三目太郎とお団子太郎
むかしむかしのまたむかし。
あるところに、働き者の男の子が住んでいました。たった一人の身内だったおじいさんを亡くし、お役人の仕事を住み込みで手伝っていました。
牢獄の掃除が仕事でした。男の子は頭の毛を剃り、頭を一周する傷跡がありました。額には、他の人たちにはない、もう一つの目がありました。
まだ赤ん坊の頃に頭を割られ、脳みそを落としてしまいました。腕のいいお医者様がかわいそうに思い、一緒に頭を割られた羊の脳みそを入れてあげました。隙間が空いたので、羊の目を入れたのです。
男の子は元気に育ちました。周りの人たちは『三目太郎』と呼んでいました。
ある日、お役所の人が、三目太郎に荷物を渡しました。
良い匂いがしました。山のような保存食でした。お役所の人はそれを見つめ太郎の背中に結びつけると、手をつないで外に出ました。
蝶々が飛んでいました。いつの間にかつないでいた手が離れていたので、三目太郎は蝶々を追いかけました。蝶々を追いかけていると、お役人がいなくなっていました。来た道はちゃんと覚えていたので、すぐ牢獄に帰りましたが、牢獄の扉はぴったりとしまっていました。
「なー」
叫びながら、扉をドンドンと叩きました。羊の脳みそが入った頭では、他の言葉を話すことができませんでした。
「なー」
叫び続けました。背中の保存食を食べながら、何日も扉を叩き続けました。そのうち、どうして叩いていたのか忘れてしまいました。いつの間にか、歩いていました。
三目太郎は、旅に出ることになりました。目的もあてもない、放浪の旅でした。
道の遠い先に、縦長の影が揺れていました。ゆらゆらと揺れながら移動していました。どうやら、人のようでした。歩いているのです。普通の人とは、ちょっと違う感じがしたので、三目太郎は駆け寄ってみました。
「何か用かのう」
近くで見ると、確かにちょっと変わっていました。縦に長いのは、頭でした。年齢は三目太郎と同じくらいで、顔の位置も同じ目線です。それなのに、縦に長いのは、頭の上に、頭と同じ大きさの瘤が乗っているからでした。しかも、その上に、もう一つ乗っています。まるで、串団子のようでした。
「おぬし、変わった顔をしておるのう。目が三つもあっていいのう。わしは、『お団子太郎』じゃ。よろしくのう」
「なー」
二人は、なんとなく一緒に歩き出しました。お団子太郎は、お寺で修行中の小坊主でした。隣町のお寺へ、お使いに行く途中でした。話し相手ができて嬉しかったのか、お団子太郎はいろいろな話を聞かせてくれました。
「おぬし、三蔵法師を知っておるかのう」
「なー」
「とっても偉い人で、遠く遠く旅をしたんじゃそうだのう」
「なー」
「わしも、そんな旅をすれば、偉いお坊さんになれるかのう」
「なー」
おかしな会話でしたが、二人は次第に打ち解けていきました。
隣りの町のお寺まで、半日くらいで帰ってこられるはずでした。お団子太郎は黙りこんで、二つの町を見下ろす大きな山を見上げました。
「なー」
「遠い旅をしなければ、偉いお坊さんにはなれんかのう」
言いながら、お団子太郎は道を外れていきます。三目太郎は、それに当たり前のようについていきました。
「おぬしは、帰らなくてもいいのかのう」
「なー」
三目太郎には、帰る場所がありませんでした。
「それなら、一緒に来るかのう。旅には、お供が付きものだからのう」
「なー」
何のためにお使いに行くのかということは、とりあえず忘れていました。こうして、あてのない二人旅が始まりました。
暑い中、えっちらおっちら歩いていると、道の途中で峠の茶屋が見えました。
歩きつかれていたお団子太郎は、そこで一服することにしました。
気づかないで通り過ぎていった三目太郎ですが、話し掛けてくる相手がいなくなったことに足を止め、辺りをぐるぐると見回しました。
大分背中の方で、休憩するお団子太郎を見つけ、てってと走って戻りました。
「なー」
抗議の声です。
「疲れたのう。まさか、そのまま行ってしまうとは思わなかったのう」
茶屋で出してくれたお茶をすすりながら、お団子太郎は悪びれもせずに言いました。
三目太郎は少し気分を悪くしていましたが、お皿にあった団子を口に入れると、途端に上機嫌になりました。
「いいのう。その団子、わしも欲しいのう」
三目太郎は、三つの目を大きく開いてお団子太郎を見ました。てっきり、お団子太郎が頼んだものだと思っていたのです。二人のほかに、お客はいません。
「この団子、どうしてここにあるのかのう」
言いながら、一つ摘んで食べました。
「おぬし、金は持っているかのう」
「なー」
「ふうむ。わしと一緒じゃのう」
二人とも、一文無しでした。
三目太郎とお団子太郎は、残りの団子を平らげ、お茶を分け合って飲みました。立ち上がり、お茶屋の奥へ行きました。
「すまんのう」
「なんだい?」
力の強そうな、お爺さんがでてきました。
「わしら、金がないのう。うっかり、置いてあった団子を食べてしまったのう。ここでは、休憩だけのつもりだったのでのう。すまんことをしたのう」
「なー」
「そうかい。それじゃあ仕方ないなぁ。働いてもらおうか」
「許してくれんかのう」
「働けば、ゆるしてやるよ」
「世間は甘くないのう」
「なー」
「そういうことだ」
お爺さんは、ニッカと笑いました。始めから、二人に働かせるつもりだったようです。
峠のお茶屋の名物料理、猪鍋の手伝いをするのが、任された仕事でした。
大きな猪を一頭仕留めれば、三月はもつそうです。それだけ、お客が少ないのです。
「猪の取り方なんぞ、知らないのう」
「なー」
「大丈夫。適当に歩き回って、奴が現れたらわしの方に逃げて来い。後はわしが仕留める。一頭捕まえるまでは付き合ってもらうぞ。なに、その間は飯付だ。悪い話ではないだろうが」
「じゃが、殺生の手伝いをするのは嫌だのう。わしは、これでも坊主の端くれだしのう」
「なー」
茶屋の裏手の森の中で、三目太郎とお団子太郎は手をつないで歩いていました。
このまま逃げてしまってもわからないのですが、お寺の小坊主のお団子太郎には、そんなことはできないのです。三目太郎は『なにか』をするつもりなんか、始めからありませんでした。
なかなか猪は見つかりません。三目太郎が立ち止まります。羊の脳を持つ三目太郎は、立ち止まって葉っぱを食べ始めました。背中には、まだ保存食がしばりつけてあります。
「美味いのかのう」
「なー」
お団子太郎は、同じ葉っぱを食べました。顔中をしわくちゃにしました。
「まずいのう」
「なー」
三目太郎は食べ続けました。目の前に、木苺がぶら下がっていました。それを見ながら、やっぱり葉っぱを食べていました。
「わしは腹が減ってきたのう。じゃが、それは食えないのう」
ぶちぶちと文句を言うお団子太郎に、三目太郎は木苺を取って渡します。それを口に入れると、たちまち顔つきが変わりました。
「おぬし、いい奴じゃのう」
「なー」
こうして、二人は腹ごしらえをしていました。いつの間にか、大きな猪が隣りで芋を掘り起こしていました。
三目太郎もお団子太郎も、食事に夢中だったので、さっぱり気がつきませんでした。そこへ、お茶屋のお爺さんが怒鳴りながらやってきました。
「こらぁ、ちゃんと猪を探さないと駄目じゃないか」
二人と一匹が、同時に顔を上げました。
「おお、そうだったのう。忘れていたのう」
二人手をとり、森の奥に入って行きます。猪は、掘り出した芋を口にくわえ、二人の後を追っかけました。お茶屋のお爺さんは、よしよしとうなずきました。
お茶屋のお爺さんは、なんだか、うっかりしているような気もしました。思い当たらなかったので、もといた場所に戻りました。そこに、落とし穴を準備していたのです。
お爺さんは待ち続けました。猪どころか、二人の男の子は、そのまま帰って来ませんでした。




