ドリームランドの扉の鍵Ⅺ
世界最高級の恐怖を体験できると今話題のお化け屋敷の中。
千尋は怪しい光と不安を感じさせる音楽に包まれた部屋の中にいた。
「・・・にぃに」
「なに?」
「いるよね?いるよね!」
「ああ。お前が今現在つかんでいる腕は間違いなくお前の兄である間宮千尋の腕だぞ」
「ほんと?ほんとにほんと?」
「ああ。俺がお前に嘘をついたことはないだろ」
苦笑いを浮かべながら、腕に絡みつく腕を軽くなでた。
「うぅ~」
「そんな泣きそうな声を出すなよ。兄ちゃんがついてるだろ?」
涙目の葵を元気づけるように頭をなでながら、千尋は気づかれないように小さなため息を吐いた。
このお化け屋敷に入ってから、このやり取りをかれこれ十回以上繰り返していた。
その回数に比例するぐらい時間もたっている。
なのに二人が進んだ距離は全体の十分の一ほどしかない。
もうすでに五組のカップルに抜かされていった。
先ほどなんてお化け役の店員さんに心配されてしまった。
「うぅ~。怖くない怖くない」
からまれた腕から葵の震えが伝わってきた。
(さすがにこれ以上はかわいそうかな)
千尋は一人で納得するように頷き、立ち止まる。
「葵」
「なに、にぃに?」
「ちょっと揺れるけどすまんな」
「へ?」
千尋はその場で葵を抱えるように持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
そのまま、千尋は駆け出す。
次々と驚かそうと出でくるお化けたちに見向きもせず、通路をかけていく千尋。
「…………」
葵もお化けを見ないように目をつぶりながら、ギュッと千尋の服をつかんだ。
千尋はそんな葵にやさしい声でつぶやいた。
「絶対俺が守ってやるから。たとえ、どんな強大の敵であろうとも…俺が守ってやる」
その声に驚き目を開くと、葵を襲ったのは明るい光だった。
「な?」
千尋の楽しそうな笑みを葵はただ無言のまま見つめていた。




