異文化コミュニケーション
さて、食事を済ませてもらったのは良い事なんですが、この少女は何を考えているのでしょうか?帰らないんですかね?迷子なんでしょうか?
「帰らないんですか?え~と……Can you get back home?……これでいいのかな?あ、英語通じなかったんだった。」
怪しい英語を使ってコミュニケーションを取ろうと思いましたが意味が通るか以前に英語が通じなかったんでした。少女もきょとんとしています。
「kkaidpsaqry?」
「かかいどぷしゃくぁりぃ?」
発音も出来ない言葉に対してコミュニケーションを取るなど……昔の人は凄いですねぇ……僕にはできませんよ……
……まぁいいですか。別に盗られて困る物はないですし、帰れるなら勝手に帰るでしょう。僕は僕がやるべきことをやるだけですね。差し当たって……ベッドを何かで作り直しましょう。
と言うことで外に出ました。まず、木を伐採します。
いや~先生と出会っていなければ普通にサバイバル出来ずにその辺で死んでたでしょうね……今なら素手で巨木でも斬り倒せるので大丈夫ですが。
「おや。危ないですよ?」
……と言っても通じませんか。着いてきた子どもが巨木で潰れないように抱え上げてその場をすぐに離れます。
「……!karryjo……」
「何言ってるんでしょうね……」
割と気になりますが、今はベッドが大事です。臥薪はあんまり望むところではないのですが……まぁ、柔らかいベッドはまだ作れないので……諦めて硬いベッドを作りましょう。
……にしても、この子には帰る場所はないんですかね……?まぁ、親御さんが来るまで一応面倒は看ますか。子どもの時に外で暮らすのは大変ですからね。そのことは身を持って知ってますから……
ということで、ベッドは二つ作っておきます。と言っても、あまり良いモノではありません。僕は臥薪でいいですが……流石に子どもは……となるので木を薄く剥いで編み、それなりに固さを和らげたハンモックを作ってあげます。
「……kr、watshin?」
「何言ってるのか分かんないけど、取り敢えずどうぞ。お家の人が来るまでは僕が面倒を看ますからね。安心してください。」
安心させるために少女の頭を撫でておきます。
……何故か泣かれました。非常にショックです。そんなに変な顔はしていないつもりなんですが……いや、もしかしたらこの国の人からすれば変な顔……?傷付きますね……
「arrgt……!」
「ありがと? 空耳かも知れませんが……まぁ、空耳ですね。」
泣かせてありがとうはどう考えてもおかしいですし。まぁ若干傷付きましたしイラッと来ましたが、幼い子どものやることですので寛大な心で許すことにして家に入れてあげましょう。
「っと……その前に……」
薄暗くなり始めた森の中、その中でも明るい点があります。おそらく、コモドンでしょう……怒りで炎を出しているようです。
その点が、こちらに向かって移動してきている……
「……家が燃やされると困りますからね……今度は、きちんと調教しておきますか。便利ですし……」
僕はそう言ってこの場所から駆けて移動を始めました。
『……消えちゃった……あの光の方に……』
私を助けてくれた、不思議な男の人は忌巫女であり、嫌われる運命にある私の穢れた頭を撫でてどこかへ消えました。
(やっぱり、私が生み出した妄想だったのかな……嬉しくて、泣いちゃったから消えたのかな……)
私がこの地に眠る『災厄の地神』への供物と共に故郷の人たちから捧げられたのが4日前。『災厄の地神』への多くの供物のお蔭で飢え死にはしなかったものの恐怖でどうにかなってしまいそうだった私は祭壇から逃げた。
そして、『災厄の地神』の使い魔とされる四大精霊の一つ、サラマンダーに追いかけられることになったのだ。
『災厄の地神』は雷、火、毒を司る強力な神様で私が逃げたことを受けてその権能の一部を切り離して召喚したサラマンダー。
『地神様の毒も使徒様に下賜されていてそれを吸っちゃったのかな……でも、最期に良い夢は見られたから……もう、いいかな……?』
忌巫女としてこの地にある日突然生まれ、それを育ててくれた母様。生贄が決まる日まで私を優しく育ててくれた母様以外で、初めて私に優しくしてくれた。
「ふぅ……思いの外、苦戦しましたね……」
サラマンダー様が近くにやって来ます。そこには私に優しくしてくれたあの男の人もいて……
『……そちらに行けば、優しい人たちに会えますか……?』
私はサラマンダー様の方へと移動し、死を覚悟した上で穏やかな気分でその体に触れようとし……
「あ、危ないので止めなさい。」
男の人に止められました。何を言っているのかよく分かりませんが、私とサラマンダー様に怒っているようです。
「……まぁ、この年齢の子どもに珍しい物を見せると触りたくなるのも当然ですかね……僕の方にも失態はありました。コモドン。君は僕のお家を燃やしてはいけないと言いましたが、この子も燃やしたらいけません。いいですね?」
サラマンダー様は男の人の言葉に頷いているようです……もしや、この男の人が『災厄の地神』様でしょうか……
「では、コモドンくん。君は呼吸をするだけでお家を燃やしちゃうので申し訳ないですが外で寝てくださいね。そこの子は……どうしましょうか?」
『新しき主よ……悪しき怪異からの解放は感謝するが……その扱いは、どうなのだ?私はペットではないのだぞ?……と言っても聞こえていないのだろうな。』
サラマンダー様が喋った!男の人は首を傾げてるけど……新しい主ってことは、この人は……誰……?
「……何か聞こえた気がしたんですが……今日は何気に頑張りましたからね。疲れて空耳が増えたのでしょう。仕方ありませんね。明日の予定を立ててもうすぐに寝ましょうか……」
男の人はそう言って家の中に入って行きました。サラマンダー様は私の方を見て何故か疲れたように喋ります。
『そこの幼子よ……あの話の分からぬ男は、君を助けたらしい。その家に入って休むがいい。』
『ほ、本当ですか……?あの、サラマンダー様。』
「……危ないのが分からないんですかね、この子は……仕方ありません。」
私がサラマンダー様とお話ししようとすると後ろから男の人が呆れたように私を抱えて小屋の中に入ってしまいました。
そしてその後は何かお話ししようとしたはずでしたが、すぐに眠り込んだようで記憶がありません。
「……うるさいので思わず物理的に寝かせてしまいましたね……まぁ、綺麗に寝かせたので大丈夫でしょう。それより……寝辛いですね。明日は、飛行機の場所に戻って座席とブランケットを強奪しましょう……では、おやすみなさい。」
因みに、坂上のその日の最後の会話はこれだった。