座の動く判子を押していた。この判子がちょっと欲しくなった。


『疑ってしまい申し訳ございませんでした!』


 シルフィはシャカシャカと凄まじい早さでフリック入力していく。本当にスマートフォンに触り始めたばかりか疑わしい速度だ。しかし、謝ってるのに、画面の上方ではムサシがぴょんぴょんジャンピング土下座をしているから色々と台無しである。本当に謝る気があるのか疑わしくなってきてしまう状況だ。シルフィも大分日本に毒されてきている気がする。


『気にしないでくださいね〜』


『許してもらえてよかったな。シルフィ』


『うむ。いや何でレイはそんなに女神様と馴染んでいるのだ。と言うか、それくらいのことは直接私に言えばよかろう』


 そんなシルフィも直接俺に言えばいいわけだが、律儀にもメッセージを送ってくる。


『だって、女神様が仲間はずれになっちゃうだろ』


 シルフィはなるほど、といった具合に大きく頷く。別に喋るなとは言ってないから声は出していいんだが。


『玲さんはお優しいですねぇ』


『そんなことはないですよ』


『そうですよ女神様。騙されては駄目です。レイは結構いじわるです』


『明日、願書提出した帰りにTREERINGSっていうバウムクーヘン専門店に行こうと思ってたけど、どうしようかな〜』


『女神様、レイは意外と優しい気がします』


 そんな茶番劇を繰り広げていると、シルフィも次第に女神様と打ち解けてきたようだ。楽しそうに女神様と『判子』の応酬を繰り広げている。


『さて、ではそろそろお仕事に戻りますね。玲さん、シルフィナちゃん、また今度連絡下さいね』


 女神様がメッセージでそう締めくくったので、俺もアプリを終了しようとした。が。


『やはり女神様は気さくで素晴らしい方だな』


 もう直接話してもいいと言うのに、シルフィは個人宛てに、わざわざメッセージを送ってきた。内容には全面的に肯定だ。女神様にはその気さくさで、また自撮り画像を送って欲しい。


『もう普通に喋ってもいいんじゃないか』


『む、確かに』


 ムサシがサムズアップしてきた。しかし、こんな『判子』よく見つけてきたな。


「んじゃ、ささっと願書の続き書いちまおう」


「うむ」


 転編入に必要な諸々の書類は、アフターサービスで女神様が作ってくれることになっている。書類の偽造をしているようで、悪い事をしている様な気がするが、気にしたら負けだ。

 手間を掛けさせてしまっている女神様には、今度バウムクーヘンをお供えしよう。


「書けた!」


「よし。有給も申請して高校にアポもとってあるし、明日提出しに行くぞ」


「うむ!」


 シルフィの高校デビューの日は近い。

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