愛欲凶夢α→愛寵享楽Ω
7作品目です。
またも狂愛を書いてしまいました。
しかもお相手は…
どうぞ宜しくお願いします。
こんなにも自分の足は遅いのか、と愕然としたのはきっとこれが17年間生きて来て初めてだろう。
それでも私は走らなければならない。何故なら───
「どうして逃げるんだ?」
「どうせ直ぐ捕まるだけなのに。」
くつくつと嗤う2つの声。
それは私の背後から愉しそうに追い掛けて来るから。
「嗚呼、俺達を試してるのか?」
「ククッ…なら、証明してやる。」
私の真意が歪曲されて都合のいいように捉えられる。
「「俺達がどれだけ真愛を愛してるかを。」」
それは私にとって、死の宣告に他ならない。
捕えられたが最後、私は鳥籠の中で飼い殺される。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
どうしてこうなったの、どうしてこんな目に遭わないといけないの!?
ひゅーひゅーと呼吸器官が悲鳴を上げ、足が急げと要求し続ける思考回路を裏切って縺れ始める。
「ハァ…ハァ……!だ…れ……か…たす…け……!」
助けを呼ぼうにも喉が狭まり声が留まり口から放てない。
それでも叫ぼうとする本能を抑える事はしなかった。
「ほら、早く認めちまえよ。
俺達が真愛を愛してんのは真実だって。」
黒い2つの闇が私に迫る。
「真愛の名に誓って、俺達の愛は揺らがない。」
“真実の愛を貫ける子になって欲しい。”
そんな願いを込められて贈られた初めての両親からのプレゼント。
そう言う意味でなら、私の名に誓うと言ってくれるのは嬉しい。
私に真実の愛を貫いてくれる、と誓ってくれたのだから。
しかし、誰が私の名に誓えと言ったのか。
いや、誓ってなんか欲しくない。
この双子には。
「い、や…来ないで……あっ!」
逃げ惑い足が縺れ転んでしまう。
俯せから急いで仰向けになり、上半身を起こすとそのまま後ろにズリズリと後ずさる。
「ほら、走るから怪我しちゃったじゃないか。
まったく…俺達から逃げる必要なんかないのに困ったお姫様だな、真愛は。」
クスクスと嗤って近付いて来るのは瑶。
さらりと柔らかそうな琥珀の髪に淡い栗色の艶めいた二重の瞳。
赤く形の良い唇から紡がれるのは甘い甘いテノール。
そして日本人離れした長身に長い手足、すらりとした細身の身体。
ニコリと笑う様はさながら天使か王子様のようで。
「俺達に愛されてんのに何が不満なんだよ?
ほら、こっち来いよ。満たしてやるよ、心も身体もな?」
くつくつと嗤い、私に手を差し出し此方に来いと要求しているのは皇。
艶やかな漆黒の髪に闇色の色めいた二重の瞳。
瑶よりも若干低いテノールはぞくりとする程魅力に溢れている。
瑶と同じ体躯は神に愛されて創られた黄金比。
ニヤリと笑う様はさながら悪魔か王様のようで。
「どうして…どうして私なの…!?」
皇も瑶も自らが選ばなくとも寄って来る程選取り見取りなのに、どうして何の取り柄もない平凡な私なんかに執着するのだろう。
高校に入学して暫くしてからとてつもなく整った顔立ちの双子がいると騒がれ出して、
他校にもファンクラブもあるくらいに噂の的になっている皇と瑶。
私はと言えば、勉強は平均点辺りをうろうろと、運動も可もなく不可もなく。
顔立ちだって、美人でも可愛らしくもなく、かと言ってブス…ではない、はずの平凡なもので。
恋人いない歴=年齢の図式が成立するような冴えない女だと理解している。
それなのに、どうして天と地も離れたような2人が私を好きだと、愛していると謳うのだろう。
「真愛が真愛だから。」
瑶がクスリ、と嗤い私の右手首を掴む。
「それ以外に理由がいるか?」
皇がクツリ、と嗤い私の左手首を掴む。
「あっ、…あ……、」
ゆるりとした動作だったので気付くのが遅かったが、私は2人に捕まった。
「ほら、」
「捕まえた。」
それぞれ跪き、恭しく私の手の甲に口付けるその姿はくらりとする程、倒錯的で。
赤の他人の2人に、ではなく、双子の兄弟に求愛され、しかもどちらかを選ばされるのではなく、同時に互いを愛せと要求されるなんて背徳的で禁断的な愛にぞくぞくと背筋が粟立つ。
捕まりたくなかった。怖かったんだ。駄目なのに、許されないのに、このまま鍵をかけたままで、じゃないと───
「認めちまえば楽になるぜ?」
気付きたくなかった。
でも、もう抑えておくことは出来ない。
鍵を開けられる唯一…ううん。
開けられるのは皇と瑶だけ。
その2人がこうして鍵を解除してしまったから。
「俺達を愛してくれてるんだよね?」
その2つの問いに肯定の頷きを。
認めるしかない。
好きなんて軽い気持ちを飛び越えて、愛してるんだ皇と瑶を。
「どっちか、なんて選べない。決められない。
好きなの、2人共愛してるの。」
私の葛藤を自白した言葉に瑶はふわりと蕩けるような笑みを、皇はとろとろと甘い笑みを浮かべてくれる。
「やっぱり、真愛は俺達の愛するお姫様だ。」
「嗚呼、そうだな。
───真愛、」
皇の艶を増した声音に小首を傾げれば、
「真愛を愛していいのは俺達だけ。」
「真愛が愛していいのは俺達だけ。」
束縛なんかよりももっと私を縛る甘い呪縛のような言葉が2人の口から零れる。
それに応えるならば、
「うん。私をいっぱい愛して。
私も皇と瑶をいっぱい愛するから。」
そんな陳腐で安直な、でもストレートに伝えたい事を伝えられる言葉を紡ぐ。
ごてごてと飾り付ける必要はないから。
「俺達の全てを真愛にやるから、」
皇が私の左の頬を、
「真愛の全ても俺達にちょーだい?」
瑶が私の右の頬を、それぞれ口付ける。
「うん、全部あげる。」
これから始まるのは甘美で退廃的な時間。
愛欲凶夢α→愛寵享楽Ω
(嗚呼、もう我慢しなくていいんだ。)
(もっと、もっと愛して?)
読んでいただいてありがとうございました。




