山賊といかさま太郎
お団子太郎は、くさい臭いで目が覚めました。頭を上げると、汚い恰好をした男達が、大勢覗き込んでいました。
「おぬしらは、誰かのう」
「人の隠れ家に潜り込んで、誰かはねぇだろう」
男達のうち、誰かがいいました。みんな汚い恰好だったので、誰が誰だか見分けはつきませんでした。
「それは、すまなかったのう」
「いいってことよ」
男達は笑い出しました。
「いい人たちだのう」
お団子太郎は、本気でそう思いました。
「山姥より、とってもいい人だのう」
「おめぇ、山姥にあったのか?」
男達が、引きつった顔になりました。
「昨日の夜、追っかけられたのう。食べられるかと思ったのう」
「そうかい。よく生きていたなあ」
「三目太郎のおかげだのう。ところで、どこに行ったのかのう」
昨日出会い、すっかり親友になった、三目の男の子の姿がありませんでした。
「なー」
「こいつかい?」
男達に、襟をつかまれてぶら下げられていました。なにをしていたかと言えば、手足をバタバタさせていました。
「わしの友達なんだのう。離してやってほしいのう」
「ああいいよ。小屋の中を走り回っていたんで、五月蝿いから捕まえといただけだ」
「なー」
「よかったのう」
二人は、手を取り合って喜びました。
「ところで、なんだって子供二人で、こんな山の中に紛れ込んだんだ?」
「子供じゃないのう。これでも、一人前の坊主……じゃ、まだなかったのう」
「なー」
「一人前になるには、当分先だろう」
男達はみんなして笑いました。お団子太郎は憤慨しましたが、怒っても勝てそうにないので、黙っていました。
「わし等は、お使いの最中だのう」
「なー」
「へぇ。じゃあ、お届けものか何かかい?」
男たちは、ニカリと笑いました。お団子太郎は、昨日の山姥の笑顔を思い出し、なんだか恐くなりました。
「なんのお使いか知らないのう」
「なー」
「本当か?」
ちょっとだけ、声が低くなっていました。
「本当だのう。向こうの寺に着けば、なんの用事かわかるのう。何か渡されるかもしれないのう。でも、行かないとわからないのう」
「なー」
「そうかい。じゃあ、帰りも山を通るんだな」
「それは、わからないのう」
「通れよ」
凄く、恐い声でした。
「わ……わかったのう」
「なー」
「よし」
男達は、追い出すように山小屋から、二人を送り出しました。
「では、お邪魔したのう」
「ああ。気をつけてな。それから、上に気をつけな。たちの悪いのがいるからな」
「わかったのう。気をつけるのう」
「なー」
汚い男達は、手を振って見送りました。
「いい人たちだのう。でも、ちょっと恐かったのう」
「なー」
「おーい」
旅を続けようとしたとき、頭の上で声がしました。
「なにか聞こえたかのう?」
「なー」
「おーい。こっちだよー。助けてくれよー」
お団子太郎が長い頭を後ろに倒し、上を見上げると、木の上になにかいました。
「おぬしは、猿かのう」
「そんなはずがないだろうよ。助けてくれよ」
どうやら、縛り上げられているようです。縛られ、ぶら下げられていました。三目太郎やお団子太郎と同じ年くらいの男の子です。
「どうしたらいいのかのう」
「木をのぼりゃあいいだろうよ」
「なー」
「上に気をつけるように言われたのう。おぬしは、たちの悪い奴かのう」
「なー」
「そんなことはねぇよ。あいつらより、よっぽどいい奴だよ」
「本当かのう。おぬし、どう思うかのう」
三目太郎は聞いていませんでした。どうしていたかというと、森を掻き分けていました。どんどん入って行きます。まるで、木の上に誰かがいることなんか、どうでもいいようでした。
「なー」
猪が、顔を出しました。三目太郎は、その背中に飛び乗りました。
「あれは助けないのかのう?」
猪は駆け出していました。
「すまないのう」
「おーい」
木の上の男の子は、とても情けない声を出しています。
「わし一人では、助けられないのう。頑張ってほしいのう」
「人でなしよ」
「わしの友達に言ってほしいのう」
その友達が、帰って来ました。勝手に走り出した猪をなんとか操って、三つの目を大きく開いていました。
「あれ、どうするかのう?」
「だから、助けてくれよ」
「なー」
三目太郎は、木を登り始めました。
「おお。やさしいのう」
「なー」
「な、なんだお前はよ」
木の上の男の子は、三目太郎を見て驚きました。目が三つあったからです。三目太郎は気にしません。気にはしませんでしたが、男の子を縛っているロープを、解く方法がわかりませんでした。木の枝の上に立ち、考えこむように腕を組みました。
「なー」
「どうしたのかのう」
「早く助けてくれよ」
三目太郎は、諦めました。ロープを蹴飛ばします。その反動で、木の枝が折れました。
「わあぁぁ」
「おお。良かったのう」
のんきに見上げる、お団子太郎の上に降ってきました。
「わあぁぁぁ」
「危ないのう」
悪意はなく、お団子太郎は避けました。痛いのはいやでした。男の子が痛い思いをすることまでは、考えていませんでした。
三目太郎も降ってきました。猪の背中にぶつかり、きれいな着地を決めました。
「なんだか、かっこいいのう」
「なー」
「痛たたたた」
「おう。大丈夫かのう」
「大丈夫じゃねぇよ。助け方があるだろうよ」
「なー」
男の子の言い振りが気に入らなかったらしく、三目太郎は足の先でゴリゴリやりました。そばにいた猪が、真似をしたからたまりません。
「わ、悪かったよ。助かったよ。ありがとうよ」
「なー」
お団子太郎がロープを解いてあげました。すると、男の子は三目太郎と同じくらいの身長で、年も同じくらいだと知れました。
「どうして、あんなところにぶら下がっていたのかのう?」
「なー」
「すきでぶらさがってたわけじゃねぇよ。縛り上げられたのよ。それよりあんたら……人間かよ」
「失礼な奴だのう」
「なー」
「いや、悪かったよ。実はな、俺も同じよ」
男の子は、着物の前を肌けました。そこには、お腹がありました。なぜか、お腹から腕が生えていました。三本目の腕があったのです。
「驚いたのう」
「なー」
「へっ。生まれ付きだから、気にもならねぇよ。お前達と同じ、化物よ。よし、気に入ったよ。お前達を子分にしてやるよ」
「わしは、化物ではないのう」
「なー」
「わかったよ。そういうことにしておこうよ」
男の子は、『いかさま太郎』と名乗りました。
「いやな名前だのう」
「なー」
「そうかよ。俺は、気に入っているがよ」
お腹に生えた三本目の腕を使い、賭博場に出入りしては、いかさまをしていたのです。今回捕まって吊り下げられたのも、それが原因でした。
「でもよ。よく兄貴達が逃がしてくれたよ」
「なんのことかのう」
「さっきの山小屋から出てきただろうよ」
「なー」
「あそこにいるのは、俺の兄貴達よ。全員、山賊よ」
「なー」
三目太郎は平然としていました。お団子太郎は、その場にへたり込んでしまいました。
「昨日から、ろくなことがないのう」
「なー」
それには、三目太郎も同感のようでした。
「でも、いいのかのう。お兄さん達に、挨拶もなしに出てきてしまったのう」
「なー」
「構うもんかよ。俺がいかさましたのを見つけてよ、あのまま死んじまえって言われたよ」
三目太郎は、相変らず猪に揺られていました。あらためて見ると、いかさま太郎は山小屋の汚い男達と、同じ服装をしていました。
「それより、どこに行くんだよ」
「今は、お使いの最中だのう」
お団子太郎は、目的の町を告げます。
「それじゃあ、一本道じゃねぇかよ。なんで、わざわざこんな山奥に入ってきたんだよ」
「立派な坊主は、旅をするものなのだのう」
「なー」
「変なやつらだよ」
「おぬしも一緒だのう」
「なー」
「違いないよ」
いかさま太郎は、カラカラと笑い出しました。お団子太郎も笑います。三目太郎は不思議そうに見ていましたが、いつの間にか同じ笑顔になっていました。
三人になった旅の仲間は、いかさま太郎の提案で、山を降りることになりました。自分が旅の最初の方に加わっていなかったのが、どうやら気に入らないようです。
「恐い山だったのう」
「なー」
「そうかよ」
「山賊がいたのう」
「なー」
「それは知っているよ」
「山姥に食われそうになったのう」
「なー」
「それは恐いよ」
「お団子を食らわせる、じじいがいたのう」
「なー」
「それ……恐いかよ?」
いつの間にか、お茶屋のお爺さんも妖怪の一種にされてしまったようでした。
「しかし……納得いかないのう」
「なー」
「どうしたよ」
「何ひとつ、解決していないのう」
「なー」
お団子太郎は、高い山を振り返りました。世の中にはまだまだ危険が満ちていました。二人はそれに遭遇し、逃げるのがやっとでした。特に、お団子太郎は途中で泣きべそをかいた覚えもありました。
「情けないのう」
「いいじゃねぇかよ。まだ、旅は始まったばっかりだよ」
三目太郎が合の手を入れなかったので、お団子太郎はその姿を探しました。すると、なぜか山の方に向かって走っていきます。
「戻るつもりかのう。戻っても、山姥は退治できないのう」
「なー」
そうではありませんでした。山に登る木立から顔を出す、茶色い獣に手を振っていました。三目太郎を乗せてくれていた猪は、途中で何度も何度も振り返りながら、山に帰っていきました。
「わしも、乗りたかったのう」
「俺もだよ」
「なー」
「確かに一度乗ったがのう。しがみついていただけだったからのう。楽しくなかったのう」
「なー」
三目太郎は聞いていませんでした。道々拾った小枝を振り回し、上機嫌で歩いています。
「厄介なお供だよ」
いかさま太郎が、お団子太郎に耳打ちしました。
「いい友達だのう」
「そうかよ」
「そのうち、おぬしにもわかるのう」
「なー」
三目太郎の声が、高らかに、青空に吸い込まれました。
山を降りると、すぐに大きな街道に出ました。人が二人は並んで歩け、馬でも走れそうな、大きな道でした。
「ところでおぬし、さっき妙なことを言ったのう」
「なんだよ」
いかさま太郎には、心当たりがなさそうでした。
「『旅は始まったばかり』とは、どういうことかのう。町は、もう見えているのう」
三人の進む街道の先に、小さく町が見えていました。
「あそこの町に、お使いに行くんだなよ」
「うむ。その通りだのう」
「なー」
「じゃあ、帰りはどうするんだよ」
「歩くのう」
「なー」
「どこをよ」
「……どこを歩こうかのう。来たときは、わざと山を登ってみたのう」
「なー」
三目太郎が、指を立てます。大空に向かい、腕をぐるりと回しました。
「お前も、そう思うよ」
「この国を、一周してから帰るつもりかのう」
「なー」
三目太郎は、腕をぐるぐると回しました。
「そんなに、何週もするのかのう」
「俺なら、付き合うよ」
いかさま太郎は、お腹から腕を出し、愉快そうに指を開閉させていました。
「そうじゃのう。そうすれば、わしも偉い坊さんになれるかのう」
「なれるよ」
「なー」
三目太郎、お団子太郎、いかさま太郎、三人の旅は、終わろうとしていました。お寺に行けば、行きの旅は終わります。帰りの旅が終わるのがいつのことになるのか、それは誰にもわかりません。
了
不思議な少年たちの不思議な物語。ひとまず完結です。




