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姫騎士とペットショップ

休日は更新頑張ります。

 俺とシルフィは自転車に跨って、二駅先のイヨンモールへと向かっている。

 自転車をすぐ乗りこなしたシルフィには専用の自転車を買い与えたのだが、平日に一人で行動をさせるのはまだ不安が残るため禁止した。その代わり、自転車に乗りたがるシルフィのため、休日は出来るだけ長い距離を走るようにしているのだ。お陰で運動不足は解消されそうである。因みに、シルフィの自転車の名前は「フランチェスカ」だ。無駄にカッコいい。

 目的がないのもつまらないので、今日はイヨンモール内にあるペットショップに行くことにした。犬や猫の可愛らしさを、シルフィに知らしめるのだ。

 二駅という、短いようで地味に長い距離を自転車で走破し、イヨンモールにたどり着く。自転車置き場に駐輪し、早速ペットショップに足を運んだ。

 自動ドアが開き、足を踏み入れる。うん、このちょっとしたケモノ臭さがいい。


「おお〜」


 シルフィなんかは早速、ペットの入れられたショーケースにへばり付いている。大きめなショーケースの中では小さな柴犬が二匹、じゃれあって遊んでいる。


「かわゆい……」


 シルフィは、そんな二匹に釘付けである。ぴょんぴょんと跳ね回り、時にはコロンと転がりながらじゃれあう姿は、俺から見ても大変微笑ましい。眼福である。


「お、こっちはチワワか」


 隣のショーケースに目を移せば、こちらにはチワワが二匹いる。一匹はお昼寝タイムだが、もう一匹はケースに入れられたおもちゃを、一心不乱にガジガジとかじっている。その大きな瞳は心なしか、潤んで見える。一言で言うとめっちゃかわいい。


「む、そっちの小さいのも可愛いな」


「だな。因みに、さっきシルフィが見てたのが柴犬で、こっちの犬がチワワって犬種だ」


「一口に犬と言っても、様々な種類がいるんだな。ゴブリンやホブゴブリンの様なものか」


「なんだその可愛くない例えは。もっとマシな例えはないのかよ」


「む、そっちは何だ?」


「おい」


 何かに夢中になったシルフィは、非常にタチが悪い。夢中になっている間は、こちらの言う事をあまり聞かない。仮面バイカー然り、猿山のサル然りだ。

 今度は何を見るのかと、更に隣のショーケースを見ると、


「トイプードル」


がいた。羊毛の様にカールした、見た目モコモコもふもふの毛皮を見にまとい、更には垂れた耳、更に更に仔犬だからだろう、目の比率が顔の大きさにしては大きめなのがヤバい。可愛すぎる。これは卑怯だ。庇護欲が掻き立てられる。

 シルフィなんかショーケースに引っ付いて離れないし、目が輝いている。猿山の悲劇が蘇りそうな感じだ。しかし、今回は俺も眺めてて、しばらくは飽きないだろうから多少マシだろう。


「抱っこしてみますか?」


 穴があきそうなほど真剣にトイプードルを眺めていた俺たちに、店員のお姉さんは声を掛けてきた。え、つーか、抱っこ? 抱っこできんの? ヤバい、これはヤバい。何がヤバいって、トイプードルを抱っこした俺がきっと何かヤバい。いい歳してなんだが、かなりテンションが上がった。


「え、いいんですか?」


「もちろんです」と言う店員さんに、シルフィは食い気味で回答をする。


「ぜ、ぜひ抱っこをさせてくれ!」


 気持ちは分かるが、今にも店員のお姉さんの両肩に掴みかかりそうな勢いである。理性を失ったシルフィの身体能力で店員さんに掴みかかったら、店員さんもヤバいけどシルフィもお巡りさん的な意味合いでヤバいので、そこは気合いで宥めすかした。

 両手をお姉さんが持っていたアルコール消毒液で消毒する。お姉さんは店員用のドアからショーケース内部へと入り込むと、ワンコ達はお姉さんが大好きなんだろう、千切れんばかりの勢いで尻尾を振りまくっていた。その中から、俺とシルフィがガン見していたトイプードルを抱き上げて、戻ってくる。


「はい、ではどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 店員さんの手から、トイプードルが俺の腕の中へと入り込む。か、かわええ……! 毛は柔らかくふわふわで、耳の触り心地もクセになる。そして、両前足を腕に掛けている姿は反則だ。一発レッドカードでベンチならぬ家にお持ち帰りコースである。


「は、早く! 私も! 私も!」


 トイプードルの頭を、背中を、顎の下を愛でていると、シルフィから邪魔が入ってしまった。まあ、今日はシルフィにペットショップを見せてやる事がメインだからな、仕方ないから代わってやろう。


「分かったよ。ちょっと待ってろ」


 俺は店員さんにトイプードルを一度預け、店員さんからシルフィへと渡してもらった。初めてトイプードルを抱くシルフィは、どこかおっかなびっくりしている。


「おほ」


 何か変な声を出しやがった。何か良からぬ事をしでかすんじゃないかと警戒したが、特に何事もなく、ただただ優しくトイプードルを撫でているだけであった。

 ひたすら撫でているだけの時間をしばし過ごしていたが、シルフィは決意を新たにした様な顔をし、トイプードルからこちらに顔を向けた。これはダメなパターンだ、絶対。


「よし、決めたぞ、レイ!」


「ダメだ」


「まだ何も言ってない!」


 どうせ、このトイプードルを買って帰りたいとかぬかすつもりなんだろう。


「その仔犬は買って帰らないぞ」


「何でわかった!?」


 大体の人が通るパターンだからな、多分。俺も昔は猫が欲しいとワガママを言ったもんだ。店員さんも苦笑している。


「何でもだ。ここに居たら、ますます未練が残るだろ。その仔は返して、イヨンで買い物して帰るぞ」


「い、嫌だ! 私はケルベロスと一緒に家に帰る!」


 ケルベロス(トイプードル)である。完全に名前負けしている。犬版のキラキラネームだろうか。店員さんが噴き出してしまっている。今から咳をしても遅いですよ、お姉さん。めっちゃ肩が震えてますし。


「ダメだ。ケルベロスはちゃんと返しなさい」


 俺もちょっとふざけて、店員さんに追い打ちを掛ける。お姉さんはついにお腹を押さえ始めた。


「そもそもだな、俺が借りている部屋はペット禁止なんだ。ペットを連れて帰ってしまったら、あの家を追い出されてしまう。そしたら、俺やシルフィはともかく、ケルベロスが可哀想だろう?」


「そ、そんな……」


 悲しそうな表情をするシルフィとは対称的に、お姉さんの腹筋は限界ギリギリである。それでも平静を努めようとしているお姉さんの顔は、ちょっと面白いことになっている。


「さあ、店員さんにケルベロスを」


「……分かった」


 シルフィからケルベロス(トイプードル)を返された店員さんは、肩を大きく震わせながらショーケースへと向かう。


「ほら、ケルベロスに別れを告げてこい」


「ああ。さよなら、ケルベロス! 元気でな!」


 俺たちはケルベロスに別れを告げた。店員さんは店のバックヤードにダッシュした。

 後日、件のトイプードルは店員内でケルベロスと呼ばれるようになったとかならなかったとか。

 また、不動産屋を通して大家さんに確認したところ、金魚くらいならと飼育を許可されたので、シルフィの道徳教育にと、金魚を一尾と飼育セットを買って来た。シルフィは金魚でもご満悦である。


「ところで、名前は決まったのか?」


「ああ、良い名前を思いついたぞ。リヴァイアサンだ!」


 俺は何も突っ込まなかった。またペットショップに行った時は、店員のお姉さんに金魚の名前を教えたいと思う。

フェンリルと悩みました。

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