懸けた想いと消える声
春眠暁を覚えず(春ではないが)なんていうが、健やかな日射しの前では睡眠欲はほぼ最強をほこり、それに抗うのは難しいものだ。
間宮千尋もその一人なわけで……
「くふぅ~」
気に抜けるような声を息と共に吐き出しながら、机に挨拶代わりのキスをおみまいしていた。
「どっしたの?やる気どころか精気すら感じられない声出して」
前園敏樹がいつものことながら信用度0な笑みを浮かべ、前の席に腰を下ろした。
「いやぁね…世界は…平和なんだと思いまして?」
「なぜ疑問形よ」
「何となく?…後付け足すとしたら、俺の心情は平和どころか世界大戦並みに荒れて心底疲れてるからかな…はは」
千尋の乾いた笑みに、敏樹は大声で笑って返した。
「むむっ」
少し眉間にしわを寄せる千尋に、弁解するようなポージングをするが、顔はむかつくぐらい満面の笑みだった。
「いやはや、本当に平和な悩みだな。てか、うらやましいぐらいだぜ」
「かわってやろうか?」
「いや、全力で遠慮しとくわ」
敏樹は笑いながら千尋の肩をたたく。
それを千尋はむっとした表情のまま、受けた。
むかつくが抵抗しないのは、それが本当に自分が嫌な悩みごとではなく、むしろ嬉しいくらいの悩みであるからだ。
「だからってな……」
「半分は自業自得だろ?」
「まぁな」
「何の話だ?」
後ろからかけられた声に千尋たちはゆっくりと振り向いた。




