第三話:入れ代わった兄妹。
貴子と信子は、恵太が部屋から出てくるのをまっていた。
「なにやってるんだメグミは……。母さん、なに笑ってるの」貴子はいった。
「だって、タカシはもうメグミちゃんのお兄ちゃん気取りだから……」信子は、クスクスと笑いながらいった。
「ゴメンなさい。タカシお兄ちゃんに信子ママ」恵太はいった。恵太の髪はポニーテールで、服装は女の子の服を着ていた。
「ふたりが入れ代わって、もう二年になるのね……」信子は、男っぽい貴子と女っぽい恵太を見ていった。
※※※
恵太が目を覚ますと、そこは病院のベットだった。
「恵太くん、気がついたようね」和歌子がいった。
「ここは……」
「病院よ。私の一族が経営している病院だから。あとで妹の貴子ちゃんがくるけど……」和歌子は、貴子のことをいうと、なぜか口ぐもった。
「貴子がどうしたの……」恵太がそういうと、いきなりカミナリが鳴った。
恵太は、カミナリの音にびっくりして耳をふさいだ。
「恵太くんはカミナリがこわいの」
「いえ、そんなことはないのですけど……」
またカミナリが鳴った。こんどのカミナリは、さっきよりもおおきな音だった。
「キャッ」恵太は、女の子みたいなかわいらしい声をだした。
「貴子ちゃんと逆だわ」恵太を見た和歌子はいった。
「それって、いったいどういう……、キャッ」カミナリの音に、恵太は耳をふさぎ、半ベソ状態だった。
恵太は、いったいどういうことかわからなくなってきた。いままでは、カミナリなんかこわがらなかった。でもいまの恵太はカミナリをこわがっている。
「アニキ、気がついた」恵太の病室に貴子がきた。
恵太は貴子を見た。
「貴子どうしたの。ワタシのことをアニキとよぶなんて……」恵太も、自分のしゃべりかたが女の子みたいなしゃべりかたをしたのに気がついた。
「なんで……、ワタシ、どうしたの……」戸惑う恵太だった。
※※※
「恵太くん。あのね、いいにくいことだけど……」和歌子は、真剣な顔をしていた。「じつは……、恵太くんと貴子ちゃんは入れ代わったの」
「入れ代わった……。どういうことなのです」
「恵太くんの男らしさと貴子ちゃんの女らしさが入れ代わったの」
「アニキは信じられないかもしれないが、ボクとアニキはかわったみたいだ」貴子は恵太のいるベットに乗ると、男の子みたいにあぐらをかいて座った。
「自然とこんなふうに座るようになったんだ。アニキの座りかたも女の子座りだろ」
「ほんとだわ……」またカミナリが鳴った。恵太は悲鳴をあげて貴子にしがみついた。
※※※
「私の考えでは、あの転送装置にピストルの弾が当たったのだと思うのだけど」和歌子は、ふたりに入れ代わった原因を説明をした。
「それが、ボクとアニキが入れ代わった原因」
「あくまでも仮説だけど。正樹博士の研究室を調べているけど……」
研究室は、正樹が転送した大量の手榴弾が爆発した。破壊された研究室を捜査するのは、なかなか骨がおれる作業だった。
わかったことは、ピストルの弾と手榴弾が他国のものということぐらいだけだった。
それ以外のものは、正樹はなにも残さなかった。
※※※
「でも、恵太くんの意識がもどってよかった」
「ほんとだぜ。だってアニキ、二ヶ月も意識もどらなかったんだから」
「ホントにわたし、二ヶ月もベットで寝ていたの」
「そうよ。寝ているあいだ恵太くんは、点滴で栄養補給をしていたの。だから筋力は低下しているかもしれないから、お昼過ぎに診察するから」
「ありがとうございます。和歌子所長」
「いいのよ恵太くん。博士のせいとはいえ、あなたたちに責任はないから。まだはやいけど、お昼のごはんをもってくるから」和歌子は病室から出ていった。
病院の近くに、カミナリの落ちる音がした。
恵太はとうとう泣きだしてしまった。
「なんで、カミナリなんか怖がるようになったのかしら。貴子は平気なの」
「平気だよ。またゴロゴロと鳴ってるよ。怖かったらボクのそばにこいよ」
恵太は、貴子がなんだか頼もしく見えた。このまま貴子に守ってもらいたいという気持ちになってきた。
「うん……」恵太は貴子のそばにきた。
恵太と貴子の兄妹の立場は完全に入れ代わった瞬間だった。