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第一話:二年前の夏休み。

同性愛とありますが、性描写はありません。

兄の恵太は元気で活発な男の子。妹の貴子はおとなしい従順な女の子だった。二年前までは……。


※※※


「父さん、オレたちをよんでどうしたんだろう」恵太は妹の貴子にいったが、貴子は無言だった。


二年前の夏休み。父親の正樹まさきは、信子に自分の勤める阿久津あくつ研究所に恵太と貴子を遊びにくるようにいった。


「夏休みだから、お父さんのところに遊びにいき、お父さんに甘えなさい」と信子はいった。


正樹の勤める阿久津研究所は山のうえにある。恵太たちの住んでいた街からバスで乗りついでも二時間以上もかかるところにある。

だから貴子は、バスが山にのぼるとバスに酔ってしまい、なにもしゃべれなくなった。


阿久津研究所は、バスの終点よりもまだ先だった。 山のうえだからすこし涼しいので、貴子はバスの酔いすこしだけ楽になった。


「お兄ちゃん。このあとどうするの……」

「父さんが研究所の人がくるといってたけど。貴子、気分はよくなったか」


「……お兄ちゃん。わたしもう家にかえりたい……」貴子は弱々しくいった。

恵太もこれからどうやって研究所にいくのか。まさか歩いていくのか……。恵太がそんなことを考えると、森のなかからひとりの女性がでてきた。


「あなたたちが、恵太くんに貴子ちゃんね」その女性は、恵太たちに近づくとこういってきた。


「そうですけど……。あなたは……」恵太はいった。

「はじめまして。私は阿久津研究所の所長。阿久津和歌子あくつわかこ。よろしくね」


「エッ、所長さんですか」恵太はおどろきの声をだした。


「わかいからビックリしたのね。研究所にくるひとはみんなそういうわ。あら妹さん、どこかぐあいがわるいの」


「妹は、バスに酔ってしまって。貴子、阿久津所長にアイサツしなさい」


「はじめまして。妹の貴子です……。父がお世話になっています……」貴子は弱々しくいった。


「貴子ちゃん、ほんとに大丈夫なの」


「だいじょうぶです……」

「大丈夫じゃないだろ。阿久津研究所はここからまだ遠いのでしょ」恵太はいった。


「それは心配しないで。研究所はちかいから」


※※※


和歌子に案内された恵太と貴子は、それを見た。

それはただの箱だった。恵太は、なんだろうと和歌子に聞こうとした。


「さあ、ふたりとも、なかに入って」


和歌子にいわれて、ふたりはなかに入った。操縦席もない箱にどうやって動かすのだろうと恵太は思った。

「ふたりとも、もうでてもいいわよ」


恵太と貴子は、箱のなかを出た。そしておどろいた。もう研究所にいたからだ。

「どう、ビックリした」


「スッゴーイ。どうしてなの」貴子はいった。


「これはまだまだ開発途中だけどね」


「ということは、まだ未完成なの」

和歌子は箱の原理をかんたんに説明した。

この箱は転送装置で、送信機と受信機に別れている。箱のなかに入り、装置を発動させると、なかのものは一度分解され、電線を通って通りぬけたあと、もうひとつの箱でまたもとにもどるという仕組みだった。

「でも、これがなぜ未完成なのです」


「それは恵太、これが電線を通ってしかできないからだよ」


「お父さん。どこからきたの」貴子は不思議そうにいった。


「それは貴子、あそこのドアからだよ。所長、私の子供たちを向かいにいかせてありがとうございます」正樹はいった。

「ねえ父さん、なんで電線だとダメなの」恵太は正樹にそのことを聞いた。


「もし電線が切れたりしたら、分解された送っていたモノが迷子になり、二度ともと通りにならないだろうね。だから、電線を使わない転送装置を作っているんだよ」


「正樹博士は、その装置を作る最高責任者なの」和歌子はいった。

「所長、ちょっと……」秘書みたいな人が、耳元で和歌子に何かいった。


「わかった。すぐにいくから。……恵太くん貴子ちゃん、私ちょっと急用が出来てこの研究所を案内出来ないけど……」


「私がこの研究所を案内しますので」正樹はいった。

「では正樹博士にお願いしますね。恵太くんに貴子ちゃん、お父さんのいうことを聞くのよ」和歌子はいった。


和歌子は研究室からでていくと、正樹は時計を見て昼を過ぎていたので、最初に食堂に案内した。


※※※


「この研究所にスパイがいるというの」所長室で、秘書からこのことを聞いた和歌子はショックを隠しきれなかった。

「所長、これが興信所から調べてもらったスパイのリストです。最終的にこの三人のうちのひとりですが……」


和歌子は、秘書からリストを見せてもらった。和歌子は目をうたがった。三人のうちのひとりに正樹の名前があった。


「ちょっと、なんで正樹博士の名前があるの。博士は転送装置を作る責任者なのよ」


「じつは……、興信所の調べでは、正樹博士がスパイでないかと……」秘書はいった。


和歌子は、正樹がスパイとは信じられなかった。それに、この夏休みのときに子供を連れてきたのに……。和歌子は、なぜ自分の子供をこの研究所につれてきたのかわかった。


「正樹博士の研究室はどこなの」


「所長、どうしたのです……」秘書はいった。


「正樹博士は転送装置が出来たのよ」


「所長、それは本当なのですか」


「でも、まだある実験をしていない。だから、恵太くんや貴子ちゃんをよんだのよ」


「ある実験とは……」秘書は、和歌子がなにをいっているのかわからなかった。

「人体実験よ。正樹博士は自分の子供を実験にするのよ」

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