ドリームランドの扉の鍵Ⅻ
楽しい時間は意外と速く過ぎるもので、葵にとってもそれは例外ではなかった。
「もう、真っ暗だね」
「そうだなぁ。もう月が出てる」
千尋は近くで買ったコーヒーを口にしながら、一息をついた。
「なんかその仕草…親父くさいよ」
「そんなことはないだろ!お、俺はまだピチピチの10代だぞ」
「がっちゃっ!」
「それはカードに世界をかけてるイケメンさんだ!」
「ぷ……にゃははは」
必死に否定する千尋を指さしながら葵はお腹をおさえてわらった。
「そんな笑うなよ。ほら。もうそろそろパレード始まるぞ!」
恥ずかしさからか顔を赤くする千尋。
その場を逃げるように葵の手を取り、通路付近の芝生に腰を下ろす。
「なぁ、葵」
「ん?」
「今から恥ずかしいこと聞いていいか?」
「嫌だ」
「早いよ。少しくらいいいじゃないか」
「じゃあ、いいよ」
「適当だな、おい」
「そんなこと言うと気が変わっちゃうよ」
「聞いてください!!」
きれいな土下座だった。それもうなんとも言えない絶妙な土下座だった。
「妹に土下座してま頼み込む兄ってないわ~」
「返す言葉もありません」
「で、話って?」
千尋は少し間をおいてから話し始めた。
「俺さ…不思議に思ったんだよ」
「なにが?」
「お前が告白してきたことだよ」
「………………」
千尋の言葉に葵は驚きとも悲しみともとれない表情を浮かべた。
無言のままの葵の答えを待つことはなく、千尋は話し続けた。
「きっと言い出したのは絢だろ?で、麻貴がそれに乗ってみたいな感じだと思ってた」
「………………」
葵はうつむき、無言を突き通した。
「佳奈や茉那はなんやかんやでまだ子供だ。あいつらの好きはきっと家族としての好きだ。絢の影響かそれを勘違いして、でもそれを否定したくなくてそんな状態だろ?」
「………………」
千尋は真剣な眼差しで葵を見つめた。
「でも、唯一わからなかった」
「………………」
少しの間と張り巡らされた緊張の糸。
「なんで俺なんだ」
「………………」
「なんで葵が俺にそんなことを言ってくれたんだ。お前は流されるような奴じゃないし、俺なんかじゃ追いつけないぐらいお前はいい子だと思ってる。理由。それを俺はお前に聞きたい」
「……………かった」
「へ?」
「………………うれしかった。今だって嬉しいし、にぃにのことが本当に大好き」
葵が顔を上げるとその表情は笑顔だった。
だが、その瞳からは夜のライトに照らされ宝石のように光る涙が、一粒一粒と流れ落ちていた。




