ドリームランドの扉の鍵Ⅶ
初夏の暑さが横を走り去る風と共に心地よいハーモニーを奏でるとある休日。
いささか日射しが元気すぎるところもあるが、それは夏の風物詩だ。責めるのは間違いだろう。
青い空を所々飾る白い雲が気持ちよさそうに流れるのを見ながら、いち早く活動を始めた蝉の声が聞こえてくる。
出かけるにはぴったりな気候だ。
ましてはデートなんかにはもってこいだろう。
「………」
なのに、千尋と葵しかいないほぼ無人のバス停にはやけに重い沈黙が流れていた。
「……暑いな」
「そうだね」
「……お昼、何食べようか」
「なんでもいいよ」
「…………」
「…………」
家を出てから二人はこんな雰囲気で町はずれのバス停まで歩いてきた。
千尋の問いに葵はすぐ答えるのだが、そのどれもが素気なかった。
千尋はこの状況を打破できないかと色々と話しかけたが、一向にかわる気配を見せない。
青く晴れた空を見ながら、千尋は小さくため息をついた。
「…ねぇ、にぃに」
いきなり話しかけられたので、少し跳ねてしまった千尋は、それをなるべく表に出さないように笑顔で声の方を向いた。
「どうした?」
「なんで今日はこんな遠いバス停に来たの?いつものところでよかったじゃん」
確かに千尋はあえて最寄りのバス停でなく、人の少ない町はずれのバス停を選んだ。
「理由は何個かあるんだが…一番は二人だけで行きたかったからな」
「………むぅ~」
千尋の答えに頬を膨らませて顔をそらした葵。
耳まで真っ赤になるところをみるとどうやら照れてしまったらしい。
だが、千尋にそれに気づくほどの甲斐性もなく、不思議そうに義妹を見ていた。
「大丈夫か?すこし顔が赤いみたいだけど…熱中症かっ!?早く冷やさないと!!」
おろおろする千尋を見ながら、不機嫌そうに睨む葵。
「違うよ、ばかにぃに」
「ば、馬鹿だと!俺は心配してだな…」
「ふん」
また顔をそらした葵を見ながら千尋はなんとなくだが葵がいつもの調子に戻ってきていることにすこし安心をおぼえていた。
プップゥー
ちょうどバスが訪れ、千尋たちの前にとまった。
「さ、行こうか」
夢の国に二人は出発した。




