流れ星は見たくても、流星の仕組みは知りたくもないお嬢様がペルセウス星座流星群にご対面の単元
それはある夏休みのひととき。
「先生、流れ星を見たいの!」
「どうしたんですかいきなり? ああ、そういえば、ペルセウス座流星群の時期ですね」
「そうなの私、まだ流れ星を見たことがないの!」
「それならまず、流れ星の仕組みについて学びましょうか」
「やだ。仕組みなんか知っちゃったら、マロンチックな雰囲気が台無しだわ。」
「別に栗の気分なんか台無しになっても構わないのですけどね。念のため訂正しますけど、ロマンチックですよ」
「そんなのどうでもいいの! 私は流れ星にお祈りしたいの!」
「やけに興奮していますね。また何かぐぐったでしょ?」
「内緒」
「わかりましたよ。それでは奥様に相談してきますね」
「行ってらっしゃい!」
さあ、今のうちにカンペの作成だわ。
おまじないを忘れないようにしなくちゃ。
「お嬢様、今晩ならよろしいそうですよ。せっかくですから、よく見えそうな高台に出かけましょう」
「やった! 先生大好き!」
「はいはい、ありがとうございます」
こうしてお嬢さまと先生は流星群の観察に出かけることになった。
「あ、流れましたよ!」
「やだ、見逃しちゃった」
「ほら、お嬢様、あそこに流れましたよ」
「色白髪黒髪長!」
「なんですかその早口言葉は」
「美人になるおまじないよ。今日はたっぷりと唱えてあげるんだから」
「さいですか。頑張ってくださいね」
「いろじろかみくろかみながいろじろかみくろかみながいろじろかみくろかみなが……」
これで完璧よ。
明日には美しい私が鏡の前に立っているわね。
「先生?」
あら、先生寝ちゃったのかな。
チャンスタイム到来。
私は先生の隣にそっと移る。
先生を起こさないように用心しながら。
夏の夜は風が気持ちいい。
先生の体温も気持ちいいわ。
あ、また流れた。
先生を起こさないように小さな声で呪文を唱えなきゃ。
「せんせいすきせんせいすきせんせいすき」
完璧だわ。ありがとう流星群。
そうしてお嬢さまは眠りについた。
「お嬢様、そろそろ帰りますよ」
「あ、先生おはよう。あれ?」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないわ。何か楽しい夢を見たみたい」
「それはよろしかったですね。では帰りましょう」
「はーい」
あの馬鹿娘、いきなり横に引っ付きやがって。
気がつかねーとでも思ったのか。
お嬢様が寝付くまでこちとらタヌキ寝入りだよ。
畜生、今日は流星の成分表からきっちりスパルタしたる。
まだまだ若い先生なのでありました。