緊張観覧席の憂鬱Ⅳ
なんやかんやで日曜日。
「麻貴。ちょっとはしゃぎ過ぎだよ」
「そんなこと言ってもお兄。スポーツときたら私の中のあつい何かが煮えたぎっちゃうよ」
「あはは」
なにか嫌な予感が背中を急激な勢いで走ったが、千尋は笑顔でその考えを振り切った。
「さて、鬼ヶ島はどこかな」
「あ、あそこ・・・」
公園のベンチにちんまりと座り込む一人の女性姿があった。
「まじっすか」
そこにはいつもの渚からは想像もつかない可愛らしい恰好でベンチに座っていた。あまりにもその姿は可愛らしく、それでいて清楚だった。あまりにもの変わりように千尋も言葉が出なかった。
「あ、間宮。よ、よう」
「あ、ああ」
「なんだ、前園じゃなかったのか。たしか・・・」
「はい。間宮千尋の義妹、麻貴です」
「ああ、よろしく。麻貴ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なんでお前はさっきからなんで無言なんだ」
「いや、あまりにも鬼ヶ島の印象がいつもと違うもんで」
「あ、そ、そうか?」
「うん、すごい似合っていると思うし・・・すごい可愛い」
「そ、そうか。あ、ありがとう」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
二人は赤面をしてうつむいてしまった。
「むぅ~~~~~」
「いてっ!」
そんなことをしていたら鋭い痛みが背中を襲った。
「なにするんだ、麻貴」
「しらなぁ~い」
「ふふ、本当に仲がいいんだな。うらやましい限りだよ」
「あれ、鬼ヶ島って兄弟居たっけ?」
「いや、僕は一人っ子だよ。だからこそ、兄貴や妹にあこがれがあるのかもな」
「そんなもんなのか」
「そんなもんだよ」
「それより早く行こう」
「そうだな、急がないと。せっかくのチケットなんだ良い席で見なきゃ損だろ」
そう言って、二人は同時に千尋の手を握った。両手に花とはこんな状況だろうか。赤面しながらも、なんとか頭を落ち着かせようと必死にそんなことを考えるが、二人はそんなこともわれ知らずと駆けだした。
苦笑いを浮かべながらも、笑ってしまう千尋だった。