第五話:和歌子の独り言。
「意識が戻ったことを母さんにいうから、夕方ごろに母さんといっしょに見舞いにくるから」
午前中の面会時間がおわりなので、貴子は病室からでていった。
恵太は、病室をあらためて見た。カベの中や、コンセントの中には盗聴器がたくさん仕掛けられているのが恵太のチカラでわかった。
午後二時ごろ。恵太の病室のドアをノックする音がした。
「どうぞ」恵太がいうと、和歌子と背の高い男性と小ぶとりの男性がはいってきた。
「恵太くん、体調はどうかしら」
「はい。大丈夫です」
「それはよかったわ。恵太くん、服を脱いでくれないかな」
「エッ、どうしてですか」
「そんなに驚くことはないじゃない。ただ検診するだけよ」
「そうですか……」服を脱ごうとする恵太。無言で見つめるふたりの男性。恵太は服を脱ぐのをやめた。
「どうしたの恵太くん」和歌子は、顔が真っ赤になって、からだが小刻みにふるえている恵太を見た。
「あなたたち、病室から出ていってくれないかしら」和歌子は、ふたりの男性にいった。
「なぜですか。僕らは院長にいわれて、いきなりこの患者の担当になれといわれたのですよ」小ぶとりの男性は不機嫌そうにいった。どうやらふたりの男性は医者らしく、この病院の院長の命令で恵太の担当にされたようだ。
「院長には私がなんとかいうから」
「でもですね……」小ぶとりの男性は、和歌子に抗議しようとしたが、背の高い男性に止められた。
「わかりました。私たちはこの病室から出ていきますが、お父上になんと言い訳をすればよろしいのです」背の高い男性は、和歌子にいやみっぽくいった。
和歌子は、背の高い男性をにらみつけた。
「お嬢さまのおっしゃるとおり、私たちはこの病室から出ていきます。お父上にはきちんと、このことをお伝えください」背の高い男性は、小ぶとりの男性をつれて病室から出ていった。
※※※
病室のドアが閉まる。和歌子は恵太にあやまった。
「ごめんね恵太くん。はずかしかったよね」恵太は泣きだしてしまった。
「だって、だって、知らない男のひとたちが、ワタシのハダカを見ているの。だから、だからね、はずかしいのとこわいという、頭のなかがパニックになって……」
「もう大丈夫よ。大丈夫だからね」
まだふるえている恵太。和歌子は、恵太を落ちつかせようと、後ろから静かに抱きしめた。
「和歌子所長……」
「恵太ちゃん。もう大丈夫よね」和歌子は、恵太くんとよばなく恵太ちゃんとよんだ。
「恵太ちゃん。私は、いまから独り言をいうね。恵太ちゃんの病室には、院長である私の父が、恵太ちゃんの病室に盗聴器を仕掛けるように私に命令したの。なぜなのかは父に問い詰めたけど、父にも理由がわからないといってた。父もだれかに命令されていて、恵太ちゃんの病室に盗聴器を仕掛けるようにいわれたらしいの」
「ワタシはどうすればいいの」
「恵太ちゃんは、盗聴器を仕掛けことを知らないふりをしているだけでいいわ。でも、盗聴器を貴子くんのチカラで壊したらしいからこの病室の盗聴器は使いものにならないけどね。でも貴子くん、どうしてわかったのかしら」
「さあ……」恵太が透視のチカラで盗聴器を貴子に教え、貴子の念力のチカラで盗聴器を破壊したことを和歌子に、わざと教えなかった。
※※※
「お嬢さまのわがままにはこまったものだ」和歌子に病室を追い出された背の高い男性はいった。小ぶとりの男性は、ウンウンとうなずいただけで、なにも考えていないようだった。
「石田は、あのガキをどう思う」
「なんかナヨナヨしたガキだなぁ。そうでしょ高野先生」
背の高い男性(名前は高野武夫)は小ぶとりの男性(名前は石田洋)に意見を聞いたのが間違いだと気づいた。
なんで院長は、石田というお荷物とコンビを組ませたのだろう。高野は、石田の口をあけただらし無い顔を見て嫌気がさした。
※※※
和歌子があらためて呼んだ医者は、和歌子よりもかなり年齢がうえの女性であった。
「この先生は飯野妙子先生。恵太ちゃんの担当医。私の大学時代の恩師なの」
「よろしくね」妙子は、恵太に握手をもとめた。恵太は、ゆっくりと妙子の手をにぎった。
「妙子先生。こちらこそ、よろしくおねがいします……」恵太は、蚊のなくような声でいった。
「和歌子さんから聞いたけど、これほど女の子らしいとは驚きだわ」
「妙子先生は心理学の先生でもあるの。恵太ちゃんと貴子くんのことを先生に話したら、ふたりのことを診たいというので、担当医を変えてもらったから」
「そうなんですか。でも和歌子所長、なぜワタシのことを恵太ちゃんとよぶのです」恵太はいった。
「ごめんなさいね。そのポニーテールがあまりにもかわいいから、恵太ちゃんと呼んだらどうかなあと思ったけど……」和歌子はいった。
「ホントですか。このポニーテール、妹の貴子にしてもらったのです。貴子もかわいいといってくれたの」うれしそうにいう恵太。
「じゃあ決まりね。いまから恵太くんでなくて、恵太ちゃんと呼ぶから」妙子はいった。
「……はい」恵太は、ほほを赤らめて返事した。