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第六話:ふたりの約束。

恵太が意識をもどしてから二週間がすぎた。

午前中は体の異常がないか検診。午後からは、恵太の体をもとに戻すリハビリというのが毎日のスケジュールだった。

でも、母親の信子と妹の貴子が見舞いにくると、恵太は甘えん坊になり、ふたりが帰ろうとすると、泣きだす恵太。だから、いつもなぐさめるのは貴子の役目だった。


※※※


「恵太ちゃんのことなのですが……」

妙子専用の医務室で、妙子は信子に恵太のことをきいた。


「恵太ちゃん、失礼、恵太くんの入れ代わる前の性格は、どのような性格だったのですか」


「恵太の性格ですか……私から見て恵太は、元気で活発な性格ですけど」信子はいった。


「恵太くんの性格テストをしたのですが……。その結果、たいへん気が弱く従順な性格なのです」


「それって、入れ代わる前の貴子の性格みたいじゃないですか」


「そうすると、恵太くんと貴子ちゃんの性格も入れ代わったことになると」


「先生、ふたりはもとにもどるのですか」


「それは、残念ながらわかりません」


「そんな……」あきらめきれない信子。


※※※


「アニキ」


「なあに、貴子」


「アニキ、恵太ちゃんとよばれているの」


「エッ……」ホットミルクを飲んでいた恵太の手がとまった。

ふふふと笑みをうかべる貴子。


「だって、和歌子所長や妙子先生が、アニキを恵太ちゃんとよんでいたのを聞いたから」


「いまでは恵太ちゃんとよばれることになれたけど。やっぱりおかしいの」


「そんなことないよ。ボクも今度から恵太ちゃんとよぼうかなぁ」冗談まじりにいう貴子。


「話しかわるけど、あれから盗聴器はどうなった」心配そうにいう貴子。


「だいじょうぶだよ。まだバレてないよ」


「でも、安心するなよ。なにかあったら、ボクが守ってあげるから」


「ありがとう貴子。でもそのセリフ、ワタシがいうセリフだわ」


健気に年上ぶる恵太を、貴子は可愛らしく思えた。今の恵太は、貴子から見れば年下の女の子のように見えた。たとえば、恵太がいま飲んでいるホットミルク。恵太と同じ四年年の男の子の場合、そんな飲み物は女の子が飲むものだ、と大人ぶって頼まないし飲まないだろう。でも恵太はうれしそうに飲んでいる。

ベッドの枕もとに置いてある熊のぬいぐるみ。(恵太があまりにもさびしそうにしていたのを見て、いらなくなった熊のぬいぐるみを貴子が恵太にあげたものだった。)就寝時間になると恵太はいつも熊のぬいぐるみを抱いて寝ていた。そういった恵太のしぐさや行動はを見て、貴子は、恵太のことを兄というよりも妹みたいに見ているのに気づいた。


※※※


病室のドアをノックする音がしたので、貴子はチカラをつかってドアをあけた。


「また、つかったわね」


病室からはいってきた和歌子は貴子にいった。


「こんにちは」素っ気なくいう貴子。


「和歌子所長、こんにちはです」ぺこりと頭をさげる恵太。


「ふたりとも、このあたりをサンポしない」和歌子はいった。

「ボクはかまわないですけど、妙子先生には許可がいるのではないのですか」和歌子に警戒心のある貴子。

「ちょっと待ってね」


和歌子はインターホンで誰かと話していた。

インターホンの向こう側の話し相手に、和歌子はインターホンにむかって頭をペコペコ下げていた。


「どうもありがとうございます。はい、いつもわがままいってすみません」


和歌子は、インターホンを切ると、恵太と貴子に許可がでたことをいった。

「でもどこにいくのです」

「それはヒミツよ。私の取っておきの場所よ」


「そうなんですか。たのしみだね、貴子」

愉しそうにいう恵太とは反対に、貴子は不機嫌な顔をしていた。


※※※


貴子は、車イスにすわる恵太を押して、和歌子といっしょに歩いていた。でも、和歌子がなにかいっても無視していた貴子を見て、和歌子は貴子に正直に話そうとちかった。


エレベーターに乗ると、和歌子は一番上のボタンを押した。


「所長、どこまでいくのですか」たずねる貴子。


「それはヒミツ。恵太ちゃん、たのしみだね」


「うん」うれしそうに返事をする恵太。


エレベーターが止まりドアがあいた。そこは長い廊下だった。

恵太たちが廊下に降りと、和歌子は壁にあるボタンを押した。

廊下の床がゆっくりだが動きだした。

「これならはやく到着するから」


和歌子がいったとおりだった。廊下が止まったところにドアがあった。和歌子はカードを取り出すと、カードの差し込み口にカードをいれた。すると、ドアがひらいた。そこは、街の景色が一望できる広い部屋だった。


「うわぁ、貴子見て、すごくキレイな虹」恵太は興奮していった。

「どう恵太ちゃん」


「和歌子所長、こんなところにつれてくれてありがとうございます。ワタシ、なんだかナミダがでてきちゃった」


「ありがとう恵太ちゃん。時間まで見ていていいからね」


窓の景色を真剣にずっと見る恵太。

恵太の後ろに立つ貴子に、こっちに来てと和歌子はいった。恵太から離れた貴子と和歌子。

「貴子さんは、私のことを信用してないでしょ」いきなり核心をつかれて言葉がでない貴子。


「私は気にしてないから。でもこれだけはいっておくね。私は恵太ちゃんや貴子さんの味方だから」


「本当にあなたを信用していいのですか」半信半疑の貴子。

「もちろん。私はあなたたちを裏切らないから」


和歌子は手を差しだした。和歌子は貴子に握手をもとめた。


「わかりました。ボクもあなたを信用します」貴子は和歌子の手を握った。

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