落ち着いて不時着しよう
「当機はまもなく着陸態勢に入ります!皆様……」
こんにちは。坂上です。今、僕は9月中旬の大学の夏休みを利用して少し外国に旅行しに行くつもりでした。
過去形なのは今の状況が何か大変だからですね。
突然空が真っ暗になって機体が大きく揺れると飛行機に色んな不具合が出たそうです。こんな時には慌てず騒がず機内サービスで買ったペットボトルのお茶でも飲みましょう。
「っと。」
一際大きく揺れが起きましたね。飲み損ねて零す所でした。……?皆さん何故か昏倒してます。衝撃で首の骨が折れて死んじゃったかな?
冗談です。僕の先生が色々教えてくれたのでこの機内にいる人たちがどういった状況なのか位は感覚で分かります。
眠ってますね。皆様良い御身分だ事で。僕はこんなに慌てているというのに……まぁ、いいでしょう。
窓の外を見ると地面に着陸してました。どうやら不時着成功ですね。一応先生に連絡を入れておきましょうか。見た感じド田舎というか秘境のようなので連絡が出来れば安全です。一先ず、飛行機内では携帯の電源は切っておかないといけないので降りた方が良いでしょう。
9月中旬の一般の社会人の方々にとっては平日ですので、機内にそこまで人はおらず、非常脱出口のある飛行機の羽付近の座席もガラガラだったのでレバーなどを動かしてそこを開くとそこそこ高い機体から地面に向けて飛び降りました。
これで電話が使えますね。赤いボタンを長押しすると……画面に光が戻りました。
「えっと……この1番の番号を押せばいいんだったよね……?」
僕は機械音痴です。確認しないと使い方もあやふや。なので複雑なことは無理なのですが〈短縮ぼたん〉とか言う3つのボタンのどれかを押せば僕の知り合い全員に繋がるのです。知人が少ないのは素晴らしいことですね。
1コール、2コール…………10コール……
『あいよ?』
繋がりました。これで安心。一応電波が通じてるみたいですから助けは来るんでしょう。でしたらこの後は不時着の報告でいいですね。
「あ、先生。坂上です。」
『……何?』
おや、先生は今日少し機嫌がよくないみたいですね。なるべく早目に終わらせないと……
「今、飛行機がよく分からないところに不時着したので報告入れておこうと思いまして……」
『ふ~ん……で?……一応俺そういうときの為のこと教えといたはずだけど……そこに来いとか言わねぇよな?』
「あ、はい。大丈夫です。本当報告なんで。それじゃ失礼します。」
これでよし。あの人は忙しいからあんまり迷惑かけられないし、この程度でどうにかなるほど甘い教育は受けてません。
「……それにしても……何か変な力が……ん~?何だろ……」
若干不思議な感じを自分の体に受けながらサバイバル開始です。僕が貰った携帯はかなりの高性能らしいので、毒があるかないかは〈写メ〉って右上のボタンを押して毒の有無と書いてある画面をタッチすればわかるのです。
時代も先行してますね。凄い発明だと思います。
「……お?何だろ……あの光るキノコ……」
こう見えて僕は日本における森の水辺近辺に位置する地衣類や一部の菌類を研究している学者です。なので多少キノコについてはうるさいので……慎重に調べてみたんですが……これ、見たことない種類だ……
ハラタケ型で……半球形と言えますね。条線が入ってて……つばが……これは何だろう?見たことないですね六芒星形って……柄が水玉模様ですし……発光するキノコ自体が少ないですが、このキノコの光具合は日本特産の比較的発光現象の強いシイノトモシビタケ並で……
「何かテンション上がってきますねぇ……新種かな……?」
何て名前を付けようかな……インディゴ色の光を発するキノコで……この木は何ですかね……?一応木にも詳しいつもりなんですが……これも知らない……
「……どこの国だ……?」
良く見たら植生も滅茶苦茶ですね……高木と低木が入り混じってる上に、その上地面には草が入り……
順番無視。水際の丈の低い草→高い草→低木→高木の順番に入れ代わり立ち代わり出て来るはず。混じり合うのはありますが……どう見ても度を越してる……
「実に興味深い……」
そんな感じでどんどん探索していると伐採の後が!現地民がいるのは間違いなさそうです。……ただ……、僕は恥ずかしながら外国語が出来ないんですよね……ヨーロッパの森に行く予定だったので英語を猛勉強してたのですが……あのフライトの時間的にはもっと東の方ですよね……
「……中東……かな……?」
あんまり国外の勉強をしてなかったからなぁ……地理も苦手だし……全然わからないですね……
星とか見ても何が何だか……というより、分かる人はおかしい。……まぁキノコについても見てすぐに何が何だかわかる人はベテランでもおかしい呼ばわりされる時がありますが……
「……まぁ、それはおいといて、そろそろお腹が空いてきましたね……水の流れる音が聞えますし……」
採りに行きますか。
行ったらそこには1メートルはあろうかという、ヒレのような手を持った巨大な魚が! しかも、それを喰らう巨大な肉食の魚まで……!
「これは……もしかして……?」
これを見て僕は確信しました。ここは……僕らの知っている所ではない。未知なるところだという事を。
「未開の土地か……この魚は多分……約3.6億年前に生存していたと考えられ、人類のいや、大方の陸上生物の祖先と思われている……『アカンソステガ』と同じような生物ですよね……フフ……これが学会に提出されれば……」
細かくは見たことないですけど、所詮復元は復元止まりですから目の前にいる存在が本物に近い生物であることは疑いようがありません。
世界中が大騒ぎでしょう。あぁ出来れば現地人の方が英語で……欲を言えば日本語で喋ってくれますように!すぐに救助に来てもらって……
「いや……待てよ……?」
救助に来てもらったら……この場所は一気に知れ渡り……挙句、各国の権威たちがわらわらとやって来て僕みたいな木っ端学者ははした金を掴まされてさよならとなるでしょう……
「…………それはなぁ……」
知的好奇心の赴くままに調べたい。帰るのはその後でも十分!
「よし、まずは食事と行きましょう!」
一先ず、その味から調べてみましょう。ご先祖様いただきます!
……大変美味しかったです!ご馳走様でした!
「……鱗がいい感じに中身を蒸し焼きにしてくれてましたからね……」
寄生虫や病原菌の恐れは既に携帯の科学技術によって排除されてます。ハイテクノロジーてやつらしいです。太陽光で何日か分充電可能で、体温などの熱からでもエネルギーを作れるという優れもので、ほとんどの機能は使い切れてませんが……まぁこれだけ使えればこの辺では大丈夫だと思います。
「さぁ……探索を進めよう。」
僕は探索を進めました。