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エデンを求めて (旧題 ラグナロクを迎える世界の中で彼は生きる)  作者: うずまきさん
第一章 不可能の中にある可能性
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#02 ミッション・イン・ポッシブル:欠陥小隊

 開いてくださって、ありがとうございます!

 このエウレス守領士育成学校は、エターナル王国南東部に位置するエウレスと言う半人工島に置かれた訓練校だ。

 このエウレスには四つの大きな施設があり、その一つが守領士を育成する守領士育成学校である。二つ目はこのエウレスを守護する守領士が所属する『エターナル王国守領士軍エウレス基地』である。そしてその二つの周りに繁華街やこの島に住む住人の住居が点在している。

 半人工島とは天然の島に人の手を加えて面積を拡大させた島のことを指し、この世界では特に珍しくはない。しかしエウレスほどの規模を持った半人工島はあまり多くなく、エウレスの近くにはこのような半人工島が4つほどある。

 北にボレアス、南にノートス、西にゼビュロス、そして東にここエウレス。この半人工島はすべてエターナル王国の領土である。その内エウレスのみある企業によって運営されている。そしてその四つ目が、このエウレスを運営するPrivate continent Defending Company(民間大陸防衛会社)、略してPDCという会社だ。この会社は守領士の育成を行い、戦地に守領士を送るのを主な業務としている。


 この世界は決して余裕があるわけではない。


 そうなった理由は、この世界が常に《浸食体》と呼ばれるものと戦争状態にあるからだ。

 内部構造、行動パターン、どういった過程で誕生したのかなど、それに関することはあまり詳しく分かっていない。分かっているのは戦争勃発前に生活していた場所と、それが魔術を用いることができる生命体だということのみ。


 人類は浸食体に対抗すべく魔装兵器を兵器として完成させた。それでもこの世界に存在する大陸の一つを瞬く間に占拠していったところから、この完成した魔装兵器はただの時間稼ぎ程度にしかならなかったのだが。

 浸食体と人類との戦争はラグナ歴1年から始まった。逆を言えば浸食体が現れたから年号をラグナ歴としたのであるが。つまりラグナ歴とは、浸食体と人類側とが戦争してきた時間を表していることになる。

 当初浸食体と呼ばれる存在は、最初に占拠された大陸の中央に固まるように暮らしていた。その場所は当初から人が立ち入ることがなく、また立ち入ることが決してできなかった。その場所には高濃度の魔術元素が漂い、ほかの大気が少なすぎると考えられていた。


 しかし事実は違った。


 確かにその場所はほかの場所に比べて魔術元素の濃度が高かったもののほかの大気の成分もあり、ある問題さえなければ人は立ち入ることはできた。因みにこれは科学的根拠に基づいた観測結果であり、実際に人が立ち入って調べたわけではない。

 浸食体の最大にして最も厄介な武器である『浸食液』。

 これはあらゆるものを一定の速度で溶かし、それを掛けられた大地は最低10年の間不毛の地と化す魔術水溶液。

 だがこれは一部の大型浸食体にしか生産できないということが分かっている。

 どんなメリットにもデメリットは付いて回る。

 しかしそれ以上に厄介な物はその圧倒的な物量だ。

 人類側は確実に数を減らしていき、戦争勃発初期と比べて7分の1にまで減ってしまった。

 だからと言って人類側が一つになったわけではない。


 そしていくつかに分かれ、その一つが、結界に見立てて四つの半人工島を造った『エターナル王国』であった。

 世界的に見て東側に位置するこの国は、隣の大陸が占拠されてしまっている故に極東前線と呼ばれていた。



 前衛科に所属するラフィアは、退屈以外の何物でもない哲学の講義を受けている。因みにこの哲学の講師は大の歴史好きであり、哲学の話に交えて歴史について説いてくる時もある。そしてその時が今であった。

 これも守領士になるためだと割り切ってはいるが、やはり欠伸が止まらなくなるぐらい退屈なものだ。もはや伝統と化した講義前の溜息は、彼女にとって日常の一部となっている。

 ラフィアの容姿は、手入れが行き届いていそうな、腰にまで伸びる黒髪を後頭部で括ったポニーテールに、限りなく海底に近い色をした蒼色。その雰囲気は凛々しく、その眼差しからは強い意志が感じられる。

 この訓練校に入った当初は新入生のみならず上級生の間でも話題になったものだが、彼女にとってそんなことはどこ吹く風状態だった。


 彼女の所属する前衛科は哲学の講義をほぼ毎日入れなければならないほど出席日数が必要で、もはや洗脳を受けていると言えるレベルだ。それに比べ、後方支援科は楽そうで羨ましく思ってしまう。何せ前衛科のようにほぼ毎日講義を入れていれば、この時期には既に出席日数を満たしている計算になる。後方支援科の知り合いの顔を思い出して思わず溜息をつく。

 しかし守領士になるための一番の近道はこの前衛科なのだ。この哲学の地獄に耐えるしかない。まぁ彼女の隣人は既に夢の中へ旅立ってしまったようだが。

 しかし幸いなことに今日はこの哲学の講義しかないため、これが終わった後はシミュレーションが使用できる。


 シミュレーションとは魔装兵器戦闘シミュレーションのことであり、実際に自分の魔素を流して起動させる。

 魔装兵器は起動させる際、動力炉ジェネレータを稼働させるために少量の魔素を消費する。その後も継続して魔素を流し続けなければならず、それによって動力炉が稼働状態を維持することができる。

 つまり守領士は魔装兵器の一つの部品パーツになっているのである。

 動力炉はブラックボックス化がなされて一部の整備兵にしか教えられない。因みにその整備兵たちには守秘義務が課され、その機密を口にしたことが明るみになれば聞いた相手ともども重い処分が下されることとなっている。


 シミュレーション装置も同じような仕組みになっており、自分の持つ魔素保有量には気をつけておかねばならない。それにこの装置は動かない代わりに電力で発動する術式により、魔装兵器が動く際に発生するGや衝撃などを本物に近いものに再現している。

 因みにシミュレーション訓練でも刻印術式の着用義務があるのはこの所為である。


「よって……」


 かなり前の方に席を取ってしまった彼女たちにとって、退屈で仕方がない哲学云々の話は苦痛以外の何物でもない。因みにこの授業は睡眠に落ちる生徒の発生率がこの学校創設時から一位を譲ったことがない。たまに彼女の知り合いみたいに単位を取るには十分な出席日数を取ったにもかかわらず、興味本位で受けに来る人もいるがその人物の隣人は退屈そうにしている様子が窺える。

 そろそろ終わるぐらいだな、と思いながらラフィアは教室中央上部の時計を見上げる。既に終了まで五分を切っていたため、彼女も終了モードに切り替える。それを察しているのか講師は訳の分からない理論の結論に入る。


(というか何故に今から?)


 今から入っても全く時間が足りそうにないと思うが、指摘するだけ無駄だし面倒と感じた彼女は自分の隣人を起こすことにした。


「リサ、授業もうすぐ終わるよ」

「う~ん……」


 机に伏せていた、リサと呼ばれるリサ・クリセッドが目を覚ました。

 彼女は桃色のセミロングを持つ、ラフィアと同じ訓練生で所属は『砲撃科』。一見活発そうに見えるがそれは偏見であると、彼女は言いたいらしい。彼女曰く「私は昼寝依存症」とのこと。因みに彼女とラフィアは寮で同室、つまりルームメイトである。

 彼女の目はまだ虚ろな状態でザ・寝起きだが講師に注意されない程度に大きな声で意識の覚醒を施す。


「もうすぐ授業が終わるよ。終わった後は小隊皆でシミュレーションするって話だったでしょ?」

「ん~……そうだったっけ?」

「そうだって言ったでしょ? 今日は二人ともこの講義だけだし」

「いやーそうだったっけ?」

「前衛科と砲撃科のカリキュラムは殆ど同じでしょうが」

「あはは……」


 すっかり忘れていた様子のリサは苦笑いを漏らす。そんな様子のリサにラフィアは思わず溜息を吐く。


「いやー、だってあれきついんだも~ん」

「そんなこと言ってると、二週間後の登用試験に落ちるよ?」

「うわー、それだけは勘弁!」

「まぁ、私も自信があるわけじゃないし、一番心配なのはあいつだけどね……」


 ラフィアとリサはお互いの意見が合ったのか、同時に溜息を漏らした。

 登用試験とは、守領士育成学校に入学してから約一年後に行われる『予備守領士登用試験』のことを指す。

 予備守領士とはその名が示す通り、予備の守領士を意味する。最近ではあまりないが、戦争などで守領士の数が足りなくなった時にこの予備守領士たちが補充要員に回される。所謂学徒出陣である。


 それに守領士になるためにはこの予備守領士登用試験を合格しておかなければならない。守領士登用試験を受けるための絶対条件は『予備守領士であること』なのだ。

 そしてその試験のために組まれる5人1組の『訓練小隊』というものが組まれることとなっている。

 ラフィアとリサはその中の『第23訓練小隊』に所属しているが、5人1組であるはずの小隊に所属するのはたったの三人。このことを学校の運営に報告に行ったが近いうちに補充要員を送るからそれで対処しろとのこと。しかしその報告は半年前に行ったのだが、全く補充される様子がない。


 それにこの小隊は全体的に見ても実力が小さい。

 そのことから彼女たちが所属するこの小隊は《欠陥小隊》と呼ばれ、蔑まれる対象となってしまっている。

 小隊長であるラフィアは何とかそれを止めようとしているが効果は全くなし。

 その所為で周りから『登用試験落ちるんじゃね?』といった噂が流れてしまっている始末であった。

 因みに登用試験の一か月前には模擬試験が行われるのだが、その時の結果が不合格であったことは周知の事実だ。


「登用試験、受かるかなぁ……」

「リサ、そんなふうに言ってたらダメよ。受かる気で行かないと」


 もちろんラフィアも受かるか不安で一杯であるが、小隊員を前にして弱気な隊長の姿を見せるわけにはいかない。その一心で彼女は今まで気丈に振る舞っている。


「ラフィア、少しは息抜きした方がいいんじゃないの~?」

「そんな暇はないでしょ? 私たちがあいつの分をカバーしないといけないんだから」


 そうだね、とリサは適当に相槌を打つ。


「そういやさ、こんな噂知ってる?」

「噂って?」

「ここ二週間ぐらいの話なんだけど~、シミュレーションのスコアが毎晩更新されていってるって話。今なんか、普通にシミュレーションしたときの倍近いスコアに跳ね上がってるらしいよ~」

「ふ~ん……」


 半ば興味ありげに耳を傾けるラフィア。

 シミュレーション訓練には、『スコア』と呼ばれる戦闘結果が数値として表示されるものがあるのだが、通常の二倍となると、並の腕を持つ守領士ではない。訓練小隊に所属する彼らぐらいしかしない第一世代型のシミュレーションであるため、常駐している守領士はもちろん、予備守領士が正体と言うわけではない。


 だからと言って訓練生の中でそんな腕前を持つ者がいるということも聞いたことがない。相当な魔素保持者だろう。少なくともラフィアの小隊に所属する者でそんな芸当ができる者はいない。

 しかし毎晩と言うところが気になる。

 だがそんなことを考えている余裕も、時間もない。今の彼女たちがすべきことは登用試験に合格することのみ。


「羽目を外すことは結構だけど、あんまり外し過ぎて試験でポカするとかは冗談抜きでやめてよね」

「はいはい、分かってますよぉ~隊長殿~」


 リサが軽く溜息をついた時、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

 次話は10月16日の18時掲載予定です。


10月18日 更新は22日まで伸びそうです。すみません。


 次回予告 ミッション・イン・ポッシブル:怠惰な彼

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