少し思うところ
少女、ラシュリッシュは王国の使者たちが去った後、サラマンダーであるコモドンと会話をする。
『……王国の方々は帰られたようですが、お兄さんは何て……?』
『協力はしないとよ。だが、いつでも協力できる体制を作るために王国の特産であり宝具でもある転移方陣が書かれた札を貰っていたな。』
『そう、ですか……』
少女は少し落胆していた。話をしたいという感情はありつつも自分が原因で坂上のことを困らせたくないと遠慮したのは事実だが、正直に言えば自分のために王国に行ってほしかったのだ。
そんな様子を察してか、コモドンは下手な慰めを入れるがラシュリッシュの顔は浮かない物のままだ。そしてそんな様子を見ていた坂上は先程ここに来ていた小早川の言葉を思い出す。
(勉強は出来ても人の心は分からない人。ここに来ても言われましたか……しかも、恐らくは年下と思われる子に。)
坂上の脳裏に蘇るのは過去のこと。彼が中学生だった時のことだ。彼が現在の性格に導かれた小さな出来事であり現在を構成する一因の記憶である。
当時から物事を覚える能力に秀でており、何か知らない物を見た時にも仮説ベースで考える癖を持っていた坂上はクラスメイト達から物知りな人として認識を受けていた。坂上は否定していたが皆はそれを謙遜として受け取った。
そんなある日、坂上に他愛無い質問が来て、たまたま知らなかった「それ」に対し坂上はよく知りませんがと前置きを置いて自分はこう思いますと答えた。そこに丁度通りがかった「それ」を知る子がそれは間違えている。彼は嘘を言っているんだと声高に断罪したことで坂上は物知りとしての座を追われることになる。
元々、坂上は親からも気味が悪い子だと思われ、特別養護施設に預けられていた子どもでそんな子どもに負けていたという劣等感に苛まれていた子どもたちはメッキがはがれたとここぞとばかりに攻撃に加わり、坂上はよく分からないままに知ったかぶりの嘘吐きというレッテルを張られることになる。
しかし、坂上は責めてきた人物たちに一々取り合わずに成長し、大衆を自らの世界から最低限を残して切り捨てて自分を作っていく。それで生きていくだけの能力があったのだ。
そして孤児院『太陽の苑』彼が住んでいた場所に彼が先生と呼ぶ人物が現れた。彼は自分が知らないことを易々と教え、分かるように導き、新たな世界を拓いた。坂上の世界は自分が正しくあればいいから彼に認められるような人になりたいと広がったのだ。そう思って行動をしていた。
勿論、こう思うに至るまでには他にも様々な小さくな出来事が重なっている。しかし、今強く思い出されたのはこの記憶だった。どうも、切り捨てたはずの世界の住人に気が引かれている気がする。彼女が悲しんでいると常に冷静であろうとしている心にざわめきがおきるのだ。
(……いや、これは先生にさっき会ってお話したからでしょう。しかも僕のことを認めてくれるかもしれない研究成果を上げられそうになっている興奮がそれに加わってるからそう思ってしまうだけ。いわば吊り橋理論の延長のようなものです……)
自分を納得させると坂上は何かを悩む少女と聞き役に徹しているかと思いきや何かを離しているように見えるサラマンダー、コモドンを見て急な来客により減った備蓄を整えに外に向かう。
『あっ、私も行きます!』
「お見送りですか? 行ってきます。」
言葉は通じない。坂上は少女の頭を撫でて扉に向かい外に出て伸びをする。後ろの扉が閉まらないのを訝しく思った坂上が後ろを見ると頭を撫でられたことを了承と受け取った彼女がついて来ており、扉の場所で止まっていた。
「……まぁ、いいでしょう。危ないので僕から離れないようにしてくださいね。」
言葉は通じていない。しかし、差し出された手の意味は理解したのかラシュリッシュは弾けるような笑みで坂上の手を取り二人は森の中へと踏み入れていった。それを見送るコモドンと地神は静かになった部屋で互いを見るのだった。
森に入った坂上とラシュリッシュは額から立派な一本角を生やし、金色に輝いている馬を発見して息を潜めて光り輝く美しいその馬を見ていた。
「……ほう。何だか凄そうな馬ですね……」
『ユニコーン様です!』
「この目で見るまで伝説と思っていましたが……いるものなんですね。」
流石に坂上も王家の紋章に使われているくらい一般的に有名なユニコーンくらいは知っていたらしい。しかし、続く言葉は少々違っていた。
「確か、アフガニスタンかトルクメニスタンか何かにいた馬に金属光沢をもつアハルテケ種という馬がいたはずですが、それの近縁種を見間違えたという話のあるユニコーン。その元ネタと思わしきを動物を見たということは……やはり、飛行機はその辺に墜落したんですかね……? まぁそこに落ちたと言われてもその辺の地理はさっぱりですので全く分かりませんが。」
どこからどう見てもユニコーンなのだが、坂上としては馬に角が生えただけの動物くらいにしか見えていない。寧ろ草原ではなくて何故森に馬がいるのかということの方が不思議らしい。向こう側に塩の濃い場所や水場があるから来たんだろうくらいで済ませて坂上はユニコーンを再び見た。
「……大体の角がある動物の角は漢方薬的に薬の意味があるんですが……圧し折りましょうか……? 肉は馬刺しにでもしたらどうですかね……?」
ユニコーンではなくあくまで馬として見ている坂上にはその程度の感覚だ。しかし、その殺気に勘付いたのかユニコーンは身を震わせて怒りを露わにした。
『逃げましょう! 危ないです!』
『乙女の加護がなければすぐに死んでいたと思え……すぐに去らねば怒りの一撃をくれよう!』
「何ですか? 馬肉はあまり好きじゃないんですかね? 好き嫌い言ってると大きくなれませんよ?」
温度差のある会話。ユニコーンが嘶き、少女が坂上を押して別の場所に向かわせる。坂上は少女が珍しく自らの強い意思を見せたことで折れて別の場所へ向かうことにした。
(確かアハルテケ種は1人の人間以外には決して懐かないと言いますし、あそこまで人間を嫌っているということ。そして生息地がおかしかったことから考えてアレは誰かのペットだったんですかね?)
そんな益体もないことを考えながらバグベアーに遭遇した坂上はそれを普通より少し大きな熊と勝手に勘違いしてそれを狩り、備蓄に中てるのだった。




