#00 プロローグ:ラグナロクの始まり
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昔、とある王国に仕える巫女がいた。
彼女は魔術を併用した、絶対不変で絶対命中の予知によって王国の繁栄を支え、そしてある時に未来を占った。
繁栄が約束されるかもしれないその瞬間に、王国の王様や女王をはじめとする各権力者は彼女の予言を今か今かと待ちわびた。
目を閉じていた巫女がおもむろに目を開けた。
その場にいた者達は彼女からの結果を、おもちゃを待つ子供のように待った。
やがて巫女は言った。
「大絶滅が始まります」
と――。
○
粘つくように肌に張り付く空気。
その空気からはまるで腐った肉を連想させられる。
加えて鼻の奥にツーンとした感覚を感じさせるアルカリの臭い。
それの大本は正面にいる不気味な虫とも獣ともいえる生物のせいであるが、彼女にとっては関係ない。
正面に映るのは彼女の敵。
究極的に言ってしまえば、人類の敵。
それは海外から持ち込まれた外来種や凶暴な獣といった類のものではない。
突如としてこの地上に現れ、瞬く間に大陸の一つを占拠してしまった邪生物。
人肉を貪り、人の地を食らいつくさんとする、どの生物とも比較できない邪生物。
現に彼女の目の前では貪りつくされて、もはや原形をとどめていないかつてヒトであったモノが分散している。その名残ともいえるのか、邪生物の口からはぽたぽたと鮮血が滴っているのが窺える。
本来、こういった邪生物と戦うには専門の知識が必要であるため、その専門学校のようなところに行く必要がある。だが彼女はその専門学校と言うべきところからまだ卒業していない。
しかし彼女にとってそんなことはどうでもよかった。
卒業する前に、予備試験を受ける前からそんな相手と戦うことができる。
人類の敵を斃すために学校に入った彼女にとって、僥倖以外の何物でもない。
しかしそれと同時に初の実戦と言うことで、その額には脂汗が滲んでいる。
ここで退けば、周りの人のようにその邪生物の餌食。
だが襲いかかれば良くて相討ち。
けれどもここで退くわけにはいかなかった。
(たとえ刺し違えても……!)
彼女は戦闘服の太腿から戦闘用ナイフを逆手持ちで取り出した。逆手持ちでの取り出し方はこの道をゆく者であれば定石である。別にそのように取り出さなければならないという制約はないが、その位置と教えてもらう教官の取り出し方の大抵がこれであるため必然的にこうなってしまう。
彼女は正面の邪生物を睨みつけ、ナイフを突き出すように構える。
邪生物が彼女をからかうかのように呻き声をあげるが、精神を研ぎ澄ましてゆく彼女にとっては関係なかった。
それは突如後方で爆発した物体も然り。
かつて己の身体であったそれも今では慈悲の言葉を掛けてやるぐらいしかできない。“今まで頑張ったな“と。
彼女は自分の額から伝っていく物体の感触をその目で感じ、思わずその目を瞑ってしまう。
戦場で生死を大きく分けるのは鍛錬した身体能力に戦闘技術、己の精神力に体力。
否、『運』であった。
そして彼女は運が悪かった。
視界が半減した途端、その邪生物はここぞとばかりに襲いかかった。
戦場では一瞬動作が遅れただけでも致命的だ。
彼女は目の前に迫る邪生物に何もできずに接近を許した。
その瞬間、轟音とともに彼女は生臭い臭いが漂ってきた感覚を鼻の奥で感じた。
そして彼女の意識は暗転した。
○
「んん……」
微かに差し込む一筋の光。
それが少女の顔にあたっておもむろに目を開く。
二段ベッドの下層で睡眠する彼女は丁度カーテンの裂け目とそこから差し込む朝日が重なる位置となっている。そのためこれは彼女にとって目覚ましのような役割を果たしている。
二段ベッドの上段にはこの部屋の相方がいるが、遅刻間際にならなければ起きないためいつも彼女は放置している。それが相方の朝食を抜かせることに繋がっているが彼女には関係のないことであり、相方が早く起きれば済む話である。
それに彼女は、己のことは自分でやるしかないことを知っている。そのおかげで厳しい状況に立たされようとも、それに逆らえるようになってきた。しかしその根源は思い出したくもない。頑張ればその記憶がぼんやりとしか覚えられなくなるようになるかもしれないが、それでも一部は、最も過酷だった部分が色あせることはないだろう。それほど記憶の奥底に焼き付けられてしまっている。
彼女はいつものようにまだぼんやりとする目を掻き、ベッドから立つ。
彼女はおもむろにカーテンへ近づいて僅かに捲った。
「……よく夢を見るなぁ……」
微かに俯いたことを知るのは彼女自身だけだ。
そして彼女、ラフィア・S・ネーヴィの日常が始まった。
プロローグ終
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次回予告
第一章「不可能の中にある可能性」#01 ミッション・イン・ポッシブル:ランクE