ドリームランドの扉の鍵Ⅴ
「~~♪」
千尋は燻ったベーコンをポテトサラダに混ぜ込みながら、上機嫌に鼻歌を歌っていた。
「出来たっと」
ポテトサラダを皿に盛り、ハンバーグに特製デミグラスソースをかけ、晩御飯は完成した。
「美味しそうね」
「つまみ食いはダメですよ」
「ぷ~。ちぃくんの意地悪ぅ~」
「皆、揃ったらです。…で、うちの妹たちはまだニ階でドタドタしてるんですか?」
「そうみたいね」
「じゃあ、俺呼んできます」
千尋はエプロンを椅子に引っかけ、廊下にドアノブに手をかける。
「つまみ食いしたら、デザートは無しですよ」
「ギクッ!」
呆れながら千尋はリビングを後にした。
千尋が麻貴の部屋の前に着くと部屋の中からは大声が漏れて聞こえてきた。
「おい、お前らご飯出来たぞ」
……………
答えが返ってくることはなかった。
その代りに聞こえるのは大声で言い争う妹たちの声。
千尋は仕方ないと決心し、ドアを思いっきり開ける。
「お前らいい加減に――」
「ちぃくんが一番好きなのは私よ!」
「いや、私だね。だって、ちぃ兄は私にだけ(差し入れとして)お菓子くれるもん」
「それは部活のみんなも一緒でしょ?」
「アオちゃんは黙ってて」
「ふふ、可愛そうなお姉さまたち。おにいさまの一番はこの茉奈だというのに」
「いや、香菜が一番だ!膝枕してくれるもん!」
「「「「なんだって!!」」」」
しょうもない言い争いだった。
「いい加減にしなさい!」
「え?」
「にぃに…いつの間に」
義妹たちは顔を引きつらせながら、少しずつ後退していた。
「さっきからいました。それよりなんだ。さっきから呼んでいるのに返事もせずに、そんなくだらない言い争いをしてるなんて」
「く、くだらなくないもん」
「ご飯を作ってお腹をすかした母と兄の声よりもか?」
「うぅ…」
なんとか反論しようと声をあげた麻貴だが千尋の正論の前に沈黙せずにはいられなかった。
「ほら、早く行くぞ。ちゃんと手を洗うんだぞ」
そう言って千尋が部屋から立ち去ろうした時だった。
「悪いのはち、ちぃくんなんだから!」
いきなりの大声に千尋だけでなく、ほかの妹もびくっと跳ねた。
「ちぃくんがチケットをだれに渡すか教えてくれないからこんなことになったの!だから、悪いのちぃくんなの!」
「あぁ~、そう言うことか」
千尋は面倒くさそうに頭をかいた。
だが、その表情には少し照れが隠れているように見えた。
「じゃあ、お前たちは俺が誰を誘うかしれれば満足なんだな?」
「「「「「コクコク」」」」」
「わかったよ」
千尋は炬燵を回り込んで、手を差し伸べた。
「俺と一緒に遊園地に行ってくれないか?」
その手が招く相手は――――
――――――葵だった。
「え?」
「予定が空いてなかったか?葵がダメなら無理に良いんだけど」
葵は顔を赤くして首を横にすごい勢いで振る。
「じゃあ、決まりだな。さて、相手もわかったとこだし、下行こうか」
千尋のなんでもない態度に妹たち(葵以外)は呆然とするしかなかった。




