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学者冥利  作者: 枯木人
本編
7/15

類人

「……さて、一応助けましたが……どうしましょう? 考えれば彼女は疲れも癒えたことで村か何かに帰ろうとしているのかもしれませんね。」


 ゴリラ人間に襲われて恐怖のあまりに涙して軽く失禁しているらしい少女を見下ろしながら坂上はそう呟いて首を傾げる。そこで人里についてもう一度考えた。


「……人里……やはり、一応は向かうべきでしょうか? メリットとしては交流により新しい発見が出来るかもしれないこと、話が通じる人がいるかもしれないということなどが大まかに挙げられます。デメリットは……」


 坂上はデメリットを考える。


 誘拐犯と間違えられる可能性が高いこと、言葉は通じない可能性が遥かに高いこと、言葉が通じないため敵対していると勘違いを受ける可能性が高いこと、仮に敵対した場合にどこかと交流を持っている可能性が高いので目撃者の隠滅をしなければならないこと、もしもある程度国際的な交流を持っている国だと強制的に送還される恐れがあるなどが挙げられた。


「……人里は行かないことにしますか……まぁそれは置いておきましょう。」


 それよりも目の前の少女だ。過度の恐怖からか、愛玩的なノリで接していたと思っていたが本気でコモドンと会話をしているようで、精神が少々不味い方向に向かっているらしいと坂上は判断する。


「……このままですと行く末は廃人ですか……それを見つかると僕が悪いことになりそうですね……この子が来たところにある政府ならまだしも、もし仮に先生が来たとなると……やはり、一先ず保護を……」

『嬢ちゃん、あの兄ちゃんはどうやらあんたのことを守ってくれるみたいだぞ……? そんなに一人で抱え込まないで、あの男に少しくらい頼ったって土地神の罰は当たらないんじゃないか?』

「ぅぇええぇぇえん!」


 コモドンの言葉に堰を切ったように泣き始めて坂上の下へ駆け寄る少女。それに対して坂上は泥で汚れているだけならまだしも失禁しているようなので汚れたくないと避けてしまう。


「ぅえっ!」

「……別に、悪意があってこんなことをしたわけじゃないですからね?」


 目標を失って地面に倒れた少女から心なしか目を逸らしつつ坂上は言葉は通じないと分かっていつつも言い訳を口の中で転がしておく。彼女は受け身も取らずに倒れたが、頑張って立ち上がると再び坂上の方へと歩いて行く。


『ワガママで、ごめんなさい。もう少し、一緒に居て欲しいです……』

「……何て言ってるのか分からないですが、服が汚れるので飛びつくのは勘弁してください……そうだ、服の替えにこのゴリラたちの毛皮を……持って帰るとまずいですかね……?」


 ある程度の知能範囲であれば危険と察して近付かなくなるだろうが、類人猿のようだったので一般的な動物と一線を画すほどの知能がある可能性もある。

 その場合だと仇と言う感情が生まれているかも知れないと坂上は考える。そこで判断材料の為に先程の戦闘について思いを馳せた。


「……ふむ。そう言えば、僕が目を潰した際に片方を気遣う様子も見当たらなければ連携を取っていた素振りも殆どないですね……そもそも、あの発達具合から考えるとホモ系ではない化石系類人猿ですから……有名どころでギガントピテクスですか? まぁどうでもいいですね。それよりも問題は知能レベルですよ。」


 どうでもいい所まで詰めて考えてしまう悪い癖が出てしまったのでそれは置いておいて服について考える。かなり、頑丈そうな毛皮だった。しかもかなり大きいので服に使用するだけではなく燻して簡易の寝床にもできそうだ。


「……力尽くで剥がせますかね……?」


 少女が泣いているが坂上は助かった緊張の緩みから来る涙だろうと考え、彼にはどうしようもないので放置する。そして坂上は動かなくなっているゴリラ人間、ギガントピテクス(仮)の方へとすたすた歩いて頸部に貫手を捻じ込んで皮膚を剥いでみた。


 無表情で血液が迸るギガントピテクス(仮)の毛皮を剥ぐ坂上。その様子は悪鬼のようだ。


「あっ、気を付けてたのですが……返り血が……」


 そんな中で彼は洋服が汚れて珍しく軽くだが落ち込んで表情を崩した。それに対して泣いていた童女だが、今の坂上の様子にはドン引きの様子で泣き止んでいる。


『……この兄ちゃん、やっぱ人間として頭おかしいんじゃねぇか?』


 コモドンの呟きに少女は思わず同意しそうになりつつ、途中で諦めてまた別の死骸の毛皮を剥ごうと試み始めた坂上のことを黙って見ていた。










 毛皮を微妙に下手にだが剥ぎ取り終わり、コモドンの協力によって燻すことだけは上手くやり遂げた坂上たちは、途中少女の為に川で沐浴をする時間を取ってから小屋に戻っていた。


「よし、今日は明日の食事も確保できてることですし……トレーニングをしますか!」

『……兄ちゃん、まだ動くのかよ……』

『またどこかに出掛けるんですか……? 今度は、何を……?』

『トレーニングだとよ。』


 少女がコモドンの言葉に反応して首を傾げている中、コモドンが見ている先で坂上は軽くストレッチをしていた。しかし、それは彼にとっての軽いストレッチであり、見ている方からすればハタ・ヨガよりも厳しい動きをしている。


『……人間って、こんなに身体の関節が自在なんだな……』

『うぅん……違うよ……?』

「……何ですか? これでも結構体は柔らかくなった方なんですよ?」

『……それで固くなってたら兄ちゃんの元は軟体動物だな……って、浮いた!?』


 コモドンは坂上が一瞬浮いたように見えたが、次の瞬間には何事もなかったかのように座禅状態で地面に降りていた。コモドンは流石に見間違いかと落ち着き、坂上は嘆息する。


「……やはり僕はシッディを扱うのは苦手ですね……雑念が多いからでしょうか? まぁ僕の本分は学者なので別にいいんですが……さて、フィットネスの時間です。」


 そう言うと坂上は急に踊り始めた。しかも、ただの踊りではなく戦舞だ。直線形の軌道で蹴りや突きなどを組み合わせ、少女たちの目を惹く。


「ほぁ……」

「おっと、筋トレです……」


 少女が感嘆の声を漏らすと坂上は急に地面に手を置いて逆立ちになり指を立てて腕立てを始めた。


「……5、6、7、8……」

『……よく指折れないな……』


 50回やったところで今度は曲線の軌道で演舞を始めた。そして次に拳を地面に着いて逆立ちで腕立てを開始、その次は諸手の双対での動きに岩壁に蹴りで穴を開けて地面に対して垂直立ちをすることで腹筋背筋や下半身などの筋トレ……


 螺旋やそれぞれの複合、手足の連携などにそれぞれの筋トレを組み合わせることで坂上はいい汗をかいたとばかりに笑顔になってコモドンを連れて川に移動する。


「いや~……コモドンがいると温水が生み出せるので便利ですよ……」

『……あんた、本当に人間かよ……』


 異常なトレーニングを良く考えつくものだとコモドンはドン引きしながら坂上の演舞に見惚れて少し忘我の状態になった後、真似をしてすぐに疲れた幼子のことを思う。そんな心中など知らない坂上は騒々しく、泥の匂いの濃い森の中を軽く振り返りながら呟いた。


「僕も人間ですからねぇ……なるべく食糧に余裕を持ちながらキチンとトレーニングをして行かないと森の中ではすぐに死にそうです……」

『……森の生態系がな……』


 坂上が向かった先の川では巨大な魚が水面に浮かんでいた月を破って出てきた。坂上は沐浴ついでにそれを捕まえて開いて干しておくのだった。




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