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エデンを求めて (旧題 ラグナロクを迎える世界の中で彼は生きる)  作者: うずまきさん
第一章 不可能の中にある可能性
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#03 ミッション・イン・ポッシブル:怠惰な彼

 開いてくださり、ありがとうございます!


 そして投稿が遅くなり、申し訳ありませんm(__)m

「最近、イレギュラーな発生が多いようね」

「はい、社長。最近は魔術抵抗音ノイズの多い繁華街周辺でも超振動が発生するようになってきています」


 エウレスの中心部にそびえ立つ、空を貫くほどの高さを持つ二本の高層ビル。

 浸食体が度々発生する西のゼビュロスや南のノートスでは考えられないような光景だが、東に位置する国の、さらに東にあるこの島は最前後方戦線と呼ぶに相応しい。


 そのビルの西側の最上階にある社長室には二人の女性が佇んでいた。

 一人は冷静無頓着そうな、如何にも参謀役といった風情を漂わせている。しかもその顔にはメガネを付けていて、その雰囲気はさらに増している。それは度を入れずにわざとやっているのではないのか、ということを窺わせるほどだ。

 もう一人は、その生きた人生の中で何かを成し遂げたような、一言で表すならば『女傑』が似合いそうだった。

 そのメガネの女性が言った『魔術抵抗音(ノイズ)』とは、簡単に言えば魔術を行使した際に発生した魔術抵抗と呼ばれるものが音として発生したものである。

 これは人間の耳では聞き取れないような高周波であり、赤ん坊に辛うじて聞こえるか、といったものである。浸食体はこの魔術抵抗音を触覚らしき器官で感じとって方向を感じると考えられている。


 そして超振動とは『突発的空気超振動性地震』の略称であり、その名が示す通り突然空気が振動し、地震のように周囲の空間に激しい揺れが発生する現象のことを指す。

 これはそれだけにとどまらず、これが発生した後には必ず浸食体が出現する。これは超振動が空間転移の様な役割を担っているのではないか、と科学者たちに考えられている。


 そしてこれは何故か魔術抵抗音が飛び交う繁華街などでは0%と言っていいほど発生しない。いつも荒れ果てた荒野や海上などで発生している。そのため、魔術抵抗音が激しく飛び交う場所では超振動は発生しない、というのが一般常識とも化した。

 黒魔術である『瞬時移動テレポート』に性質が似ていると言われているがこれには人間の血が必要と言われているため、浸食体には発生させることができない。結局のところ、原理は不明である。

 ただ仮説は立てられているが、それは今考えることではないとその女はその思考を切り捨てる。


「やっぱり、浸食体との戦争が近い所為かしら?」

「確かにその可能性もありますが……、だからといって戦争が始まるとも限りません」

「前回は14年前に始まり、その前は29年前。普通に考えれば、前回から15年経つ来年から戦争が始まると考えてもいいと思うけどね」


 『女傑』は微かに目を細めながら言う。

 これまで人類は五度の大戦を味わっている。最初は浸食体が人類を襲い始めたラグナ歴1年に勃発し、その数年後には浸食体の謎の後退によって大戦は終息している。

 それからは、大戦が起こってから15年という時を空けて、浸食体は人類の領土を悉く奪っていっている。人類はその大戦ごとに版図を減らし、今では大陸の一つの大半を占拠されるという結果になってしまった。つまり、人類は大戦の度に負けているということである。


 『女傑』の言ったことは警告の言葉。

 己の経験からいったものでもあった。


 そして『女傑』はメガネの女に話題を繰り出す。


「そういえば、異常な超振動は3年前のチフが最初……だったわよね?」

「そうですね。そもそもこの島などが本格的に改造されたのはその後のことですから」


 チフとは、エターナル王国本土の最南端にあった、守領士育成学校もあった少し大きめの街だった(・・・)場所のことだ。

 3年前に異常な超振動が観測されてエターナル王国本土において最初に浸食体が現れた場所として専ら有名なところだ。この場所に出現した浸食体は瞬く間に街を破壊、訓練生や予備守領士の乗った魔装兵器も全滅し、生存者はたったの一名だと『女傑』は聞いている。

 その後浸食体は王都や周辺基地から派遣された守領士によって全滅させられ、今後それを防ぐためにエウレスをはじめとする4つの島で『アネモイの結界』を形成させた、というのがこの島が本格改造された根っこの話だ。


 『女傑』は息を吐き、沈んでいた空気を入れ替える。


「それで、対策は?」


 その秘書風のメガネの女はおもむろに目を閉じ、息を漏らす。そして彼女は再び口を開く。


「既に魔術抵抗音発生装置の出力を上げ、守領士にはスタンバイさせています。これ以上のことは逆に異常事態の際の妨げになるかと判断しました」

「そう……。何も起こらないといいんだけど」

「私もそう思います。何せ、後始末が大変ですからね」

「……その理由って、人としてどうなの?」

「冗談です。尤も、そんなことが起こっても死人は兎も角、けが人などが出なければいいんですが……」


 両者は思わず目を細めるがそれは一瞬で止まった。


 『女傑』が何も起こらないさと呟くが、メガネの女は不安に駆られてその言葉を聞き取ることができなかった。



 ナカツグはゼラスと別れて、シミュレーションを行う予定を控えていた。哲学の授業が終わり、少し羽を伸ばしたい気分ではあったがこのままでは登用試験に合格できるか怪しいところ。よって怠惰と叫ぶ体に鞭打ってそこへ向かっていた。まぁ、そこへ向かう理由な彼の所属する訓練小隊の隊長に呼び出されているからと言うのもあるのだが。


「はぁ……」


 本来であればシミュレーションよりも本物の魔装兵器に乗って体で覚える方が良いのだが、この訓練校に充てられている魔装兵器の数と生徒の人数とではどう見ても合わないのだ。

 そのため、魔装兵器に乗って実習訓練をするためには事前に学校の運営に申し出ておく必要がある。それでも小隊の実力によって優先度が変わってくるが、基本は受理された順番である。

 そして彼の所属する訓練小隊の実習訓練は登用試験までに2回ほど入っている。

 彼としては疲れるからあまり乗りたくないしその必要もないのだが、本番で実力を出せなければ結局同じであるため彼も承諾している。今となっては少し後悔の念があって溜息をついてしまうが。

 そして魔装兵器の数が絶対的に足りないため、それに乗らずに訓練を行うためにシミュレーション訓練を行うことができる。因みにこれは魔装兵器のように維持にコストがかからないため数だけは揃っている。

 そして彼はそれを小隊全員でやろうという隊長の命令によりシミュレーションルームに向かっていた、というわけではない。


 因みに魔装兵器に搭乗する際には『刻印兵装ローブ』を着用することが義務付けられている。シミュレーションを行う際にもこれの着用の義務がある。

 これは魔装兵器の搭乗者をGから守るために『耐G術式』が編み込まれており、何割かのGを減殺することが可能である。そのほかにこれは魔術元素を体周辺に寄せ付けやすくする術式が編み込まれており、間接的に魔術の発動をサポートしている。

 因みにその刻印兵装が収納してあるのは各訓練小隊に与えられている作戦室である。といってもホワイトボードと各訓練生のロッカー、少し大きめの安っぽい机に人数分のパイプ椅子という貧相なものであるが。

 各員兵装着用が義務であるためそこへ取りに行かざるを得ない。そのため、シミュレーションを行う時の集合場所はいつもここである。頭を使わなくても分かる場所である。

 ナカツグは哲学の講義が行われた講義棟から離れ、各訓練小隊作戦室がある特殊教室棟に向かっている。


 このエウレス守領士育成学校は主に5つの施設からなっている。


 一つ目は講義棟。哲学の講義などその他講義はここで受けることとなっている。

 二つ目は特殊教室棟。ここには各訓練小隊の作戦室やシミュレーションルームなどの講義などとは関係ない(厳密には関係はあるが)教室がここにある。因みに予備守領士で組まれる予備守領士小隊と訓練小隊は中等部と高等部のような関係なので作戦室があるのは一緒の棟である。

 三つ目は魔装兵器を格納しておく格納庫ハンガー。ここは整備科にとっては実技演習に持って来いの場所であるためその連中とよく顔を会わすことになる。

 四つ目が演習場である。恐らく訓練校で一番大きいであろうこの施設は毎日実技演習に励む生徒で溢れかえっている。

 最後に寮。このエウレス守領士育成学校は地理的に通学が不可能な場所にあるため、全寮制になっている。因みに寮は一部屋二人であるが《欠陥品》と呼ばれる彼と一緒の部屋になりたいと思うものは残念ながらおらず、彼は二人分の部屋を一人で生活していると言った感じになってしまっている。

 そしてナカツグは現在、自分の所属する訓練小隊の作戦室に向かっているのだった。


「面倒くさいなぁ……」


 彼は怠惰な思いのあまり、思わず呟く。


 彼としては実習訓練やシミュレーション訓練もいいが、今は気分的に昼寝をしたい気分だった。今昼寝のベストプレイスに行けばあいつに会えるかもしれない、とどうでもいい思考を働かしたのは別の話だ。

 試験まではまだ二週間もある。そこまで急がずにゆっくりやっていけばいいと彼は思う。

 しかしそれを彼女たちはしない。


「はぁ……」


 彼は怠い訓練のことを考えて思わず溜息が漏れる。


 もともと訓練小隊に後方支援科であるナカツグが参加する必要はない。基本的に訓練小隊として編成されるのは前衛科や砲撃科、そして偵察科の生徒たちなのだ。ほかの学科の生徒でも希望すればどこかの小隊の一員として組み込まれることとなる。まぁ結論から言えば、彼は訓練小隊に参加することを希望していた、ということになるが。因みにその三つの学科からでは参加の動機を書く必要がある。

 因みに彼のその動機は極めてくだらないものである。


「いくら体を鍛えるためとはいえ……、面倒だ……」


 彼は再び溜息をついた。


 その刹那、彼の鼓膜が見知った者の怒号で震えた。

 次回予告 ミッション・イン・ポッシブル:遠い理想と自己嫌悪と……

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