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天気にして

作者: 水面 光

“てるてるぼうず”を作ったことがあるか? ガキの頃に作ったことがあるからと言って、大人が作っちゃいけないなんてルールはない。とくに明日死ぬことになっている大人が。その時は太陽が出ていないといけない。“道”ができないからだ。今夜遅くからやけに強い雨が降っていて予報によれば明日も雨だ。私は母が残した端切れを使っててるてるぼうずを作った。かなり不格好だったが紐を付けて軒下の物干し竿にくくり付けたらましに見えた。そして震える声で歌った。「てるてるぼうず、てるぼうず、あーした天気にしておくれ」私は子供の頃を思い出し涙ぐんでしまった。あの頃は良かったというご多聞に漏れない感想を私は抱いた。なぜこう、つらいことだらけなのか? この問いに答えられる人はこの世に一人も居ないのは確かだ。つらいと思うからつらい、我思うゆえに我ありと同じだ。だから、終わりにしようと思った。──当日の朝起きるとやっぱり雨だった。「てるてるぼうずのバカ!」私はつぶやいた。すると雨がふっと止んで、閉めたブラインド越しからでもわかったが西日がこうこうと照っているではないか。朝のはずだ。私は布団から出てブラインドを開けてみた。強い光が、ものすごく強い光がそこにあった。光の中心に物干し竿につるしたてるてるぼうずがあった。ガラス戸越しなのにその方向から風が、そよ風が私に向かって吹いている。甘い香りがした。気付くと道ができていた。私のところから天上までずっと続く道が。そこに誰か居る。その人がふいに振り返った。母だった。微笑みながら会釈し、また向こうを向いて歩きだす母に向かって私は言った。「待って!」私は運よくガラス窓に遮られていることに気付かなかったし、抵抗も感じなかった。私は道に乗った。光の道。数歩行ったところで振り返りてるてるぼうずに言った。「ありがとよ、てるてるぼうず」私は母に追いついた。「母さん、迎えに来てくれてありがと」母は黙って前を向いたまま歩いていた。「母さん──」と言いかけて母の肩に手を置いた瞬間、私はざあざあ言う雨の音に気付いた。目を開けるとまだ薄暗い。時計に目をやると朝の5時過ぎだった。「くそっ!」私はついそうつぶやいた。その日は一日中雨だった。私は今でも思い出す。てるてるぼうずを作った次の日晴れたことなど今まで一度もないことを。しかし、いずれ晴れる日は必ず来る。とりあえず、その日のために生きようと思う。

希望を捨てないでください。そういう強い思いを込めたつもりだ。例によって細かいことは限定しないことにする。

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